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30 三つ目の石碑

 どんどんとゲラーシーが扉を叩きながら、声をかける。


「誰か聞こえないのか! ゲラーシーだ。開けてくれ」


 そのまま何度か声をかけ続けていると、扉の向こうから声が返ってきた。


「本当にゲラーシーなのか!?」

「本当だとも! 中に入れてくれ、そしてなにがあったのか教えてくれ」

「わかった!」


 ズズズと重い音を立てて、横開きの扉が開いていく。

 ノームの男たちが外を見て、呆気にとられている間に、ゲラーシーと進たちは中に入る。


「あの女は入らないのか?」

「大丈夫よ。あの子は強いから、魔物討伐を担当するの」

「っ!? 骨の魔物!」


 ビボーンを警戒するように睨むノームたちに、ゲラーシーがこの人は大丈夫だと説得する。


「俺が助けてもらった一人なんだ。信じてくれ」

「……わかった」


 いまいち信じられないという表情だが、ゲラーシーに嘘を吐いている様子は見られず、ノームたちは追及などはせず、扉を閉める。

 外の景色が見えなくなり、安心したように溜息を吐くノーム達。


「ゲラーシー、いろいろ聞きたいことはあるんだが、まずは無事を喜ぶよ」

「俺も帰ってこれて嬉しい。それでマリヤは無事なんだろうか」


 緊張した様子で恋人の無事を確かめ、ノームたちが頷いたことで、安堵した様子でほっと胸を撫でおろす。


「落ち込んでいたからあとで安心させてやれ。マリヤは無事だったが、里長などは魔物に襲われてな」

「被害はどれくらいでたんだ?」

「運がいいのか死者はそこまで多くない。しかし怪我人が多くて治療が間に合っていないんだ。倉庫の外に魔物がいて、薬などを取りに行けない。食料もどんどん減っているし、一か八か外に出ようと話していたんだ。あの人族の女が強いらしいから、期待してもいいのだろうか?」

「俺がここに来るまでに見た強さはとんでもないものだった。だから大丈夫と思いたいが」


 付き合いの短いゲラーシーには断言はできなかった。

 かわりに進が断言する。


「フィズなら大丈夫だと思うけどな。ね、ビボーン」

「そうね。あの程度の魔物ならあの子は苦戦もしないわ」

「ということらしい」


 ノームたちは期待したかったが、自分たちが苦戦した魔物だからか、信じることもできずに複雑そうだ。

 小さく首を振ると、話題を少し変えることにする。


「この人たちはどこの誰なんだ?」

「西の廃墟で暮らしている人たちだ。俺がそこの近くまで魔物に運ばれて気を失っていたところを助けてくれて、治療までしてくれたんだ」

「廃墟に人がいたのか」

「人が集まり出したのは最近のことだけどな。こっちからもいいか? ここでなにが起きたんだ」


 進の質問に、俺も気になるとゲラーシーが続く。


「ゲラーシーが消えたときのことは聞いているか? 地中を移動する大蛇に襲われたんだ。大蛇は里を囲む硬い岩壁を壊してしまった。そのときに大蛇が開けた穴を通って、魔物たちが里に入ってくるようになった。最初はなんとか応戦していたんだが、開けられた穴をふさぐ暇はなく、日に日に魔物の数が増えて、対応しきれなくなってきたんだ。あとは魔物に押されて倉庫に避難した」

