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71 作物被害

 今日も畑仕事だと朝食を食べて、進はいつもの芋畑に向かう。

 フィリゲニスとラムニーが一緒で、ビボーンは魔法の講義、リッカは家事だ。イコンは森に意識を戻していて今日はいない。

 魔法の講義は、リッカの家事や礼法の講義と同じく、魔法に関して習いたいという声が出て、五日に一回ビボーンが先生になり行われるようになった。

 講義内容は日常生活で使えるものが中心だ。戦闘用のものも求められることはあるが、主に逃げるために爆音や閃光で隙を作るといったものが教えられていた。求めた者もそれで満足していた。それらを習得し運用も学び終えたら、魔力の盾を教えることになっていて、生き延びるという方向性の講義だ。

 皆で芋を抜いていっているとき、ナリシュビーの一人が声をかけてきた。


「村長、これを見てください」


 そう言って差し出されたのはあちこち齧られた芋だ。


「つまみ食いした、わけじゃないな」

「さすがに生のまま噛り付きませんよ。いくつか掘り返されて齧られていたんです」

「獣か小型の魔物の仕業でいいよな?」


 候補としては以前から廃墟内で見かける小型の魔物たちだ。


「そう思います。数個だけならそこまで被害はありませんけど、味を占めてここを餌場にしてしまわないですかね?」


 その予想が実現すると厄介なことになる。しかし害獣対策をどうやればいいのか進は知らないので、ノームに聞くことした。


「あとで魔物たちの畑に魔法をかけに行くから、そこにいるノームに対策を聞くことにする。それをもらえるか? 食い方でどういった魔物かわかるかもしれない」

「どうぞ」


 四つの齧られた芋を受けとり進は目立つところに置く。


「しかしいよいようちの畑も被害が出始めたか。それだけ畑に魅力が出てきたってことかねー」

「かもしれないですね。素直に喜べませんが」


 被害が出て喜ぶのはおかしいことだなと進も頷いた。

 土に魔法をかけて、収穫した芋を倉庫に運ぶ。苗植えはナリシュビーたちに任せて、進たちはそのままスカラーたちの畑へと向かう。

 スカラーたちは進が来るまでの時間を休憩にしていた。土地に魔法がかけられると、鍬と苗を持って植え付け作業を始める。動きに慣れを感じさせるようになっており、芋畑に関してはノームの指導は必要なさそうに見えた。

 指導役を任されているノームのニーブスも植え付けを行おうとして、それを進が止める。


「ちょっと聞きたいことがあるんだ」

「はい? なんでしょう」

「こっちじゃない芋畑が荒らされてな。こっちは被害が出てないか?」

「そういった話はでなかったですな。しかしいつこっちにも被害が出るかわかりませんな」

「ちなみにこれが被害があったものだ。これを見てなにかわかるか?」


 被害の出た芋を受け取って、ニーブスはいろいろな角度から観察していく。


「二種類の噛み跡があるな。浅く齧ったものと深めに齧ったものですね」

「二種類の魔物が食ったのか」

「違うかもしれません。この食い方は虫系統の魔物のものだ。成虫と幼虫が来ていたのかもしれない。スカラー、ちょっと来てくれ」


 ニーブスに呼ばれて、作業を中断したスカラーが近づいてくる。


「なにか用事でしょうか」

「これを見てくれ、虫の魔物が食った跡だと思うんだが、どういった種類か特定できたりするか?」


 芋を受け取ったスカラーは、ニーブスと同じように角度を変えて確認していく。


「小型の虫の魔物のもので間違いないですね」

「そうか。こっちにも被害が出る前にどうにかしないとな」

「こっちにはこないでしょう」


 ニーブスの言葉をスカラーは否定する。

 そうなのかと不思議そうにニーブスが聞き返し、スカラーは頷いた。


「ここは私たちの縄張りといった感じになっているので、小型の虫の魔物はあまり近寄りたがらないです。ほかの畑が潰れたら、覚悟を決めてくるでしょうけど」

「だったらスカラーたちの半分くらい、もう一つの芋畑に来てもらえば被害は減るかな」

「村長、長期的に見ればそうなりますけど、すぐに効果を求めるなら無理です。今の畑もそれなりの日数そこにいて匂いとかが残るようになったので」

「じゃあ、食いに来ているところを見つけて追い払うなり殺すなりしないと駄目か」


 殺すという部分でスカラーが反応を見せるが、特になにか言うことはなかった。

 フィリゲニスは反応したことに気付き、同族ではないが近い存在を殺されることに思うところでもあるのだろうなと推測しつつ、まあいいやと流す。

 

