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82 村の気温事情

「調査結果を報告しようと思いますが」

 

 雑談している進たちにリッカが話しかける。


「どうぞ」

「この機械ですが、事前に話していたようにこの町のインフラを制御していました。その機能の多くは現状使うことができません。完全な修理も無理でしょう」

「具体的にはどういったものを制御していたのかしら」


 ビボーンの質問にリッカは答える。

 上下水道関連、街灯、各家庭への魔力提供、気温調整、非常時の防御結界といったところだ。


「上下水道は水を流すパイプなどが駄目になっています。街灯もそのほとんどが崩れて、魔力を送る線も途切れています。各家庭への魔力提供も街灯と同じく線が途切れていて、魔力を留め増幅させる炉も壊れてしまっています。防御結界も結界を発生させる重要施設が壊れています」

「数千年という時間が流れているしほとんど壊れてしまっているわね。でも気温調整に関しては使えるの?」

「はい。これだけは生きているであります。魔力をこの機械に注ぐ必要がありますが。廃墟全体を温めたり、涼しくしたりは難しいでしょう。範囲としては今私たちが住居にしたり畑に使っているところは問題ありません。最大でおよそ廃墟の半分くらいに効果を及ぼすことが可能かと」

「現時点で使っているところは範囲内というなら、気温調整を使ってもいいかもしれないわね。住民は過ごしやすくなるでしょうし、寒さで鈍った芋の育ちももとに戻るでしょう」

「使用する魔力量はどれくらいなんだ?」


 進の質問にリッカは空間ウィンドウを操作する。


「上げ下げする気温によって必要な魔力量が変わってくるようです。冬に効果範囲全ての気温を丸一日秋の気温に変えようと思ったら、一般人の魔力で換算して数千人単位の魔力が必要になるでありますな」

「どこからそんな魔力を準備するんだって話だな。フィズもさすがに無理だろう?」

「ええ、無理ね。でも範囲を狭めて、気温を少しだけ上げるとかなら必要魔力量は減るのよね?」


 フィリゲニスの確認にリッカは頷いた。

 また空間ウインドウを操作したリッカが、試算した結果を皆に伝える。


「私たちの生活圏で、現状の寒さを少しだけ緩めるというなら五十人分くらいの魔力ですむようです」

「それなら私一人で十分ね。日頃から魔力は余り気味だからやれるわよ」

「フィズ一人だけに任せるのも不安があるのう。フィズはここの最大戦力じゃ。万が一という事態に備えて魔力は余裕を持っておきたい」


 イコンの提案に進たちは同意する。クラゼットのような乱暴者が来たとき、魔力不足でどうにもできないなんて事態にはなってほしくはない。


「魔力を注ぐのは誰でもよいのか?」

「はい。誰の魔力でも大丈夫なようにできていますから」

「住民全員で注ぐようにした方がよいと思うのう」

「でもそれだとここにいちいちこなくちゃいけないから面倒だろ。魔力を貯められるものか、遠くからここに魔力を送れるようなものがあればいいんだけど。各家庭に魔力を送る線が生きていれば、それを逆に使って住民の魔力をこれに注ぐことができそうだと思うんだが」

「ああ、その方法がありましたか」


 進のただの思い付きに、リッカが反応する。

 皆の視線がリッカに集まる。その視線にはできるのかという疑問が込められていた。


「できるかもしれないというだけで断定はしないであります。必要な材料もありますし」

「必要な材料というと?」

「フィズ殿が封印されていたという話を聞いたことがあります。そのときにフィズ殿を囲んでいた像と地下にあるという石碑、それがおそらく魔力の送受にぴったりな材質だと思われます。それを使って、家の外で魔力を送り込めるようにできるかもです」

「あれって派手に壊したけど大丈夫なのか? 捨てたりせず放置しているからまだあそこにあるのは確実だけど」

「そこらへんはやってみないとわかりません」


 本来は家事専門のリッカに任せることではないのだ。

 上手くいけば生活が便利になる。失敗すれば寒さ暑さが厳しいときにのみ、フィリゲニスに魔力を注いでもらおうということになった。


「成功すればラッキーくらいの気持ちでいるか」

「そう思っていただければ開発するこちらとしても気が楽でありますな」


 早速壊れた像と石碑を集めに向かう。

 細かな破片を集めるだけの像へは、ビボーンとラムニーとリッカが向かう。

 石碑組は進とフィリゲニスとイコンだ。石碑周辺に溜まった水がまた汚れている場合を考えて進は石碑組で、フィリゲニスはサイコキネシスで石碑を運ぶ。イコンは進についていきたいから石碑組だった。

 どちらも回収は問題なくいった。

 あとはリッカにすべて任せることになる。こういった技術に興味のあるビボーンが助手として動くことを希望し、受け入れられた。

 この日からリッカはまとめてできる家事を午前中にささっと終わらせて、昼食後の三時間を魔力の送受機開発作業にあてる。

 ゼロから開発するのではなく、既に開発されているものを再現し、中枢機械に繋ぐという作業なので苦労する様子はなかった。

 中枢機械自体に緊急時各家庭から逆に魔力を受け取れるという仕組みがあったこともスムーズにいった要因の一つだ。さらにその設計図も中枢機械の中に納められていたので作業はスムーズにいった。

