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57 収穫祭準備

 午前の作業を終わらせて進たちは昼食後にゲラーシーたちに会いに行き、収穫祭開催について知らせる。

 その結果、一度各集団のまとめ役を集めて、収穫祭について話すことにした。グルーズたちの歓迎会では思い思いにやっていた出し物だが、事前になにをやるか決めておけば当日慌ただしくならないでいいのではという意見が出たのだ。

 次の日の夕食後にそのまま食堂で話すことになり、進たちとナリシュビーの女王、ゲラーシー、グルーズ、ブルが食堂の一角で話し合いを始める。

 進行役としてビボーンが立ち、早速始める。


「一ヶ月後に収穫祭と称して宴会を開くわ。いつものようにお酒と料理を出すことは決定ずみ。その料理は一ヶ月後に食べられるようになる蜂蜜と肉を使ったものになる予定ね。ほかにそのときにとれる作物も出るでしょう」


 ここまではいいわねと一呼吸おいて続ける。


「次に前回までは各々が自由にやっていた出し物を事前に決めておこうということになったわ。ナリシュビー、ノーム、魔物たちの順でなにをやる予定か話してちょうだい。予定だからここでやると話してあとでやっぱりやめたといっても怒ることはないわ。ただ中止の報告はしてほしいけどね」

「では私から。ナリシュビーは演奏です。子供たちもまたやると言っていました」

「次は俺だ。ノームも楽器演奏だな。子供たちがナリシュビーの子供たちと一緒にやるとかやらないとか言ってたな」

「次はうちだな。村長からスモウを皆に見せてはどうかと打診を受けているが、決めかねている。それ以外には予定はない」

「ブルたちもない」


 それらを聞いてビボーンが頷く。


「確実にやると言えるのは楽器演奏ね。スモウは未確定。スモウをやるとしたら一番最初かしらね。最後だと食事のあとで動きづらいでしょう。最初に置いて宴会の前座としておきましょう」


 やるかやらないかわからないものなので、今回は前座がちょうどよいだろうと考えての発言に誰も異論をはさむことはなかった。


「演奏の順番に希望はあるかしら?」


 演奏をやる予定の女王とゲラーシーが顔を見合わせて、どうしようか尋ねる。特にこうしたいという意見がなさそうな様子だ。


「じゃあ最初に子供たちで。次はナリシュビー、ノームの順で」

「どうしてそのような順番になったのかお聞きしてもよろしいでしょうか」


 なにしかしらの意味があるのかと女王が尋ねる。


「ススムはいつもよりミードを作ると言っているし、最後に回すとナリシュビーはミードを飲み過ぎて演奏できなくなっているかもしれないからね」

「ああ、なるほど」


 納得したと女王はしみじみと頷く。仲間たちは、あればあるだけ飲むだろうと予想できたのだ。


「というわけでスモウ、子供たちの演奏、ナリシュビーの演奏、ノームの演奏という順番になったわ。まだ収穫祭まで時間はあるし、なにかやりたいという人がいれば参加は歓迎する。仲間内だけじゃなく、子供たちのように垣根を超えてなにかやってもいいわよ」


 なにか発言はあるかとビボーンが言う。

 それにゲラーシーが今回のことに関係ないことでもいいのかと聞く。


「いいわよ」

「森から虫の魔物が来るって話だが、そのときも歓迎会をするのか? するとしたらそれはいつになるんだろうか」


 ビボーンは進たちを見る。


「やると思うぞ。いつになるかは……こっちの食料事情が安定したらだな。冬になる前か、春頃か」


 今すぐは難しく、冬も収穫が落ちて難しそうだと考えて、移住は春頃がちょうどいいかなと進は考えた。

 それに待ったをかけたのはイコンだ。


「春はちょいと待つ時間が長いのう。あやつらはいつ森を出ることになるのか不安に思っておる。そんな不安な状態でいつまでもいさせたくない。食料が不足するならば、森から冬の分の食料を出すが」

