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67 スカラーたちの農作業

「明日明後日はスカラーたちのことを姿を隠して見守ろうと思う」


 イコンがどうしてそういった行動をとるのかわからず進は首を傾げた。


「なんで隠れてというか、そんなことできたのか」

「長く生きていればそれくらいはできるようになる。姿を隠すのはわしが見ておらんでもきちんとノームの言うことを聞くか見るためじゃの。まじめにやっているならなにも言わず、言うことを聞いていないなら叱り飛ばすなり解決法を探る必要がある」


 まじめにやらなけば森だけではなく、ここからも追い出されることになって、行く場所を失う。なので言うことを聞かないということはないだろうとイコンは考えている。せいぜいがノームを下に見てなめてかかるくらいか。その度合いがひどければ問題になるかもしれない。

 もともとこちらに来ている魔物自身が原因ではなく、暴走した身内のせいで森から出ることになった。周囲からの圧力などからは解放されているが、それを受けることになった不満が溜まっていて、ノームたちにぶつけられることになるかもしれない。

 イコンは心を読むことはできないため、現状を内心でどう思っているかはわからない。それを見抜くためにも必要な行為だと思うのだ。

 そこらへんを説明されて進たちは納得し、不満を溜め込んでいたときどうやれば発散できるかと話し合う。


「最後の手段として力尽くがあるのう」

「それは不満解決にはならないと思うのよね。押し込めるだけで先延ばしするだけ」


 ビボーンが言い、イコンもそれを認める。

 続けてフィリゲニスが発言する。


「体を動かせばいいんじゃないかしら。狩りに多めに出して暴れて発散させるというのは? もしくは相撲のように自分たちで対戦して発散」

「狩りはいいかもしれないけど、頻繁に魔物が見つからないしね。空振りが続くと不満がさらに溜まるかもしれないわ。相撲のように対戦はどうなのかしら。グルーズたちは本能からくるもので、スカラーたちは外部要因での精神的負担。そんな状態で対戦させると、仲間同士で責任のなすりつけを始めるかもしれないわ」

「なるほどなるほど。狩りはありで、対戦は止めておいた方がいいと。あとほかは酒を飲んで愚痴を吐き出させるって感じか?」


 サラリーマンをしていたときに同僚とやった飲み会を思い出しつつ進が言う。


「彼らって酒とかは大丈夫なんだろうか。イコン、そこんとこはどう?」

「たまに猿酒を参考にして酒を造って飲んだりはしていたようじゃぞ」

「酒はいけそうだな。不満が溜まっているなら、狩りとか彼らだけの飲み会を開いてみるか。ちなみに彼らにナリシュビーみたいな好物ってある?」


 好みのつまみを出した方が酒が進むだろうと考えて聞く。


「基本雑食。ただ好みは同じ虫に引っ張られるな。蟻はそのまま何でも食べて、蝶は蜜、甲虫は樹液じゃの」

「飲み会をするとしたらつまみは特に気にする必要はないんだな」


 蟻は特に気にせず、蝶はミード。甲虫に関しては、以前話したサトウカエデからメープルシロップが取れればよかったが、植えてはいるもののまだ樹液を回収できるまでに育ってはいない。

 ひとまずの方針が固まって、スカラーたちの話は終わり、夕食が始まる。


 翌日、それぞれの作業のため家から出る。

 イコンは午前中はスカラーたちと一緒に過ごし、午後からは用事があると言って去っていき、姿と気配を消して戻ってくる。

 ナリシュビーの食堂で昼食をすませたスカラーたちは、ノームと待ち合わせている畑に向かう。

 イコンは少し高いところに浮かんで、スカラーたちについていく。

 先に来ていたノーム一人と補助のナリシュビー二人が空いている畑のそばにいて、そこにスカラーたちは集まった。

 魔物に囲まれる形になったノームたちは緊張していたが、イコンから姿を消して見ていると知らされているので、過剰に怯えることはなかった。

 ノームはこれで全員か確認し、講義を始める。

 まずはここで作物を作ることから話し始めて、前日のうちに瓦礫の除去や土の変化をやっておいたことを話す。今後畑の拡張をするとき、その作業をスカラーたちもやるのだと言って、次に作物を植える前にやることを話していく。

 廃墟では進がいるので土作りはしなくていいが、進が寿命で死んだあとのことも考えて、最初から説明されていく。

 土作りに使う材料、かかる時間を説明して、その後に畝立てといったことをやって、ようやく種などを植える。

 ここまで説明し、ノームは質問を求める。わからないことがあればなんでもいいと声をかけて、スカラーたちの疑問に答えていく。畑のことではなく、ここでの暮らしといったものであってもノームはわかる範囲できちんと答えていった。

 粗方質問に答えたノームは、なにを植えるのかといった話に移る。植えるのは芋と水菜だ。

 芋の収穫期間を聞いたスカラーたちはさすがにその育ち方はおかしいと疑問の声を発した。それに対してノームは実際に植えてみればわかると答える。そして実際にナリシュビーたちが苗を数本植えてみせて、明日の結果を待てと言い放った。

 スカラーたちは植えられた苗を疑わしそうに見ていた。

 それを無理もないとイコンも頷く。自身の補助があるとはいえ、成長速度がおかしいと何度も思うのだ。一度魔力的な要素や魔物が関わっているのか調べてみたことがあるが、なにもなくただ成長に特化した品種だとわかっただけだった。その結果に捨て去りの荒野の環境はいろいろなものに影響を及ぼしたのだなと感心してしまった。

