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90 高校生三人 遠出3

 夕食後、琥太郎たちが風呂に向かい、ガゾートは酒を買うついでにバーンズを誘う。


「まずはあなただけに知らせておきたいことがある」


 人通りの少なさを確認し、ボルタインからの手紙について話し出す。それにバーンズは素直に驚きを表す。

 ガゾートは宿でなにかしらの異常を感じとったか聞く。


「宿が魔王軍にか。特に異常は感じられなかった、と思う」


 気を張っていたわけではないためバーンズの返答は自信のないものになってしまう。


「町の方はどうだ? 魔物が活発化しているといった噂話でもなかったのか?」

「活発化の話はなかったな。今回の件に関係あるかどうかわからないが、三ヶ月ほど前に不審な死体が発見されたという話を聞いた」

「どういった死体なんだ」

「頭部がなかったらしい。服もなく裸で町の外、草原に捨てられていたのだとか」

「誰の死体かわかったんだろうか」

「そこまでは聞いていないな。それに対応したのはこの町長たちだろう。そこに行けばなにかしらの情報はあると思う」

「二つ頼みたいことができた。一つはボルタインの評判について探ってほしいということ。もう一つは町長のところに行って死体に関して聞くこと。頼めるだろうか」

「どちらも魔王軍に関連していると?」


 ガゾートはわからないと首を振る。


「かもしれないというだけだが、情報がほしい。俺がコタロウ殿たちの鍛錬を放り出して調べると宿の人間たちも怪しむだろう。初日から別行動したバーンズ殿ならなにかしらの用事で個人で動いていると判断されると思う」

「わかった。受けよう。そのかわり町長への紹介状などのフォローはしっかりと頼む。あと町長たちにボルタインという男からの手紙について話していいのか?」

「しっかりと口止めできるなら。宿やボルタインたちに動きを悟られて逃げられるのも厄介だが、罠を張られるのも厄介だ」


 今後の動きについて話し、酒を買ってから宿に帰る。

 翌日、バーンズを除いた琥太郎たちは昼食を買って町を出る。まずは近場からということで一時間歩いたところにある荒れた丘陵で魔物を探すことになる。そこからさらに一時間半歩いたところに雪の積もっていない岩山がある。丘陵での戦いになれると、次はその岩山だ。

 丘陵に出てくる魔物は黒魔犬、鉄鶏、石殻虫、熱病蛇、灰鼠といったものだ。

 注意すべき魔物は灰鼠だ。噛む力が強く、すばしっこいので、いっきに接近されて肉を食いちぎられるのだ。

 蛇も噛まれると熱病におかされるが、噛まれたあとにすぐ丸薬を飲めば問題ない。

 そういった注意事項を再確認しつつ、琥太郎たちは現地に到着した。ちらほらと魔物の素材目当ての傭兵の姿がある。それらから離れたところへと一行は歩いていき、魔物との戦いを始める。

 魔物の基本的な動作はこれまで戦ってきた魔物と大きく離れたものではなかった。しかしその力強さや速さが一段上になっており、決して油断できるものではなかった。

 初日は魔物の動きになれるため防御主体で戦うことになる。つまりはこれまでと一緒の流れだ。

 戦うこと自体になれてきているので、魔物たちの動きを把握できると琥太郎たちは苦戦しないようになる。といっても楽勝とまではいかないので、しばらくは丘陵地帯での戦闘がメインだ。

 ここらあたりでもガゾートたちにとっては弱い対象なのだが、次の岩山だと鍛錬に使えるようになる。しばらく琥太郎たちに合わせて格下の魔物とばかり戦ってきたので、岩山で不覚をとらないよう、ガゾートたちも丘陵で魔物との戦いを行いだしていた。


 鍛錬の日々が三日ほど経過し、その間にバーンズは頼まれた調査を行っていた。

 今日は町長と会える日であり、約束の時間に町長の屋敷に向かう。

 

「今日面会の約束があるバーンズだ」

「はい、お聞きしています。案内の者を呼んできますので少しお待ちを」


 門番の一人がそう言い、屋敷へと入っていき、すぐにメイドを連れて戻ってきた。


「こちらの者が案内いたします」

「頼む」


 はいと頷いたメイドが歩き出し、その後ろをバーンズがついていく。

 バーンズの前に来た来客がメイドに連れられて屋敷の外へ出ていく。ちょうどよいタイミングの来訪だったのだろう。

 メイドが扉をノックして、バーンズの来訪を告げ、入室許可が出る。

 部屋には質の良い服を着た人族とその背後に控える獣人族と虫人族がいた。


「失礼する」

「ようこそ。そちらの椅子へどうぞ」


 勧められた椅子に座り、町長も向かいの椅子に座る。補佐らしい二人はそのまま壁際に移動する。


「町長を任されているトッファです」

「現在勇者の教育に力を貸しているバーンズと申します。本日は面会していただき感謝する」

「正式な手順にのっとった面会依頼ですから、お礼を言わずともよろしいですよ。それで本日はどのようなご用件で? 勇者様の滞在に関してなにか不都合でもあったのでしょうか」