「だったら冬前くらいでいいかな」


 秋の間にある程度食料を貯めておいて、その蓄えともらえる分で冬を乗り越えるつもりでいようという考えに、ビボーンたちはそれでよいと同意する。


「俺からも聞きたいことがある。ローランド様が収穫祭に参加するということはありえるのだろうか」


 ふと思いついたグルーズが発言する。

 収穫祭まで一ヶ月。その間に、ローランドは遊びに来るだろう。もしかすると収穫祭のことを耳にして参加したいと言い出すのではと思えたのだ。

 進は首を傾げる。


「参加するんだろうか? たしかに騒ぐけど、向こうの催しの方が豪勢にやれるだろうし、わざわざ規模の小さな宴会に参加したがるとは思えないんだが」

「料理だけ食べて帰ると言い出すかもしれないわよ」


 新しいレシピを試そうとしていることを聞けば、少しだけ参加する可能性はあるとフィリゲニスが言う。


「それなら素直に料理だけ出せばいいんじゃないかな。向こうからアクションがあればそれに対応するってことで」

「ローランド様が参加するなら教えてくれ。そのときはスモウをやろうと思う」


 ここの一員として参加しているということを報告する意味でも、宴会で出し物をやろうと考えたのだ。

 ローランドの命でここに来ているのに、なにもせず集団に溶け込んでいないと判断されるのはまずい。ローランドの面子を潰すことになりかねないと思った。

 進とラムニーはグルーズの考えを察することはできず、ビボーンとフィリゲニスは察する。

 いまだローランドの下にいて、廃墟の一員ではなく山に所属しているともとれる考えにビボーンは仕方ないと苦笑し、フィリゲニスは好きにするといいと放置気味だ。廃墟の平穏を乱さなければ、自分たちではなくローランドを優先してもよいとフィリゲニスは思っている。

 ゲラーシーとブルも気づいていない側で、女王は気付いている側だ。

 女王はビボーンに視線でよいのかと問いかけ、頷きを返されてこのことには触れないことにする。

 ビボーンとしては、こういうことは急に変わるものではなくじょじょに変化していくものだと思っている。収穫祭や今後の日常などで共に過ごし、集団への帰属意識を持ってもらいたいのだ。

 

「これくらいで今日の話し合いは終わるわね。各自なにか伝えたいことがあれば、私たちに知らせてちょうだいな。じゃあ解散」


 各々の住居に戻り、話した内容を同族に話していった。

 翌日から仕事が終わって、演奏など練習する姿が見られるようになる。

 グルーズたちもローランドが見物する可能性ありということで、闘争本能の解消以外に見栄えなどを気にして稽古に取り組んでいった。


 収穫祭に向けて少し賑わいを見せる廃墟にローランドたちがやってくる。

 いつものようにボウリング場に向かい、そこにきた進たちに今日持ってきたものを渡す。

 孫と遊び始めたローランドを見ながらガージーが荷物の確認を進に頼む。


「いつものように布と調味料だ」

「たしかに受け取りました」

「ここはなにか変わったことはあったか?」

「特にハプニングはないですね。あと一ヶ月もせずに蜂蜜とグローラットが食べられるようになるってことが大きなことかな。それに合わせて収穫祭を開くつもりです。いつもの宴会のように酒を出して、料理を出して、住人の出し物を見る」