 水菜の紹介も終わり、今日の講義は終わる。明日の朝食後に集合することを伝えられ、解散になった。

 イコンはそのまま家に戻るスカラーたちを見届けて、進のところへと向かう。

 進はナリシュビーのローヤルゼリーを上質化して家に戻るところだった。


「ススム」

「イコンも今帰り?」

「ええ、スカラーたちの様子を見ていたけど、今日は特に問題はなかったのう」


 芋に関して疑いの声を上げていたが、あれは誰だって同じような反応を示すので問題とみなさないだろう。


「数日は静かでもいきなり爆発することもあるだろうし、油断はできないよな」

「そうじゃな。ああ、そうだ。スカラーたちが落ち着いたら、娯楽用具を使わせてもかまわんか」

「いいよ。そこらへんは制限するつもりはないし。フィズたちに頼んで、オセロとか増産してもらってもいいな」


 スカラーたちについて話しつつ家に戻り、先に戻っていたフィリゲニスたちにオセロなどの作成を頼む。

 また翌日、イコンは進たちに会いに行く前に、食堂でスカラーたちに顔を見せて、また作業中はいないことを告げた。

 それにスカラーたちはこれといった反応は見せず頷く。彼らもずっとイコンについてもらえるとは思っていなかったのだ。

 進たちに朝の挨拶をしたイコンは畑に向かい、スカラーたちと同じタイミングで畑に到着する。


「おはよう」


 ノームたちが先に来て挨拶をして、スカラーたちも挨拶を返す。


「作業の前に昨日植えた芋を見てみよう。明らかに昨日よりも葉が多いのがわかるな?」


 わかるとスカラーたちは頷く。一目見ただけで昨日と葉の数と大きさが違うのだから異論などなかった。


「じゃあここらへんを掘ってみるぞ」


 待機していたナリシュビーたちが手で土を掘り返し、引き抜く。

 ジャガイモサイズの芋が土の中から出てきた。

 それを見たスカラーたちは本当に一日で育ったことに驚きの表情を浮かべた。


「夜のうちに育っているものを土に埋めたとかじゃないのですか?」

「土の専門家が見たらわかるが、掘り返した跡なんぞなかったからな。少量ならそうやって誤魔化せるかもしれないが、今日植える数だとそれは面倒だから、明日の朝同じように収穫できたらさすがに信じるだろうさ」

「植えたものがすべて成長していたら、さすがに信じますね」

「ではその信じるための一歩を始めようか」


 スカラーたちを畑に入れて、一列に並ばせる。そして石製小型備中鍬と十本の苗をノームたちが渡してく。畑仕事になれていないだろうから十本渡したが、慣れてきたら植える数はもっと増える予定だ。


「穴を掘って、苗を垂直に植えるんじゃなく、寝かせるように植えていくんだぞ」


 まずは一回やってみようと、スカラーたちに穴を掘らせて、苗を置くところまでやらせる。

 作業する様子をノームたちが見ていき、もうちょっと深くといった助言をしていって、一本目の苗を植え終わる。


「皆一本目が終わったな? それじゃ一歩下がってまた同じように植えてくれ。それが終わったらまた一歩下がって植えるといった感じで繰り返していく」


 始めと声をかけて、ノームたちも同じように苗を植えていく。

 一時間と少し時間をかけて、苗植え作業が終わる。そして空を飛べる者にジョウロを与えて、空から水やりしてもらう。


「よーし、今日の芋に関する作業はこれで終わりだ。明日からは収穫して、切り取った苗を土に植えていくという繰り返しになる」

「植えてもやはり明日収穫できるとは実感が湧かないのですけど」

「明日を楽しみにしてな。じゃあ次はと言いたいが、少し休憩を入れる。水を準備しているから、喉が渇いているなら自由に飲むといい」


 スカラーたちは畑から出て、地面に座ったり、水を飲んだりして各々自由に休憩していく。

 十五分ほど休んで、ノームが声をかける。


「次の作業を始めるぞー。ついてきてくれ」


 水菜用に確保していある土地へと歩き出すノームたちに、スカラーたちはついていく。

 そこには石製のシャベルがたくさん置かれていた。


「こっちは芋と違い、畝というものから作っていく。まずは手本を見せるぞ」


 地面に置いてあるシャベルを取り、土に突き刺し同じ方向に盛っていく。その盛られた土をナリシュビーたちが手で整えていく。

 二メートル弱進んで、作業を止めた。


「こんな感じでやっていく」

「どうしてその作業が必要なんでしょうか。芋ではやっていなかったですよね」

「普通は芋もやるが、あれは毎日収穫するものだからな。畝関連の作業も毎日やるとなると時間が足りないから、やってないんだ。それで畝を作る理由だが」


 作物の根付きやすさや水はけのよさといった理由を話していく。

 ノームは長年の農作業でその有用性を理解しているが、初心者のスカラーたちは説明されてもあまり理解できなかった。ナリシュビーたちも最初は似たようなものだったため、徐々に理解していけばいいとノームは説明の最後に付け加えた。

 説明はここまでにして、力のあるものにシャベルを持たせて畝作りを行っていく。

 幅五十センチ以上の畝を昼食前まで作っていく。

感想と誤字指摘ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] ちゃんと進の死後のここでの生活のこともしっかり考えてるんですねー そしてあの芋、イコンから見てもおかしい代物だったんですねw
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