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50 酒盛り

 夏も終わりに近づいて、夜は涼しく感じられるようになった。

 芋は相変わらずの収穫量で、花も蕾が見られるくらいに成長している。

 ノームたちの作業も順調で、自分たちが使う長屋のような建物と練習用の畑も出来上がっていた。今は山の魔物が住む家の建築や中央の建物の改修工事を行っている。

 山の魔物たちはもともと家というものは持っておらず、雨風を避けられる簡単な建物があればいいとローランドから聞いており、肉の加工場と一緒にした建物を作っている。

 その建物のそばには瓦礫を片付け軽く整えられた広場がある。そこではグローラットの寝藁として使うイネ科の草を植えることになっている。

 イコンから木綿が採れるワタをもらえなければ、それが人間の寝床にも使えそうなので、土地を確保して植えることになっていただろう。


 そういった作業が行われる間に、進は以前ローランドと約束した酒盛りのため小島にむかっていた。ゲラーシーといった参加したい意思を示した男たちも一緒だった。いざ出発となると彼らはガージーの背に乗ることに躊躇いを感じていたが、それでも思う存分酒を飲みたいと背に乗った。

 進は自分たちだけ楽しむのはずるいだろうと、出発前にはミードなどを作っておいたので、廃墟でも小さな宴会が開かれる予定だ。

 廃墟から二十分という距離で見えてきた小島が目的地だ。徒歩で一周三十分に少し足らない程度の広さだ。

 浜に降りると、ガージーがすぐに明かりを浮かばせて、遥か遠くに陸地の影が見える。

 ここはフィリゲニスの力の影響をそこまで受けなかったのか、木がまばらに生えて、雑草もそこらに生えている。

 進たちが小島の風景を眺めている間に、ローランドが海水を引き込める穴を魔法で掘る。


「では早速頼む」


 すぐに海水が入れられて、穴に海水が満ちる。木板で水が遮られて、濁りが落ち着くとローランドが待ちきれないとばかりに言う。


「はいはい。そんなに楽しみなんですか」


 少し呆れたような進が魔法を使うと、ふわりと酒気が鼻に届いた。

 つまみはローランドたちが持参してきていて、大皿にナッツやジャーキーやチーズが並ぶ。

 ローランドは穴のそばに座り、直接深皿で酒をすくう。


「行儀が悪いですよ」


 ガージーの注意にいいではないかと笑い、いっきに飲み干す。酒気の混ざった息を吐いて「たまらん!」と言って、さらに飲んでいく。

 それを見ながら進たちはポットで酒をすくい、それぞれのコップに注いでいく。

 ガージーも溜息を一つ吐いて、その場に座り、ポットからコップに注ぐ。


「うむ、うまいな」

 

 ガージーも思わずといった感じで感想を漏らす。それを見てローランドがニヤリと笑った。

 

「上品すぎるのではないか?」

「普通でしょう」


 そう答えつつガージーはチーズを齧る。あうなと頷いた。


「ススム、どうだ? あうものを選んだつもりだが」

「それじゃ試しに」


 勧められたチーズを手に取り、酒を飲んだあとチーズを齧る。

 祖父と飲んだときは豆腐と塩辛がつまみだったが、こちらもなかなかにあう。それでも豆腐などが一番かなという感想をもった。


「美味いですよ」

「もしかしてもっとあうつまみがあるのか? そんな感じが見受けられるが」

「チーズがあうということに嘘はありませんが、やはり豆腐と塩辛とスルメだなと」

「どれも聞いたことないな」


 興味深そうにローランドが言う。


「豆腐は大豆から作られる料理ですね。豆腐自体は濃い味があるわけじゃないんです。きざみネギやショウガをのせて醤油などをかけて食べますね。作り方はわからないですねー。塩辛とスルメはイカを使った料理。スルメは料理というかイカを乾かしたもので、塩辛もある程度の手間はかかりますが、作り方はそこまで難しいものでもないです。俺の周囲の人間もそれがあうっていってましたよ。アンチョビなんかもあうと聞いたことはありますね」

「海が近いからイカはとれるだろうが、すぐにできないのは残念だな」

「俺も久しぶりに食べたいから、漁業担当に捕まえてくれるように頼むかな。スルメなら失敗はしない、はず」

「完成したら俺にもくれ」

「無事完成するといいんですけどねぇ」


 今はローランドたちが持ってきたつまみで飲もうとジャーキーを手に取る。

 それらのつまみも上質なもので、美味いのはたしかなのだ。

 ローランドとガージーはハイペースで飲み、進は自分のペースで飲む。

 ゲラーシーたちはローランドたちと飲むのは緊張するのか、少しだけ離れて雑談しながら飲んでいた。


「ボウリングは一応完成したんだろう?」


 話題の一つとしてローランドが聞く。


「しましたね。そのうちレーンやピンの修理とか必要になると思いますから完全に俺たちの手を離れたとは言えませんが」

「メンテナンスはなんにでもついてくるもんだろうさ。んで次はどんな遊具を作るのか決まっているのか?」


 特にこれといってと進は首を振る。


「遊具よりも冬に備えて、畑作りをやって食料を確保しておかないとなーって思ってますね」


 まだ秋にもなっていないが、こちらの冬がどういったものかわからないため備えは必要だろうと漠然と考えているのだ。


「ここらの冬って厳しいですかね?」

「雪はあまり降らないな。山には積もるが、平野にはうっすらと積もる程度じゃないか。気温は寒くなる方だと思うぞ。薄着で過ごせるような寒さじゃない」

「収穫した木綿で防寒具を作ってもらわないとな。ナリシュビーたちの職人が大変だ」

「お前ならフィリゲニスが魔法で寒さ程度どうにかすると思うけどな」

「あー、しますねー」


 夏場も屋内にいるときは温度を少し下げてくれる。今でもそうなら冬も対処してくれるだろうと確信をもつことができた。


「だったら俺とフィズとラムニーの分は後回しにしてもいいのか」

 