「もしかすると家の地下に隠れ潜んでいるノームたちもいるのかもな」


 進がそう言うと、いるかもしれないとノームたちは同意した。

 隠れている者を助け、壊れたものを修理し、穴をふさぐ。やるべきことが多くノームたちは溜息を吐く。


「今後どうやって立て直していこうか頭が痛いよ」

「穴を塞げばひとまずなんとかなりそうなのか?」

「正直なんとかなるといいなという期待しかないな。人手が足りないだろうから」


 無事に動ける人数だけでは、作業は進まない。かといって怪我人を動かすわけにもいかず、新たに魔物が入ってくる前に穴をふさぐことができるか悩ましい。

 明るい話題がなく、ゲラーシーを含めてノームたちは暗くなる。


「ゲラーシー、こんなところで悩んでないでひとまず恋人に無事を知らせてきたらどうかしら」

「そ、そうだな」


 仲間にマリヤの居場所を聞いて、ゲラーシーはそちらへと小走りで向かう。

 進たちはフィリゲニスの様子を探るため、扉近くに残る。ノームたちも扉を勝手に開かれないよう見張るため残っている。

 扉の向こうからは戦いの音が聞こえてくる。

 その音を聞きながらビボーンがノームに声をかける。


「ここらにあなたたち以外の人はいる? 海近くには蜂の虫人がいたのだけど」

「いや、いない。断言はできないけどな。虫人がいたとか知らなかったし。俺たちの行動範囲で人を見かけたことはない。そっちはどうなんだ?」

「ここと虫人のいた洞窟以外で見たことはないわね。といっても私は廃墟にずっといたから探し回ったわけじゃないのだけど」


 ビボーンはラムニーにナリシュビーも他種族を見かけたことはなかったはずよねと聞く。


「はい。先輩たちからはそういったことは聞いたことはないです。空を飛べてもここらへんは近場とはいえませんから、来る機会が少なく、見かけることがなかったのでしょうね」

「もう一つ二つの隠れ里があってもおかしくないな」


 進が言い、ビボーンが海に水人族の集落があるかもしれないと返す。


「陸地よりも過ごしやすいだろうしね。話は変わるけど、ここでは作物を育てていると聞いたわ。それらの種か苗を狩ってきた獲物と交換とかできたりすのかしら」


 ちょうど倉庫の外でフィリゲニスが倒している魔物がいて、それらと交換できるかもと考えて聞いてみる。


「通常ならばそんなに多くは無理だが、皿とか壺とかと抱き合わせで交換ならありだ。だが立て直しを考えてないといけない現状しばらくは難しいな」

「一度だけなら大丈夫? うちも作物を育てているんだけど、芋と花しか育ててなくてね」

「魔物を倒してくれていることだし、一度ならお礼として渡すよ」

「それは助かるわ」


 できるならナイフや金属鍋なども欲しいと話す。


「準備しておこう。こういった話をするってことは、あんたが代表者なのか?」

「いえ、代表は私たち四人よ。その下にナリシュビーたちがいるわ」

「規模的にはどれくらいなんだろうか」


 ビボーンが答えた数を聞いて、ノームたちはここも似たようなものだと頷いた。

 そういったことを話しているうちに、外から戦闘音が聞こえなくなる。

 コンコンと扉がノックされた。


「フィズ?」

「あ、待っててくれたの? とりあえず近づいてくる魔物は倒し終わったわ」


 その声音からは痛みを耐えているような感じなかった。

 ノームに開けてもいいかと確認した進は、頷きを見てから引き戸を開ける。


「おおー、すごいな」


 事前に倒した魔物も合せて、五十匹を優に超える数の魔物の死体があった。


「戦闘以外にも魔法を使ってたし、ちょっと疲れたー」

「はいはい」


 ハグを求めてきたフィリゲニスに、進はハグを返す。ラムニーは腰の水筒を緩んだ表情のフィリゲニスに渡す。

 疲れたというわりに軽い感じのフィリゲニスにノームたちは若干引いた様子を見せる。

 以前よく見た反応だが、動じない進がいるのでたいして気にした様子なくそのまま甘え続ける。


「たくさん倒したから魔物側も警戒するでしょうけど、そのうち里に入ってくるやつが出てくると思うから、さっさと対処した方がいいわよ」


 抱き着いたままフィリゲニスはノームたちに言い、もう用件はないと甘えるのを再開する。

 ノームたちは外の様子を見て、倉庫にいる仲間と外に出る相談をするために奥へと向かっていった。


「俺たちは地割れの底に行く? それともフィリゲニスが疲れているし、地上で一日休憩する?」

「フィズの回復を優先しませんか。ナリシュビーの洞窟みたいに魔物が潜んでいるかもしれませんし」


 ラムニーの提案に、進たちは頷く。

 ラムニーは地上に上がることをゲラーシーに伝えるため倉庫の奥に行き、少ししてゲラーシーたちと戻ってくる。ゲラーシーの隣には似た年齢の女がいて、ゲラーシーとしっかり手を握っている。恋人のマリヤなのだろう。目が赤く充血しているのは嬉し泣きしたからか。


