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19 酔いまかせウェディング

 砂を吐いた貝の下処理を進とラムニーがやり、ビボーンはまた貝を探して、フィリゲニスは魔法で高床式の小屋を作っていた。小屋を作ったあとフィリゲニスは芋を焼いて夕食を待つ。

 夕食の準備が終わって、昼の魚の残りと貝の酒蒸しをそれぞれが口に運ぶ。食べられないビボーンは日本酒を味わっていた。


「ちょっと物足りないな」


 酒蒸しを食べてそう言うのは進だ。ショウガやニンニクがなく、少し物足りなかった。それでも貝から出た旨味と酒と醤油が合わさって十分ではあった。その証拠にフィリゲニスとラムニーはとても美味しそうに口に運んでいる。


「十分美味しいけど。ね、ラムニー」

「はい。ここ数日でいろいろと美味しいものが食べられて幸せです」

「美味しいってことに異論はないんだけど、もっと美味しくできるんだ。でもそのための植物はここらにはないだろうし残念無念」

「植物かー、ここらで見つかる可能性はかなり低いでしょうね」


 見回りであちこちを飛んだラムニーが頷いた。


「土はどうにかなるから、種とか苗が手に入れば増やせるんだが。まあないものねだりしても仕方ないか」


 久々の海の幸を楽しもうと、日本酒とミードを作り出し、皆に振舞う。

 酔いが進み、ビボーンとラムニーは良い気分で眠っていて、進とフィリゲニスはちびちびと飲み進めていた。

 そうするうちにフィリゲニスが進に甘えだした。酔いで理性が緩んだのだ。すぐ隣に座り、互いに酒を注ぎ合い、接触が増えてくる。最初は手や肩が触れる程度だったが、フィリゲニスが軽くハグしたことをきっかけに接触が大胆になっていく。

 フィリゲニスはこういった接触を嫌がられないことが嬉しくて、どんどん進に触れていった。進は女の柔らかな体や温かさが性欲を刺激して離れるという気になれなかった。

 酔いで羽目を外したか、そのまま二人は酔いの勢いに任せて小屋から出て体を重ねていった。

 朝になり、砂地で隣り合って寝ていた二人は起きて、それぞれの反応を見せる。

 フィリゲニスはパートナーを得られたことを嬉しがって、進は酔いでやらかしたことに落ち込んでいた。

 そんな進の反応にフィリゲニスは不安そうに聞く。


「ススムは昨夜のことが嫌だった?」


 嫌ではないと進は首を振る。フィリゲニスに対して好意を持っている、そこに偽りはない。

 嫌っていたのなら、酔っていても昨夜のような行為はしなかっただろう。


「嫌じゃない。でも正直恋愛感情というより性欲に従ってやったからな、なんというか申し訳なさというか、フィズに対して不義理な気がする」


 フィリゲニスの喜びようを見ると、昨夜の行為を楽しんだのではなく、恋人といった繋がりを得られたことを喜んでいる。

 対して進はただただ女の体を楽しんだだけだったのだ。自分勝手で気分が沈む。


「今後恋人や妻として接してくれるなら、別に気にしないわよ。快楽を楽しむのは昔からあったことだし、酔ってもいた。恋愛感情なく楽しんだだけというのは無理もないと思うもの」


 責任を取らず逃げるというならフィリゲニスも怒るが、進にそういった様子はない。ならば許容できる。


「……結婚はまだまだと思っていたんだけどなぁ。今後ともよろしく」


 出会ったときからフィリゲニスは結婚を意識していて、そんな相手に手を出したのだから当然の結果だと受け入れる。

 嫌だという気持ちもないのだ。もうちょっとこう、きちんとした形で求婚したかったという思いはあるが。


「よろしくね」


 笑顔でハグしてくるフィリゲニスを進は受け入れた。

 同時に、地球へと帰還する気が減少する。

 地球に帰るとなるとフィリゲニスが同行できるかどうかわからない。向こうでなくした家族をこちらで得たのだから、進も手放したくはないのだ。

 なぜ自分がこちらに来たのか、こっちに来るときに聞いた声はなんだったのか。それらは気になるので知りたいが、それを知れるかもしれない神殿には行けたら行くといった考えになっている。

 ここに来た理由よりも、家族の方が優先度は高いのだ。

 子供ができた日には、育児や生活環境の改善で神殿のことなど頭から消えてしまうかもしれない。

 ハグを止めた二人は、体を洗うため魔法で浜に穴を開けて、海水を引き込み、真水に変えて汗などを流していく。

 そんな二人の邪魔をしないようにビボーンは芋を小屋の中で焼きながら、二人のはしゃぐような声を聞いていた。


 ◇


 ススムに受け入れてもらえてほっとした。

 酔った勢いでの行為だったから、なあなあですまされるかもしれなかったし。それはそれで意識してもらえたかもしれなかったけど。

 最悪は避けられ、逃げられることだった。せっかく封印が解けて新しい人間関係を築けるというのに、最初に出会った人がそれだと寂しいし悲しい。

 酔っているときのことははっきりと覚えているわけではないけど、それでもススムはただ行為を楽しんでいるだけに見えた。

 だから酔いが覚めてああして真面目に私との付き合いを悩んでいたのは意外だった。

 恋人や夫婦を得るということに、ススムにはススムの事情があるのかもしれない。いずれそれについて話してくれるのだろうか。


 しかし本当に今度を共に生きてくれる人ができて嬉しい。

 私は十歳を超える頃から人に避けられ始めていた。

 Ωの職号を与えられたように魔法に関しての才覚は小さい頃から飛びぬけていた。

 五歳とかで初歩の魔法を覚えたときは両親や周囲も喜んでくれた。果ては宮仕えかと期待もされていた。

 しかし十歳になる頃には、家族も知人も恐れの感情を抱いていた。そのくらいの年齢で、汎用大規模攻撃魔法も容易く使いこなせるようになり、魔物の群れを殺しつくせる実力があった。

