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25話 舞踏会前夜

「コーデリア!」

「カレン! ギルバート様も」

「やあ、ひさしぶり」


 コーデリアとデビーがやってきたのは王都の中心街だ。

 貴族達が屋敷を構える貴族街から近くにあるこの場所は様々な店や宿もある。コーデリア達から遅れること数日。カレンとギルバートがアンカーソン村からやって来ていた。


「ご実家のお屋敷ではどうだった? いじめられてない?」

「まあ……予想通りだったけど意外と平気」


 コーデリアの返答にカレンが目を吊り上げる。

 信じられないと怒る様子にコーデリアの胸は温かくなる。こうやって心配して怒ってくれる人がいるのだから自分は大丈夫なのだ。


「アンカーソン村の方はどう? 雪がすごかったでしょう」

「うん、コーデリア達が帰ってからまたたくさん降ったわよ。でもギルバートが大きな馬車を出してくれたから」


 雪道でもしっかり走れる大きな馬車をノールズ領から借りてきたらしい。


「ギルバート様、ありがとうございます」

「いいってそんなの。まあカレンにいきなり王都へ行きたいって頼まれた時は驚いたけどさ」

「へへ、ありがとギルバート」


 照れくさそうなギルバートはカレンに甘い。微笑ましい二人の様子をデビーと一緒にニコニコと見守る。その視線に気がついたらしいカレンが慌てて姿勢を正した。


「……っと、そうだった。今日の本題。コーデリアのドレス、ばっちりリメイクしてきたわよ。急ごしらえだけどきっと素敵だと思う」

「ありがとうカレン!」


 えっへんと嬉しそうにカレンが胸を張った。



 王都に戻り舞踏会に参加する決意をしたコーデリアだったが心配事の一つがドレスだった。

 コーデリアが持っている社交用のドレスは一着だけだった。

 前回の舞踏会でも着た青いドレスは流行遅れの地味なものだった。本来であれば家族が娘に恥をかかせないためにそれなりの物を用意するのだがコーデリアにはそれをしてくれる家族がいなかった。おかげで前回は周囲から浮いて笑いものになっていたのだ。

 そこで洋裁を得意にしているカレンがドレスを手直ししてくれることになったのだ。今回カレンはそのドレスを届けるために王都までやって来てくれたのだ。


「一から作るにはさすがに時間が足りないけど、これくらいならね」

「わあ……!」


 カレンとギルバートが取っているホテルの部屋で(もちろん二人はそれぞれ別室だ)カレンのリメイクしてくれたドレスを着たコーデリアを見つめて、デビーが瞳を輝かせた。

 飾り気のなかった胸元や二の腕部分にフリルとレースを足し、スカート部分にも大きなリボンやオーガンジーの素材を使ってボリュームと華やかさを出している。それでいてコーデリアの細い腰がきちんと強調されているバランスの取れたデザインだ。


「うん、いいわね。サイズも大丈夫そう」


 コーデリアはアンカーソン村に来てから食事をきちんと三食取るようになって少しふっくらしたのだ。それも懸念事項だったのだが問題なさそうだ。

 華やかでありながら清楚で爽やかな色味の青いドレスが色素の薄いコーデリアによく似合っていた。


「カレン、本当にありがとう……!」

「いいのいいの。だってせっかくアルフレッド様に会いに行くのだからとっておきの姿でないとね」


 照れくさそうに笑うカレンをコーデリアは抱きしめた。




 その日の夜はカレン達と同じホテルに泊まり舞踏会に向けて準備をし休むことになった。連日の仕事で睡眠不足のままひどい顔色で出席することになんてなればせっかくのカレンがリメイクしてくれたドレスも台無しだ。


「実家のお屋敷の方は大丈夫なの?」

「ええ、大体やることは終わったしたぶん妹の準備できっとそれどころじゃないわ」


 前回の舞踏会の時もそうだったのだが、イザベラとダイアナは本気で王子の妃の座を狙っているらしくその準備で屋敷は大騒ぎだったのだ。おそらく今回もそうなのだろうと思う。コーデリアなどいなくなっても気がつかないだろう。今回はそのおかげで助かったのだけれど。

 ふうん、と隣でベッドに横になったカレンが気の無い返事をした。

 今夜はダブルベッドの部屋でカレンとデビーと三人で眠るのだ。少しお泊り会のようでわくわくする。


「そういえばカレン様は舞踏会に出席されないのですか?」


 妃選びの舞踏会には国内にいる独身の貴族の娘全員が招待されている。言われてみれば前回もカレンはいなかった。

 ぱちりと猫のような瞳を瞬いたカレンが笑う。


「そりゃあ出ないわよ。選ばれないってわかってるんだもの。それに都会の貴族達はあんまり話が合わなそうだし」

「カレンだったら誰とでも仲良くなれそうなのに」

「そんなことないよ。コーデリア達がアンカーソン村に来るってなった時だってどんな子がくるんだろう。仲良くなれるかなって心配だったんだから」

「カレン様が!?」

「そんな風に見えなかったわ」


 コーデリア達にとってカレンは出会った時から明るく親切な少女だった。まさかそんな風に思っていたなんてすごく意外だ。


「でも実際会ってみたらコーデリアもデビーもなんだか悲壮な顔をしているし、大人しいし真面目だし一生懸命だしでこれは私がなんとかしてあげなくちゃって思ったの」

「なんとか?」

「人生もっと明るく楽しんでいいって」

「まあ」


 至極真面目な顔でカレンが言うのでコーデリアは思わずクスクスと笑ってしまった。確かにカレンのおかげでコーデリアは大分明るくなった。するとカレンも満足そうにほほ笑んだ。


「……私ね、ギルバートと正式に婚約することになったの」

「カレン……! 良かったわね。本当におめでとう!」

「おめでとうございます。カレン様!」


 きっといつかそうなるのだろうと思っていたけれど、こんなに早く実現するとは。ギルバートのことになると本当に可愛らしいカレンを見ていたコーデリアは心から嬉しかった。デビーも興味津々だ。


「あの、あのあのプロポーズの言葉とかはあったのですか?」

「え? ええっとそれは~……秘密!」


 うう、と言葉に詰まったカレンが恥ずかしそうに視線を逸らした。


「ま、まあそういうこと! ……さあ、そろそろ寝ましょう。明日は準備があるから早いわよ!」


 がばっと布団を頭まで被ってしまったカレンを見てコーデリアとデビーは吹き出してしまったのだった。




 翌日、舞踏会の支度を終えたコーデリアを見つめてデビーがうっとりと溜息をこぼした。


「コーデリア様、綺麗……」


 長い銀の髪は綺麗に編み込まれ所々に白い花の飾りがついている。主張し過ぎない本来のコーデリアの美しさを引き立てる化粧。カレンがリメイクしてくれたドレスを身に着けると以前のみすぼらしい姿が嘘のように美しかった。


「はい、仕上げ。これは母さんから借りてきたの」

「グレンダ様から?」


 コーデリアの青いドレスに合わせて美しい青い宝石のネックレスをかけられた。

 アルフレッドの瞳によく似たコバルトブルー・スピネル。


「……カレン、ありがとう。グレンダ様にもなんてお礼を言ったらいいのか」

「コーデリアだって私がギルバートとデートするときに色々手伝ってくれたでしょう? それと一緒よ」


 照れくさそうにカレンが笑う。

 

「アルフレッド様にしっかり自分の気持ちを伝えてね」


 カレンの言葉にコーデリアはしっかりと頷いた。

 グレンダから借りたネックレスを見ていると、内側から勇気が湧いてくる気がした。

ここまでお読みいただきありがとうございました!

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