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24 ナリシュビーの未来

 朝が来て、遠くから聞こえてくる物音で起きた進たちはすぐに変化に気付く。

 よくわかる変化が起きていたのはビボーンとラムニーだ。

 ビボーンは全身が、陶磁器のように白く光沢のある骨になっていた。ラムニーは身長はそのままに、肉付きがよくなっていた。胸と尻が少し膨らみ、そして赤茶の目が綺麗な赤へと変化していた。


「二人とも体に異常はないのか?」


 進が聞くと大丈夫だと返ってくる。


「調子が悪いどころか、魔力が底上げされているわね」

「私も特にどこが悪いという感じはありません。胸とお尻が膨らみ体重が増えたはずなのに、特に重いとも思いませんし」


 大きくなった胸や尻に触れながら答える。

 ラムニーは外見的な変化のほかに内面的な変化も生じている。なぜか進が気になるのだ。これまでのような進たちを上に置くといったものではない。進が欲しいという、これまで感じたことのない感情で、なぜそんな感情を抱くのかラムニー自身にもわからない。


「ローヤルゼリーを飲んだからでしょうね。私たちに変化が起きたのだから、二人もなにかしらの変化が起きているはずよ。どうなの?」


 ビボーンに聞かれ、進とフィリゲニスは自身を調べる。

 フィリゲニスの方は自覚があった。ビボーンと同じように魔力が底上げされているのだ。

 進はというと自分の魔力量などわかっていなかったので、どう変化したのかわからない。体調が良いかなと思うくらいだ。だが体調が良いのはローヤルゼリーを食べたことで、足りていなかった栄養素が補充されたからだろう。


「私は魔力が増えているみたいね。体のキレもよくなっているかな」

「俺はよくわからないな。三人の変化から推測すると、身体能力や魔力に変化が起きているんだろうけど」

「私たちに悪いことが起きていないから、あなたにも悪いことは起きてないでしょ。ゆっくり確かめればいいわ」


 ビボーンにそうすると進は返す。

 それぞれの体調を調べていると、ナリシュビーが朝食だと呼びにきた。そのナリシュビーがラムニーを見て、少し動揺を見せる。

 昨日も使った広間に移動して、焼き魚を渡される。

 それを食べ終わった頃に、ナリシュビーから女王が呼んでいると声をかけられて、女王の部屋に向かう。

 部屋に入り、四人を見た女王は驚きの表情を見せた。視線の先にはラムニーがいる。


「おはようございます。ローヤルゼリーの効果が早速でたようですね。水で薄めたとはいえ、それでも上質になっていたのは伊達ではありませんね」

「特にラムニーに注目している様子。どのような変化があったのか女王はわかるみたいですね」


 ビボーンの言葉に女王は頷いた。


「ラムニーは女王資格を得ています。子を産むことができるでしょう。といっても私と同じというわけではありません。後天的な変化だからか、多くの子を成すことはできないかもしれませんね」


 ラムニーを見たナリシュビーが驚いたのは、女王と似たものを感じたからだった。

 内面の変化も資格を得たことに付随するものだ。

 子を産めるようになって、同じ群れからパートナーを求める心が生じた。近くにいる男は進とビボーンで、ビボーンと子供を作ることは無理だ。必然的に進が選ばれて、欲するようになったのだ。

 そこらへんの内面的変化がよくわからないラムニーは女王に聞くことにした。


「朝起きてからススムが気になるのですが、資格を得たことに関係するのでしょうか」

「子を産む対象として見ているからでしょうね」


 二人の会話に進とフィリゲニスがぎょっとする。堂々と聞くことかと思ったのだ。


「あなたは私たちという集団から出て、そちらの集団に属している状況です。自然に選ぶ対象もそちらの集団からになるのですよ」


 女王も恋愛を経て子供を設けたわけではなく、役割として子供を産んでいる。夫に情がないわけではないが、そういう役割という面が強い。だからラムニーに対する返答も、そういった方面からのものになる。

 ただし自分と同じではないと言ったように、自分と同じようにやれとは言わない。


「ナリシュビーの集団から出たあなたですから、私たちと同じようにやる必要はありません。子を設けずとも良いのです。そこらへんはあなたたちで相談して決めると良いでしょうね」

「助言ありがとうございます」


 頭を下げたラムニーに、女王は頷きを返す。

 女王の助言は進とフィリゲニスにとっても嬉しいことだった。ラムニーが本能のままに進を求めると、フィリゲニスとの間に争いが生じかねなかったのだ。

 感情のまま横取りしようと動くのではなく、種族的なものからくる本能的な行動ならば、フィリゲニスも多少は理解を示すことができる。それでも自分を差し置いて動かれるのは嫌だ。事前にどうするか話し合いの場を持てるのは、ありがたいことだった。


