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91 高校生三人 遠出4

「では次に首無し死体について、詳しい話を聞かせてくれカッセローネ」


 トッファにカッセローネと呼ばれた警備の長が頷いた。


「調査によると、食いちぎられた可能性が高いということでした。首の傷が、魔物や獣が獲物を食ったものと似ているようなのです」

「胴や手足にそういった傷がなかったのなら頭部を好んで食らう魔物がいるということになるな。俺はそういった魔物を聞いたことないのだが」


 バーンズが君たちはどうだと視線を巡らせる。

 ほぼ全員が首を傾げたり首を振ったりしているなか、一人だけ小さく手を挙げる。トッファの補佐、獣人の方だ。


「出身地のおとぎ話の一つに、人に化ける魔物の話があります。その一文に『首盗られて化けられる。町に入って人の中に潜んだ』というものがあったのを思い出しました」

「そんなおとぎ話があるのだな。魔物を研究している学者ならそれについて知っているかもしれない。ここらにそういった者はいるだろうか?」


 トッファがいないと首を振る。


「ここらの魔物に詳しい者はいるでしょう。しかし魔物を専門にした学者がいるという話は聞いたことがありません。いるとしたら王都でしょうか」


 王都まで何日かかるのかというバーンズの質問に、かなり急いで片道三日だと返ってくる。調査結果がわかるのは往復と調査時間を考慮して早くて八日後だろう。


「トッファ殿、誰か王都へと向かわせてくれないか。調べておいた方がいいと思う。俺が行きたいがここらの地理に詳しくなくてな」

「すぐに準備いたします。お前たち書類作成と馬や費用の準備を頼む」


 補佐たちがすぐに動く。

 それを見ながらバーンズはカッセローネに死体に関して質問する。


「死体の特徴を教えてもらえるだろうか。男女、年齢、古傷といったものだ」

「男の死体です。黄色人種で年は三十歳から五十歳辺りでしょう。室内の仕事が多いのでしょうか、肌には日焼けが少なく白っぽい感じです。左足の膝の横に怪我をして治った跡がありました。そのほかには目立つ怪我の跡はありませんでした」

「ある程度は候補を絞れるだろうが、それでも数は多そうだ。足の怪我も普段隠れているところだから、それをもとに探すのは難しいかもしれないな」

「その条件なら怪我以外は私も当てはまりますからね」


 そう言うトッファを全員が見て、納得した声を出す。

 注目を集めたトッファが、今後やることを一度まとめようと提案する。


「薬の手配と魔物の情報入手。泊まっている宿とボルタインの情報収集。これは向こうに知られないようそれとなく。最後に足の動きが不自然な中年男性の捜索」


 こんなところだろうかとバーンズがまとめて、トッファたちは頷いた。


「勇者様たちには知らせるのでしょうか」

「鍛錬に集中してほしいということと、知らせると宿の従業員相手に不自然な対応になるかもしれない。ということで知らせないことになっている」


 いまだ成長途中の琥太郎たちには、余計なことは考えず鍛錬を頑張ってほしい。

 それはそれとして今回の件が解決すれば勇者たちのおかげと喧伝されることになるだろう。勇者が実際にいて、活動していると大陸中の人間に知らせるのだ。それをもって人間たちのやる気を上げようという考えがあった。

 話したいことは話したので、バーンズは今後の予定について伝える。


「薬が届くであろう六日後にまたここに顔を出させてもらおうと思う。それで問題ないだろうか。それまでは調査と勇者の鍛錬を過ごすつもりだ」

「わかりました。そのつもりでいます」


 トッファだけではなく、ほかの者たちも頷いた。

 予定を決めたバーンズたちは早速動き出す。

 調査を始めて三日目、丘陵地帯に向かおうとする琥太郎たちに、バーンズも同行する。


「先生、今日は同行するんですね」


 淡音が珍しそうに言い、琥太郎と桜乃と兵たちも同じような目でバーンズを見ている。


「ああ、指導役なんだしたまには同行しないとな」

「別行動しているとき、なにをやっているのか聞いても大丈夫ですか」

「バーンズ殿には俺から頼み事をしているんだ。調べてもらいたいことがあってな」

「ガゾートさんの頼みで動いていたんですね」

「魔王軍が暴れているから、その影響がここまでどういった形で伝わっているか知りたかったんだ。人や物の流れ、情報の伝わり具合、そういったものを町長にも協力してもらい調べてもらっている」


