4 与えられたもの
「もしかして俺って魔法の才がない?」
なんの変化も生じない手のひらを見て進が聞く。
「いえ、そういうことじゃないわ。才がなくても少しは火が生じるものだしね。この場合は能力者ということなのでしょ」
「説明をお願い」
「能力者というのは特化した魔法使いのこと指すのよ。一つのことが得意過ぎて、ほかの魔法は使えなくなるの。なにか心当たりはないかしら」
「そう言われても、ヒントとかない?」
「こっちに聞かれても困るのだけど……暑さ寒さに強かったり、武器の扱いが得意だったり、身体能力が高かったり、そんな感じで前兆というのかしらね。何かしらの特徴が現れていることはあるそうだけど」
自分の特徴はなんだろうかと進は首を傾げた。これが得意だと胸を張って言えることはない気するのだ。勉強も運動もわりと人並の才だと考える。なにかの成果を褒められたことはあるが、それがプロ並みの成果を残したというわけではない。
「これといってない気がする」
「そう思うのなら特徴として現れていないのだと思うわ。こういったことは勘が大事だったりするし。というわけでなにかしら勘にひっかかることはない?」
「また大雑把なヒントだなぁ。勘ねぇ」
すぐに思い当たったのは、光に包まれて意識が覚醒するまでのことだ。そこで大事ななにかを聞いた気がする。
それをビボーンに言ってみると、誰にと返される。
「たしか女だったような」
「どういった声音だった? 落ち着いていたり、真剣だったり、強気だったり、どういった声が聞こえてきた?」
「声音か……たしか必死だったような。怒られた気もする」
「その女が言っていたことで一言でもいいから思い出せる?」
少しずつ誘導するようにビボーンは聞いていく。いきなり全部思い出せと言っても無理そうなので、声を聞いたときの記憶が浮かびやすいように、声に関連した情報を思い出させる。思い出したことから芋づる式に、情報が出てこないか期待したのだ。
考え込む進の脳内にぽつんと単語が浮かぶ。
「……必要……ああそうだ。必要って言われたんだっけ。おかしなところにいて意識が保てず、うるさいって言ったら怒られた」
「重要なことを話そうとした感じなのね。どうして必要なのかとか聞いてる?」
「んー、それは聞いていない気がする。ただなにかを使って生きろって言われたんだっけ」
「それはあなたが持っている品物? それとも才能とか目に見えないもの?」
「品ではないかな。なにか物をもらってはない」
確認するようにポケットやビニール袋の中を探り、身に覚えのない品物が増えていないとわかる。
「だとすると知識とか才能とかを使って生き延びろということじゃないかしら。こんな土地で通常の知識なんて役に立つかどうかわからないから、才能の方だと思う。あなた自身が把握していない才能を、その声は指摘したのかもしれない」
そう言われると進は頭にひっかかるものがある。知識というよりは才能の方がしっくりとくるのだ。
「思い出せたことを頭に浮かべて、声を聞いたときの状況を最初から流してみなさいな。わからないところはわからないままでいいから」
頷いた進は目を閉じて、うろ覚えな記憶を思い浮かべる。
偶然だが、目を閉じたことがよかったのだろう。地球からこの世界に来るときの暗い状態に近くなり、記憶をさらに刺激された。
ふっとまた別の単語が記憶の底から浮かんできた。
「変質。たしかあの声は変質がどうこうって。与えられる力は変質で、それを利用して生き延びろって言っていたな。あと声を届けるのを邪魔されていた感じだった?」
「与えられる力ということは元から持っていたんじゃなく、後天的に得たもの? 魔法は先天的に持っているもの、後天的に与えるなんて普通は無理。だとするとその声の主は……そういったことができそうなとてもすごい存在。女神ヴィットラ? 女神ヴィットラに関して、才を与えるという逸話はあったかしら」
