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彼等とは、混ざるな危険のレッテルが。  作者: 夕暮 瑞樹
第一章 まだ知る世界 side長船
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第十一話 プロとアマ

「それでは、早くも次がラストの曲!、〇〇さんで、『〇〇』!!」


 浦井は緊張をほぐしてヘッドセットを置く。

「あー、終わったぁー。疲れたぁー。」

そう言ってだらしなく椅子の上で崩れる浦井。その様子を見るのは、これで七回目だった。

「浦井、楽屋戻るぞ。」

「えー、今終わったばっかじゃんか。」

「でもスタッフさんが毎回嫌な顔するから、ほら早く。」

「あっそ、了解。」

そう言って僕と浦井、そして門崎は立ち上がり、ブースを出る。お疲れ様でしたとスタッフさんが言う中、斎藤さんが顔を出した。

「では来週からは明堂さんと澤中さんと交代という事で宜しかったでしょうか?」

「あぁはい、宜しくお願いします。」

「了解です。此方こそ宜しくお願いします。」

斎藤さんは、ラジオ局スタッフとの大まかな打ち合わせの確認をしていた。


 楽屋へ戻ると、其処には別の仕事を終えたばかりの明堂と澤中が。

「お疲れー、今日も良かったよ浦ちゃん。」

「マジ?ありがと。」

「長ちゃんも良かった。特に途中のファンからのラブレター編。」

「アハハ、あれね。本当、早々にファンが付くのは有難いんだけど、何あの擬音語だらけのラブレター。」

「そうそう、私もびっくりした。」

明堂はラジオの余韻に浸って笑いながら、僕と浦井に水を入れてくれた。それをありがたく受け取り、僕は座敷の上にドテッと座る。

「っていうか、それ結構序盤なのに聞けてたんだ。仕事終わんの早かったの?」

「うんそうだよ。軽いインタビューだけだったから、あんま時間掛かんなかった。」

「あ、そう。」


 実は、僕等がラジオでゼイゼイ言っている間明道と澤中がやっていた別の仕事と言うのはとあるアーティスト番組の、インタビューのリハーサルだ。出演するのは全員なのだが、三人がラジオの関係でリハーサルには行けず、ぶっつけ本番の状態である。ちゃんとカンペ出してくれるからと明道は余裕そうに言っているけど、僕はそうは思わない。ラジオとは違い顔も仕草も視覚的に視聴者へ届いてしまうし、声もビジュもキャラも優先される、僕にとっては酷なイベントである。

「うぉ、哲ちゃん凄いぞ、」

ふと、横に座っていた浦井がそんな事を言い始めた。

「何?」

「ラジオで読めなかった俺等へのお便りの中に、島田さんからのやつが入ってる。」

「嘘、どれ?」

「これほら、見てよ此処。」

「うわ、本当だ。」

僕は浦井が持つ手紙を覗き込むと、名前が「島田」とだけ書かれた手紙を手に取り、内容を読んでみた。


ーーーーー

ニックネーム:島田


ニュートラルさんこんにちは。そしてお久しぶりです。

僕とコンビニで会った事、もう遠い昔のように感じますが覚えているでしょうか。

僕はあれからニュートラルさんのライブに何度かお邪魔させて貰い、その影響を受けて長らく止めていたバンド活動を本格的に開始致しました。

変わらず売れては無いけれど、ニュートラルさんのおかげで毎日楽しく活動できています。本当に、この度はデビューおめでとうございます!

 追伸

僕もいつか追いついてみせますから、待ってて下さいね‼︎

ーーーーー


「うわぁこれ読めば良かった。」

こんなレアなお便り滅多に無いのに、と僕は悔しく思う。島田さんには後々直接連絡を取ろうか。うん、そうしよう。

 僕は立ち上がり、自分の鞄の中から買ったばかりのガラケーを取り出す。そして島田さんの連絡先がこちらにもうつっている事を確認すると、パタンと閉じて楽屋を見渡した。

「この後って、もう予定無かったっけ?」

「んーとね、後二時間後に練習の為のスタジオ取ってる。」

「了解ありがと。」

そうだ。あれだけ楽しみにしていたのに如何して忘れていたんだろう。つい先週、これまでお世話になったスタジオ代やライブ代を返そうと、僕等は久しく浦井音楽スタジオと連絡を取った。すると、ついでだから練習で使っていきなよと、一時間の料金で三時間も場所を貸してくれる事になり、僕等の予定が空き次第何時でも来てくれとの事だった。

 僕等の担当するラジオは二時に終了。そこから二時間ならスタジオの予約時間は四時という事か。

「どうする?移動時間はこっから一時間弱だってさ。」

「それって電車?バス?」

「んとね、電車だと一時間弱、バスだと待つ時間も含めて二時間半。」

「そっか。じゃあ電車だな。」

浦井と明堂が今後の短な予定を立て終え、それをメンバーに共有する。僕等はやっと楽屋に人数分用意されたお弁当に手を付けながら、僕等の後に続いて放送されているプロのDJのラジオを皆で聞く。

「やっぱり上手いねプロは。」

浦井は終始うんうんと頷きながら、面白いなぁと尊敬の声を上げた。


「プロは間が分かってるから何でも面白く聞こえるんだよ。この話だってさ、要するにリモコンが床に落ちてて踏んじゃったって話じゃん?そんなの日常で起こったら唯のポンコツで痛い話なのに、めっちゃスタッフ笑ってるし笑わせてるじゃん。」

と僕等が勝手に盛り上がってる中、笑っているようで全く笑っていない人物が二人いた。

 黙って、じっと浦井の手元を見つめる門崎。そして手元の何かを見つめ、うわべだけの笑い声を上げる浦井。僕はそいつの手元をヒョイと覗き込む。

「…っ、」

「…何で隠したの?」

「…。」

僕がそう小さく聞いても、浦井は何も答えない。唯前を見つめ、心の無い笑いを続ける。門崎に視線を送っても、彼はさっきと変わらぬ一点を見つめているだけ。

 僕はそれ以上何も言わなかった。何故かは知らないけど、今は聞かない方がいい気がした。

「本当、プロって凄いね。」

明堂達の会話に適当に相槌を打ち、気を紛らわす。

 その奇妙な様子は、浦井音楽スタジオに着くまでずっとだった。

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