93 探索で見つけたもの
島組が移住してきて、時間が少し流れる。
ラジウスから服と家と酒についての話を聞いた島組は、一応の納得をする。
あれだけの広さの畑や池に魔法を使っていて、自分たちの娯楽のためにさらに魔法を使えとは言えなかった。不自由しない家を与えられ、食べるのにも困っておらず、気候も厳しくない。これだけでも十分助かることだろうと話を聞いてきたラジウスからも言われたら納得するしかなかった。
そうして過ごしだして、畑仕事しかないわけではないとわかる。
食堂に行けば、玩具はあるし、音楽が聞ける。ボウリングやグランドゴルフといったものもできる。たまに魔法の教室も開かれていて、娯楽や学びといった楽しみがある。
ナリシュビーやノームも島組を差別するようなことはなく、普通に接すれば普通に返してくれた。
魔物は相変わらず怖くはあるが、すれ違う程度で襲われるようなことはなくて安堵した。
食事の種類の少なさにやや不満はあるものの、それは皆が同じということで文句をつけるようなことではなかった。質に関しては文句はなかった。
魔物との距離を間違わなければ順調にやっていけそうだと感想を持つことができた。
生活のリズムが村のものに合ってきて、そのタイミングで歓迎会が開かれる。
どんなものだろうかと思っていたところに、魔物相撲から始まって、食事、演奏会と進んでいく宴会に驚きつつも楽しんでいた。
故郷の村で行われていた宴会は、食べ物を持ち寄って、皆で騒ぐといったもの。たまに旅をしている吟遊詩人が演奏してくれたり、自家製の楽器でリズムをとったりする程度だ。
それと比べて周囲から切り離されたここが、いろいろとやっていることに驚かされた。町で行われていた祭りほどではないが、それでも村規模としては賑やかだった。
歓迎会で美味い食べ物に酒も飲めて、騒げて楽しい時間を過ごせた島組の不満はほぼ解消されることになった。
水人族の環境に合わせた島よりも、人族の暮らしに合せたここの方が過ごしやすいという感想を持って、贅沢はできないが安定した日々を送ることになる。
ちなみに島組が村に慣れるまでにローランドがやってきて、その巨体に驚くということが起きていたが、ローランドたちも驚いていた。
村の外よりも寒さが緩んでいて、今日は魔法を使っているのかと聞いてみたら、古代の気温制御装置が見つかったと返され、それが今も正常稼働していることに驚くなという方が無理だろう。
ローランドはまだ別のなにかが眠っていそうだなと思いつつ、その新たな発見報告を楽しみにすることにした。
島組の件が落ち着いて、進たちもいつもの生活を送ることになる。
午前は畑仕事で、午後からは廃墟の探索に出る。気温制御された範囲から出るので、同行したがる者は少なく、進とビボーンとフィリゲニスとラムニーのいつもの四人に、ナリシュビー二人とミグネがついてきている。
ミグネは魔法を使いこなすための練習をするためにビボーンが呼んだのだ。
フィリゲニスが七人分の保温魔法を使い、自分とビボーンに気配を誤魔化す魔法も使って廃墟北部へと出発する。気配を誤魔化す魔法を使ったのは、使わずにいるとフィリゲニスとビボーンの気配で大抵の魔物が隠れるからだった。
歩きながらビボーンがミグネに話しかける。
「道中の戦闘は基本的にミグネに任せるからね」
「はい」
初めて会ったときのような不安感はなく、ビボーンに信頼を寄せた表情でミグネは頷いた。
「ナリシュビーの二人は空から警戒をお願い」
「わかりました」
ビボーンから頼まれて、ナリシュビーたちは上空に移動する。
「ススムとラムニーも警戒して魔物がどこにいるか探すように」
「りょーかい」
進が返し、ラムニーも頷く。
「フィズには言うことはないわ。ススムの邪魔にならない程度にくっついてなさいな」
「そうするわ」
腕を組むと警戒の邪魔になるだろうと、進の手を握る。
実力的にフィリゲニスの方が上で、ビボーンからは言えることはない。なにも言わずともフィリゲニスなら警戒といったことは当たり前のようにやるという信頼もある。
簡単に方針を決めて、一行はまだ行ったことのないところへとのんびり進む。
何度も行った探索で、危険な魔物はいないと判明しているので、緊張感はない。表情を引き締めているのは戦うことになっているミグネくらいだ。
雇っていない昆虫の魔物との戦闘を一度行って、ここらでいいだろうという場所に到着する。
近くの壁に調査に来たという印を入れて、建物跡を調べだす。ミグネとナリシュビーたちは周辺の警戒を続行だ。
「ここってそれなりの大きさですよね。なにに使われていたのでしょうか」
周囲を見ながらラムニーが首を傾げる。
大きさとしては一般家庭の家などはるかに超す広さで、椅子の残骸がまとまって転がっている。
「椅子がたくさんあったみたいだし劇場だったのか? フィズ、この町に劇場はあったのか?」
「あったと思うけど、どこにあったかは覚えてないわね。一回も行ったことないし。記録館なら何度か……ああ、ここ記録館じゃないかしら」
昔のことを思い出したフィリゲニスは周囲を見て確認する。町の配置をなんとなく思い出し、間違いないだろうと頷く。
「記録館ってなにかしら。聞いたことないのだけど」
ビボーンの質問に、フィリゲニスは周囲を見ながら説明する。
進の知識でいえば映画館だ。映画と違うところは、記録したものを立体で見せていたことだ。
スクリーンがなく、会場の中心に立体映像を映し、それを囲むように客席が配置されていた。
