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29 地割れ

 ノームの隠れ里に向かうにあたって、ゴーレム馬車を二台準備する。

 一台は丸々水運び用として使い、もう一台は進たちの移動用だ。水はたっぷりと準備したので、水を運ぶ方は二頭仕立ての荷馬車となっている。

 ゲラーシーは動物型のゴーレムは見慣れているようで、移動手段にすることには納得していたが、そのできには驚いていた。自分たちが作るゴーレムよりも力強いものを感じたのだ。

 コツなどがあるのかゲラーシーがフィリゲニスに熱心に聞いている間に、進は見送りに来ていたナリシュビーの女王たちに話しかける。


「留守番を頼んだ」


 留守にするため、前日までに畑や池に魔法を使い、ナリシュビーたちが怪我や疲労したときのためミードとはちみつレモンドリンクも作っている。


「はい。お任せください。石碑のスムーズな破壊、お祈りしています」


 ナリシュビーの女王が頭を下げて、それに一拍遅れて次世代の女王も頭を下げる。

 強い魔物が現れたら、無茶せず進たちの住居地下に避難するように言ってから、出発しようとフィリゲニスに声をかける。

 進たちは荷台に乗り、廃墟から集落へと変化しかけている拠点を出発する。

 海を目指したときのようにがたがたと揺られながら石碑を目指して進む。

 ここらの地理はゲラーシーにはわからないので、とりあえず石碑を目指すことになった。東にある程度進めば、ゲラーシーにも見覚えのある地理になるだろうということだった。

 だが石碑を壊したあとも、ゲラーシーが地理を把握できなければ、一度廃墟に戻ることになっている。

 出発して三時間ほどたった頃、ゲラーシーが警告を発する。


「止めてくれっ」


 フィリゲニスがすぐにゴーレムを止めた。

 ゲラーシーは真剣な表情で地面を見る。


「間違いない。地面の中から魔物がやってくるぞ!」

「どこらへんから、どれくらい出てくるのかしら」


 フィリゲニスが聞き、ゲラーシーはおそらくあそこらへんと指差す。荷馬車から右に十メートルも離れていない。


「数は一体だと思う」

「ビボーンやる?」


 戦う気のフィリゲニスに、ゲラーシーは逃げないのかと驚きを見せる。ノームたちは狩り以外では基本的に逃げなのだ。


「いえ、いいわ。弱いならススムとラムニーにやらせたいけど」

「そうね。二人とも一応荷車から降りて戦えるようにしておいて。無理そうならすぐに魔法で倒すから」


 二人は折れた剣を持って荷車から降りる。ラムニーは槍を使っていたが、槍の技術を磨いていないので武器を変えても問題なかった。

 二人が武器を構えると、すぐに土が吹っ飛ぶ。

 地中から顔を出したのは黒々とした艶のある甲殻を持つ大ムカデだった。通常サイズなどではなく、全長十メートルを超えていそうだ。

 足をキシキシと動かし、進たちを食らってやるとばかり鋭い顎がガチガチと動く。


「硬くて、毒を吐いてくるぞ!」


 この魔物について知っているゲラーシーからすぐに警告が飛ぶ。

 瞬間、フィリゲニスが動いた。


「冷える霧、包みこめ、凍てつき、止まってしまえ。フリーズミスト」


 毒があると聞き、フィリゲニスが魔法を使ったのだ。

 白い霧が魔物の上半身を包むと、その身が真っ白に染まる。ワキワキと動いていた足は動きを止めて、徐々に傾いていき、上半身が地面に倒れた。倒れた衝撃で足が数本折れた。


「毒を受けたら対処が大変だし、さっさと凍らせたわ。二人で頭部を踏み潰しちゃいなさい」


 進たちはフィリゲニスの言うままに、魔物の頭部を踏み潰す。凍った時点で死んでいたのではと思いつつ。

