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下町の鶴  作者: 瀧ヶ花真太郎
1章.居酒屋の一人娘
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2.三人ぼっち

ープロローグー


席に座り、タイミングを待つ。

目の前に複数の男子が横切り、先生の目から私が隠れた。

次の瞬間、結んでいた髪をおろし、即座に教室後方のスペースに紛れ込む。

あとは出口へ向かうだけ。ここが成功すれば第一関門突破。

ただ、出口までの一直線で真ん中以外ががやけに空いている。下手にかがめば、先生の目からは死角になるが、この周辺のクラスメイトからは丸見えで、目撃者となってしまう。さあ、どうする。

河島の方は机から落ちた文具を拾うていで身体をかがめ込み、こちらからは姿が見えない。もう廊下に出ているとすればあまりモタモタしてはいられない。

ならば一か八かのスピード勝負だ。

紛れ込んだ群れの中から飛び出した瞬間、先生の顔がこちらの方向に向こうとした。

「ミスったか...!?」

と、思ったその時

「こっち向け。」

と、後方から河島の声が。振り向くと河島が群れの中から飛び出し、私を突き飛ばす。その反動でよろけ足になり、後退りする。

下ろした長髪が揺れ、横顔が隠れる。河島はそんな私を使って身を隠しながら出口へ向かう。

出口前のクラスの群れに紛れ込めた時、河島は私の手を強く引き、教室の外へと連れ出した。

「え...?助かった?え...?」

状況の整理に追い付かず、ぽかーんとしている私に

「第6陣形だぞ、校門前で落ち合う。遅れんなよ。」

と言い残し、走り去ってく。


高鳴る心臓の音を押し殺すように、私は作戦のルートである三階を目指した。

【本編】

下町の鶴

1章-居酒屋の一人娘-

☆Episode2「三人ぼっち」


「おい名取。」

「ふん。」

私は机に居眠りの姿勢で、ふてぶてしい顔をしながら受け答えをしている。

「お前の陣形、失敗したぞ。」

「知んないもん...。あたし、悪くない。」

口を膨らませ、不貞腐れる。


結局、脱出作戦は失敗に終わり、夕焼けの教室で結局、居残りという名の懲役刑を食らった。

それで私たちは恒例の反省会を開いている、というわけだ。

「二人とも、何があった?」

同じく居残り軍の山岸が聞く。

「作戦通りにやったもん。」

「嘘つけい。」

河島が否定する。

「ホントだもん!アレに遭遇するまでは...。」

第6陣形の中で私は、自分の学年のエリアである二階からわざと三階を通って玄関へ大回りするルートなのだが、

山岸:「アレ...?」

河島:「三年にハメられた。」

というわけだ。

「ああ、さては藤島先輩だな?」

と、山岸。図星で河島と私は頭を抱える。

~~~~~~~~~~~~~~~~

「「青春は努力で手に入れるべきじゃないか?」」

~~~~~~~~~~~~~~~~~

「イケメンまがい...男の敵...女が主食の変態野郎...。」

ボソボソと愚痴を垂れている。

「河島....お前。」


藤島先輩。高身長でバスケ部という、モテ男の肩書きにしては結構ベタなステータスの持ち主。

爽やかな第一印象とは裏腹に、自分より下と見なした人間の非行や、ルール違反に対しては教師側に付いて善人ぶるような男だ。

「名取もなんであんなのの言葉に足止めるんだよ。」

と、山岸が呆れた顔で聞いてくる。

あんな男に...してやられたとは口が裂けても言えない。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「「購買のスペシャルメロンパン、確実に買える必勝法があるんだけど、知ってる?」」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「嘘つき...女ったらし...使い捨て主義の最低野郎...。」

浮かぶ限りの暴言をボソボソと吐く。

「名取....お前...。」

そう。そうやってまんまと時間稼ぎをされ、先生に見つかり、教室へ連れ戻された。

その後の教室で酷く説教を受ける羽目になり...