「私が警戒用の魔法を使っておきましょうか」

「どういった魔法なんだ?」

「一定の範囲に生き物が入ったら、わかる魔法」

「それって寝ているときに知らせがきたら起こされることにならないか」

「一日くらいなら中途半端な睡眠でも大丈夫よ」


 昔は丸一日の戦闘、長時間の戦闘待機、一日の睡眠時間が三時間を五日継続ということもあった。それに比べたら戦闘もなしに夜中に起こされるくらいならば楽なものだった。


「ニーブス、こういった魔物って一度退治されれば警戒して近寄ってこないものかな」

「一時的に効果はあるかもしれませんが、また被害が出るようになると思います。殺虫剤といったものを準備した方がいいかもですね。スカラーたちにも毒となりうるでしょうから扱いは注意しないといけません」

「そうなると、一度退治して時間を稼いで、その間に殺虫剤の開発かローランド様のところから取り寄せるかだな」

「そんな感じになるでしょうね」


 方針を決めて、進たちはもう一つの芋畑へと魔法を使うため戻っていく。

 彼らを見送ったニーブスは、なにかを考えて動かないスカラーに声をかけて、畑へと戻る。

 

 夜になり、寝る時間にはまだ早いといった頃にフィリゲニスは魔法による知らせを感じ取った。

 フィリゲニスに何者かの接近を教えてもらい、進たちはリッカを残して芋畑へと移動する。

 畑に到着し、フィリゲニスとビボーンがなにもいないことを断言した。


「ここに来ることを察知して逃げられた?」

「弱い魔物でも感覚は鋭いから逃げてもおかしくはないと思う。でも幼虫は移動が遅いでしょうから、それが一匹もいないというのはちょっと不思議なのよね」


 首を傾げながらビボーンは畑を見て言った。


「成虫が抱えて逃げたとかありえますかね?」


 ラムニーが考えを口に出して、それもありえるとビボーンは返す。

 今回は芋に被害が出ているのか探してみようということになり、ばらけてざっと見ていったが、被害はでていなかった。芋を食べる前に逃げたようだった。


「俺たちがここに来るまでの間に、持って逃げるくらいはできそうなものなのにな」


 掘りかけた形跡すらないことに進は不思議そうだ。

 

「とりあえず帰りましょ。魔法はこのままにしておくし、次は逃げられないかもしれない」


 フィリゲニスの提案に皆頷いて、家へと歩き出す。

 夜が更けて、フィリゲニスと一緒に寝ていた進は起こされる。


「また反応があったわ、どうする?」


 少し寝ぼけた感じの進は、もう一回どうしたのか聞いて、それで目が覚めた。


「俺たちだけで行ってみるか。また逃げられているかもしれないし」

「だったら皆を起こすのも悪いし、音を消す魔法を使うわね」


 食い逃げの魔物が足音を聞いて逃げることもなくなるだろうと言うフィリゲニスに、進は頼むと言ってベッドから降りる。

 家から出たパジャマ姿の二人は静かな廃墟を歩く。空には半月と小さな雲が浮かび、地上を照らす。もとから賑やかとは言えない廃墟はさらなる静けさに包まれて、不気味な雰囲気を漂わせている。離れたところに見える崩れた建物もそういった雰囲気を助長している。

