6 雑談移動
廃墟の探索を始めた進とビボーンは、使えそうにない品物の中からましなものを選んで、それを変質の能力で使えるようにしていく。
何度も能力を使うことで、使うことに慣れ、精度も効果も上がっていき、新しくできることも増える可能性があるということで、ビボーンはどんどん使っていけと勧める。
進としてもこれからの生活に必要であるとわかっているため。使うことに躊躇いなどない。
「そういや何度も使っているけど、使用回数とかないのか?」
「魔力が尽きたら使えなくなるわよ。でも今のところ体に異常はないでしょ? 魔力が尽きる前に怠くなったりするものよ」
これまで十回以上使っているが、進は体に異変は感じていない。その予兆もないので、まだ大丈夫なんだなと思う。
見つけた物はひびが入って壊れかけた鍋や壺、錆びて折れた剣に、汚れ小さな穴の空いた布や毛布、脆くなった椅子や机、古びた盾、錆びきったツルハシ、砥石といったものだ。
二人が探索したのは、今いる建物のみで、その建物もまだまだ探していないところがある。その上建物の周りにはぼろぼろとはいえまだ建物があり、使えそうなものはまだみつかりそうだった。
「そろそろ魔法を使うのも慣れたでしょうし、次は水と食べ物と燃やせるものの確保にいきましょ」
魔法をかけた布と壺と折れた剣を持って、移動する
最初に向かったのは建物の裏にある井戸だ。野ざらしの壊れかけた井戸で、底を覗くとそう深くないところに土や石が見える。
「あらら、ここのは長い年月で埋まっちゃったのね。じゃあ池に行きましょう。途中で荷車でもみつかればいいんだけど」
「掘ればまた使えるようになるんだろうか」
「その可能性はあるけど、道具も技術もないし今は無理よ」
二人は建物から出て、壊れかけた荷車をみつける。それに魔法を使って、移動の邪魔になりそうな片側の車輪を外す。壺などを入れて、二人で前後から支えて運ぶ。
「ここの廃墟って大きいよな。どうして滅びたのかビボーンは知っている?」
「ここが滅びたのは四千年くらい前だって言われているわね。何度か復興のため周辺の国が人を送り込んだけど、無理だったそうよ。そのうち人が寄り付かなくなっていまや立派な無人の廃墟というわけ」
「四千年とはまた思った以上に古いところだったんだなぁ」
「滅びた原因はいくつか説があって、神の怒りに触れたとか、魔王によって滅ぼされたとか、大規模魔法の実験に失敗したとか言われていたわ」
「魔王とかいるのか、この世界」
「定期的に出現するらしいのよ。出現というか豹変といった方が正しいかしらね。この世界には人間と獣人と水人と虫人と精霊人がいるの」
獣人は獣の特徴を持った人間だ。獣の耳や尾だけという者もいれば、獣の顔を持つ者がいたり、ケンタウロスのように下半身が動物という者もいる。
水人は海や湖に住む、魚や甲殻類の特徴を持った人間だ。人魚がわかりやすいが、人型の海老や蟹やイモリや蛙もいる。
虫人は森や山に住む、虫の特徴を持った人間だ。体の一部に虫の特徴を持つ者や人型の虫がいる。
精霊人は四つに分かれて人間と同じように色々な場所に住む。火の扱いが得意な赤系統の髪と目を持つ筋肉質なサラマンダー。水の扱いが得意な青系統の髪と目を持つ線の細いウンディーネ。風の扱いが得意な緑系統の髪と目を持つ長身のシルフ。土の扱いが得意な茶系統の髪と目を持つ小柄なノーム。
これらの説明を聞いて、進はさすが異世界だなと理解をさっさと放棄して続きを促す。
「魔王はこれらの種族の王がなるのよ。魔人王、魔獣王、魔水王、魔虫王、魔霊王って呼ばれるわ。ある日突然王が豹変して、周囲の人たちにもあっという間に影響を与えて、魔王軍が誕生するわ」
「ある日突然? 謀略のせいで同族に絶望したとか、不作続きで他国から奪うことを考えて攻め込んだとか、そういったことをしたから魔王と呼ばれるんじゃなくて、ある日突然魔王という存在になる?」
なにかしらの成果をもって魔王を呼ばれるのではないのかと進が確認すると、ビボーンは頷く。