「....お店の手伝いが...。」

「それは課題より大事なことか。」

「そうです。」

「馬鹿言え、優先順位を考えろ。」

「社会の潤滑を、社会人が止めるとはどういうつもりですか!」

「課題もしてこない奴に回せる社会なんてねえよ。」


今度から録音してやる...。

「嫌い...。嫌い...。」

呪いの言葉のようにマイナスのオーラを放つ。

河島:「今までは確実だったのに...。」

山岸:「先生らが職員会議だからって安心してたが、対策済みだったようだな。」

名取:「山岸はどこで捕まったの?」

山岸:「玄関。外靴に履き替えるとこまでは行けたんだが、出口で待ち伏せされてた。」

名取:「うわあ、お疲れ...。」

今回の警備態勢はあまりにも高すぎる。手伝い前にちょっと遊ぼうと思ってたのに...。 

「なあ、これ終わったらどっかで飯食わね?」

河島が提案する。

「良いね~、賛成。」

「私、手伝いに間に合うかなあ...。」

「休んじゃえばいいじゃん。」

と、河島が気楽にいうけど、

「そういう訳にもいかないんだよ。」

うちの店は基本、お母さん一人で店を切り盛りしている。青春謳歌したい気持ちもあるけど、家計が大変な今、あまり負担はかけたくない。

それと、今月のお小遣い(給料)をあまり減らしたくない。

「ふたりは今日バイトないの?」

この質問に二人とも頷く。畜生、羨ましい。

「じゃあさ、今度振替でどっか行こうぜ。」

河島がちょっと優しい。頬杖をつき、目をキョロっとさせて聞き返す。

「どっか?」

「ジェットコースター乗りたい。」

「あー、遊園地?放課後に行くとこ...?」

「いや、流石にそれ行くなら土日だな。」

現実逃避に浸る会話を楽しむ。最近こういうことができてなかったんだよな。

今度は山岸が聞いてきた。

「逆に女子ってどういうのが良いんだ?ブクロでショップ巡り~とか?」

「ふっ(笑)」

そういうのは多分、みっちゃんの方が好きだろうな。

洋服とかみて回るんならせめて一人は女友達を連れていきたいところ。

「あたしは別にどこでも良いよー。」

「でた、''どこでも良いよー。''」

「ええ?あー、でもそうだなあ。アイス食べたい。」

と言うと山岸は目を光らせて

「あー、良いよな!アイス。グルメ旅したいー!」

... 旅 規 模 。

「グルメかあ。」

一斉に考え始める。突然静かになる教室。

「おい、何か喋れよ。」

河島がそうツッコむと、小さく吹き出した笑いが次第に大きくなっていった。


他愛もない話が、閉じ込められた空間で、暗く沈んだ心に明かりを灯すような気持ちにさせる。

お喋りしているうちに気づけば三人ともぐっすりと眠ってしまって、先生に叩き起こされる頃には、空もオレンジ色に焼けていた。

とっとと帰れと背中を押され、教室をあとにする。

夕陽が差し込み、静まりかえった廊下を三人ぽっちで歩くのも、これはこれで良いなと思えた。


「やっぱご飯、食べよっか。」


牛丼屋あたりをチョイスしておけば、早く帰れるだろう。

「やっぱそうこなくっちゃ!」

河島の声が廊下に響く。続けて、

「さあ、どこ行くか。」

と、言うと一斉に

「僕はゼリアかなー。」

「私、牛丼食べたーい。」

「やっぱラーメンだろ。」

三人が同時に出した提案は喋りながらの私にも理解できた。

「全員バラバラじゃん。」

思わずみんな吹き出した。


 

空が藍色に染まりだした頃。私は焦りに焦っていた。

「のんびりしすぎた....!!」

間を取ってファミレスに決まり、ゆっくり最近の愚痴話で盛り上がって、ついつい時間を忘れてしまっていた。

バスも、電車も、たった今出たばかり。どうしよう。走るか...?いや、走るには地味に距離が長い。

「待つしかないか...。」

そう思い、焦る気持ちを沈めようと自販機でサイダーを買った。

プシュッ...!

キャップを開け、一口飲もうとすると、気化した炭酸に肺をやられる。

「けほっ....けほっ...!.....はあ。」

ため息をつく。やけになってボトルの半分まで一気に飲んで酒飲みのような息を吐く。

今日は良いことと、嫌なことの波が激しい。心が対応しきれないレベルだよ、もう。

うつむいた顔を上げると、街明かりが星のようにキラキラして見える。

ぼーっと見とれていると横から聞き覚えのある低い声で私の名前を呼ぶ。

「おお、詩鶴ちゃんじゃないか?」

声の方に顔を向けると、黒いライダージャケットを着た大柄の紳士が、レトロな雰囲気の大型バイクに腰かけている。白い煙草の煙が風に乗って通りすぎると、綺麗に整えた髭と、太い眉、軽くパーマをあてた髪の渋い顔が現れる。

「オッチャン...!」

そう呼ぶと、その男は軽く口角をあげ、私に言った。

「どうした、困りごとかい。」


つづく。

【おまけコーナー(なろう版 限定)】

★下町のはとぽっぽ

☆その1「詩鶴とわんちゃん」


ある日の夕方、いつも以上に遊び疲れたので、帰り道に寄った公園のベンチで休んでいた。

さて、そろそろ帰ろうと立ち上がると、柴犬が私の元にやってきて尻尾を振る。そんな愛くるしい姿に私は心を奪われ

「ヨシヨシ、可愛いね~、よしよ~し。」

と、顔を撫でてあげた。

ふと我を忘れていたことに気付き、飼い主に挨拶をしなければ、と顔を上げると

「こんにち....わ。」

目線の先には、つり上がった目とオールバックの髪型、黒いシャツには金色のネックレスを幾つもつけている。

ヤバい、間違いなく組の方だ。私は一秒でもはやく謝らなければと、その事で頭が一杯になる。しかし、恐怖のあまり身体が全く動かない。

「ああ、とうとう私、死んじゃうんだ。」

そう、死を覚悟したその時

「こんにちは。はは、可愛いだろう。ポポって言うんだ。」

「へ...?」

「こいつの名前だよ。な、ポポ?」

「わん!ハッハッハッハッ」

彼の見た目とネーミングセンスが一致しない。

私は頭が真っ白になりつつも、ポポに話しかけてみる。

「ぽ...ポポ?」

「ぅぅわん!ハッハッハッハッ」

「とっても可愛いです。」

「はは、悪かったね。僕、こんな見た目だから、よく怖がられてしまうんだ...。」

「(僕...)」

その人はニッコリと私に笑顔を見せると

「じゃポポ、行くよ。」

と、ポポのリードを引き、私に礼をして去っていった。


見た目はとっても怖かったけど、とてもいい人だったな。私は安心して彼の背中を見届けた。

ポポが、目の前を通りすぎた車に威嚇して吠え出した。すると

「オラァァ、人に迷惑かけちゃダメだろうがァ!!」


背筋が凍った。

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