 こういったところを見ると復興はまだまだだなと話しつつ、月明りを頼りに畑に向かっていく。

 畑が見えてくると、小さな影が見える。


「子供くらいのサイズかしら」

「俺もそれくらいかなって思うよ。あれが食べているのかねぇ」

「それにしては芋を持っていたり、それを口に持っていく仕草がないように見えるわね」


 もう少し近づいてみましょうと誘われて進は物陰から物陰へと移動していく。

 近づいてみるとスカラーたちと一緒にいた子供たちとわかる。


「腹が減ったから盗み食い? それならニーブスも食べた跡を見てそう言うかな」

「とりあえずここまできたら逃げられないでしょうから。魔法を解いて話を聞いてみましょうか」


 魔法を解いて、明かりをそこらに出現させる。

 明るくなった畑に、子供たちが驚き、近づいてくる二人を見て、さらに驚く。

 子供たちの足元には甲虫の魔物とその幼虫がいる。その魔物たちは幼虫たちを掴むと飛び去っていく。


「あっちには逃げられたか。君らには話を聞かせてもらうぞ。スカラーも一緒にいてもらうか」


 虫の魔物たちの家に行こうと促すと、子供たちは項垂れつつ歩き出す。

 家では大人たちは眠っていた。玄関から声をかけると、そう時間をかけずに起きてくる。


「あの、どうかしたのですか? 子供たちも起きていますし」


 子供たちの暗い雰囲気を気にするようにちらちらと見ながらスカラーは言う。

 彼女に進は、畑にかけた魔法に反応があったこと、行ってみたら子供たちと甲虫の魔物がいたことを伝える。


「あなたたちまた畑に行ったの?」

「また?」


 フィリゲニスが指摘すると、スカラーは小さく「ぁ」とこぼす。


「あなたも事情を知っているようだし、話してほしいのだけど」


 少し迷った様子を見せたスカラーは溜息を吐いて頷く。


「申し訳ありません。全て存じております。芋を食べたのはこの廃墟に昔から住み着いていた虫の魔物です」

「虫の魔物はたしかに以前から見かけていたな」


 探索中にこっちの姿を見て、彼らが逃げていくのは当たり前の反応になっている。ラムニーが廃墟で暮らし始めた初日に地下で見て驚いたのも虫の魔物だ。

 あちこちで見かける程度には、なじみある魔物だ。


「そして子供たちの遊び相手でもあります」

「サイズが違うけど、相手になるのか?」

「森では珍しいことではありませんでしたので。それで昼の私たちの会話を子供たちが聞いて、どうにか殺されないようにしたいと相談されまして。夕食後に畑の近くで見張っていて、彼らが来たらここで食べては駄目だと話して帰らせた、のですが」

「説得を聞かずに、また来たわけだ」


 そのようですとスカラーは頷く。

 進は子供たちに視線を向けて、どうして夜中に畑にいたのか聞く。


「あの子たちは納得してなかった」

「だからまた来ると思って、こっそり抜け出した」

「そうしないと殺されるって」


 友達ならば逃がそうとするのは当然だなと、進たちは子供たちの行動に納得する。


「そのことを親に言わなかったのか?」


 聞いてなかったんだろうとスカラーに視線を向けると頷きが返ってくる。


「さいしょの説得もおかーさんたちは乗り気じゃなかったから」

「説得しているときも次は知らないからなってあの子たちに言っていた。だからたのんでも無理だって思ったの」


 そうなのかと進たちがまたスカラーを見る。


「私たちはここに来てそう時間がたっていません。そんな私たちが悪さをした者たちを庇う時点で、あなたがたに悪印象を与えます。かばい続ければなおさらで、それがばれたときどうなるか。だから自分たちと彼らを秤にかけて、自分たちを取る判断をしました」

「犯人に対して殺す判断を下したし、かばったあなたたちにも厳しい判断を下すと考えるのも無理ないわね」


 殺すと口に出したときスカラーが反応を見せていたことに気付いていたフィリゲニスが言う。

 消沈したスカラーが進たちを見る。


「それで私たちはどうなるのでしょう」

「どうって言われても、とりあえず口頭での注意か? そういったことがあればきちんと報告して相談すること」

「わかりました」


 責められずほっとしたようにスカラーは頷く。まだ不安顔なのは子供たちだ。


「あの子たちは?」

「どうなるの? 殺されちゃう?」


 子供たちに問われ、進は迷う。


「友達を殺すぞとは言いづらい。でもこのまま放置もできない。畑を荒らされても困るし」

「再度説得してみましょうか」


 その提案には素直に頷けない。


「説得して聞くのか? 今回聞かなかったように同じことの繰り返しは嫌だぞ」

「上下関係を教え込もうかと。子供たちの遊び相手というにはギクシャクした関係になるかもしれませんが、友人が死ぬよりはよいと思いますし」

「上下関係ということは、こっちの方が強いから従えって感じよね?」

「ええ」

「それで止めるかしら? 荒らされた畑にはあなたたちよりも強い人や魔物がいて、それでも荒らしに来たの。強い弱いだけで畑にこなくなるのか疑問よ。人間同士だって、上下関係はあっても絶対言うことを聞くわけではないし」

