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85 島組の移住3

 全員がボウリングを体験し、次はどこに行こうかと進は少し悩む。残りは池と飼育場だ。魔物を警戒しているので行く用事のない飼育場は避けた方がいいかもと思ったのだ。


「案内するところももうほとんどない。飼育場に行って池に行くか、池に直行するかだ。魔物がやっているところだから場所の確認だけ、それとも近づくこともしないでおくかのどちらがいい?」


 進の問いにラジウスたちは顔を見合わせた。どうすると話しだして、村に慣れた頃に確認すればいいだろうと結論が出た。

 そういうことなので池に直行することになる。


「一応飼育場の方向だけ教えておこう。向こうだ」

「あっちには飼育場だけですか?」

「飼育場関連として、グローラットが使う寝藁のための畑がある。それと外部の魔物の侵入を阻む壁もある。以前飼育場のグローラットを狙って魔物がやってきてな。防衛のため壁を作ったんだ」

「今も狙っているということは?」

「大丈夫。フィズが派手にやったから、しばらくは近づくことはないわ」


 派手に? とラジウスたちは不思議そうにする。


「行って見てみればわかるけど、かなり広範囲に攻撃魔法を使ったからね。近づけば死ぬと警戒しているのよ」

「いまいち想像がつきませんな」

「荒れ具合を見てみるのが一番だけど、飼育場には行かないのならその機会はそれなりに先になるでしょうね。フィズはかなりの使い手ということだけ覚えておけばいいと思うわ」

「聞いた話じゃと、人間の中でも有数の使い手じゃろうな」


 イコンという強い魔物からのその評価に、どうしてそんな人物がこんなところにいるのだろうとラジウスたちは考える。

 それだけの実力があるならどの国からも良い待遇で迎えられるのではと思い、進に尋ねる。


「もしそんな話があったとしても断ると思うけどな」

「断るでしょうねぇ」


 封印された経緯を本人から聞いている二人が国仕えに関して否定的な意見を出す。


「俺の故郷に「出る杭は打たれる」ってことわざがある。これは才覚に優れたものは妬まれるって意味だけど、それが当てはまる。本当にフィズは魔法に関してすごいものをもっている。最初はもてはやされても、徐々に妬まれ扱いが悪くなっていくだろうさ。本人もそれがわかっているから国に仕えることはないだろう」


 ラジウスは二人の口ぶりからすでにその経験があるのだろうとなんとなく察した。

 なるほどと頷いているラジウスたちに、ビボーンが警戒を促す。


「ここらあたりから外部の魔物がまれに出てくることがあるわ。警戒は怠らないように。水を何度も汲みにくることになるでしょうし、覚えておいて」


 警戒した表情になった彼らを先導し、進たちは池に到着する。

 大きな池を見て、水不足に悩まされることはないと安堵するラジウスたちは、池の底を覗き込む進たちに手招きされる。


「水面じゃなく底の方を見てくれ。汚れているのがわかるはずだ」

「……たしかに濁っていますな」

「あの濁りはこの大地の持つ汚れだ。ここらの海が汚れていると水人たちから聞いているかもしれないが、その汚れは池全部にも影響を及ぼしているんだ」

「でしたらここは使えないということになるのではないでしょうか」

「本来はな。俺が魔法で綺麗にしているから、お前たちも汚れに気付いたら報告してくれ。まあ、定期的に魔法を使っているんでそうそう使えなくなるってことはない」


 実演だと進は池に魔法を使う。底の方に見えていた濁りがきれいさっぱり消えていく。太陽の光を受けて煌めく池は、ラジウスたちが故郷で見た池よりも安全そうに見えた。

 ただ一人狩人だった男は魔物や獣の足跡が残っているのに気付く。


「これでもう大丈夫」


 進は毒なんぞないと手ですくって飲んで見せる。


「もしかしてあなたもすごい使い手なのではないでしょうか」


 少し敬意のこもったラジウスの言葉をすぐにビボーンが肯定する。


「その通りよ。この汚れた大地で村が存続できているのはススムが魔法を使っているから。生活の根本を支えているのがススムなの。だから村長と呼ばれているのよ」


 これだけのことができるならたしかにトップに立つことができて、魔物もそれを認めるだろうなとラジウスたちは思う。

 