 苦労せず終わった戦闘にゲラーシーは呆気にとられたようにフィリゲニスを見る。


「俺たちはあれを数人がかりで苦労して倒していたんだが」

「あの程度雑魚よ。ビボーンだって同じことはできるし、ススムも毒さえなければ倒せたわ。厳しいのはラムニーだけね」

「私も戦闘技術を磨いた方がいいのでしょうか」


 以前より身体能力が上がって、戦える体になっているので、鍛えた方がいいのかもしれないと考えたラムニー。


「それがやりたいことならやるといいと思う。やることがないからやれることを増やそうと焦っているならやめた方がいいな」


 進の助言に、ラムニーは考え込む。


「たしかに焦りはあります。私だけ特になにかできるというわけじゃありませんから」

「今はまだいろいろな手伝いでいいと思うぞ。そのうちできることが見つかるだろうさ」


 話しながら二人は荷車に乗って、ゴーレムが動きかける。

 倒した魔物は使い道がないと判断し放置しようとしたが、ゲラーシーが物々交換に使えるということで地面から引きずり出した下半身も凍らせて持っていくことになった。

 荷台の方には邪魔なので、ゴーレム馬の背に載せる。

 甲殻は鎧の材料になり、肉の方も薬の材料になるということだ。

 その日はもう一度魔物との接触があった。遠目に山羊のような魔物を見つけたビボーンが、食料として魔物を仕留めたのだ。魔物は進たちに気付いていて、近づけば逃げそうなので、さっさと魔法で倒したのだった。

 天候には恵まれ、食料の追加もあり、旅路は順調だ。

 夜はビボーンが夜番をしてくれて、進たちは十分な睡眠時間をとることができた。

 そうして五日ほど進んで、大きな地割れのある土地に到着する。地割れは延々と東に続いている。


「反応はこの底の方にあるわ」


 進たちは地割れを覗き込む。底の方には光が届かず暗い。


「この割れ目は俺も知っている。というか隠れ里の入口の一つがあるところだ。底には行ったことがないからなにがあるかわからん」

「壊さなくちゃいけないものがあるのよ。この土地に悪い影響を及ぼしているものがね」

「そんなものがここに? 特におぞましい気配とかは感じなかったが」

「見た目はただの石碑だからね。底に降りられるところに案内してくれるかしら」


 ビボーンに頼まれ、ゲラーシーはこっちだと先導する。

 自然の段差を階段のように加工した場所がある。荷車は持って行けそうにないので、置いていく。食べ物などは魔物を引き寄せそうなので、荷台の蓋になるように土を板状に固めて、皆で持ち上げて置いた。

 階段を降りていくと、階段の終わりに横穴がある。そこがノームたちの隠れ里に続く入口だ。


「俺は先に里に帰って、助けてもらえたことを伝えてくるよ」

「早く恋人に会いたいでしょうし、行くといいわ」

 

 ありがとうとゲラーシーは小走りで横穴に入っていく。


「私たちは底に向かいましょ」


 階段は横穴までで、そこから先にはない。

 フィリゲニスが壁から出っ張りを生じさせて、それを使って底へと向かう。

 降り始めてすぐに、足音が横穴から聞こえてくる。出てきたのはゲラーシーだ。


「どうしたんだ。忘れ物があるわけでもないだろうに」

「世話になってばかりで悪いんだが、力を借りたいんだ」


 頼むと深々と頭を下げたゲラーシーに何があったのか進はもう一度聞く。


「横穴が途中で崩落しているんだ。おそらく大蛇が暴れたときに崩れたんだと思う。ああいったことはたまにあって、すぐに対処するのが普通なんだが、俺がさらわれて日数がたっているのに崩落したままなんだ。大蛇の襲撃以外になにかあったのかもしれん。俺には瓦礫の除去は無理だが、すごい魔法を使えるあんたらならできないだろうか」

