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44 高校生三人 遠出 後

「というわけでコタロウ殿、準備をお願いする」


 はりきるカーマンから目を放してガゾートは琥太郎に頼む。


「俺?」

「カーマン殿は接近戦を望むでしょうから」


 あ、そっかと納得した表情で一度溜息を吐いて頷いた。


「長物との模擬戦なんて久しぶりだな」

「おや、経験あるのか」

「母親が薙刀を使うので、何度か。よく転ばされましたね」


 琥太郎の母親は小学生の頃からずっと薙刀の鍛錬を続けていた。そこまで強くないと本人は言っていたが、長年培われた技術は馬鹿にできたものではなく変幻自在に迫る薙刀を琥太郎は避けられたことがない。


「カーマンって人は手加減なんてしないでしょうから、何回どつかれることやら」

「強者との戦闘経験が得られると納得してくれると助かる」

「りょーかいです」


 琥太郎が体をほぐしだし、カーマンはシャニアから抵抗しないように注意を受けて魔法を受けている。

 魔法が効果を発揮し、模擬戦用の槍と交換させられて、カーマンはそれを構える。


「よーし! これでやれるわね。さあ、行くわよ! ぼこぼこにしてどっちが上か思い知らせてやるんだから!」

「子供の喧嘩みたいなこと言ってるな」


 琥太郎から呆れたような視線を向けられて、子供じゃないと言いながら槍を突き出す。

 それを琥太郎は手の甲で弾く。そこまで力が入れられていないように見えた突きに、琥太郎はそれなりの衝撃を感じた。


「一回弾いただけで調子に乗らないでよ!」


 連続した突きをカーマンが放つ。速度重視の攻撃で避けきれず琥太郎は何度か攻撃を受けるが、威力はおざなりになっており、防具のおかげもあり耐えられないものではない。

 琥太郎はまずは一発当てて流れを掴もうと攻撃を受けながら一歩踏み出し、槍を左手で掴む。一瞬だけ引っ張り合って、すぐ槍から手を放して引かれる槍と一緒にさらに前に出て、カーマンの顔へと拳を放つ。

 顔をそらして避けたカーマンだが、頬にかすった感触があった。一筋の赤い痕が残る。

 それを見た琥太郎はニヤリと笑みを浮かべた。


「最高の一人って言ってもたいしたことないじゃないか」

「言ったわね」


 カーマンの雰囲気が引き締まり、速度と重さが増す。

 ここからは一方的な展開になった。カーマンの攻撃は琥太郎のあらゆるところに当たっていき、琥太郎が苦労した掴んだチャンスも即座に対応されて避けられる。

 重なっていくダメージを見て、ガゾートとシャニアは止めようかと思ったが、それを淡音が止めた。桜乃はハラハラとした様子で止めようと考える余裕もない。


「まだやる気だから止めなくていいわ」

「反撃できると?」

「いやそこまではわからない。でもああして攻撃を受けるだけでも学んでいると思う。それは接近戦専門のガゾートさんの方がわかるんじゃなくて?」

「たしかに防御や回避の鍛錬と目を養う鍛錬にはなっていると思う」

「本当に問題になってきたと思ったら止めてくださいな」

「しかしあのダメージは後日に少し残ると思うんだが。精神的にも」

「そういった怪我は故郷でもしたことありますよ」


 琥太郎が通っていた道場も安全に気を付けていたが、格闘技をやっていれば大怪我の一つもする。琥太郎も受け身などを失敗し骨折の経験はあるのだ。


「骨折に慣れているとは言いませんが、それで心が折れるほどでもないですよ」


 今も激しく叩かれているが、逃げ腰になるようなことはなく反撃の機会を窺っていた。


「どうしたの! 守ってばかりじゃない」

「……」


 琥太郎はカーマンとの実力差をはっきりと理解した。ここから勝つのは無理というのも理解した。デバフを受けてこれということに胸中で感心しつつも、もう一撃くらいは当てたいと意地を張って、攻撃を受けながら機会を待つ。

 ただ機会を待つのではなく、カーマンを観察して呼吸の入るところを見極めようとしていた。実力の差ゆえに動作が途切れるところを全て見極めるなんてことは無理で、一ヶ所に狙いをつけて観察する。

 この狙いにカーマンは気付かなかった。気持ちよく攻撃できていることに加えて、琥太郎を侮っていたのだ。

 そうしてついに反撃の時がきた。単調になったカーマンの攻撃が迫る。


「ここだ!」

「っ!?」

 

 一呼吸入れるタイミングで突っ込んでこられてカーマンは驚きの表情を浮かべたが、即座に対応して槍から手を放して琥太郎と同じく格闘で対処しようとする。まっすぐに顔めがけて突き進む拳を、手で払いのけて一度下がろうとした。