「地上で野営すると聞いたんだが」

「そのつもりよ」


 フィリゲニスの回復のため今日は休むと伝えると、ここで休めばいいとゲラーシーが言う。マリヤもそれがいいと同意する。

 礼ということもあるが、また魔物が来たときの戦力として欲していた。


「怖がられたから、あまり一緒にいたくないの。遠巻きにそういった視線を向けられるよりは、しっかりと距離を取った方が私としても過ごしやすいのよ」

「そうか」


 恩人を居心地の良くないところにいさせるのも無礼だと、引き留めるのは諦めた。


「明日石碑を壊したらまたここに来るよ。お礼に種とかもらえるそうだから」

「わかった。大丈夫とは思うが、外の魔物に気をつけてな」

「ゲラーシーを助けていただき、ありがとうございました」


 二人に見送られて、進たちは隠れ里から出る。

 荷車を置いているところまで行くと、そこで土の高床式の東屋を作ってのんびりと過ごす。

 隠れ里では、動ける者が魔物に警戒しつつ、生き残りに声をかけて探したり、大蛇が開けた穴を魔法で埋めたりと動き出す。

 ムカデの魔物など治療に使える魔物は急いで解体されて、薬に加工されて怪我人に与えられていく。

 フィリゲニスが倒した魔物をただでもらうつもりはノームたちにもなく、お礼になりそうな種などを準備する者もいる。

 遺体を墓に運ぶ者はいない。魔物たちに食われて骨も残っていないのだ。だから見当たらないゲラーシーも食われてしまったと考えられていた。

 慌ただしい時間が過ぎて行き、夜が明けた。


 進たちは食事を済ませて、地割れの底を目指す。横穴の入り口からさらに底へ。

 光が届かない底に魔法の明かりを飛ばすと、雨などが溜まったらしい水溜まりが地割れに沿って続く。水の動きがほぼなく、フィリゲニスの力の影響も受けて、水は腐っているため異臭が漂う。


「腐っている水を綺麗なものに変えるぞ」

「うん、お願い。私はそのあとに風で異臭を流すから、息を止めてね」


 これでだいぶましになるだろうと進とフィリゲニスは魔法を使う。

 周囲の土や岩にしみ込んだ匂いは残るが、それでも異臭は少し気になる程度にまで減った。

 

「生き物の気配はある?」


 魔物を警戒しての進の質問に三人は首を横に振った。いるとしても淡水エビといった小さな生き物くらいだ。

 石碑のある方向へと壁から道を作って伸ばしていく。

 二十分ほど歩くと、ぽっかりと広い空間に到着する。壁などが切り出した岩でできた人工物だ。地割れができたときに巻き込まれ壊れたようで、この空間に繋がる出入口は見当たらない。


「邪魔は入らないし、さっさと壊しちゃいましょ」


 ビボーンに頼まれて進は石碑の維持をしている魔法に干渉し、ビボーンが周囲の岩を飛ばして石碑を壊した。


「これで残りは一つね。この流れだと南の石碑の近くにも人がいるのかしら」

「廃墟の石碑の近くにはいなかったし、南にもいない可能性はあるんじゃないかしらね」


 廃墟にいたのはビボーンとフィリゲニスのみ。フィリゲニスは当然として、ビボーンもまともな生活をしていたわけではなく、石碑の周囲に人が集まるとはいえない。

 ナリシュビーとノームが石碑の近くにいたのは偶然だろうかと話している二人に、進とラムニーが声をかけて横穴へと向かう。

 何事もなく横穴を通って隠れ里に入る。

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