「どういった出し物があるんだ?」

「虫人の演奏とノームの演奏が今のところ確定。グルーズたちはやるかやらないかまだ未定です」

「グルーズたちはやるとしたら、なにをするか聞いているか?」

「相撲っていうのを教えたんだ」


 どういったものか説明し、どういった経緯で相撲をやることになったかも話す。

 それにガージーは頷いた。


「あいつらは性格的に戦いに向いていなかったからな」

「気になる話をしているな。俺の知らないことをこっちに寄越した奴らがやっているって?」


 話が気になったローランドがボウリングを中座して二人に近づいてくる。

 そのローランドに進はもう一度相撲について説明する。


「戦いじゃない競技か、どういったものか少し気になるな」

「もしかして宴会に来るんですか?」

「それもいいなと思う」

「でも出される料理も出し物も質は山でやる宴会の方が上だと思いますけど」


 だろうなとローランドは頷いた。しかし求めるものはそこではないのだ。


「山で開かれるものは当然ながら俺たちが主催したものだ」

「でしょうね」

「加えて俺は自分で言うのもあれだが偉いわけで、多くの者が顔を繋ごうとしたり印象を良くしようと褒めてくる。そして自身の優位を得ようと、こちらの弱味を握ろうともしてくる。気が抜けない場なんだ」


 わかると同意したのはビボーンだ。昔の記憶が刺激されてこくこくと頷く。


「ここでもそういった雰囲気はあるが、それでも山よりはましで穏やかに楽しめる」

「わかるのう」


 イコンも似たようなものだ。森や廃墟の大人たちからは畏怖の視線で見られるが、子供たちからはイコンちゃんと呼ばれ気楽に遊んでいる。進を気に入ってここにいるが、子供たちとの交流も楽しいのだ。


「そういうわけで小さなものでものんびりとできる機会を逃す手はないってな」

「となるとグルーズたちに確定だって知らせておかないとな。ローランド様が来るならやると言ってたし」

「ふむ」


 ローランドとガージーはグルーズたちがなにを考えてそう言ったのか察した。


「すまんな」

「なにが?」


 急に謝られて進は不思議そうな顔になった。

 その進にフィリゲニスが説明する。なるほどなと進は納得する。進としては現状実害がでていないので気にならなかった。


「俺としてはグルーズたちを山に繋げておこうというつもりはなかった。こっちに送ったのだから、そのままこっちのために働いてくれと考えていたんだ。その旨をあいつらに伝えておこうか」

「ローランド様、それは必要ありませんわ」


 ビボーンが止めた。


「グルーズたちはこっちに来たばかりで、山の影響があって当然。少しずつこっちへと歩み寄ってくれれば問題ありません」

「俺もそれでいいと思います」

「お前たちがそう言うなら触れないでおこうか。ただしグルーズたちがいつまでも馴染もうとしないときは言ってくれ」

「そのときはよろしくお願いします」


 そこまで話してローランドは孫に呼ばれてボウリングに戻る。


「俺からも詫びておこう。グルーズたちを選定したのは部下だからな」

「特になにか困ったことがあったわけじゃないので、気にしなくていいのですけどね」

「そう言ってもらえると助かる」


 今度ボウリング場を利用するときに、ガージーの自腹で物資を追加しておこうと考えて、この話を終わらせる。

 ローランドたちが帰り、もらったものを分配して、進はグルーズたちにローランドの見物が確定したことを告げる。


「来るのか」

「そうらしいね」

「相撲の確認をしてくれないか。ローランド様に無様なところを見せるわけにはいかない」

「いいけど……じゃあ少し本格的にやろうか」

「教えてもらったことが全てではないのか?」

「競技の流れは教えたけど、その前後は教えてなかったしな」


 前後とはなんだろうかとグルーズは首を傾げる。

 その彼に進は土俵に上がるときと競技が終わったあとについて話す。


「見栄えを気にするなら、そういったところもきちんとやった方がいいだろうさ」

「たしかに。教えてくれ」


 夕食後になと進は返し、グルーズを仕事に戻す。

 進もあちこちで魔法を使って、家に戻っていく。

 そうしてなにごともなく時間が流れていき、収穫祭の日がやってくる。

感想と誤字指摘ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] 森と山のトップが穏やかに過ごせる場所かあ それはそれで変なやつがちょっかい出してきそうではありますね
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