「そう、ですね」


 フィリゲニスもスカラーも、森でイコンに反逆した者たちを思い出す。

 

「しかし私が思いつくのはそれくらいなのですが」

「私もこれといっていい案はないわね」


 進が聞きたいことがあると口を開く。


「当然のことだけど、以前からいた魔物たちは食料があるからここに来ているんだよな?」


 こくんとスカラーは頷いた。


「次にスカラーたちはあの魔物たちと意思疎通ができる」


 再度スカラーは頷いた。


「だったら雇ってみようか。ただ雇うって言っても聞かないかもしれないから、少しばかり捻りは必要だろうけど。それで駄目ならもう殺していって、逃げるしかないと思わせる」

「どういうこと?」

「餌がここにあるから畑を荒らす。だったらあいつら用の餌をどこかに準備してやる。それだけだとあいつらに屈して餌を差し出したと勘違いして調子に乗って、また畑を荒らしまくるかもしれないから、一度おびき出して、はっきりと俺たちの方が上とわからせる。そこで畑に手を出すより準備された芋の方が安全と思わせる。んで、ただで食わせていると、それが当然と思うようになってまた調子に乗るかもしれないから、仕事を与えて働かせることで、俺たちの方が上と認識させ続ける」


 上手くいけばの話だけどなと最後に進は付け加えた。

 上手くいかなければ、最初言ったように一罰百戒のような対応をするつもりだった。


「ビボーンやイコンとも相談したいから、今日のところはそれをやるかもってことで終わりでいいと思う。いい加減寝たいしな」

「ススム、あの魔物たちになにをさせるつもりなのかだけ聞かせて」

「畑の見回り。また別の魔物が食いに来るかもしれないから、そのときのために雇うのもありかなって」


 魔物は倒すものという考えが最初に来るフィリゲニスには思いつかない提案だ。


「なるほどねー。私にはどうなるかわからないわ」

「俺もだよ。じゃあ、そういうことで解散」


 現状話せることは話したということで、進たちは家に帰り、スカラーたちも家に入っていく。

 進たちが家に戻ると、ビボーンがリビングで椅子に座っていた。出かける二人に気づいて帰りを待っていた。

 どうなったのか、どうしたいのかを話すとビボーンもどうなるかわからないと首を振った。

 翌朝、朝食を終える頃にやってきたイコンに昨夜の件について話す。


「そんなことがのう。知能がそう高くない魔物にやめろといっても聞かぬわな。お主の案をやってみるのもありではないか? 駄目だった場合は、わしが対処しよう」


 どう対処するのかとフィリゲニスに聞かれ、イコンは考えを話す。


「夜に気配を消して見張って、以前からいた魔物が近づいてきたら威嚇し、危険な場所だと学習させるつもりじゃ」

「最初からそれをやれば問題解決じゃない?」

「世代がいくつも代われば、恐怖を忘れてまた畑を荒らすと思うぞ。ススムの案が上手くいったときの方がのちのちの面倒事は減ると思うし、正直上手くいくのか気になる」


 私も気になるわねとビボーンが頷いた。

 行動が決まり、芋の収穫などをナリシュビーたちに任せて、スカラーたちの畑へと向かう。

 そこで方針が決定したことを伝えて、問題の魔物たちを集めてもらうことになる。


「どう言って集めましょうか」

「畑を荒らさないようもう一回説得したいとか言って、芋を土産に持っていけば集まるんじゃないかの」


 イコンの案に、スカラーはそうしますと頷き、集める場所はどこがいいか聞く。

 畑でいいだろうということになった。


「今から芋をいくつか持って話を通してきたいので、仕事を離れて大丈夫ですか?」


 スカラーがニーブスに聞き、ニーブスがトップの進たちを見る。

 それに許可を出すと、スカラーは芋をいくつか掘り出して、問題の魔物たちを探しに行った。

 進たちももう一つの畑に戻って、収穫作業などを手伝っていく。

