表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/147

86 島組の移住4

 休憩を入れつつ畑作りを進め、そろそろ空が茜色に染まり始めるだろうという時間になって小石を粗方拾い終える。


「今日の仕事はこれで終わりでいいだろう。あとは食堂とかに紹介するだけなんで、それ以外の人は自由にしていいぞ」


 進は仕上げとして土に魔法をかけて、紹介する者たちを呼ぶ。

 それらを連れてまずはノームの住居に向かう。作業場を片付けているノームたちに、大工をやっていた者を紹介し、明日から一緒にやってくれと頼むと受け入れられる。畑に一名指導役を向かわせることも頼む。こちらは事前に話していたので、ゲラーシーたちが話し合い向かわせる者を決めていた。

 そのまま自己紹介などを始めた彼らを置いて、次は食堂に向かう。

 夕食作りに忙しそうな食堂にお邪魔して、希望者二人を紹介すると歓迎される。少しでも人手が欲しかったのだ。今日は農作業で汚れているから、明日の朝から頼むと熱心に頼まれた二人はこれからの忙しさを予想して少し引いていた。

 休む暇もないほど忙しいというわけでもないので、実際に働き出せば人手が増えることもあって、余裕を感じられるかもしれない。

 今日の案内を終えた進たちは、二人の移住者と別れて家に帰る。


「ただいまー」


 玄関からそう言うと、おかえりと返ってきてフィリゲニスとラムニーがホールに出てくる。


「彼らの様子はどうだった?」

「一日目は特にトラブルなんてなかった。明日からもこの調子でやってくれると助かる」


 どうなることやらと話しつつリビングに移動する。

 

 ラジウスたちも夕食後に家の前に集まり、今日のことを話していた。集まっているのは家長など各家庭の代表者や一人身で、ほかの者たちは家の片付けをしたりしている。


「これから先どうなると思う?」

「今日のところは特別住みづらい場所だって感想はなかったな。池に水を汲みに行くのがちょいと苦労しそうだが」

「それでも川に水を汲みに行くのとそうかわらん」


 うんうんと頷く者が複数だ。


「だなぁ。俺が気になったのは店がないってことだな。欲しい物があれば村長に頼めばいいんだろうか?」

「そうじゃないかのう。ただ現状欲しい物といっても、特にないとは思うが」

「そのうち出てくると思うぞ。服や靴は大事にしてもいつか駄目になるし、子供は大きくなってそれまでの服が着れなくなる」


 言われて気づいたように「あー」と声を出す者たち。


「明日にでも聞くとしよう……そういえば村長は明日も畑に来るのか?」

「ほかに仕事があるから来ないんじゃないのか」

「だったら聞きに行った方がいいな」


 ほかに気づいたことはあるかとラジウスが言い、皆を見渡す。


「住んでいる家の差かな。家を一軒無料でくれて文句を言うのはあれなんだが、どうしても差が気になる」

「ぼろい家じゃないから俺は気にならないかな。どこかに穴が開いているわけでもないし」

「でもよ前から住んでいる奴らはそれなりに立派な家に住んでて、俺たちは味気ないあれだからな」

「いくつもの家を全部見栄えよく作れってのはさすがにどうかと思うが。俺は今日歩き回って見かけた壊れかけの家を渡されなくてよかったと思っているよ」

「まあ、それもそうなんだが」

「一応それについても聞いておくか。わざと差をつけたのか気になるところではある」


 ラジウスのその発言にほかの者も頷く。


「俺は酒が気になったな。虫人が食堂で酒を飲んでいた。食器を返すとき酒が飲めるかどうか聞いてみたら、宴会とかじゃないと無理だと言われた。虫人だけなんで酒が飲めるのか気になる」

「酒か、あるなら飲みたいが」

「これでも俺たちと以前から住んでいた奴の差というものなんだろうか」


 それについても聞くことにして、話を進める。


「ほかには芋が本当にすぐ育つのかってことかのう。そこまで早く育つものなのか信じられん」

「それは実際に育てて収穫してみればわかることだろうから聞かずともよいな」

「そうだな。俺が気になったのは大妖樹や大烏公というなんて大物のことだ。あの子供にしか見えん魔物が本当に大妖樹なのか」


 これに関しては狩人をやっていた男が肯定する。


「本人かどうかはわからんが、かなり強いと思う。少なくとも俺が狩ったことのある魔物よりずっと強い」

「お前さん、魔物も狩ったことがあるのか」

「何度かな。村の畑を荒らしに来ていたんだ。それを素材が駄目になることを覚悟して、強い毒を使って弱らせてようやくといった感じだった。あのときの猪の魔物とかは、傭兵からしたらそこまで強くはないそうだ。でも俺のような鍛えていない村人からしたら十分に脅威だった。そんな魔物よりずっと上の感じを受けた」