「うん、まあそんな感じだ。といっても俺一人がやれるのはそこまでなんだけどな。家を畑を作物を肉を、それらを作っているのは住民だ。住民がいなくなったら、いろいろと大変な生活に逆戻りになっちまう。あんたたちの働きも村のためになるってことを覚えておいてくれ」

「働きといえば働き先は畑のみなんですか?」

「そうだな。ほかは食堂で調理くらいか。なにか特殊な技能を持っていればそれを任せると思うが。それを聞くのは家に戻ってからにしよう。ここには魔物も来るからな」

「やはり魔物が集まるのか」


 狩人の男が周囲を見ながら言う。

 気付いていたのかと進に聞かれて、男は頷いた。


「狩人だから魔物などの痕跡は見慣れているんだ。これだけ豊富で綺麗な水なら魔物たちも飲みに来るだろう」

「そのとおり。そして水を飲みに来るやつを襲うこともある。だから一人で来るのは避けた方がいい」

「頻繁に襲われるのか?」

「いやそんなことはない。こちらが警戒するように、向こうも警戒している。十人くらいでくれば襲われることはない。ビボーン、大人数で来たときに襲われたっていう報告は受けてなかったよな」

「ええ、姿を見かけることはあるらしいけど。対岸で水を飲んでいる姿を見たといった報告ばかりね。油断していれば襲われるでしょうけど、しっかりと警戒していれば向こうだってそれを察して避けるわ」


 ラムニーが以前襲われたが、それはフィリゲニスが派手にやる前のことで、しかも警戒を怠ったからだ。

 フィリゲニスが魔法を使った以降は、魔物側の警戒心も上がっていて無理に襲おうとすることはない。


「あんたらだけで来るのが不安なら、虫人やノームたちに頼みに行って時間帯を合わせて汲みに来ればいい」


 進の提案にそうするかとラジウスたちは頷き合う。

 ついでだからとビボーンが荷車と壺を魔法で作って、ラジウスたちに使わせる。荷車には進が質を上げる魔法をかける。

 男たちが荷車を押す様子を見てルアがなにかに気づいたという表情になった。


「そういえば木材がないからこういった荷車もないんですよね? 私たちが水を汲みに行くときどうしたら」


 壺や甕を持って移動だろうかと、力仕事には自信のないルアは不安そうだ。


「この荷車を大事に使うしかないだろう。壊れたら報酬を準備してノームに頼む」

「この荷車はどれくらいもつのでしょう」

「強化の魔法をかけてもらったとはいえ、フィズほどにいいものを作れてないから、乱暴に扱うと一ヶ月ももたないわね」

「一ヶ月というと私たちの様子見の期間ですね。それに合わせたんですか?」


 そんなことはない偶然だとビボーンは返す。本当に狙ったわけでもなく、そこまで気合を入れずに作ったら、そんな感じの品質になったのだった。

 えっさほいさと荷車を移動させ、移住者たちの家に戻ってくる。

 荷車を押していた男衆は体が温まったようで、顔や手が火照りから赤みがかっていた。


「休憩がてら、それぞれの家に水を持っていくといい。そのあとは仕事の振り分けについて話そう」


 返事のあと、移住者たちは壺を取りに家に戻っていく。

 持ってきた水が空になり、再び集まった移住者たちから進は前歴を聞いていく。

 農民が半分以上で、商人の手伝いや大工といった前歴がいた。


「農業をやっていた人はそのまま畑ってことでいいな。商人もここだと店がないから農業へ」


 それでいいかと聞かれて商人の手伝いをしていた者は頷く。今の村の状況で品物の仕入れなどどうやればいいかわからないので、商売をしろといわれても無理だ。貨幣の流通もしていないので、以前やっていたことと勝手が違うことも頷けない要因だろう。


