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2 いきなりバトル

 なにかに叩きつけられるような衝撃を受けて進は目を開く。


「うう、なんなんだよ」


 なぜ寝ているのかよくわからずに起き上がった進は緑のとても少ない荒野風景を見て、ぽかんとする。

 これまでの人生で一度も来たことのない場所にいる理由が、さっぱりわからず固まる。

 二十分ほどそのままでいて、疑問を感じながらようやく立ち上がる。手放さなかったビニール袋ががさりと音を立てた。


「えー? ここどこなんだ」


 誰かいるかと周囲を見てみるが、見えるのは土色と薄曇りの空の二色。隆起した土地のかなり遠くに山が見えて、道路や電柱といった日本で当たり前にあるものがない。

 感じられる空気も日本のものと違ったように思えた。

 そもそも日本にこんな場所があるのかと首を傾げる。

 本当になんでここにいるのか、倒れる前のことを必死に思い出す。


「あ、三人組と一緒に変な光に包まれたんだった」


 わけわからなさすぎて焦りすらできない。

 光に包まれてからどうしたかと思い出そうとして、ぼやけたイメージが浮かぶ。


「なんか暗いところでふわふわしていた気がするな。そこで誰かの声が聞こえていた? なにか言っていたはず……」


 思い出そうとするができずに進は大きく溜息を吐いた。

 誰か女の声を聞いたのは思い出せた。なにか大事なことを言っていたような気もする。しかしその内容がどうも思い出せない。

 もどかしく感じ、思い出そうとその場で考え込む進は、ぐうっと自身の腹が鳴ったのを聞く。


「夕飯食ってなかったなぁ。なにか食うとするか。少し落ち着けばなにか思い出せるかもしれん」


 がさごそとビニール袋の中身を漁り、つまみにと買っていた豆菓子を取り出す。

 ぽりぽりと豆菓子を食べつつ再度周囲を見渡す。


(少しでも高いところに行けばなにか建物でも見えるか?)


 豆菓子を食べながら、ここらで一番高く隆起したところを目指して歩き出す。今いるここにスーツ姿の自分は非常に似合わないだろうなと思いながら。

 空になった豆菓子の袋をビニール袋に戻して歩を進め、丘を上がる。

 じゃりじゃりと乾いた地面を踏んで空を眺める。晴れてなくて助かったと思う。吹く風は温かく、晴れていたら気温はすぐに上がりそうだ。日除けになるようなものがないこんなところで歩いていたらすぐに喉が渇くだろう。ペットボトルのお茶を買ってあるが、水の確保ができるかどうかわからないここだと大事な水で、できるだけ飲まずにすませたい。

 丘の頂上に到着し、進はそこから周囲を見渡す。


「なんもねえ」


 なにもないということはないが、進が望んでいた代物は視界内になかった。

 道路も電信柱もビルも車もなかったのだ。あるのは廃墟、その近くにある淀み濁った池、ぽつぽつ生えているというには少なすぎる雑草、枯れかけに見える木、遥か彼方に見える海らしきもの。そして動くなにか。


「ん? 動いているなにか?」


 風景に紛れ込むような土色の四足の獣が進のいる方へと接近していた。見ためは痩せたジャッカルだが、進にはわからなかった。


「犬か狐?」


 それは先ほどまで食べていた豆菓子の匂いを嗅ぎつけたのだ。

 餌を持っていると判断したそれは奪うため接近していた。

 そうとわからない進はなにが近づいているのだろうかとのんびり眺めている。しかしさすがに口から涎を垂らした様子が見えると、まずくないかと警戒する。


「なんかやばい」


 追い払えるものがないかと進は周囲を見て、ゴルフボールより大きな石を拾って投げつけた。これで逃げてくれと思いながら見ていると、ひょいっと避けられる。そして鋭い目つきで見られたことに進は気付いた。


「敵意を持たせただけ!?」


 これまで生きてきて敵意を持たれたことなどほぼなく腰が引けた。

 さっさと逃げたかったが、犬に追いかけられたことはあり、ああいった動物と人間の速度の違いはわかるため、どうにか追い払う方向で考える。

 もう一度地面から石を拾う。今度は小さめな石をいくつも拾って、距離を詰めてきているジャッカルのようなものに投げつけた。一度に複数を投げれば当たるだろうと考えての投擲だ。


「いよっし、当たった!」


 投げた石のいくつかがジャッカルのようなものに当たって喜ぶ。それでジャッカルのようなものは足を止めた。しかし逃げる様子はない。唸りながら進を見ている。


「逃げないのかよ!」


 こうなれば何度でも投げてやると思い、視線を外さず腰を屈める。

 それを隙と見て取ったジャッカルもどきが動く。地面を強く蹴って、進へと飛びかかる。大きく開けられた口にはずらりと鋭い牙が並ぶ。

 そんな牙に噛まれたらたまったものではないと、情けない悲鳴を上げて進は横に避けた。無理な体勢で動いたため尻もちをついた。

 着地したジャッカルもどきはすぐに進へと体を向ける。


(立って逃げないと。でも走ったところで逃げられないし。どうにかしないと、どうにか)


 命の危機だからか高速で思考し、野菜炒めに入れようと豚バラスライスを買ったのを思い出した。それをジャッカルもどきが食っている間にどうにか逃げる。そう考えて無理だと思う。

 しかし食っている間は自分から注意がそれるだろうと肉の入ったプラスチックトレイを取り出す。ラップを破って、匂いをかぎ取れるようにしてジャッカルもどきの注意をひくように動かす。


(よし、注意はひけてる。でも一時しのぎでしかない)


 ジャッカルもどきが今にも飛びかかってきそうでプラスチックトレイを投げる。

 落ちたそれにジャッカルもどきは飛びついて、プラスチックトレイに噛みつき中身を出そうとしているのか振り回す。


(時間は稼げている。今のうちにいい案を思いつかないと!)