「うむ。関係している」


 ないだろうと思って尋ねたことが当たっていてトッファは驚きを表情に出した。


「どのようなへまをしてしまったのでしょうか」

「ああ、あなたにミスはない。確証もなくてな。そちらの二人、口は堅いですかな」


 壁際の二人にバーンズが視線を向ける。トッファは大丈夫だと返した。


「これまでも様々な仕事をともにやってきて、それらを誰かに漏らしたことなどありません」

「本当に?」

「はい」


 しっかりと断言したトッファと補佐たちに、バーンズは非礼を詫びて続ける。


「勇者の指導をしているのは俺だけではなく大神殿の騎士たちもだ。その一人が今回の遠征に同行していて、ボルタインという商人から手紙を受け取った。そこには宿泊している場所が魔王軍の手に落ちていると書かれていた」

「なんと!? この町に魔王軍が入り込んでいると?」


 トッファたちは心底驚いたように聞き直す。


「手紙にはそう書かれていたそうだ。それを受けた騎士は、その手紙が偽りの可能性も考えて勇者たちには知らせず、極秘に調査を開始した。俺がここに来たのもその調査の一環だ」


 いまいち信じられない、いや信じたくないといった表情のトッファにバーンズは続ける。


「聞きたいことは三つ。町周辺で魔物が活発化していないか。ボルタインという商人の評判や最近変わった行動をとっていないか。以前見つかったという首無しの死体についてだ」

「前二つは魔王軍に関連するのだろうと思いますが、首無し死体も関係あると?」

「わからない。だが関係しているかもしれないから聞きたいんだ」

「手紙の内容が本当ならば由々しき事ですね。放置はできません」


 頷いたトッファは壁際に立つ二人に、警備の長といった情報を持っていそうな者を急ぎ呼んでくるように命じる。

 部屋を出た二人が駆けていく音がした。小さくなっていく足音が消える前にトッファが口を開く。


「まずは私が知っていることを話しましょう。魔物の異変ですが、そういった報告は受けていません。魔王出現から少し慌ただしくはなっていますが、特別大きな変化はなかったはずです。ボルタインについては面識があります。国でも上の方の商人で、この町で一番の大店の主です。荷運び専門の商人としてやり手で抜け目ないところもあり、甘い人物ではありません。ですが非道ではなく、きちんと道理の通った人物です」

「昔からそういった人物だったのだろうか? いつごろから突然そういったふうになったのではなく」

「私も彼との付き合いは昔からではないので、駆け出しの頃どうだったのかはちょっと」


 それはそうだなとバーンズは頷く。


「面会までの時間で、俺もそれとなく調べてみたが、態度が急変したという情報は入ってきていない。そちらも異変を感じていないなら魔王軍だという可能性は減るな」


 そうですねと頷いてトッファは首無し死体について話し出す。


「そちらは調査中だったはずです。人の手によるものではないだろうと聞いていますね」


 首の傷は切断されたものではなく、ちぎられたもの。人間の手でちぎるのはかなり強い者でなければ不可能で、そういった強者がここらに立ち寄ったという報告はない。また死体が発見された場所で悲鳴を聞いたという報告もない。


「魔物に殺されたのか?」

「おそらくそうなのでしょう。しかしそこらにいる魔物にやられたのならば、首だけもっていくのは違和感がありますね。もっとあちこち食いちぎられていないとおかしい」

「胴体の方に傷はなかったと報告が入っていたのだな」

「ええ、かすり傷はあったようですが、それ以外は特に」

「町からそう離れていないところにも獣や魔物はいるはず」

「います。まれに薬草を取りにいった子供が襲われるという報告を受けています」

「だとしたらそういった魔物に齧られていないのはおかしいな。そういった奴らからすればごちそうだろうに」


 同意だとトッファが頷く。死体を調べた者たちもそれを不思議がっていた。魔物避けでも使われたのかと鼻の良い者に調べてもらったが残り香はまったくないということだった。

 話しているとメイドがお茶と茶菓子を持ってきて、魔王関連の話は中断される。

 そのまま琥太郎たちの様子について話していくことになった。

 休憩のような時間が二十分ほど経過して、警備の長や仕入れに関する仕事の担当者などを連れた二人が戻ってくる。


「話を再開しましょうか」


 トッファはそう言って警備の長たちにこれまでの話をまとめて伝える。

 魔王軍が入り込んでいるかもしれないという話は、警備の長たちにも衝撃を与える。


「今すぐにでも宿の調査に向かった方がいいのでしょうか」

「本当だという証拠が見つかっていない。宿ではなく、ボルタインという商人が魔王軍側だったりするかもしれない。慎重に行動すべきだろう、正体を知られたからとやけになって町に大きな被害がでるのも困る」


 しっかりとした証拠を得て、いっきに討伐に動くというのが理想的だった。


「証拠ですか。強力な魔物避けでも使えば苦しんで正体を現すかもしれませんね」


 トッファが思いついたことを言い、その準備をしておこうということになる。

 薬は急ぎで手配しても六日はかかるということだった。


「魔物避けが手配できるまでは、宿とボルタインについて目立たないように情報を集めたいな」

「そうしましょう。魔物避けはどう使いましょうか」

「まずはボルタインに使ってあの手紙が本当かどうか聞きたい。どうして宿が魔王軍の手に落ちたと知ったのかも知りたいしな」


 全員が頷く。手紙が本当なら、ボルタインにはそこらへんを見破れる技術があるということになる。この町に魔王軍が入り込んでいるなら、ほかの町にも入り込んでいる可能性がある。そういった隠れ潜んでいる魔物をあぶり出し、魔王軍の影響を落としていきたい。

感想と誤字指摘ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] 何をするにしてもボルタインにもう一度話を聞きたいですねー 魔物を見破る技術があるなら教えてほしいもんですし
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