「そのとおり。私が生きていた時代でもなぜそうなるのか研究されていたけど、答えはでなかったわね。女神ヴィットラは知っているそうだけど、話したところでどうしようもないと説明しないらしいわ」
原因がわかれば魔王化を防ぐことができるのではと、ヴィットラに聞いた者もいるが、それは無理だと断言されていた。
性格や体質が原因ではなく、呪いによって変化するのでもない。どう頑張っても現在の人間では対策は無理なのだとヴィットラは聞いた人間に告げた。
どうにかできる可能性を持つ人間は魔王が誕生するより以前の時代にいたが、協力は仰げないだろうとも告げられていた。
「一番最初に魔王と呼ばれて倒された人の怨念が延々と各国の王にとりついていたりするのかな?」
「その場合はなんで王だけに取り付くのでしょうね。恨みがあるなら強者にとりついて大暴れとかでもいいでしょうに」
「トップを操った方が被害が広がるから?」
「たしかに被害は広がるけどね。もっとやりようがある気もする。呪いを振りまくとかやれば、たくさんの人が死ぬはず。でもそういったことはやっていないのよね。やることは魔王軍を作り、他種族へ侵攻する。どの魔王も方針は変わらないわ」
「人を殺すのが目的ではなさげかな」
「たぶんね。捕まえた他種族は奴隷として扱うから、支配目的なのかしらと思うこともあるけど、それにしてはこうちぐはぐな感じもね。敗戦国の扱いにしても、それぞれの種族に対して違いが出てくるはずなのだけど、その柔軟性が感じられないというか」
ビボーンは首を傾げる。
わかりやすい疑問点は奴隷の扱いだ。水人と地上で暮らす種族は、その生活様式に違いがある。しかしほとんどの魔王が水人を地上で暮らす種族と同じように扱うのだ。おかげで水人が魔王軍に捕らえられると生存期間が短くなる。従えることが目的ならば、その扱いはなしだろう。水人に反感を与えるだけなのだ。
「まあ、ここで話しても仕方ないけどね」
「だな。俺にとってはまだまだ知らない世界だから、ビボーンの疑問に答えられないしな。魔王かその側近に疑問をぶつけたら答えが返ってくるのかねぇ」
「どうなのでしょうね。私がこの廃墟にこもっている間に、外でこの疑問が晴れていないかしら」
目的の池はまだ先で、魔王に関しての話は続く。
「魔王は倒されているんだよな?」
「ええ。倒されているわ。魔王が出現すると少し遅れて三人から五人の勇者と呼ばれる人たちが出現して、魔王を討伐して騒動が終わるの」
「勇者ねー。各国の強者がそう呼ばれるようになるんだろうか」
「違うわね。もともと強かった人たち以外に、突然強い人が現れるの」
「そうなのか」
ヴィットラが異世界から人間を呼び出しているのは、神殿の人間たちと各国の上層部くらいしか知らないのだ。
魔王討伐には異世界人の力が必須だが、異世界人というよくわからない存在に協力できないという人たちもいて、一般人にはヴィットラに選ばれた勇者とだけ伝えられ異世界人のことは知らされないのだ。その方がスムーズにことが進むのだ。
ビボーンはかつて国の上層部近くにいたが、その期間は長くはなかったため異世界に関しての知識は一般人より少し多いくらいだ。だから進の話を聞いて、異世界人だとすぐに察することができなかったし、魔王が出現したことにも気付いていない。
話題は別のものに移る。
「ここらって人が住みにくいっていうけど、どこまでそんな環境が続いているんだ?」
「ここが捨て去りの荒野っていうのは話したけど、もとは一つの国だったわ。その国全土がここらと似た感じね。多少は人が住めるところもあるけど、そこには魔物が集まっているわ。ここは西の端に近くて、東の端まで徒歩で一ヶ月を超える。国境辺りはここより環境がもっとひどいわよ」
地形を説明しましょうかと、ビボーンは荷車を地面に置いて、石を拾って地面に簡単な地図を描く。
縦長のひし形が地面に描かれる。
「これが簡単な大陸図。これを斜め二本ずつ線を入れて、九つのひし形が完成。この一つ一つが国。捨て去りの荒野は一番左のひし形よ」
