2章 2人の魔法少女
シルバーアッシュに輝く長い髪は、サイドの部分だけが左右非対称にカ
ットされていた。ルビーのような瞳は攻撃的、かつ矮小な存在を蔑むよう
に紅く輝き、こちらを見下ろしている。
数メートルほど宙に浮いた≪魔女≫は、殺意満点の視線で射貫くゼーベ
ルカ等お構いなしといった感じで、努めて明るい調子で言い放つ。
「水持ってるってことはー、虫けらが固まってる場所があるってことね☆
久々に『眼』の足しになりそ」
カイオはそれを聞いて体温が一気に冷える感覚がした。こいつは何の躊
躇いもなく自分も、ゲットーも壊し、殺し、蹂躙し尽くすのだろう・・・
惨憺たる未来を想像し目の前が暗くなりそうでいると、もう一人から声を
かけられる。
「カイオ、行って!こいつはわたしがやる」
それを聞いて驚きに目を見開く。
「こいつ、お前の仲間じゃないのかよ!?」
≪魔女≫同士で争うなんて聞いたことがない。奴らは集団で現れ、人を
痛めつけて嬲り殺すことに快楽を見出す。まるで競うように。そんなイメ
ージをしかなかったからだ。
カイオの疑問に対してゼーベルカは、
「私とあいつはまだ≪魔女≫じゃなくて≪魔法少女≫なの」
「魔法・・・少女?」
なんだそりゃ・・・何が違うんだ?
ゼーベルカが口を開きかけたところで、今度はもう一人のほうが割り込
んできた。
「≪魔法少女≫が真の≪魔女≫になるためには、他の≪魔法少女≫を喰う
必要がある――ってことなわけよ、虫けら君♡ ってことで、」
セリフを遮り、ゼーベルカが叫んだ。
「カイオ、早く!!!!!!」
ほとんど同時に、シルバーアッシュの髪をした≪魔法少女≫がとてつも
ないスピードでこちらに突進、いつの間にか握られていた長い細剣を突き
出した所でゼーベルカがかろうじて目の前に立ちふさがる。それらの流れ
をカイオが認識できたのは、何秒も経過した後だった。
「っっ・・・!」
「お、おい・・・・!!」
なおもゼーベルカは自分を守ろうとしてくれる。
「わたしもそんな長く持たないから・・・お願いっ・・・!!」
「っ、すまねえ!!!!」
カイオはもつれそうな足を必死に動かし、走り出す。
すぐにムラの人たちと、帰りを持っている姉に伝えなくてはならない。
自らに好意を向けた少女の顔が、慙愧の念となって足にこびりつくよう
だった。