腕を組み考えるビボーンはすぐに腕を解いた。ビボーンの持つ知識に該当するものはなかったのだ。忘れているだけかもしれないので、あとで思い出すことにして、能力について考えることにする。
「その声の主が言うことを信じるなら、あなたは変質の能力者ということになるわ」
「変質ってなにができるんだ?」
「私も聞き覚えはないのだけど、単語そのもので考えるなら、品物の良し悪しやあり方を変えられるってことでいいんじゃないかしらね。ためしにやってみましょう」
なにかいい物がないかとビボーンは周囲を見渡し、もろくなった棒を拾い上げる。
「これは時間が経過してくちかけた木材。あり方や質を変えられるというのなら、これを少しは新品に近づけられたり、頑丈にできたりすると思うのよ」
差し出された棒を進は観察する。受け取るだけで、破片がぱらぱらと地面に落ちていく。
なんとなく質がわかる。かなりの時間が経過したもので、棒としての役割を果たせない。手荒に扱えばすぐにでも砕けゴミと化す。集めて燃やすしか使い道がなさそうだ。そういった見たままのことが脳内に思い浮かんだ。
これになんとなく違和感を感じた進はビボーンに、それを伝えてみる。
「使い道が思い浮かんだってことよね。だとするとあなたの戦闘志向は道具使いなのでしょう」
「どういうこと?」
首を傾げた進に、ビボーンはああと察した声を出す。
「異世界から来たというのなら、そこらへんの知識もないか。変質の能力のこともあるから、簡単に説明するわね。初めての勝利で、その人の得意な戦い方が決まるの。魔物や獣や賊と戦って、剣で勝てば剣術、槍で勝てば槍術、拳で勝てば格闘術、魔法で勝てば魔法使い。あなたは廃墟に来るまでに戦闘を経験しているはず、どういった勝ち方をしたの」
「犬か狐かよくわからないものに、酒を飲ませて酔ったところを一抱えある岩で頭部を潰した」
「それなら道具使いになるわね」
「そのとき疲れがとれたんだけど、それはなんで?」
「たまにそういったことがあるの。殺した相手の力の一部を吸収するのだけど、普通は少しだけ身体能力が上がるのね。でも格上を倒すと吸収する量が多くて、疲労もなくなることがある」
ゲームのレベルアップのようなものかと進は一人納得する。
「しかしここらの魔物はそこまで強くないはず、それを倒してその現象ってことはあなたのいたところはかなり平和だったのね」
「平和、うん平和だったな。いきなり獣に襲われることはないとは言わないけど、それでも珍しいことだった」
「こちらだと野犬とかに襲われるのは珍しいことじゃないわよ。農村とかだと十五歳になる頃には、誰もが野犬を殺すなり追い払うなりの経験をもつくらい」
「物騒だな、こっちは」
「まあ、私が知っているのはもう何百年も前の常識だから、もう少し治安が良くなっている可能性はあるけどね。話をいい加減能力に戻しましょ。魔法の使い方はわからないわよね」
確認するように聞かれて進は頷く。
ビボーンは使い方を説明していく。
「自身の中にある魔力を体外に出して、それを周囲にある力と混ぜて、その混ざった力に言葉と想像で方向性を与える。簡単に言うとこういった流れよ。魔力に関してはさっき操作したからわかると思うけど、どう?」
「ちょっと試してみる」
ビボーンが動かしたものを進は自分で動かせるか試す。自身の体温とはまた違う、別の温度のものを手のひらに集めていき、それを手のひらから放出する。
「なんとなくやってる感じなんだけど、できてるのか自信はない」
「できているわよ。次は手からだしているものを自分の周りにある力に混ぜる。これは慣れがいるから初めてならあまり意識しないでいい。次は手のひらから出る魔力に方向性を与えましょう。決まった詠唱というものはないから、自分に合うものを言葉にすればいいわ。今回は棒を燃料以外にすることが目的だから、そういったことがイメージしやすい詠唱にするといい。ちなみに詠唱が長いほど効果は高いものになるわ」
