表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/147

49 ロンテの感想

今回短めです

 私はロンテ。ナリシュビーの次世代女王だった。

 生まれてから九年間ずっと女王になるのだと聞かされてきたし、皆もそう接してきた。私もそうなるのだと思い、母から女王としての心得なんかを教わっていた。

 その心得の中で、皆を導くためには一部を切り捨てる選択をしなければならないときもあると聞いたときは、そんなことできるのかと信じられなかった。でもこれまで何度も女王たちは選択を迫られて、一族が助かる道を選んできたと母は言う。

 女王って私が思っている以上に苦しいものなんだなって思う。

 私はそんな選択ができるかどうかわからない。母もそんなときがこなければいいなと言っていた。

 私の未来は重い。決して煌びやかなものじゃない。そう思っていた。

 そんな私の未来が変わったのはつい最近のこと。

 生まれて初めて他種族の人間が私たちの住処にやってきてから、私は次世代の女王ではなく、次世代のまとめ役というものへと変わることになった。

 いきなり未来が変わってどうすればと思っていたけど、母は大丈夫だろうと言っていた。やることは基本的に変わらず、決定権が別の人に移っただけなんだって。

 それでも無茶を強いられるんじゃないかって不安に思っていたけど、母の言うことに間違いはなかった。引っ越しで忙しかったし、騒がしくなったけど生活が苦しくなるようなことはなかった。

 私たちの上に立った四人も無茶を言ってくることはなく、不安は杞憂だったってわかった。


 上に立つ四人とはそんなにたくさん話さない。

 挨拶したら挨拶を返してくれるし、わからないことを聞けば教えてくれる。

 悪い人じゃないというのはなんとなくわかるけど、やはり一族以外の人と話すのは少し緊張する。

 ラムニーとは話すことはある。もともと一族だったから話しかけやすい。

 望んで一族から離れたわけじゃなくて、事故で羽を落として一族から離れた。でも運良く助けてもらえて、この出会いは喜べるものだって言っていた。そのときの表情は喜びと嬉しさがよく表れていた。

 ラムニーの次に話すのはビボーンだ。魔物だからと躊躇う気持ちはあったけど、よく気にかけてくれて、そのうち慣れた。子供たちだけで遊ぶときとか、ビボーンが近くにいると周囲に魔物がいないか確かめてくれる。雨の日なんかは昔に起きたことをお話してくれることもある。

 ビボーンは最初から魔物だったわけではなく、よその土地からこっちに来て魔物に変じたんだって。どうしてこっちに来たのかと聞いてみたら、追われてここなら追手をまけるだろうと思ったらしい。

 なにか悪いことをしたから追われたわけじゃないと言っていたけど、それ以上は教えてくれなかった。あまり思い出したくないんだそうだ。

 フィリゲニス姉さんとはそこまで話さない。ススムおじ様が一番で私たちと話すより一緒にいることを重視している。

 ああいったふうにくっついて甘えたがっているのは生まれたばかりの子たちくらいしか見たことないから、大人でもやるんだって少し驚いた。夫婦って聞いているし、私も夫を得たら同じようになるのかな? でも母はああいったところを見せたことないし。どうなんだろう。

 そして最後にススムおじ様。最初は母の代わりにトップに立ったから王様って呼んだけど、それはやめてくれって言われた。じゃあなんて呼べばと聞いたらススムさんでいいよと言っていた。でもトップに立つ人をそう呼ぶのはどうなんだろうって思って、ススム様って呼んでも駄目だって言われた。そのあとお兄様って呼んだりしてみて、最後におじ様になった。


 洞窟を出ることが決まり引っ越し準備の合間に、私も金のローヤルゼリーを口にすることになった。

 母があなたにも必要だろうと言ってスプーンで一杯だけ食べたのだ。

 口にすると小さい頃に食べたものを思い出した。ああ、こんな味だったなと思って、そのときは変化はなかった。

 でも一晩たつと、自分の中でいろいろと変わっていることがわかった。魔力は満ち、体も軽い。

 たったあれだけでこんなに変化するのだから、これを小さい頃から主食にした子供たちはどれくらい成長するのかおおまかにだけど察することができた。

 そしてこれを食べて育った次世代なら魔物に後れを取ることはないかもと思えた。

 それを証明するように今の幼児たちはこれまで見てきた子よりも元気がいい。子供の世話役たちが苦労が増えたと言っていた。でもその表情は楽しそうだった。このまま元気に育ってほしいと言っていたし、私もそう思う。