 作業は試行錯誤も含めて五日という短期間で終わる。


「では最終実験といきましょう」


 リッカとビボーンによって家の前にある広場に一メートル弱の台座が置かれていて、夕食後に進たちはその台座に集まっている。

 この台座は地下の石像を砕いて固めたものだ。石碑を加工したものは地中にある中枢機械から延びる線に繋ぐため埋まっている。


「ここに手を置いて、魔力を注ぐと地下にある中枢機械に流れていく仕組みですね。フィズ殿この前より多めに魔力を注いでもらいたいであります」


 了承したフィリゲニスが魔力を台座に注ぐ。その流れを追うと、中枢機械のある方角へと流れていくのがわかった。


「あっちに行ったみたいよ」

「確かめてみましょう」


 皆で中枢機械まで移動し、空間ウィンドウを出して魔力の保有量を調べる。夕食前に見ていた量と今とではたしかに保有量が違っていた。


「成功であります」


 ほっとしたようにリッカは無事終了したことを告げる。

 おめでとうと進たちが拍手して労わる。


「あとはまとめ役を呼んで、実際に気温を上げたら信じてもらえるだろうし、住民たちに魔力を注いでもらうように伝えてもらうだけだな。どれくらいの魔力を注げばいいんだ?」

「毎日全員がやってくれるのであれば一人半分も注がずともよいです」

「そんくらいか」

「ススム殿に中枢機械の質を上げてもらいたいのであります。劣化している部品が良くなれば長持ちするでしょうし」


 了解と返した進はすぐに中枢機械に魔法をかける。

 そして翌日の夕食後にまとめ役たちは台座に集まる。


「知らせたいこととはなんでしょうか? いつもと違う場所というのも気になります」


 ハーベリーの質問にゲラーシーたちが同意だと頷く。

 彼らに家の地下で大昔の魔法装置が見つかったこと、それで広範囲の気温の調整ができるようになったことを告げる。


「気温の調整と言っても実感は湧かないだろうから、実際にやってみせる。リッカ、お願い」


 頷いたリッカが小走りで家の中に入っていく。

 数分して冬の風が吹いて冷えていた周辺がどんどん温かくなっていき、秋頃を思わせる涼しいといった気温になる。


「これはフィリゲニスあたりが魔法でどうこうしたのでは?」


 ゲラーシーの疑いの言葉にフィリゲニスは首を横に振る。


「ハーベリーなら私が魔法を使ったかどうかくらいは察することができるでしょ?」

「はい。フィリゲニス様は一切魔法を使っていません。この場にいる全員が魔法を使っていないことも断言いたします」


 中枢機械のおかげということに一応納得してもらい、この温かさがどれくらいの広さまで届くのかということを話し、いつもはここまで温かくはしないということも話す。


「この温かさでは駄目なのですか? これくらいだととても助かるのですが」


 寒さで動きが鈍るスカラーたちにとっては寒くなくなるのはありがたいことで、このままの気温を維持してほしいと願う。


「気温の変化の大きさに伴って、使う魔力量が増えるそうなんだよ。少し暑さ寒さを緩めるくらいが長期間使うにはいいんだ」

「そうなのですか」


 スカラーは残念そうだが、少しでも寒さが緩むならありがたいと思うことにした。


「村長、皆をここに呼んだ理由はあるのだろうか? 今の話だけならいつもの食堂でよいと思うが」


 グルーズの質問に進は頷く。


「もちろんある。この台座を見せておく必要があったんだ」


 進が台座を軽くぽんと叩く。

 これまでなかったものだとハーベリーたちも気付いていた。


「これは気温を調整している地下の装置に魔力を送るものだ。これに住民全員で毎日魔力を送ってもらいたい。そうしないとあれを動かす魔力を確保できなくてな」

「どれくらい魔力が必要なのでしょうか」

「一人が持つ魔力の半分もいらないそうだ」


 それくらいなら問題ないなとハーベリーたちは受け入れた。

 毎日魔力すべてを使っているわけではなく、むしろ半分以上使うことの方が珍しい。使っていない魔力を提供して過ごしやすくなるなら、頷けることだった。

 スカラーがふと気づいたように口を開く。


「これって温める範囲を指定できるようなことを説明で言っていましたよね?」

「できるらしいな。最初は廃墟の半分に効果が及ぶようになっていたそうだけど、リッカが範囲を縮めたと言っていた」

「だとすると私たちが住む区画だけ気温を上げることは可能でしょうか? もちろんその分余計に魔力を送り込みます」

「それはリッカが戻ってきたら聞いてほしい。俺にはわからないから」


 スカラーの希望が叶うならば、グルーズたちも夏の間は涼しくしたいと希望を出す。

 すぐにリッカが戻ってきて、質問が飛ぶ。それをリッカは肯定した。


「冬と夏に魔力を余分に出すというのならそのように設定するであります」

「出します」「出す」


 確認するようにリッカが進たちを見て、頷きが返ってくる。


「では明日からそうなるようにしておきます。ですので皆様に魔力提供について知らせておいてください」


 スカラーとグルーズが返事をして、その後は試しに魔力を注いでもらって無理に吸い取るようなものではないと確認してもらい解散になった。

 翌日から寒さが緩み、住民たちが台座に魔力を注ぐ様子が見られた。

 ただ一つしかないのでは不便だという声も出て、もう二ヵ所に台座が作られることになった。

 この気温調整によりホカホカドリンクの需要がなくなったかというとそうでもない。見回りや漁に出る者にとっては必需品なのだ。作る量は減ったが、春まで生産が止まることはなかった。

感想と誤字指摘ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] おお、まだ使える機能が残っていたとは しかもソレを実現するのにあの石碑が材料になるなんて、世の中何が役に立つか分かりませんね
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