 スカラーから報告があったのは夕食前だ。予定通りに暗くなってから畑に集まるということだった。

 食事をすませて、進たちはフィリゲニスの魔法で足音などを消して畑から少し離れた物陰に隠れる。

 俯瞰の魔法で周辺を見ていたビボーンが「来た」と告げる。

 進がこっそりと顔を出して畑を見る。暗い畑にいくつも影が動いていた。


「大きな影もあるし、あれがスカラーかな」

「ええ、スカラーもいるわね」

「それじゃフィズ、頼んだ」

「おまかせ。星のごとく、魔力は煌めき、漂い、取り囲む。エナジースターリー」


 フィリゲニスの魔法によって、畑周辺にいくつもの攻撃用魔力が浮かんだ。光源にもなって畑周辺は明るくなる。

 一発の威力はそこまでではないが、あの甲虫ならば致命傷にもなりうるものだ。

 文句を言うようにギーギーといくつもの鳴き声が発せられた。

 そこに進たちは近づいていく。


「スカラー、通訳をよろしく」

「かしこまりました」

「魔物の諸君、現状を把握できているだろう? 攻撃魔法に取り囲まれ逃げ道はない。このまま逃げ出そうとして死ぬか、こっちの下に就くか選ぶといい」


 それをスカラーが伝えると、魔物たちは抗議するように鳴く。その鳴き声に従うといった感情は感じられなかった。


「本気ではないと考えているのか? だったら少し試してみるか? フィズ」


 頷いたフィリゲニスが魔法を動かす。いつくかの魔力が甲虫をかすめて地面にぶつかり破裂する。飛び散った土と芋のかけらが魔物たちにぶつかった。魔物たちの動きが一斉に止まる。


「威力はわかってもらえただろう? 俺が頼めば今度は一斉にお前たちを襲うぞ」


 今度は委縮したような鳴き声が聞こえてきた。

 スカラーの翻訳によると従うのでやめてくれといったものだった。あの一撃で自分たちは死ぬと理解して、反抗する気がなくなったようだ。

 鳴き声に副音声がついたとしたら「へっへっへ、なんでも言ってくだせえ、旦那」といった三下ムーブのようになっているかもなと進は思う。

 もとより堂々と奪いにこないで、こっそりと来ていた時点で力量差は理解できていた。こうして命を狙われたらもう終わりだとわかって、生き延びるため下に就くこともいとわないと判断したのだ。


「力量差を理解してくれてよかった。それで君たちにも利がある提案をしようじゃないか。俺たちのために働けば、いくらかの食べ物を君たちに与えよう。まあ働きたくないならそれでもいい。畑に近づかないなら放置しようじゃないか。ちなみに次に悪さするようならこのような話し合いはなく君らを根絶する、姿は覚えたからな」

 

 スカラーを通した返事は消極的な賛成だ。

 なにをすればいいのか、報告はスカラーたちにきちんとすること、渡す芋をどこに置くかといったこと、さぼれば痛い罰があるということを伝えて魔法を解除すると、逃げるように去っていた。

 

「おー速い速い。これで被害が抑えられるといいけど」

「またやらかすならイコンに対処してもらうか、本当に根絶を実行すればいいわ。一応こっちも譲歩はしてみせたわけだし」


 数日様子見だなということで解散になる。

 そして数日してスカラーから入ってきた報告は、今のところは真面目につまみ食いなどもせず見回りをしているというものだった。

 まずは順調な滑り出しに、スカラーはほっとしているようだった。

 このまま対応を頼むという進の言葉に、スカラーは頷いた。

感想と誤字指摘ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] 被害を出してたのが虫系統の魔物ってのが問題の厄介な点でしたねえ スカラー達にしてみたら仲間ではないとはいえ比較的近い種ですし
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