 

 明るいのは次世代だけじゃない。

 今の世代も十分活気に満ちていると思う。

 常に青空の下で太陽を浴びて生活できる。綺麗な水が大量にある。ミードという飲み物もある。食の幅が少しだけど広がった。作ってもらえた娯楽を楽しむ余裕もある。自分たちが敵わない魔物が出てもどうにかできる人がいる。

 いろいろなことがプラスに働いて、洞窟暮らしをしているときよりも、生き生きとした姿が見える。

 綺麗な水とミードという栄養を取れるものがあるおかげで、健康状態も改善されていると医療担当が言っていた。

 母は一族の元気な姿を見てとても嬉しそうだ。

 女王だったときのような真剣な表情が少なくなり、穏やかな雰囲気をまといだした母自身も若返ったように見える。


 皆だけではなく母にも余裕が生まれて、私自身も急いでまとめ役になる必要はなくなった。

 今でもきちんと女王教育は続いているけど、切羽詰まったものはない。

 おかげで私も自由にできる時間が増えた。

 最初はそういった時間はなにをすればいいのかわからなくて母のそばにいたけど、今では母から離れて安全を確保した広場で同じ子供たちと走り回ったり、グランドゴルフとかオセロとかで遊ぶようになっている。

 遊びの一環として大人同伴で廃墟の危なくないところに足を運ぶことがある。たくさん崩れているけど、いろいろな物が見つかったりする。宝探しって感じでそれがちょっと楽しかったりする。

 遊んだあとや遊びながら飲むはちみつレモンドリンクはすごく美味しい。

 母もこっちを飲んだことはあるけど、ミードの方が美味しいらしい。でも子供にはまだ早いから飲めないと厳重に注意されている。

 誰もが美味しそうに飲んでいるから興味あるんだけど、ほかの子がこっそり飲もうとしてこっぴどく叱られたのを見ると飲もうとは思えない。あれだけしっかり叱るってことは本当に子供にとっては駄目なものなんだろうってわかるから。

 

 廃墟に住居を移して少しして私たち以外にも住人が増えた。ノームたちだ。

 私たちのようにこの地方で生活していたらしい。大人たちも初めて知ったそうで、このことを聞いて驚いていた。

 ノームたちがこっちに来たばかりの頃はもっと人が多くて、地上で暮らしていたんだって。皆で協力して畑を作って狩りをして過ごしていたらしい。でも魔物の襲撃が多くて、人がどんどん減っていって、逃げるように地下に生活の場を移したそうだ。

 やっぱり生きていくには厳しい土地なんだなって思う。

 そんな土地を住みやすくしているおじ様たちは本当にすごいと思う。

 村の住人として魔物たちも近いうちに来るらしいし、ここはどんな村になるんだろう。私には予想がつかない。

 女王になるときに抱いていた不安とはまた別の不安があるけど、問題が起きないといいなぁ。

 烏の魔物が襲いかかってきたときは本当に驚いたもの。いきなり大きな音が鳴って揺れもあって、呆然としていたら母が抱きしめてくれた。

 移住してくる魔物があの魔物のように乱暴者だったら、ここの生活が大変になりそう。

 少し前にやってきたイコンちゃんは話し方が少しおかしな優しい魔物だった。ほかの魔物もイコンちゃんみたいだといいのに。


 これからの生活に楽しみもあるし、不安もある。

 新しい住人のことも不安だけど、また魔物が急に襲いかかってきたらという不安もある。

 そのときはおじ様たちが追い払ってくれるかな。

 ビボーンが言うには、おじ様とフィリゲニス姉さんが組めば大抵の魔物はどうとでもなるらしい。

 それにイコンちゃんや大烏公様が気にかけている土地だから、知恵ある魔物は暴れないとも言っていた。それが本当なら少しは安心できる。

 もちろん楽しみなこともある。大人になってミードを飲んでみたいし、ボウリングっていう遊びも楽しみ。その中で一番の楽しみは、花がたくさん育つということ。

 洞窟で見たことのある花よりもたくさんの花が咲くって、花の世話役たちがいつも話しているの。

 きっと凄い光景なんだろうね。母も誰も見たことのない、本当ならここらでは見られない光景。

 今からとても楽しみ。

感想と誤字指摘ありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ナリシュビーは廃墟に集まった種族の中でもかなり苦労していましたからねえ より良き未来を得てほしいですね
[一言] (*´ω`*)よかったねぇ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