23話 伝えたい想い
「昨日王都から手紙が届いてね。国王陛下のご病気らしくてね。それで昨日のうちに出立されたの」
「そうだったのですか……」
アルフレッドはコーデリアがまだ熱で寝込んでいるうちに慌ただしく王都へ帰って行ったらしい。
国王が倒れたのならば仕方ない。彼にとっては父親だし、王子であるアルフレッドが代行しなければならない仕事もあるだろう。
(伝えたいことがたくさんあったのだけれど)
結局何も伝えられないままになってしまった。
今はもうこのアンカーソン村に彼がいないと思うと言い様の無い寂しさを感じたけれどそれは胸の内に仕舞いこんだ。今はきっとアルフレッドの方が大変なのだから。
それから数日後、ようやく体調が戻ったコーデリアを村人達が訪ねてきた。
「コーデリア様、元気になって良かったね。これお祝い」
「まあ、こんなにたくさん……!? いいのですか?」
「もちろんだよ。君はユミルの命の恩人なんだから」
パン屋のジェシーがコーデリアの快気祝いにたくさんのパンと焼き菓子を持ってきてくれた。両手で抱えなければならないほどの量にコーデリアは目を丸くした。
「命の恩人だなんて……。私こそ村の皆さんにご迷惑をかけてしまったのに」
「何を言ってるんです。コーデリア様が気づいてくれたおかげでユミルは助かったんですよ」
「エミ―さん!」
ジェシーの他にもカーター家のエミ―やその家族。村長や役場の事務員ナンシーとその子。教会学校の生徒達と次々雪の中だというのに領主の屋敷に訪れてくれた。
あっという間に居間は村人達からの贈り物でいっぱいになってしまった。
「なんだかかえって申し訳ないわ……」
「お説教はたくさん受けたんだから今度は素直に感謝されてもいいんじゃないの?」
カレンの言葉にコーデリアは首を傾げた。
そういうものなのだろうか?
「そうね、反省も必要だけど自分を認めて褒めてあげることも時には必要よ」
「グレンダ様」
仕事の合間の休憩にグレンダが紅茶を持って居間にやって来た。
自分のことを認めて褒めてあげるなんて考えたことも無かった。
「そうするとね、もっと力が湧いてきて自分のことを信じられるようになるわ。そうしたらなんだってできるようになる」
正面に座ったグレンダの優しい眼差しに、コーデリアはなんだかくすぐったい気持ちになる。
確かに自分のことを責めて反省ばかりしていたら心も委縮してしまう。それでずっと心を閉ざしていたのが過去のコーデリアだ。けれど今は無茶をしたけれど精一杯頑張った自分を褒めてあげたいと思った。
「コーデリア様、こちらにいらっしゃったんですね」
「デビー」
居間でグレンダ達とお茶を飲んでいると厨房の手伝いをしていたデビーか顔を出した。手に持ったトレーにはハンナに持たされたらしいクッキーが乗っている。テーブルにクッキーの皿を置き、紅茶のおかわりを淹れながらデビーが眉根を寄せる。
「あの、実はちょっと気になることがあるんですけど」
「気になること?」
デビーが懐から取り出したのはクローズ家の侍女からのデビー宛の手紙だった。時々デビーにクローズ家の様子を伝えてくれているらしい。
「それが近々またお妃選びの舞踏会が開かれるらしくて、ダイアナ様が準備に大忙しなんだそうです」
デビーの言葉にコーデリア達は顔を見合わせた。
クッキーを摘まんでいたカレンが不思議そうな顔をした。
「国王陛下がご病気なのに?」
「そうね……おかしいわ」
コーデリアも頷いた。
アルフレッドが国王の病気の知らせを受けて出立したのはつい数日前だ。
おそらくこれからしばらくは国王の代行として仕事をしなければならず妃選びの舞踏会など開いている暇はないはずだ。そもそも国王が臥せっている時に舞踏会が開かれるなど聞いたことがない。
「なるほどね……。もしかしたらアルフレッド様はまんまと罠にはめられたのかもしれないわ」
「え!?」
「わ、罠ですか?」
ふむ、と考え込んでいたグレンダが顔を上げた。コーデリアの隣に座ったデビーが身を乗り出した。
「どういうことですか?」
「仮病ってことよ。王都から最近何度か手紙が来ていたからね。アルフレッド様を呼び戻したかったんでしょう」
「なんでまたそんな……」
カレンの言葉にグレンダが苦笑する。
「国王陛下は早くアルフレッド様に素敵な相手を見つけてあげたいのよ。あの方は王妃様に一目惚れだったからね」
「ひとめぼれ……!」
「まあ……」
「へええ」
デビーは頬を染めコーデリアは目を丸くしカレンは感心したような興味があまり無いような生返事をした。少女達の反応は三者三様だ。
そういえばグレンダは若い頃、王城でアルフレッド付の侍女として働いていたのだ。国王陛下のこともよく知っているようだった。
「あの方は『ほほ笑みの花』で今の王妃様と結ばれたの。だからアルフレッド様にも『ほほ笑みの花』が良き結婚相手を見つけてくれると信じているのでしょうね」
「……つまり、アルフレッド様に早く結婚相手を見つけるために?」
「そういうことね。前回の舞踏会では見つからなかったのだから」
アルフレッドは『ほほ笑みの花』には懐疑的であったし自分の相手は自分で見つけたいと言っていた。だから舞踏会にも乗り気ではなかった。そんな彼を無理やりにでも連れ戻して再び舞踏会に参加させるために国王は仮病を使ったということだ。
王族や貴族にとって結婚は重要事項だ。仕方がない事ではあるが、コーデリアの胸に不安が広がった。
もし今回誰かのほほ笑みで花が咲いてしまったら。
「そういえば一度目の舞踏会でチャレンジして花が咲かなかった人もまた参加するの?」
「ええそうよ。一度目は咲かせることができなくても二度目や三度目で花を咲かせた王妃もいたわ」
「……そんなことがあるんですか?」
カレンの何気ない問いに答えたグレンダの言葉に、コーデリアははっとして顔を上げた。
言われてみればダイアナも前回『ほほ笑みの花』を咲かせることができなかったが舞踏会に参加するという。
「以前王妃様に聞いたことがあるんだけれどね。あの花は『ほほ笑みの花』なんて呼ばれているけれど、本当は少し違うの」
紅茶を一口飲んでほっと息を吐いたグレンダは懐かしいものを思い返すような眼差しをした。
「あの花の蕾はね、人の想いで花開くのよ」
「人の想いで……」
「そう、相手を愛しく大切に想う温かな気持ちが花を咲かせるのですって」
それがいつの頃からか『ほほ笑みの花』と呼ばれるようになったのはわからないそうだ。ただし確かに国の継承者の妃のほほ笑みで咲くのだから名前は間違いではないのだけれど。
グレンダの言葉にコーデリアはゆっくりと立ち上がった。
「あの……グレンダ様。私」
「行くのね、コーデリア」
「はい」
コーデリアはしっかりと頷いて返事をした。
まだ伝えられていないアルフレッドへの想いをちゃんと伝えたい。『ほほ笑みの花』が人の想いで花開くのならば、きっとこの想いに応えてくれるはずだから。
「私、アルフレッド様に会いに行きます」
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