「経験者が言うのなら、大妖樹でなくともそれなりに強い魔物ということで間違いないんだろう」


 もとから攻撃的な行動をする気はなかったが、そういった行動はもちろん接触もしばらく控えておこうと決めた。

 向こうから提案されていたように、魔物とは互いに距離をとって様子見というのがベストだろうなと話し合う。

 今日の話し合いは終わりになって、それぞれの家に帰っていく。

 そして翌日の朝食後に、指導役として農業に慣れたナリシュビーが苗などを持ってやってくる。

 今日やることは芋の苗植えと作物のための畝づくりだ。

 ひとまず苗植えを終えて、ラジウスがキリューと名乗ったナリシュビーに話しかける。


「今日村長はこっちに来ますかね?」

「今日は来ないと思いますよ。明日からは畑に魔法を使うために来ますね」

「そうですか」


 あとで家に行こうかなと思って、この虫人にもここがどういったところなのか聞いてみようと思いつく。


「ちょっとこの村について聞きたいのですがよろしいですか」

「かまいませんよ。なにを聞きたいんです?」

「やはり魔物との関係ですかね。魔物がそばにいるというのは不安しかなくて」


 わかりますと頷いたキリューをラジウスは意外そうに見る。このような環境で暮らしているのだから魔物がそばにいても平気だと思っていたのだ。


「あなたも不安があるのですか」

「そりゃね。普通は人と魔物は敵対するものでしょう。あっさりと受け入れるなんて無理ですよ」

「今はどうなのですか?」

「不安はだいぶ減ったといったところでしょうか。これまで暴れたりしてませんからね。それに彼らのおかげで肉や野菜が食べられる。それを思えば警戒も減るってものですよ」

「話したりします?」

「挨拶くらいかな。どういったことを話せばいいかわからないし。ちょっとしたことを話している人もいますよ。ああ。もちろん村長たちは別です。あの人たちは魔物に慣れているようですし、まとめ役を集めて話すときに無視するわけにもいかないでしょう」


 魔物と会話をしている人間は、野菜に関してという共通点だったり、相撲の感想だったりだ。あとは食堂に肉を持ってきてもらうこともあり、その礼を料理人たちが言っている。

 そういったちょっとした交流ができはじめていた。


「まとめ役の話し合いって魔物たちもくるのですか」

「来るとうちのまとめ役から聞いていますね。一緒の村に暮らしているんだから、連絡事項はきちんと知らせないといろいろと面倒事が起こるでしょうし」

「彼らと上手く付き合う方法とかあるんでしょうか」


 コツなどキリューも思いつかず、経験談を話すしかない。


「私自身上手く付き合えているとは言えないんですけどね。まずは慣れることです。いきなり近づかないで暮らしぶりを見ていく。そうすれば少なくともいきなり暴れ出すようなことはないとわかります」

「やっぱり様子見ですか。昨夜皆で話してそういった結論がでたのですよ」

「彼らだって山や森で暮らしていて、人間との付き合いなんてなかったそうですからね。こっちとどう付き合えばいいのかなんてわからないと思います。だから時間をかけて少しずつ距離を縮めて行くって感じでいいんじゃないでしょうか。様子を見て、やっぱり付き合うのは無理だと思えば、無理に距離を縮める必要もないと思います」


 村暮らしの先輩からの言葉にラジウスはふんふんと頷く。

 話しているうちに休憩が終わり、キリューは鍬を持って畝作りの手本を見せて、ラジウスたちにもやるように指示を出す。

 昼食を食べて午後三時頃には農作業を終えて解散になる。

 農具を片付けたラジウスたちは家に帰り、洗濯といった家事などを行う。


「ルア、俺はちょっと村長のところに行ってくるよ。すまないが家事を任せる」


 畑仕事の汚れを落としたラジウスは家の外で洗濯をしていたルアに声をかける。


「わかったー。朝に言っていた聞きたいことがあるってやつだよね」

「そうだ。じゃあいってきます」

「いってらっしゃい」


 まだまだ歩きなれない道を通って、中央の建物に向かう。

 その途中、ブルたちが倉庫へと芋を取りに向かうときにすれ違う。

 向こうは複数で、自分は一人。襲われたら確実に殺されると想像してしまい、緊張が胸中を満たす。

 そんなラジウスのそばを、なにも気にすることなくブルたちは小走りですれ違っていった。

 ラジウスは「ふーっ」と深い溜息を吐いて歩き出す。


「彼らはこっちを気にしていなかったな。我々が意識しすぎなのだろうか」


 そんなことを考え、見えてきた進たちの家に向かう。

 ホールに入り、ごめんくださいと声をかける。

 すぐに返事があって、リッカが出てきた。


「どちらさまですか?」

「ラジウスと言うのだが。島からやってきた者たちのまとめ役をしている」

「ああ、ススム殿たちから聞いています。なにかご用事でありますか」

「村長と話したいのだが、ご在宅だろうか」

「今大丈夫か聞いてきますので、ここでお待ちください」


 頷いたラジウスはその場から建物の内部を見渡していく。

 綺麗に掃除された広い家ではあるのだが殺風景で、物がないと言っていた進の言葉は本当なのだなと思う。

 見物している間に、リッカが戻ってきて、奥へと通される。

 リビングには住人がそろっていた。

感想と誤字指摘ありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 襲ってこないとは言われていても魔物ですからねえ これまでの人生経験から考えると警戒したり怯えたりしても何らおかしくはないですよね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