「これの使い道というと振って武器にすることくらいかな。あとはもう燃やすしか使い道はなさそうだ」
「武器になるくらい頑丈にする方向でやってみなさいな。詠唱のすぐあとに、魔力を棒に注ぐのも忘れないように」
「ええと……」
詠唱といってもいきなり浮かぶわけはなく、ビボーンが口に出したものを参考にすることにした。
「硬く、崩れぬ、変化せよ。ハードチェンジ」
簡単に砕けなくなるイメージで詠唱し、すぐに魔力を棒に注ぐ。注ぐといってもできているかどうかよくからないので、注ぐという気持ちで棒を持つ。
「やってみたよ。できているかどうか自信はないけどね」
「私が見たかぎりでは魔力は注がれたわ。実際に振ってみたらわかるでしょ。その前に似たような状態の棒を拾って、どれだけ脆いか試してみましょうか。比較対象があった方があなたも効果のほどがわかりやすいでしょ」
「そうだね」
近くに落ちている棒を拾って、それを振ってみる。脆いと感じたのは偽りなく、一度振っただけで、その振動で棒は折れて地面に落ちた。
「じゃあ、次に魔法を使った棒を振ってみなさいな」
促されて進は魔法を使った方を振る。するとこちらは振っただけでは折れることはなかった。
一度だけではこちらの棒の方が耐久力が上だけだったかもしれないと何度も振る。しかし魔法を使った棒は折れることはなかった。ならばと壁に投げつけてみる。思いっきり叩きつけられた棒はさすがにその衝撃には耐え切れなかったようで砕けた。その砕け方にも違いがある。魔法を使わなかった棒は粉々になったが、魔法を使った棒はいくつかの破片になっただけで粉々とまではいかなかったのだ。
「成功ね。さすが能力者よね。初めて魔法を使ったのに、あの棒があそこまで頑丈になるんだもの」
「本当に魔法を使ったんだなぁ」
不思議な感覚だった。地球では魔法は本の中の代物で、それを実際に使うというのは現実味がない。しかし夢とも思わない。廃墟に入る前にあった戦闘やビボーンとの会話で、夢を見ているのではなく現実だと突き付けられたのだから。
「そういや、なんで魔法を使うって話になったんだっけ」
「ええと……ああ、そうそうここを出るためにまずは生活環境を整える必要があって、そのために魔法があった方が便利って流れだったわね。水を出せたり、火をつけることができたりできるようになるし」
「でも俺は特化型でそれらは使えないんだよな?」
「替えの利く一般的な魔法よりも、あなたの魔法は役立つかもよ。少なくとも飲み食いに困ることはないわね。それに質を変えるということの幅が私の思っていることと同じかそれ以上なら、すごい魔法かもしれないわ」
余裕があるうちにいろいろと試してみましょうと楽しげにビボーンは言う。
「まずは廃墟の探索をして、役立つものを探しましょう。それと水と食べ物の確保もね。いやー楽しくなってきたわね」
「なんでそんなにうきうきしてるんだ」
予期せぬサバイバル生活の開始に、進はそこまでうきうきできない。
「ここしばらく起きては寝ての繰り返しだったからね。静かに暮らしたいと思ってここにきたのはいいけど、たまには騒ぎもないと生活にはりがないわ」
「その姿で生活にはりって言われても違和感がすごい」
「たしかに肌がないからはりもあったものじゃないわね」
特に面白くもない返しに、ビボーンは自分で笑う。
落ち込まないようにわざと明るく振舞ってくれているんだろうと進は思うことにした。
人でなくとも明るい同行者は、たった一人で廃墟をさすらうよりも、ずっとましなので気遣いに感謝する。
歩き出したビボーンについていき、進は退屈だけはしないであろう今後がどうなるのか想像し、平穏を願う。
感想ありがとうございます