 ガゾートは事前に考えていた言い訳をして、それに琥太郎たちは納得した様子を見せる。


「それにばっかりかまけていて、君たちの指導を放り出しているのはすまなく思っている。だが必要なことだと思ったのでな」


 頭を下げたバーンズに、琥太郎たちは大事なことなのだろうと理解する様子を見せる。


「俺たちは現状鍛えることしかできませんからね。そこらへんなんの力にもなれず申し訳なさもあります」

「君たちはそれでいい。目的を考えると、調査なんてことはほかの人に任せていいんだ」 


 ガゾートと兵たちも同意だと頷く。

 

「でしたら鍛錬を頑張りますので、今日は指導のほどよろしくお願いします」


 淡音の言葉にバーンズは任されたと返す。

 丘陵地帯に入り、魔物を探し、戦っていく。数が多い場合はガゾートたちも参戦して、休憩を入れながら昼前まで戦っていった。

 

「ガゾート殿たちも注意してくれたおかげか、動きにズレなど生じていないな。ここでの戦いにもだいぶ慣れた様子だ。よほど油断しなければここらで負けはないな」


 もうそろそろ岩山に挑むことも考えて準備していいなというバーンズに、ガゾートも頷く。


「最初は麓近くで戦って山道に慣れてもらって、本格的に岩山に入るのはもう少し先だろう」

「行く前には山道での注意点を伝えておかないとな」


 山の上にいる魔物の動きで、岩が落ちてくることもある。平地とはまた違った警戒の仕方が必要だった。

 そんな調子で午後も戦闘を続けて日が傾く前に引き上げる。

 倒した魔物を売り払い、宿に帰る途中で桜乃の顔色が悪くなり始めた。

 それにすぐに気づいたのは淡音と女性の兵だ。二人と桜乃はなにかを話して、女性の兵が明日の休暇をガゾートに提案する。

 桜乃の調子が悪いということで、ガゾートとバーンズは一瞬魔王軍がなにか行動を起こしたのかと思ったが、桜乃の申し訳なさと恥ずかしさが混ざった表情を見て、生理と推測できてほっとしつつ頷いた。

 今回は重いようで戦闘に集中できないだろうとのことだったので、休暇が認められ桜乃もほっとした様子を見せていた。

 薬を飲んで安静にしていたので、休暇明けに引きずるようなことはなく、鍛錬が無事再開される。


 バーンズは約束の日時に町長の屋敷に向かう。

 魔物避けの薬は届いてはいなかったが、明日明後日には確実に届くということで解決に一つ進展した。

 町での調査の方も進展があった。宿とボルタインについて目立っておかしな情報はなかったのだ。ここ三ヶ月でこれまで付き合いのなかった者との交流が増えたり、お金の使い方が変わったということはなかった。これまで通りという調査結果だった。


「宿での暮らしはどうなのでしょう。魔王軍の手に落ちているというならなにかしかけてきても不思議ではないのですが」


 トッファの言葉に、ガゾートは首を振った。


「これとった動きはないと思われる。調査専門というわけではないので、自信を持って言えないのだが」

「勇者様たちが体調を崩したりはしていないのですよね」

「ああ、疲れといった当たり前のものしか出ていない」

「動きがなさすぎるような気もしますな」

「警戒しているということもあるのだろうが、別の考えがあっての放置だと少し怖いな。もしくはボルタインにまんまと騙されたか」

「そのボルタインにも怪しいところはなかった。怪しまれないように積極的には動けてないので、我々が見逃しているだけかもしれませんが」


 怪しいと思われる人物たちの動きのなさにトッファは溜息を吐いた。


「こうも動きがないとこちらとしても動きにくいですな」

「ボルタインの気のせいだったらいいのだがな。これまでの調査が無駄にはなるが」

「そうですね。杞憂だといいのですけど。こっちが動き出すのは、魔物の情報が届いてから魔物避けの薬を使用した部屋にボルタインを呼び出す、という流れでいいのでしょうか」