「国の西側は海に接していて、東側は右上と右下の二つの国に接している感じか?」
「そんな感じ。正確に言うなら東の国とも少しだけ国境が接しているわね。それでこの国境なんだけど、さっきも言ったけどひどいことになっているわ」
「なんで?」
「捨て去りの荒野の開発が失敗したのは話したわね。それでここは使い物にならないと判断して、危険物の廃棄場所として使われるようになったの。失敗した魔法の道具や魔法の薬、扱いきれない劇薬、改造実験に失敗した魔物。そんなものが国境からこちら側へとどんどん捨てられた。捨てられた物の影響を受けて魔物や獣や植物も変異。そのせいでさらに人が近づけない土地になったわけ」
「神殿に行こうと思ったら、そこを越えないと駄目か」
「だから準備なしに進むと死ぬのよ」
「ビボーンはそんなところを越えて、この廃墟に来たんだな」
「私は魔法でごり押したわ。おかげですごく消耗したけど。文献で国境を越えると、国境よりはましな環境になると読んだことがあったからごり押しで進むことができたの」
ずっと国境辺りの環境が続くと思っていたら、廃墟に来ることはなかっただろう。
再び荷車を持って、国境辺りで見た風景を話題にしながら池を目指す。
廃墟すぐそばの池はかすかな異臭を漂わせるあまり近づきたくないところだった。それでも貴重な水場ということなのだろう、獣などの足跡が地面にいくつも残っている。
一周三十分もかからないだろう。水が濁っているせいで深さはわからない。ただし水面に波紋ができることから、魚などがここでも生きているのだとわかる。
「ここはこの廃墟の水源だったのでしょう。でも見てのとおり飲めたものじゃない。これもまたここで人が暮らせなくなった原因なのでしょうね」
進も道具使いとしての眼力で、このまま飲むと体調を崩しそうな水だとわかる。
「魔法でここの水を飲めるように変えるわよ。これだけの量だから魔力はたっぷり使いなさい。今日はここで魔法打ち止めって気持ちでやるといいわ。あと水に触れないように」
「りょーかいっと。清く、安全に、飲めるものへと。クリーン」
いつも飲んでいたミネラルウォーターをイメージして魔法を使う。
魔力は体中から絞り出すように手のひらに集めた。そのせいで眩暈がして立つのがきつい。
魔法が発動し、水の色がいっきに透明に変化した。水の底まで丸見えで、ザリガニのようなものや小魚や貝が驚いたように動き回っている。
「あーっきっつい! 目が回る」
進はその場に座り込む。吐き気もあって、なんとか耐える。
「おー、できちゃったわね」
「できちゃったって」
まるで期待してなかったようではないかと進はビボーンを見上げた。
「普通はこれだけの水の量を綺麗にするなんて無理よ。でもそういった先入観を与えないでやらせてみたらできるのかと思って実験したの」
「綺麗にできなかったらどうなっていた?」
「特に不都合はなかったわよ。気絶していたか、気分が悪くなって吐くか。そういったところ」
「後遺症とかはないのか?」
ただの失敗ならそういったものはない。攻撃魔法が暴発して怪我を負うということはあるだろうが、今回はそういったものはないだろうとわかっていた。
「ないわね。自らの意思に関係なく無理矢理限界以上の魔力を使わされたのなら後遺症もありえるでしょうけど、今回は自分の意思で使ったのだからそういったものない。魔法の制御に失敗しても、水に異常が発生するだけ。その水に触れでもすればなにかしら異常が起きていたかもしれないけど、水に触れないようにって警告もしていたわ」
制御に失敗したうえで、気絶して水に触れる可能性があったが、そうならないようビボーンは支えられる位置にいた。
「現状このくらいできるとわかったし、良い経験をしたと思っておきなさいな」
「へーい」
「じゃあそのまま休んでなさい。私が布や壺を洗ったりしてあげるから」
荷車に入れてある壺と布を持って、ビボーンが池に近づき、それらを洗っていく。
感想ありがとうございます
前半部分で表現的におかしなところがありますが、わざとそうしています