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18話 アルフレッドの想い

 クラムの丘には近くで見ると様々な花が咲いていた。色とりどりの花が咲く丘の中の歩道を歩きながらコーデリアはアルフレッドを見つめていた。

 一体急にどうしたのだろう。


(さっき私のことを恋人って……。ううん、あれはあの男の人を追い払うための嘘だもの。深く考えてはいけないわ)


 先ほどのことを思い出して慌てて首を横に振る。アルフレッドの言動にいちいち振り回されすぎだ。

 丘の頂上へ来た頃ようやくアルフレッドの足が止まった。ここから見る景色も下から眺めるものとは違ってとても美しい。ウィングフィールドの街並みもよく見える。


「……俺もコーデリアとこの景色を見たかった」

「アルフレッド様……」

「なあコーデリア。これからも一緒に」


 そこまで聞いてコーデリアはそっとアルフレッドと繋いでいた手を離した。黙ってこちらを見つめるアルフレッドに首を振る。


「それはできません」

「どうしてだ」

「……それはアルフレッド様がこの国の第一王子でいらっしゃるからです」


 彼はいずれこの国を治めることになる。そのために相応しい妃を彼は選ばなければならない。『ほほ笑みの花』を咲かせるこのできる人物をだ。

 ……だから自分では駄目なのだとコーデリアは思っていた。


「きっと『ほほ笑みの花』がアルフレッド様に相応しい方を選んでくれます」


 ただ事実を述べているだけなのにどうしてこんなに胸が痛むのだろう。それを悟られないようにコーデリアは意識して真顔を作っていた。それを黙って聞いているアルフレッドは不満をありありと顔に浮かべていた。


「俺が聞いているのはそういうことじゃない」


 そういうことでないならどういうことなのだろう?

 そもそもどうしてアルフレッドがそんなことを言うのかもよくわからない。

 一面に広がる丘の花畑を眺めながらムスっとした顔でアルフレッドが口を開いた。


「大体俺は『ほほ笑みの花』というやつが昔から納得いかないんだ。どうして俺の生涯を共に過ごす相手を花が選ぶんだ?」

「それは……王家のしきたりですから。そうすることで国が平和に繁栄していくのだと教わりました」

「俺は自分の相手は自分の目で見て心で決めて選びたいと思っている。花に相手を選んでもらわなきゃ国を守れないなんて方がおかしい」


 確かに昔からのしきたりとはいえ、当人であるアルフレッドからしてみれば文句を言いたくなるのもわかる話だった。けれど実際それでウォーレン王国は平和に存続しているのだ。歴代の王と王妃の不仲という話も聞いたことがないし、貴族というのは政略結婚が普通だ。これも政略結婚のようなものではないかとコーデリアは思っていたのだが、どうもアルフレッドは考えが違うようだった。


「花にほほ笑みかけて蕾が開いたら合格だなんておかしいと思わないか? 俺の気持ちはどうなる」

「……きっと『ほほ笑みの花』はアルフレッド様がお好きになれる方を選ばれます」

「だとしたら、それは君じゃないとおかしい」

「えっ」


 アルフレッドの言葉にコーデリアは瞳を見開いた。

 丘の頂上では何組かの恋人達が通り過ぎていく。コーデリアは戸惑いと緊張で何か言おうとして、けれど何も言えないままだった。コバルトブルーの瞳がまっすぐとこちらを見つめている。


「はっきり言う。コーデリア、俺は君のことが好きだ」

「アルフレッド様。でも……」

「……君は昔と同じことを言うけど、俺はあの花が咲かなくても君がいい」

「……?」


 ふっとアルフレッドが苦笑する。

 昔とは一体どういうことだろう。

 なんと返事をしていいのかわからずコーデリアは黙り込んだ。心臓の鼓動が煩いくらいい音を立てている。そのときアルフレッドが張り詰めた空気を壊すように視線を逸らして花畑を眺めた。


「大体笑顔が作れないくらいなんだ。そりゃあ時にはそういうことも必要な場合もあるが……笑顔っていうのは作るものじゃなくて心から浮かび上がってくるものじゃないのか?」

「心から……浮かび上がる」

「そうだ。心から楽しかったり嬉しかったり幸せだったりするから笑顔になるんだろう?」

 

 そういうものだろうか。

 笑顔になれなくなってからもうだいぶ経つのでコーデリアにはよくわからない。けれど確かにアルフレッドの言うことも一理あるような気がした。


「……俺は君の笑顔が本当はとても素敵なものだってことを知ってる。だから君が心から笑えるその日が来るまで待つつもりだ。そして願わくば俺が君をそんな笑顔にしてあげたいと思う」

「アルフレッド様は昔、私と会ったことがあるのですか……?」

「コーデリア様ー!」


 どうしてそこまで、と戸惑ってコーデリアはアルフレッドを見上げた。そのときちょうど下からデビーとユージーンが走ってくるのが見えた。


「……コーデリアはまったく覚えてないんだな」

「すみません……」

「まあ、しかたないさ。では君が思い出してくれたら全て教えよう」


 アルフレッドはそれだけ言うとデビーとユージーンを迎えに歩き出した。

 その背中を見つめながらコーデリアはほっと息を吐いた。まだ緊張して手が震えているし、鼓動は速いままだ。


「心から浮かび上がるもの」


 もう一度その言葉を呟いてみる。

 いつか、本当に心からの笑顔を浮かべられるようになるのだろうか。それをアルフレッドは待つと言ってくれたけれど、どうしてそこまで想ってくれるのだろう。自分にそこまでの価値があるのだろうか。

 昔会ったことがあるとアルフレッドは言っていたがその時に何があったのだろう。

 風が吹いて花びらが一斉に空に舞う。

 その様子を眺めながらもコーデリアの心は戸惑いと迷いでいっぱいになっていた。

ここまでお読みいただきありがとうございました!

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