 トッファの確認にバーンズたちはそれでいいだろうと頷く。まずはボルタインの真偽を確かめたいのだ。

 町に仕入れている品について聞きたいことがあるという、これまでも何度か呼び出したことのある名目を使う予定だ。

 話を終えて解散になり、さらに時間が流れていく。そして最初の話し合いから十日後、王都に派遣した者が情報を持って帰ってきたであろう翌日にバーンズは町長の屋敷にやってくる。

 挨拶を終えて、早速薬と情報が手元にあるか尋ねるバーンズ。

 トッファは頷き、テーブルに置いてある小袋を持ち上げる。


「この中に作ってもらった香が入っています。使い方は香を焚くだけ。魔物が嫌がり、近づかない。かなりの強さの魔物にも効果があるというので、人に化けるという魔物もなんらかの反応を見せることでしょう」

「何回分くらいあるんだ」

「十回分ですね。これだけあれば十分足りるでしょう」


 予定通りにならば使う機会はボルタインと宿の人間たちだ。宿のあちこちにしかけるにしても九回分あれば足りるだろう。


「次に魔物の情報です。目撃例は少ないですが、頭部を食べて人に化ける魔物は存在するようです」

「実在したんですね」


 補佐の獣人がおとぎ話は本当だったんだなと感心した表情を浮かべた。


「五代くらい前の魔王が出現したときに、あちこちの国の上層部がこの魔物と入れ替わったようで、魔王が討伐されたあとにこの魔物は賞金をかけられ多くが殺されたそうです。以来目撃例が減って、知る人も同じく減っていったというわけです」

「特徴などを教えてほしい」

「はい。化けていない状態では四つ足の獣の姿をとるが、もとは不定形の魔物で斬る叩く突くといった物理的な攻撃に強いとされています。色は青、緑、紫、灰といった四種類。人並の知恵はある。人間の頭部を食らうことで、姿と記憶と知識をわがものとする。技術と強さは奪えない。奪った記憶に影響を受けることがあり、癖などを自然と真似て、本物との見分けがつきにくくなる。こんなところでしょうか」

「強いかどうかはわからないのか?」

「その情報はありません。一般人よりは強いと思いますが」

「そうか。首無し死体は顔と服を奪われてなりかわられたんだな。ボルタインの言うことが本当なら、宿の誰かだろう。一応当てはまる人物はいるんだ。宿のオーナーであるルドミナル。足の怪我以外は当てはまる」


 ルドミナルが足の怪我について話したときバーンズは別行動していたので聞いておらず断言できないのだ。


「宿を手中に収めるならトップ辺りを狙うのがよさそうではありますな」

「当てはまるだけで外れだった場合を考えて、ほかの候補も探しておこう」


 よろしくお願いしますとトッファは頭を下げる。


「ボルタインに関してはどうなっている? いつ呼び出すとか決まっているんだろうか」

「ええ、明後日に呼び出すことになっています」

「明後日か」


 渋い顔を見せたバーンズに、なにかまずいのかとトッファが聞く。


「明日から勇者たちと岩山に向かうんだ。山道での戦い方を教えないといけないから留守番は無理だ。俺のかわりに俺たちのまとめ役に残ってもらおうかね」

「どういった方でしょう」

「ガゾートという神殿の騎士で、勇者たちに指導をしている。たしかな実力を持っていて、ボルタインから手紙を受け取ったのも彼だ」


 問題なく屋敷に通すためトッファはガゾートの身体特徴などを聞いて、あとで門番たちに知らせておくことにする。

 今回の話し合いを終えたバーンズは、ガゾートに町長の屋敷に行ってもらいたいことを話し、了承をもらう。

 そして翌日、琥太郎たちは野営の準備をして岩山に向かっていった。

感想と誤字指摘ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] なりすまし…ドッペルゲンガー(姿だけなので親しい人には見破られる) 「お前らドッペルゲンガーが混ざってるだろ?」「「「何故、わかった!」」」「同じ顔が百人も並んでいりゃな。」 認識阻害・操作…
[一言] 頭部を食べて人に化ける魔物ですか、強さも真似るようなのだったら強くなった勇者を食らうのが目的かー?とか思いましたが違うとなると情報収集や指揮系統の混乱なんかが目的なんですかね
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