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72 狙われる飼育場

 気温はどんどん下がり、雪もちらつくようになる。遠くに見えるローランドのいる山にはすでに雪が積もっていた。

 スカラーたち虫の魔物の動きも鈍っていき、作業速度が落ちているが、それは仕方ないと進たちとニーブスは話している。

 同じく見回りを任せた魔物の動きも鈍っているが、そちらもさぼりとはみなさずにいる。

 そういった話をスカラーたちとしたあと、進たちはグローラットの方にも行ってみることにした。ネズミは寒さに弱かったはずだと思い出し、なにかしらの不都合が出ていないか気になったのだ。

 出たら出たで、定期的な報告会で言ってくるはずなので、大きな問題は出ていないだろうとは予測できている。

 

「グルーズ、ちょっと聞きたいことがある」

「こっちも報告したいことがあったからちょうどいい」

「報告? 先にこっちからでいいか?」


 グルーズが頷いたので、寒くなったことでグローラットが死ぬといった問題が出ていないか聞く。


「そういったことはない。たしかに寒さに弱いが、極端に冷えないかぎりは死なない。餌も毎日与えられているし、少しばかり元気がなくなる程度だろう。子を産む頻度も減る」

「そんな感じか。全滅とかならなそうでよかった。それでそっちからの報告って?」

「確信はないんだが、最近飼育場近くに外部の魔物が増えているような気がしている」

「見かける頻度が増えたとか、そういった感じか」


 そうだとグルーズは頷く。


「そろそろローランド様の羽の効果もなくなる頃だろうし、冬に向けて栄養を蓄えたい魔物たちがここに狙いを付けたのではないかと思う」

「畑が一応解決したら、今度はこっちかー」


 さてどうしようと進は考える。

 芋畑の場合は収穫量に余裕があったので、雇うという選択肢も選べた。しかしグローラットの場合は余裕はないし、出産頻度が鈍るという情報も出ているので、交渉と雇用という選択肢はないと思う。


「取れる手段は二つ。こっちに見回りと警備を回して追い払う防衛策。こっちから出て、周辺の魔物を倒して回る。現状思いつくのはこれくらいかな。なにかしらの対応はするから、少しまっててくれ」

「わかった」


 このまま廃墟探索に行こうかと思っていた進は、一緒にいるフィリゲニスたちと家に戻る。

 リッカが白湯を出してくれたので、それを進は紅茶に変化させた。薄味の紅茶を飲んでから話し出す。


「俺が思いつく飼育場の対策はあの二つ。どちらかでいいのか、それともほかに案があるか、意見をお願い」


 すぐに口を開いたのはラムニーだ。


「私は倒す方に賛成です。防衛策の方は時間がどれくらいかかるかわからないし、一日中そこに人員が拘束されてほかの作業を阻害しそうだと思うから」

 

 なるほどなとそれぞれが頷き、次に意見を出したのはフィリゲニスだ。


「一応防衛側の利点も出しておくわね。イコンに動いてもらう。少し前の畑荒らしのときに、見張って威圧するって言ってたわね? あれを今回やってもらう。これで防衛に回す人員を減らすことが可能。あとは倒しに出ても空振りになる可能性もあって、何度も出ることになったら人員をそっちに取られるわね」

「イコンは今回動いてくれるのか?」


 進が確認すると頷く。


「かまわんよ。ただその分力を余分に消費するから、裏庭の土に栄養を補充しておくれ」

「りょーかい。ビボーンはどっちがいいとかある?」

「そうね……両方ともやったらどうかしらね。一回か二回外に出て、あとは防衛。ただし外に出たときは派手にやって、ここは簡単に襲える場所じゃないぞと示しておく。そうすれば防衛も楽にならないかしら」

「やるなら徹底的にってことかな」


 ビボーンは「ええ」と頷き肯定する。

 

「あとは積極的に狩りに出て、肉の確保をしておきたいとも思ったの。冬の間に一度くらいは宴会をやって息抜きをしないとストレスが溜まるかもしれないし」


 先のことも見据えた意見に、進は感心した表情を浮かべた。


「どっちがいいかと聞いておいてあれだけど、俺はビボーンが言うように両方でいいかなと思う」


 フィリゲニスたちも異論はないようで頷いた。

 次にいつどこで誰を集めてやるかといったことを話していく。今日か明日の夕食後にハーベリーたちまとめ役を呼んで細部を詰める予定だが、今決められる部分は決めておこうと午後の仕事は話し合いで時間が流れていった。

 そして夕食後にナリシュビーの食堂の片隅にまとめ役たちが集まった。

 全員が席に座ったのを確認し、進が口を開く。


「さて主要メンバーが集まったから話し合いだ。議題は既に伝えてあるように飼育場を狙っているらしい魔物への対処について。グルーズ、状況をもう一度皆に説明してほしい」


 頷いたグルーズが手短に説明していく。


「ありがとう。それでハーベリー、見回りたちは最近この辺りの魔物についてどのように報告をしていた?」

「はい。これといった目立った情報はありませんでした。ですが廃墟近くで魔物を見かけたという声が少数上がっていたのも確かです。これについては次の話し合いで報告しようかなと思っていました」

「目撃した場所はどこだったかはわかっている?」


 そうですねとハーベリーは思い出すように一度口を閉じる。


「思い返してみれば南方面で見たという意見もあったような気がします。ただし報告数が少ないため、これは確実な情報ではありません。ほかに飼育場方面で外部の魔物を目撃したという人はいますか?」


