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64 リッカの一日 後

 ささっと洗濯を終わらせて、昼食の準備を始める。ビボーン殿がいれば火を用意してもらうのですが、今日はいないので木屑を使いましょう。

 左の小指の先を外して、火を出し木屑を燃やす。

 昼食は芋を入れたあら汁だ。みそ汁はススム殿が魔法で作れるので、私がやることは魚をさばいて出汁を取ること、芋を煮ることでいい。

 凍っている魚を水に入れて解凍し、芋を洗って皮をむいて切り分ける。

 こういった感じで下準備を進めていくうちにススム殿たちが帰ってきた。

 ただいま、おかえりなさいと声をかけて、ススム殿にみそ汁作成を頼みます。

 作ってもらったみそ汁を火にかけて、具とだし汁を入れていく。沸騰させると風味がとぶということなので注意して火加減を見ていく。


「できあがりました」

「ありがとう」


 器に入れたあら汁を三人分テーブルに並べる。

 お腹が空いていたのか、三人はすぐに手に取って食べていきます。

 不味いという言葉も表情もでないので、ほっとするであります。あら汁という料理はまだ作り慣れていませんからね。

 食事を終えて、食器を片付けるとススム殿とラムニー殿とイコン様が家を出る。

 残った二人に声をかける。


「これからお二人は魔法研究と聞いています」

「ええ、そのつもりよ」

「研究というよりは私が教えてもらっているばかりだけどね」

「余裕があればでいいのでありますが、一つ二つ魔法の開発をお願いしたいのです」

「いいけど、リッカは魔法を習得できないのではなかったかしら」


 確認するようにフィズ殿が聞いてくるので頷く。

 私にはあらかじめコアにインプットされた魔法以外は使えない。新たに習得するためにはコアに魔法情報を入れなければならないのだけど、それをできる人も施設もない。


「私ではなくナリシュビーたちが使えたら便利な魔法を思いつきまして。衣服のしわを伸ばし、よれを直すという魔法なのです。アイロンがあればいいのですけど、金属は貴重ですので必要分揃えるのも難しいかと」

「なるほどねぇ。そういえば私たちの服はしわがないけど、あなたはどうやっているの?」

「私は手のひらが高温になるので、取り込んだときに手を当ててしわを伸ばしています」

「だったら同じようにできる魔法をってそれだと火傷するわね。家事は得意じゃないから思いつかないわね、ビボーンはどう?」

「しわを取る方法ってアイロンだけなのかしら」


 すぐに記録から該当する情報が出て来て、それを口に出す。


「しわになった服を一度湿らせて、しわを伸ばし乾かす。洗濯してしわになっている服をしっかり伸ばしてから干す。こんな感じでしょうか」

「……思いついたのは服を固定化する魔法ね。それを使って、しわが伸びた状態で乾かす。これならしわができないと思うのだけど。使う魔法は空間固定になるのかしらね? 洗濯に使うにはずいぶんと高等な魔法になるわ」

「さすがに難しすぎるのでほかの案がほしいであります」

「あとはサイコキネシスの魔法でしわを伸ばした状態で乾かす。これだとサイコキネシスの魔法をかけ続ける必要がある」

「洗濯物一枚だけならともかく、全部にだとナリシュビーたちの魔力が乾ききるまでもつ?」


 無理じゃないかしらとフィズ殿が首を傾げる。私も魔力がもたないと思います。

 

「これも駄目となると、ススムに聞いてみるのがいいかもね。異世界の知識でいいアイデアが出るかもしれないわ」

「夕食頃に聞いてみることにします」


 二人に礼を言い、またナリシュビーたちに礼法を教えに向かう。午前とはメンバーが違うので、教えることは同じ内容でよかった。

 指導を終えて、家へと帰る。少し離れたところから子供たちの遊ぶ声が聞こえてきた。子供の楽しそうな声はいつの時代も似たようなものですな。

 今日はボウリングなどではなく、おいかけっこをやっているみたい。日々平穏だから、ああいった楽しげな声が出てくるのだと思いたい。今後も子供たちが暗くならないように日々が過ぎていってほしいものであります。

 家に帰り、洗濯物を取り込んで、しわを伸ばして畳んで、リビングに置いておく。研究所時代は下着などを見られたくないと研究員たちが言っていたので各自の私室まで持っていきましたが、ここではそういったことは気にしないということでリビングに置いて各自で持っていってもらいます。

 洗濯物を置いて、夕食の準備をしているとススム殿とラムニー殿とイコン様が帰ってきました。


「おかえりなさいませ」


 ただいまと返事があり、水を欲した二人に水を注いだコップを渡す。

 ススム殿が魔法を使ってはちみつレモンドリンクに変えて、椅子に座って少しずつ飲んでいく。

 一息ついたところを見て、昼に聞いた魔法に関してススム殿に聞く。

 少しなにかを思い出す表情になって口を開いた。


「婆ちゃんは乾いた服に湿気を与えて、しわを伸ばして、温風で乾かしてたな。それを参考にするなら魔法で服を中心に水蒸気を発生させて、手でしわを伸ばしたあと、温風を当てるか自然乾燥させるって感じでいいんじゃないかと思う」