 反応されることも琥太郎は計算に入れて、払われた右手でカーマンの手を掴む。自由な左手でカーマンを殴ろうとして、それはカーマンの手に受け止められる。

 

「対処されるだろうな!」


 両手が使えない状態で、琥太郎は一歩踏み出して、頭突きをカーマンの額にかます。

 ゴンッと盛大な音が周囲に響いた。

 じんじんとした痛みを琥太郎は感じたが、それはカーマンも同じようだった。

 涙目で琥太郎を睨み返している。


「どうだ! まともに一発いれてやったぜ!」


 さんざん攻撃された仕返しとして、言い訳できない一撃を入れて、琥太郎はどうだと笑う。

 対してカーマンは悔しげな顔になった。


「たった一回じゃない。私なんて何度攻撃を当てたか」

「なめてかかった相手を倒せず、有効打も受けて、勝ち負けでいうなら俺の勝ちだろ」


 だったら今から倒すと言いかけたとき、強い気配を感じカーマンは森の方角を見る。

 

「シャニア、デバフ解除! 魔物が来る!」


 即座に反応したシャニアによってデバフが解除され、カーマンは元に戻った身体能力をもって、琥太郎を振り払う。

 地面がぼこぼこと盛り上がりながらこちらへと接近しており、槍を取りに戻る時間はなさそうだと、そのまま模擬戦用の槍を構えた。


「あんたは下がってなさい! 足手まといにしかならないわ」

「森の魔物なら何度も倒したっ」

「今から戦う魔物は、森にいる奴よりも強いわよ! その程度見抜きなさいっ」


 邪魔だと琥太郎を押しのけて下がらせる。


「シャニア、時間稼ぎするから、そっちの魔法で攻撃をお願い」

「わかった」


 接近していた土の盛り上がりから、大ムカデが姿を見せた。土から出ている部分だけで三メートルを超す大きさで、地中の胴の長さはどれくらいだろうか。威嚇のつもりか大きく口を開ける。


「あんたの相手はこっちよ!」


 魔力を込めた槍でカーマンは大ムカデの胴をぶっ叩く。

 それで大ムカデは揺らいだが、大きなダメージを受けた様子はない。

 本来の武器ならば確実にダメージを与えられただろうが、ないものねだりは仕方ないとカーマンは大ムカデの気を引くことを続行する。

 カーマンが移動し、それに大ムカデもついていく。移動のときに全身が出てきて、十メートルほどの体だとわかる。

 拠点から少し離れたところで、シャニアが魔法を使う。


「飛翔せよ、切り裂け、石の刃。ストーンチャクラム」


 石でできた四つのチャクラムが回転しながら、大ムカデに飛んでいく。

 大ムカデの甲殻に当たった魔法は砕けて散って、ひびを入れる。


「あら、これくらいじゃ耐えられるのね。大きいのいくから、動きを止めてくれる?」

「この武器でそれをやるのは難しいのだけど!」

「できないの? だったら仕方ないわね」


 少し煽るようにシャニアが言い、カーマンは「やれるわよっ」と言い返す。


「尾を縫い留めるからそのときにやりなさい!」

「任せてちょうだいな」

「ただし! この武器だと五秒ももたないからね!」


 そう言うとカーマンは大ムカデの噛みつきや毒液を避けながら、槍にこれまで以上の魔力を込める。同時に足にも魔力が込められた。


「あんたにはもったない高速走法を見せてあげるわ」


 地面を蹴りカーマンがかなりの速度で大ムカデの周りを走り出す。ただ走るのではなく、緩急が付けられ、左右にぶれる。目で追うことはできるが、いざ攻撃するとそこにはもういない。