「大工と鍛冶見習いはノームたちに混ざっての作業を希望するってことで、そちらに任せてみる。やれそうなら続行だな。調理場希望者二名は食堂へ。んで娼婦もここだと需要はないから農業へ」


 娼婦をしていた女は肉体労働は嫌そうだが、仕方ないと頷いた。

 高級娼婦ならばいろいろと高等教育を受けていて、知識面や接待などの作法で役立つのだろうが、そういった知識はないようで出番はなかった。

 ここが普通の村ならばまだ出番はあったのかもしれない。だが一人だけの娼婦だと忙しすぎて体力がもたないという結果になっていた可能性もありえて、農業をやっていた方がまだ疲労は少ないかもしれない。

 性行為関連の知識はいつか役立つかもしれないので、そのときに出番があるかもしれない。


「狩人と漁師も空を飛べる虫人についていけないから農業でいいか?」


 進の確認に頷きが返される。

 漁師は養殖の知識があれば任せたのだが、残念ながらそういった知識はないということなので農業へと転向してもらうことになった。小舟の操作技能はあるらしかったが、船がないので出番がない。


「振り分けはこれで終わりだ。昼食後に畑に案内するから。そこで小石なんかの除去をやってもらう。それは夕方前には終わるだろう。そのあとは夕方まで自由時間だ。夕方になったら、ノームや調理場への紹介なんかをするよ」

「質問がある」

「どうぞー」


 農作業は自分たちのみでやるのかという質問だった。


「ここでの農業に慣れているノームか虫人をつけるよ。作ってもらうのはさっきも言ったように芋で、なれたらなにか一種類の作物になると思う。どんな作物を育てるのかは指導役につけた人と相談してほしい」

「わかった」


 農具はあるのかといった質問にも答えていき、そういった質問の中に結婚や恋愛に関してのものもあった。

 そこらへんは揉め事にならない程度に自由にやってくれと言って、トラブルが起きたときの罰に関しても話していく。

 質問がでなくなって昼食後まで解散となった。

 昼食後に進たちは石で作った農具をいくつか持って移住者たちの家に行き、集まるよう声をかける。

 フィリゲニスたちは日干ししている昆布の様子を見ながら家事をやっていた。


「畑に移動する前に、農具の紹介だ。鉄製農具なんぞないんで、石製農具を使うことになる。そこまで貴重なものじゃないから壊れても問題ない。すぐに補充するから足りなくなったら言ってくれ」


 人数分の農具は畑のそばに作った小屋に入れてあると付け加えた。


「家や家具も石や土で、農具も石ですか」

「土と石はそこらへんに転がっててすぐに手に入って便利なんだよ。ノームたちに余裕ができたら、金属製の農具も作られるようになるだろうさ。今は皿や壺やレンガ作りで忙しくしているから先のことになるだろうけど」


 畑に案内しようと、移動を始める。

 彼ら用の畑はそこまで遠い場所に作っていない。徒歩五分もかからないところに使えそうにない建物ばかりの区画があったので、そこを潰したのだ。

 大きな瓦礫はあらかじめ除去していて、細かな石ばかりだ。


「広くて、小さな池もあるのですな」

「二十人全員が農業をやれるだけの広さを確保したからな。余裕ができたら全体を使ってくれ。最初は使える範囲を使えばいい。池は農業だけに使うように。私生活に使うと農業用の水がなくなる」


 小石拾いを始めるぞと声をかけて進が畑予定地に足を踏み入れて、ラジウスたちも続く。

感想と誤字指摘ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] 進もフィリゲニスも望みさえすればどこででも好きに生きていけるだけの能力はありますよねえ
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