「さて本題に入りましょう。昨日も話したように、私たちはあなた方の下に就こうと思います。私たちにできることならばどのようなことでも命じてください。かわりにローヤルゼリーの品質向上をお願いします」

「どのようなことでもってまた大きくでましたね。俺たちが無茶を言ったらどうするんですか」

「さすがに一族が滅ぶようなことは困りますが、できる範囲の無茶には従います」


 きっぱりと言い切ったことに進は女王の覚悟を感じられた。

 もとより無茶を言う気などなかったが、下手なことは言えないなと理解した。言葉通りに多少の無茶は実行しそうな気配を感じたのだ。自分の発言で誰か死ぬようなことになるかもしれない。その可能性を思うと進は迂闊なことが言えないと考える。

 進にこう思わせた時点で、女王は意図せず一族を守ることに成功していた。

 もっとも進が無茶を言わないだけであって、フィリゲニスたちが言わないという保証はないが。


「では昨日仲間と話し合ったのですが、労働力をもらいます。廃墟の住み心地をよくしたいので、その手伝いが欲しいのです。かわりにこちらからはローヤルゼリーの上質化とろ過せずに使える綺麗な水と栄養を含んだ通常の土を提供しましょう」


 水や土のことは廃墟に行けばばれるのだから、進たちから話してさらに恩を売る方向にしたのだ。

 女王は進の言葉が理解できず首を傾げた。ラムニー以外のナリシュビーたちも似たようなものだ。


「ちょ、ちょっと待ってください。後半になにかおかしなものがあった気がします。もう一度お聞きしても? あとそちらが上なので敬語などは必要ありませんよ」

「廃墟を住みやすくしたいから労働力が欲しい。こちらからはローヤルゼリーの上質化と綺麗な水と肥えた土を渡す」

「聞き間違いではなかったのですか。綺麗な水と肥えた土? え、どういうことなのでしょうか」


 聞き間違いではないとわかっても女王は戸惑う。一族だけではなく、この土地に住む生物なら誰もが欲するものがあると聞かされては、この反応も無理もない。

 戸惑うだろうなとラムニーが何度か頷く。


「それらは実在します。私がこの目で見ました。それを見て驚いたことが原因で私は羽を落とすことになりました」


 ラムニーは廃墟の池や芋が生えている広場について話す。


「本当にあるのですか?」

「本当にあります」


 女王は今よりも笑顔の子供たちが日の下で過ごしている姿を思い描いた。

 本当に、今聞いたことが嘘偽りないのなら、自身の選択は間違っていなかったと胸を張って言える。


「申し訳ありませんが、すぐに廃墟へと確認に向かわせて良いでしょうか? 本当なのだと知らせを受けたいのです」


 わずかに震える声で女王は進たちに頼む。

 進たちは条件を付けて了承した。水場を荒らさないこと、芋が生えている広場を荒らさないこと、この二つだ。

 頷いた女王はすぐに兵のナリシュビーを廃墟へと飛ばす。


「この話をしたらナリシュビーたちは拠点を廃墟に移すかもしれないとラムニーが言ってたけど、どうするつもり?」


 フィリゲニスが尋ねる。


「はい。きちんと確認が取れたら、そちらに住み着くと思います。よろしいでしょうか?」

「労働力となるナリシュビーが近くにいた方がありがたいから、反対しないわ」

「ありがとうございます」

「ただし家はないから、住居作りから始めないといけないわよ?」

「しばらくは野宿を覚悟しないとなりませんね。少しの修繕で使えそうな建物などありますか?」

「中央の建物がそうだけど、そこは私たちが使ってるわ」

「ではほかの建物を少しずつ修繕していくしかないですね」


 ほかにはまともな土があるなら花以外にも野菜を育てられると女王は考え、種や苗の捜索にも力を入れたいと思い、次々と予定が脳裏に浮かんでいった。

 その女王に進たちは、ローヤルゼリーを上質化したら帰ると告げる。


「わかりました。この出会いには感謝したいです。またすぐに会うことになると思いますが、そのときを楽しみにしています」


 女王は近くにいたナリシュビーに、ローヤルゼリーを保管している部屋へと進たちを案内するように命じる。

 進たちが用事をすませてナリシュビーの洞窟から去ってそれなりに時間が経過して、廃墟に向かっていた兵が帰ってくる。

 緊張した様子で女王はその兵の報告を聞いて涙を流す。すべて本当だったと安堵と喜びが胸を満たした。

 そんな女王に一人のナリシュビーが進み出て頭を下げた。それは運営の長だった。女王の判断を疑ったことを心底詫びたのだ。

 それを許し、女王は早速引っ越しなどの準備を始める。この先も苦労はあるだろうが、それに伴った成果も出ると希望を胸にして。

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