上映されていたものは演劇や秘境の風景や魔物との戦闘であり、記録したものばかりだった。シナリオを用意して、役者を揃えて、記録館専用の動画を撮影するといったことはされていなかった。
「絵や文じゃなくて、今こうして話している姿を残せたという認識でいいのよね? 昔はそういったことができたのね」
「もしかしたらその道具が残っているかも。探してみましょう」
「見てわかるものかしら」
「よくわからないものを探して、あとはリッカに見てもらえばわかるはず」
そっち方面の知識があるリッカを頼みにすると言われ、それもそうねとビボーンは納得し、周囲に視線を向けていく。
フィリゲニスは進とラムニーにも道具探しを頼み、自身は透視の魔法で地下を見ていく。
「あれかしらね」
視線の先に地下空間があり、そこに機械が三つほど落ちていた。形は黒い立方体、大きさは買い物かごより少し小さいくらいか。
進に見つかったのかと聞かれ、フィリゲニスはたぶんと頷く。
邪魔な瓦礫を移動させて、地下への入口を確保する。
「それほど広くはなかったし、魔物もいなかったから、このまま四人で降りて大丈夫でしょ」
「そうしようか」
魔法の明かりを準備して、短い石の階段を降りて十畳くらいの地下室に入る。
「保管庫って感じだな」
棚や机の残骸が床に散らばり、その中に機械が三つある。その機械の破片らしきものも木材の中に転がっていた。
外見から同じ作りのものだろうとわかる。当然ながら使い方はさっぱりだ。
「触る前に質を変えておいたほうがいいよな」
「触ったらさらに壊れそうだしね」
フィリゲニスたちの同意を得て、進は魔法を機械に使う。ひとまず機械はそれで放置することにして、部屋の中を探っていく。
狭い部屋なので探索はすぐに終わる。目立ったものは機械と機械の修理用らしきパーツと一つの宝石くらいだろう。宝石は白っぽい六角柱だ。装飾品というにはカットが不格好だなと進たちが話す。
「たしか人工宝石に記録を封じていたと思うから、これの中にもなにか記録が入っているんじゃないかしら」
「じゃあこの宝石もリッカに見せるということで」
機械などを一つ残らず回収し、地上に出る。回収したものを一ヶ所にまとめて、再びここの探索をやっていく。人工宝石が見つからないかなと思ったのだ。
今日はこのまま夕方までここで探索することにして、隅々まで見て行く。結果二つの人工宝石を見つけることができた。
帰りながらビボーンはミグネに魔法の講義を行っていく。戦闘中に使った魔法やそれよりも向いた魔法に関して話し、夜の講義のかわりとしていく。
気温制御範囲内に戻ってきた一行はここまで来たら安全だと解散し、それぞれの家に帰る。
「ただいまー。お土産があるよ」
機械を持ってリビングに入る。
夕食の準備を始めようとしていたリッカと雑談していたイコンがおかえりと返す。
「お土産でありますか?」
「実際は見てほしいものなんだけどね。詳しくはフィズからお願い」
「記録館の機材が見つかったのよ。壊れているんだけど修理できるかしら」
「記録館の機材……レコーダーですか。簡単な修理はできるでありますが、専門的な知識が必要だと無理ですからね」
テーブルに回収してきたものを置く。
「レコーダーはこのような形だったのでありますなー」
「見たことはなかったの?」
「ないです。博士は扱ったことがあるかもしれませんが。配線が途切れているといった簡単な故障だとよいのですが。見るのは夕食後でいいでありますか?」
「いいぞ。急ぐものでもないし」
「では夕食の準備に戻ります」
テーブルの上から移動するように頼み、リッカはキッチンに向かう。手伝うといってラムニーもキッチンに向かう。そして汚れを落とすように言われて一度リビングから出て、服を叩く音が聞こえてきた。
進たちは汚れを落とすため風呂に入ってしまうことにして、お湯を張る。
夕食後、再びテーブルの上にレコーダーを載せて、リッカに見てもらう。
慎重にレコーダーを扱って、あらゆる角度から観察し、手で外せるパーツは外して中身を見ていく。
「まずはこっちの人工宝石ですが、これはなんの問題もありません。ひびが入っていたら駄目でしたが、表面に傷くらいなら中身は無事です」
「三つともなにかしらの記録が入っているのかしら」
「それは機材に入れて、見てみないことにはわかりません」
リッカは答えつつ確認した三つの宝石をそっと置く。
「子供向けではない記録もありますから、いきなり子供たちに見せない方がいいですね。大人たちが確認してからです」
「そう言うってことは機材の方は動くの?」
「二つは私では手に負えない壊れ方をしていますが、一つだけなんとかなりそうであります。その一つも壊れている部分は手に負えないのですが、壊れた二つの無事な部品をそのまま入れ替えればよさそうです」
ニコイチいやサンコイチってやつかなと進は思う。
「夕食前にも言ったけど急いでいるわけでもないから、リッカのペースで修理を頼んだ」
「了解です」
まずは掃除からやることにしたようで、布を敷いた床にレコーダーを置いて、今度は工具を使って分解を始める。掃除と一緒に、再度使えそうな部品の確認もしていく。
この日からリッカは家事の合間に修理を進めていく。
進たちも完成までに人工宝石の探索をすることにして廃墟や倉庫を見ていった。記録館跡を再度探り、無事なもの二つと壊れたものを一つ見つけ、倉庫にも一つだけ誰かが見つけた人工宝石が保管されていた。
感想と誤字指摘ありがとうございます