 空間固定やサイコキネシスの連続使用よりも簡単な案が出てきたであります。

 水蒸気発生や温風なら先に上がった二人の魔法よりも簡単でしょう。その魔法開発を頼んで、実践してみましょう。

 良い案を出してもらったお礼を言って、料理に集中する。

 ススム殿たちがリビングでのんびりしているところに、フィズ殿たちが魔法研究を終えてやってくる。

 調理する手を止めて、フィズ殿たちにしわ伸ばしに関して話すと、水蒸気発生と温風の魔法は知っているということで開発を頼む必要はなくなった。

 会話を聞いていたラムニー殿がその二つを覚えて実践してみるということになり、魔法を教わる声が聞こえてくる。協力してもらえるのは嬉しいです。

 出来上がった料理をテーブルに並べると、魔法講義は一旦止まり、食事が始まる。

 今回も不味いといった顔はでず、料理は上手くいったようです。

 夕食が終わり、ススム殿たちはリビングでそのまままったりとしながら今日あったことを話す。私も食器を片付けて、その話に加わる。といっても私の今日の話題はすでに話したしわ伸ばしなどだったので、あまり話すことはなかった。

 ススム殿たちからはこれといった特別な話題はなく、いつも通りの日常を過ごせたようだ。

 習慣の報告が終わって、自由時間になる。

 ラムニー殿たちは魔法講義の続きを始めて、ススム殿とイコン様はオセロをやることになったようでオセロ盤をテーブルに置く。

 私はベッドメイクをしてきましょう。

 乾いたシーツを持って、皆様の部屋に入る。部屋の中は暗いでありますが、廊下から入ってくる明かりと暗視機能で問題なく見ることができる。

 固めた土のベッドにぼろ布を均等に敷いて、その上に洗濯したシーツをかぶせる。

 正直寝心地はあまりよくなさそうなベッドです。この先綿が手に入るそうなので、そのときはベッドパッドを作りましょう。

 ベッドメイクを終えて、リビングに戻るとイコン様にオセロに誘われる。


「そろそろ終わるから、次はわしとやろうぞ」

「ススム殿よろしいのですか?」

「いいよ。俺は酒をなめつつそれを眺めているから」


 すぐにススム殿とイコン様の対戦が終わり、ススム殿が席をずれた。そこに私が座る。

 私とイコン様の対戦が終わると、次は私とススム殿の対戦になって。そのあとは魔法講義を終えた三人も加わる。

 また新しいボードゲームを作ろうかとススム殿が話し、どのようなアイデアがあるのかとビボーン殿が聞き、ガイスターやブロックスといった聞いたことのない単語が聞こえてくる。

 ゲームと会話で時間が流れて、眠る時間がやってくる。

 イコン様が庭の木に帰っていき、ススム殿たちもオセロ盤を片付ける。

 昨日はフィズ殿がススム殿と一緒に寝たので、今日はラムニー殿の番だ。

 フィズ殿は名残惜しそうにススム殿にキスをして、部屋に向かう。

 ビボーン殿もひらひらと片手を振って部屋に向かう。


「それじゃ俺たちも寝るよ。おやすみリッカ」

「おやすみなさい、リッカ」

「はい。おやすみなさいませ」


 ラムニー殿が少し照れたようにススム殿の腕をとって、二人は部屋に向かう。

 私もリビングのちょっとした片付けをすませて自室に向かう。リビングの魔法の明かりはついたままだけど、そのうち効果時間が切れるから放置でいい。

 部屋に戻ると、服を脱ぎ、ほつれなどないか確認して畳む。


「疑似血液がそろそろ劣化警告がでますね。廃棄して補給しましょう」


 棚に置いてある瓶から、錠剤が入った瓶と注射器を取る。

 コップに水と錠剤を一緒に入れる。錠剤が溶ける間に、劣化した疑似血液の廃棄処理を行う。

 コアから血液廃棄命令が出て、お腹にある機関に疑似血液が集まっていく。必要最低限の疑似血液を残して、キューブ状に固められていった。お腹のカバーを開けて、キューブ状の疑似血液を取り出し、お腹を閉める。

 疑似血液が減り、人間でいうところの気怠さのようなものを感じる。

 鈍くなった動作で、縦横高さ一センチメートルの黒いキューブを小皿に置いて、小指から出した炎で燃やす。十分ほど燃え続けて灰になったそれは明日の朝にゴミとして捨てる。

 廃棄作業の間に錠剤は水に溶けている。わずかに粘性のある透明な液体となったそれを注射器で吸い取って、テーブルに置いて、左手首のカバーを外す。そこに注入口がある。注射器の針を注入口に入れて、疑似血液を体内に注いだ。

 疑似血液が体内を巡り出して、感じられていた気怠さが消えていく。


「これで問題なしでありますな。あとは注射器の洗浄をすませて、休止状態へ移行です」


 注射器の中に残った疑似血液を綺麗に洗い落として水をふいて棚に戻して乾燥させる。錠剤の入った瓶も棚に置く。


「さて寝ましょう」


 パジャマを着て、ベッドに横になって目を閉じる。体の全体のスキャンを行い、損傷個所とパーツの摩耗率を調べ、問題が起きていないことを確認するとコアから休止状態移行への命令が出る。

 おやすみであります、という言葉を合図に私の意識はすぐに閉じた。明日も今日と同じく穏やかな一日でありますように。

 コアが今日の記憶を、専用深部記憶域にしまっていく。それを私は意識せず、朝まで眠り続ける。

 バーミング博士たちが私の記憶を見たら、親切な人たちに囲まれて家事という初期設計に沿った充実した毎日を過ごせているとわかるだろう。バーミング博士もこれならば安心すると思います。

感想と誤字指摘ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 疑似血液の元、鞄で持ってこれるくらいしかなかったのだから、量的にはしれてる。無くなったら、生産できるのかな?
[良い点] リッカはロボっぽさと人間っぼさのバランスの良い素敵なキャラだと思います 記憶整理とかしてるならいずれリッカの夢の話なんかも読んでみたいですね
[一言] 疑似血液、進が以前に品質上げてたやつですか 博士が遺してくれた物がある間はいいですが今の技術力じゃ同じものは作れないでしょうし、なくなる時がリッカの寿命になるんですかねえ
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