 なにかあるかとビニール袋の中身を見て、すぐ目に入ったのは酒の入った瓶だ。


「これで殴りかかるか?」


 さほど頑丈そうには見えないボトルでぶっ叩いたところで意味はなさそうだと思えた。

 こうしている間にジャッカルもどきは、出てきた豚バラを食らっている。


(人間には豚の生肉は危ないけど、動物は平気なんだっけ。あれで腹を壊してくれればどうにか逃げられそうって思うんだけど、無理か。なにか食うことで体調を崩すものはないか……あ、酒だ。そこそこ度数の高い酒だから、一気飲みすれば酔ってくれるかもしれないっ)


 そうと決まればすぐに動く。待てば助かるわけじゃない。ならば動いてどうにかなると信じた。

 今手に持つ酒は強い酒だと自身に言い聞かせ、必ず泥酔すると希望をもって、進はいまだ肉を食べているジャッカルもどきの口にボトルをねじ込んだ。

 ドプドプと酒がジャッカルもどきの口へと流れ込み、溢れた酒が進の手にかかり地面に落ちていく。


「ウガウッ」


 不快だと言わんばかりに吠えて首を振って進の持つボトルを跳ねのける。

 食事を邪魔されてグルルルゥと不機嫌そうに唸り、進を睨みつける。


「駄目だったか!?」


 ジャッカルもどきが進に噛みつこうと突っ込む。邪魔者を排除して肉を楽しもうという考えだった。

 進は無様に避けて、持っていたボトルが地面に落ちる。それを気にする余裕などなく何度目かの回避で大きめな石を踏みつけてバランスを崩してしまった。

 転んで立ち上がる前に、ジャッカルもどきがとびかかってきて、進は仰向けの状態で手を突き出し、ジャッカルもどきの顔と胴を押さえて止める。

 間近に聞こえる唸り声と飛び散る涎。

 進は怯えながら少しでも遠ざけようと、ジャッカルもどきをめいっぱい押す。その抵抗にジャッカルもどきは力押しで対抗し、ガウッガウッと首を伸ばして噛みつこうとする。

 今の進はどうすればジャッカルもどきから離れられるか考える余裕はない。ただただ噛みつかれないよう腕をつっぱることに精一杯だった。

 必死な進にとっては長時間に感じられた攻防だったが、実際はそう長くはなかった。

 ある瞬間ふっとジャッカルもどきの力が弱くなる。噛みつこうとする意志はあるが、体に力が入らない様子だ。

 今しかないと進は足をジャッカルもどきの腹に当てて思いっきり押す。


「グギャンッ」


 悲鳴を上げてジャッカルもどきは倒れ込む。すぐに立ち上がったが、よろよろとしていた。

 はっはっはっと荒い呼吸を整えつつ、進はジャッカルもどきから目を離さず観察する。


「酒が効いてる?」


 特にダメージを与えるような行動はしておらず、ああなるのは酒くらいしか思いつかなかった。

 ジャッカルもどきは進が見ている先で、立っていることもできなくなったかとうとう倒れ込む。


「い、今のうちに逃げないと」


 そう考えて落としていたビニール袋を拾おうとして、一抱えくらいの岩を見つけた。


「このまま逃げても酔いが覚めたら追いかけてくるかもしれん。だったら動けない今がチャンスじゃないか?」


 生き物を殺すことへの忌避感はない。先ほどまでの命をかけた攻防で、そんなものを感じられる余裕はないのだ。

 進は重い岩を抱えて、ジャッカルもどきに一歩一歩近づいてく。

 進の放つ殺意を感じとり、ジャッカルもどきは逃げ出そうとしているのか足を動かすが、立ち上がることもできずにいる。


「これで終わりだ」


 進は頭部めがけて勢いよく岩を叩きつける。ぐしゃりと硬いものと柔らかいものが潰れる感触が岩を通して伝わってくる。岩の下からは血と肉の匂いが漂う。

 ジャッカルもどきの足は一度びくんっと動いたが、すぐに弱々しくなり動きが止まった。


「な、なんだこれ?」


 進は自身に起きた異常に驚く。重い岩を運んだ疲れがいっきに消えたのだ。疲労からくる腕の震えも、腰と足の強張りも、最初からなかったかのように消えた。

 なにが起こったのかさっぱりわからないまま、ビニール袋とボトルを拾うと廃墟へと歩き出す。

 進が去ってしばらくして、残ったジャッカルもどきの死体に鳥が集まって肉をついばんでいく。それに混じるように虫が集まってきて、肉に噛り付いていく。さらにジャッカルもどきとはまた違った獣が鳥などを追い払って肉を独占する。

 空腹が満たされ満足した獣がどこかへ行き、虫が骨に残った肉片を食らいつくし、ジャッカルもどきは骨のみになった。

 もし進がジャッカルもどきに殺されていれば、こうなっていたのは進だっただろう。

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[気になる点] 「進は頭部めがけて勢いよく岩を叩きつける」 これができるのなら、魔物の口に瓶を突っ込み酒を飲ます前にしたらよかったと思うよ。酒なんて一瞬で飲めるもんじゃないから、岩を頭に叩きつける時…
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