 飼育場組はそもそもの発見者なので反応せず、スカラーはすぐに首を横に振る。

 残るゲラーシーがなにか思い出すように一度頷いた。


「五日くらい前だが、鉱石探索にナリシュビーの戦闘担当たちと出たんだ。そのときに行ったのが南東方面で、ちらほらと見かけたな。いつもより少しだけ発見数が多いような気がしたが、気のせいだろうと思っていた」

「明日南を中心に見回りしてもらおうと思いますが、いかがでしょうか?」


 ハーベリーに聞かれた進は、ビボーンたち視線を向けて頷きが返ってくる。


「お願いする。飼育場の状況についてはこれで皆把握できたな? じゃあ次はどのように動くのかという話だ」


 事前に話し合っていた討伐と防衛をどちらもするという話を皆に伝える。


「明日は見回りの活動と南部に壁を作ることの二つを行おうと思う」

「壁ですか、それはどのような?」


 スカラーが疑問を発する。


「本格的な防壁は無理だ。フィズとビボーンの魔法で巨大なブロック状に固めた土を並べるだけになる。小型や中型の魔物は足止めできるだろうが、大型やそれを超える魔物にはちょっとした足止めにしかならないだろう」


 縦横高さ二メートルの巨大ブロックを並べる予定だ。それを進の魔法で強化する。

 ブロックの土はその場で調達するため壁の前に掘もできるだろう。

 今回だけではなく今後も南を守ってくれる壁になってくれるとありがたかった。


「そして明後日は討伐に出る。メンバーはフィズ、ビボーン、ナリシュビーの戦闘担当。ここまでは決めてある」


 進は自分も行こうかと思ったが、攻撃手段がないため止めておいた。

 ラムニーも戦闘に向いていないので留守番で、リッカは一応戦闘もできるらしいが戦闘を好んでいるように思えないので留守番。イコンはもとから廃墟を離れられず、残るメンバーと一緒に護衛だ。


「ノームと飼育場組はいつもの仕事。スカラーたちは動きが鈍っているからでないようにしようと思っているけど、本人たちとしてはどうしたい?」

「現状だと足手まといなので畑仕事をしていようと思います」

「わかった。飼育場組はこっちで勝手に決めたが、討伐に出ようと思うか?」


 グルーズとブルは首を横に振る。そういったことを積極的にやらないから山で大人しく暮らしていて、ここに来ることになったのだ。


「じゃあ予定通りの参加者でいいな。ハーベリーは見回りと戦闘担当に予定を伝えておいてくれ」

「了解しました」

「ほかに伝えることは……ああ、今回の討伐でついでに肉を集めて、冬に宴会を開こうと考えている。新たな出し物の練習する時間はあるから、少し考えてみておいてほしい。強制じゃないからいつも通りでもかまわない」


 頷いてくるハーベリーたちに、質問はあるかと進は問う。

 少し考え込んで、特にないということで話し合いは解散になった。


 翌日、ハーベリーから話を聞いた見回りたちが朝から南方面へと飛んでいく。

 進も午前中は芋畑を手伝い、昼前からフィリゲニスたちのいる南へと移動する。

 飼育場までくると数十メートルほど先に六十個ほどの巨大な土のブロックが見える。きっちり隙間なく並べているというわけではないようで、五センチくらいの隙間ができている。

 なにか理由があるんだろうと思いつつ近づくまでに、また一個ブロックが出来上がった。

 到着を知らせるため、出来上がったブロックのところへ向かう。


「来たぞー」

「いらっしゃい」


 出迎えてくれるのはフィリゲニスのみで、ビボーンの姿はない。


「あれ、ビボーンは?」

「向こうにいるわよ」


 フィリゲニスが指差す方向に、地面に魔法を使っているビボーンがいる。

 地面を柔らかくしていると説明される。フィリゲニスがブロックを作りやすいようにということと、あっちの方が魔力使用量が少ないということだった。


「作りやすさが違うのか?」

「柔らかくしないと魔力の使用量が増えるし、ブロックができる速度も少し落ちるわね。今はだいたい一時間に十個くらい」

「フィズならもっと早く作れそうだけどな」


 雑に作るともっと早くブロックを作ることができるのだが、防壁として作っているので頑丈さを求めて丁寧に作っているためこの速度だ。

 そう説明されて進は納得する。


「丁寧にやっているなら隙間を開けているのも理由があるっぽいな」

「それは向こう側が見えるようにってね。小型も通り抜けられない程度に開けているのよ」

「そっか。いろいろと納得したし、俺も仕事をやってくる。魔力足りるかな、これ」

「疲労しない程度に頑張って。今日中に終わらせる必要もないからね」

「はーい」


 進はフィリゲニスから離れて、壁の端へと向かう。

 一番端について、現状の頑丈さはどれくらいかと表面をひっかいてみる。一筋の跡が残る。当然ながら岩やコンクリートほどの頑丈さはない。

 ここからどれくらい頑丈にできるかと質を上げる魔法を使い、もう一度ひっかいてみる。


「爪だとひっかけないか。人間の爪だし、魔物のものだとまた違うんだろうけど、かなり頑丈さは上がっているとみていいな」


 頷いた進は、一つ一つに質を上げる魔法を使っていく。

 途中でフィリゲニスとビボーンに昼食に戻ろうと声をかけられて、家に帰る。

 昼を食べて進展をラムニーとリッカに話して、フィリゲニスたちとブロックのところに戻る。

感想と誤字指摘ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] こんな場所だとやっぱり狙われますかー 向こうも生きるために必死なんでしょうが何でもかんでも受け入れることは出来ませんからね
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