 見事に大ムカデを振り回したカーマンは隙を見つけて、大きくジャンプして、たっぷりと魔力を注いだ槍を尾に突き刺し貫いて、地面に縫い付けた。

 大ムカデから離れたカーマンは「どうよ」と肩で息をしながら睨みつける。

 かなりの痛みがあったようで大ムカデは大暴れするが、槍を抜くことはできていない。


「お見事! 大地より出現せよ。捻じれ、貫け、石の牙。ロールランス」


 かなりの魔力を注いで魔法を発動させるシャニア。

 ドリルのように回転する石の円錐が地面から出現し、大ムカデの胴を貫いた。

 貫かれた大ムカデは、もがいていたが脱出できずにやがてぐたりと動きを止める。

 カーマンとシャニアは大ムカデの死を確認しほっと息を吐く。

 戦いが終わって琥太郎たちとガゾートが二人に近づいてくる。


「討伐お見事。近隣の住民もさぞ喜ぶことでしょう。討伐報酬は神殿から出しますので、少々お待ちください」

「ふっふーん。私たちにかかればこんなものよ」


 どうだと琥太郎に胸に張るカーマンに、琥太郎たちは素直に拍手を送る。自分たちではあれは無理だとわかったのだ。


「あの魔物が現状私たちだと倒せないくらい強いというのはわかりますが、どれくらい強いのかしら」


 淡音が聞くとガゾートが答える。


「一般的な兵が十人いても倒せないな。きちんと対策を練り、小隊を準備して討伐する魔物だ」

「それを二人で倒したんですか。これが大陸トップの力」


 桜乃が感嘆の感情を込めて言うと、カーマンはその声音を心地よさそうにしている。


「そして君たちが目指すところだ。士頂衆が魔王軍の幹部を倒せることは確認している。これまでの記録では、魔王が幹部より弱かったことはないから、ひとまず士頂衆と対等にやっていけるところまで強くなってもらいたい」


 できるだろうかと桜乃は不安そうに言う。


「これまでの勇者たちはそう時間をかけずに戦えるようになった。だからできないことはないのだろう」

「今代の士頂衆なら魔王討伐をやれるのだと思うけどね。行こうと思ったら誰もが止めるし」


 つまんないとカーマンが腕を組む。


「先代士頂衆の何人かが魔王に挑んで死んだでしょう。それどころか躯を利用され、前線で大暴れしているじゃないですか。同じようなことは勘弁ですよ」


 使い捨てできる強い人形として死体を利用され、前線の兵にぶつけられてかなりの被害が生じたのだ。

 今代であるカーマンは先代が魔王に挑んで死んだことで士頂衆になっている。それは先代を超えて継承していないという証拠であり、カーマンが舐められる一因となっている。

 今代の士頂衆にはカーマンと同じように先代が死んだことで士頂衆になったものが三人いる。しかし彼らはそれまでに実績を積んでいて、その地位に就いたことに納得されている。

 カーマンだけが若くまだ実績もほぼなかったので、舐められるという形になっていた。

 勝負して認めさせるということや魔王に挑むというカーマンの発言は、そういった認めていない連中を認めさせるためでもあるのだ。


「あんたたちさっさと強くなってよね。そうしたら私たち士頂衆も魔王討伐に動けるんだから」

「俺たちもさっさと強くなりたいよ。そうしたら魔王を倒せて目的を果たせるんだし」

「ふーん、考えは一緒か。だったら少し協力してあげようじゃない。私直々に鍛えてあげるわ。士頂衆の指導なんてめったに受けられるものじゃないのよ。泣いて喜びなさい」

「それはありがたいですが、手加減はしてくださいよ。怪我をして鍛錬できなくなるとか本末転倒ですからね」


 ガゾートは賛成のようだが、釘も刺す。


「では私も少し協力しましょうか。その子は魔法使いでしょう?」


 シャニアに笑みを向けられて、桜乃はこくこく頷いた。


「お名前は?」

「葵桜乃です」

「これでも元士頂衆。私の知識と経験はあなたにきっと役立つと思う。しばし師弟として協力しない?」

「えと……よろしくお願いしますっ」


 少しだけ迷った桜乃は、シャニアから学んだ方がよりうまく魔法を使えるようになると考えて頭を下げた。

 その桜乃の肩にシャニアはポンと手を置いて、緊張を解すように柔らかく語りかけている。現状どれくらいできるのか聞き出していた。


「コタロウ殿もサクノ殿も師匠を得たか。アワネ殿にも師匠を手配した方が良いな」

「士頂衆の方が来たりします?」


 淡音が聞くと、ガゾートたちは首を横に振った。


「士頂衆にも弓を使う人はいるのだが、精霊人族でな。魔王に操られて今は我らと敵対状態なのだよ」

「大陸最高峰が向こうについているんですか。それはまた大変だ」

「ああ、鍛えた腕をもってこちらの兵を遠くから狙撃してきて大変だよ。前線に行ったときアワネ殿に期待するのはその士頂衆の逆スナイプだな」

「できるようになりますかね?」


 なってほしいものだとガゾートは言い、大ムカデ回収にやって来た兵に指示を出し始める。

 淡音は琥太郎と桜乃を見る。それぞれ師匠と呼べるものがついた。二人は自分以上の指導者がついたことで伸びていくはずだ。自身も上位者に指導してもらわなければ置いていかれるかもしれない。そう考えて、手配の件について自分からも頼もうと決めた。

感想ありがとうございます


ワクチン接種二回目。気分が悪かったら明日更新をお休みさせていただきます

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― 新着の感想 ―
[一言] 琥太郎君、一方的にボコボコにされるかと思ったら中々粘りましたねー とはいえ相手にはハンデも侮る気持ちもありましたからね、目指す先はまだ遠いですなあ
[一言] 士頂衆は全員、(元)になってそうですね(-_-;) フィリゲニス復活で称号全員はく奪! 次回も楽しみにしています(^▽^)
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