「今日か昨日崩れて、今向こう側から作業中とかじゃないのか?」

「作業の音がしないし、土埃も落ち着いていて崩落が起きて時間が経過しているのはたしかだ」


 進は除去作業の要となるフィリゲニスとビボーンに視線を向ける。

 フィリゲニスが頷いた。


「今すぐ石碑を壊さないといけないってわけじゃないし、そっちを先にやってもいいと思うわ」

「そうね」

「ありがとう!」


 皆で横穴に入り、進はフィリゲニスに穴の強化をお願いされる。進はどうして穴の強化をするのか聞き返す。


「瓦礫を除去したことでまた崩落するなんてことを避けたいからね」

「ああ、納得した」


 進が横穴の質を上げて、フィリゲニスとビボーンが瓦礫でゴーレムを作り、外に出るように指示を出す。

 一メートルくらいの石人形がぞろぞろと外に出て行く。外のどこで待てと指示を出していないので、崖下に落ちていく音が遠くから聞こえてきた。

 そうして五メートルほど進むと向こう側が見える。

 駆けて行きたそうなゲラーシーだったが、なにがあるかわからないのでぐっと我慢して進たちの近くにいる。

 ほとんどの瓦礫を除去して、崩落する様子がないことを確認すると一行は先に進む。

 魔物に襲撃されることも、再度の崩落に見舞われることもなく、横穴を抜ける。

 そこは魔法の明かりが照らす、ほの暗い村だった。広さは野球のグラウンドより広いくらいか。いくつもの土と石でできた建物がある。住居区画なのだろう、建物ばかりが見える。

 そしてその建物の多くが壊れて、魔物が闊歩していた。


「なにがあったんだ!?」


 たまらずゲラーシーが叫ぶ。それに反応し、近くにいた魔物が近寄ってきた。ヤゴのような魔物で、大型犬くらいのサイズだ。

 フィリゲニスが差し出した手から複数の岩の弾丸が飛んで、それで魔物は倒れた。


「なにが起きているかわからないから、あまり魔物を刺激したくない。大声は止めて」

「す、すまない」

「まあまあ、それだけ心配だったのでしょう。ススムが危機に陥ったらフィズも慌てるでしょ」


 ビボーンがとりなし、ノームたちがいそうな場所を聞く。


「避難用に作られた建物とかないの? 人の気配がないから、そういったところか、外に避難してそうなんだけど」

「ある。皆そこだろうか」


 隠れ里で一番頑丈に作られた建物があるのだ。

 ゲラーシーの誘導に従って、一行は移動する。先頭はフィリゲニス、最後部はビボーン。その間に進たちだ。

 本来ならば後衛のフィリゲニスだが、戦闘経験がこの中で一番豊富であり、魔物との戦闘に素早く対処できるということで先頭に立った。

 二度の戦闘を行って、魔物が取り囲む建物に到着する。外で倒したものより小さなムカデ、モグラ、蜘蛛、イモムシといった魔物がいる。

 魔物たちが囲む建物は、ゲラーシーによると普段は倉庫として使われているということだった。

 現在はしっかりと石の扉が閉められている。

 魔物たちは中にノームがいることがわかっているようで、ときおり扉や壁に体当たりをしていた。一部壊れた壁もあるが、内側から補修されているようで中の様子は見えない。


「さくっと倒しちゃいましょう。尖れ土、そそり立て槍、無数に生えて、刺し貫け。ランスガーデン」


 フィリゲニスがさっさと詠唱を行うと、倉庫の周辺に無数の土の槍が生えた。魔物たちは土の槍に貫かれて、悲鳴を上げられるものは悲鳴を上げて、そのほかのものは激しく動いて逃れようとしたができずに血を流して死んでいった。


「フィズ、お疲れ。倉庫周辺の魔物はあれで終わりかな?」

「ええ。でも今の悲鳴で魔物が集まってくるでしょうから、私はそれを迎え撃つわ。それで隠れ里の中の魔物はほとんど倒せるでしょ」

「フィズ、私たちは倉庫の中にいた方がいいかしら? 邪魔ならそうするけど」


 一人の方が動きやすいかもしれないとビボーンに聞かれ、フィリゲニスは頷いた。


「ススム、倉庫を強化してちょうだいな。体当たりされてもしばらくはもつと思うの」

「りょーかい。怪我しないようにね」

「大丈夫。身を守る結界をはっておくから」


 フィリゲニスを残して、進たちは倉庫の扉の前に立つ。

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