 進からフィリゲニスに頼めば、ラムニーにも魔法をかけてくれるだろうと考えて、後回し候補に入れる。

 ビボーンに関しては暑さ寒さに強そうなので、防寒具を作るという考えすら浮かばなかった。


「薄着で過ごしていたら見ている周囲が寒がりそうではある」


 ガージーに言われて、それもそうだと納得する。

 マントやショールを羽織るくらいはしておこうと決める。

 リッカに作成を頼むのもありだなと考えている進に、ローランドが今後遊具は作ろうと思わないのかと聞く。

 気晴らしができるところが増えるのはありがたいのだ。人の町に行って遊んだりすることはあるが、力を抑えておく必要がある。しかし廃墟ならばもう正体がばれていて、そこらへんを気にする必要がないのだ。


「今のところ住民はあるもので満足してますからね」

「そういった考え抜きで、思いつくものとかはどうなんだ」

「……ビリヤードとかダーツとかですかね」


 ぱっと思いつくのはゲームセンターでやったことのあるそれらだ。


「ダーツはともかく、ビリヤードはラシャが手に入らないだろうから、ビリヤード台そのものは作成不可でしょうね」

「ラシャというものを聞いたことないのだが、どのようなものなんだ?」


 ガージーが興味をひかれたように聞く。


「俺も詳しいことは知らないですよ。毛織物の一種ってことくらいですね。手触りは……」


 こういったものだとわかる範囲で説明し、どのように使うかも話して、ビリヤードの説明に移っていく。

 ガージーたちはそういった織物に関して聞いたことがないようで、ビリヤード再現は無理そうだと考えた。

 ならばダーツはどうだろうかとそっちの説明を聞いていく。

 進の説明で、ダーツならばまだ再現できるのではと思う。


「子供の遊びで似たようなものがあるな。あっちは地面に何重か丸を書いて、離れたところから石を投げるというやつだが」


 最初に何番目の円に入れるか宣言して、そこに入れば加点、一つ前後すればゼロ、それ以外は減点といった遊びだ。

 進からすればカーリングやおはじきみたいなものだろう。

 地面と石があればやれるので、多くの子供に広まっている。

 似たようなもので、砂山を作って離れたところから放り投げて、その頂上に石をのせたら勝ちというものもある。


「遊具を使わない遊びなら陣取りゲームとかあったなー」


 小学校に入ると家でゲームなんかやっていたが、幼稚園の頃は外で元気に遊んでいたものだ。両親や友達との思い出のあるそれを懐かしく思う。


「俺たちの小さい頃の遊びといったら、空を飛んでの競い合いか、狩りだったな」

「そんなものでしたね。逆に狩られる可能性もあったんで、純粋に楽しんでいたわけでもありませんが」


 今は大烏公や白羽従と呼ばれる二人も、小さい頃は弱い存在だった。ほかの魔物の餌として狩られてもおかしくなかったのだ。

 特にガージーは目立つ容姿であり、周囲から孤立しがちな存在だったので、狩りの獲物としては狙い目だった。襲われたことも両手で数えて足りないくらいはあった。

 当時のあまり楽しくはないことを思い出しかけて、ガージーは小さく首を振る。

 それに気づいたローランドが話をそらす。


「話は変わるが、婆がいることで植物の育ちはどんな感じだ?」

「順調ですね」


 急に話題が変わったことを不思議に思いつつ進は答える。ガージーは気遣いに気づいて少しだけ表情を緩めて、酒を飲む。

 そのまま農業や建築に関しての話に移っていった。

 時間は流れて、ゲラーシーたちは気持ちよさそうに酔いつぶれて眠っている。

 ローランドたちはまだまだ酔った様子はなく、進はこれ以上は不味いかというところで舐める程度にペースを落とした。


「そろそろしまいだな。最後に思いっきり飲むとしようか」


 本来の目的を果たすため、ローランドは烏の姿に戻る。サイズはいつもより小さめだった。

 開けた穴にまだたっぷりと残る酒を、嘴を突っ込んで飲み干していく。

 勢いよく酒が減っていき、すぐに底に少し残る程度にまでなくなった。

 そしてまた人の姿に変身する。


「さすがにこんだけ酒を飲んだのは初めてだな。またこんな酒盛りをやりたいもんだ」


 ローランドが満足そうに腹をさすり、横になる。


「寝やすいように魔法を頼んだ」

「承知いたしました」


 ローランドはそのまま目を閉じる。

 ガージーは周辺に魔法を使って、気温や湿気の調整を行う。


「警戒用の魔法も使ったから、ススムも眠っていいぞ」

「それじゃ遠慮なく」


 進も横になり、酔いからくる睡魔に身を任せる。調整された環境だけではなく、打ち寄せる波の一定の音も耳に心地よく、すぐに寝息を立て始めた。

 ガージーも残っていた酒を飲み干すと、その場に寝転ぶ。

 夜が更けて、海から陸地へと上がれる魔物も小島に近づいたが、ガージーたちの気配を感じ取りすぐに離れていった。

感想と誤字指摘ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] 酒、それもうまい酒が飲み放題ってのはローランド達には何よりの報酬になったみたいですねえ 原料も海水で失うものも特にないですしまたこんな酒盛りするのもいいですね
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