 まあ大人になった今なら彼らの恐怖も多少は理解できる。子供の癇癪でその大魔法が自分たちに向けられることを恐れたのだろう。

 私がむやみやたらに魔法を使わないと知っている両親すら隠してはいたけど恐れは感じていたのだから、私のことを知らない他人からすれば恐怖の対象でしかない。


 今の私があるのは、両親のおかげであり、両親のせいだ。恐れはあっても私を愛してくれた家族。彼らに愛情を注がれ私は大きくなっていった。他者から愛情を注がれることの喜びを私はよく知っている。そう育てられた。

 だから私は他者との交流が良いものだと知っている。あの温かさや喜びを求める。それが欲しいのだ。

 恐怖され、いいように使われても、温かさが欲しくて人のそばにいた。一人で森で世捨て人として暮らすことなど私には無理だ。

 幸いにして友達はとても少ないながらいた。彼女も恐怖は感じていたようだけど、ほかの人よりその感情はずっと小さかった。私が悪いことをすればそれを注意してくれるような人だった。ほかの人は注意なんてすればどんな報復があるかとしてこない。陰口を叩くくらいだ。

 友達がいたおかげで幸せだった。恋人がほしくて結婚願望もあったけど、難しいこともわかっていた。

 私の力を利用しようと近づいてくる男性はいたけれど、私の仕事を見ていつのまにかいなくなる。

 そんな日々が続いて、友達と過ごせることの幸福感をストレスが超えて、荒れることも多くなった頃、友達からお見合いの話が飛び込んできた。

 先方は私のことを知ってもなお、お見合いを望んだと友達が言ったのだ。こういったことで嘘を吐く友達ではなかったから、私はすっかり浮かれて明るい未来を想像しお見合いの場に行って、そして封印された。

 身動きできず、意識のみがあるとわかって、封印されたと理解したとき、心の底から怒り恨んだ。

 もしすぐに封印が解けていれば、そこにいる人々を皆殺しにして、都市を破壊しつくしただろう。それで気がすんだかどうかもわからない。


 封印されてから長い長い年月が経過して、あるとき私に触れる感覚があった。

 肉体に直接触れたというわけではなく、薄く広がった私の感覚に触れるような感じだった。

 しばらくそんなことはなく気になった私は、深く沈めていた意識を浮上させて、触れてきた相手に接触させる。

 繋がった先では、見たことのない光景が広がっていた。かなりの速度で走る鉄の箱。ここではないどこかを映しているらしい箱。遠くの誰かと話せる薄い板。空を飛ぶ生物ではないなにか。

 全く未知の光景の中に人がいて、私に気づくことなく日々を過ごしていた。

 話しかけてみたけれど、まったく反応がなく、触れることもできない。意識のみだから当然と思ったのだけど、不意にそんな光景が消えて真っ暗になった。あの場から魔法で別のところに飛ばされたのかと思ったのだけど、そんな移動をさせられた感覚はなかった。幻を見せられたのかと考えているうちに、また別の光景が出現した。

 見たことのないものばかりという似た光景だけど、場所が違う。なんなのだろうと考えているうちに、また光景が変わっていった。

 そういったことを三度ほど繰り返して、観察していくうちに気づく。必ず同じ顔の男がいることに。彼自身特別なものは感じられなかったけど、なんというか自我がなく自動的なように思えた。

 そしてこれは彼が見ている夢か記憶なのだろうと推測する。そうと決まれば接触してみようとしたけれど、彼自身が夢だと気づいていないから反応がほんとんどなかった。こっちを認識しているような素振りを見せることもあったけど、夢に出てくる人物の一人と判断しているのだろう。こちらに接触してくることはなかった。

 けれどもとうとう機会が訪れる。彼自身がこれは夢だと気づいたらしく、周囲から人がいなくなって色も減る。そして私に注目している。

 コミュニケーションを取りたいから、声を出したつもりだったけど、届かないようで彼は不思議そうな顔でこっちを見てきた。

 どうにか意思疎通ができないかと身振り手振りで、自分がいる場所とかを伝えて、封印が解かれた。

 町は滅びていて生活は不便になったけど、久々の自由を得て、私を恐れないでくれる人がいるからプラスの方が大きい。


 私と夫婦になってくれたススムはこっちの世界の常識がない。

 魔物と一緒に過ごして、それをおかしいことと思っていないことからもそれはわかる。

 私を受け入れてくれた理由の一つは、常識に疎いということもあるんだろう。

 異世界から来て、廃墟近くに出現したということだから、こちらの常識を学ぶよりも生活環境を整える方を優先するのは無理もないと思う。

 生活を便利にしたいなら、廃墟を離れて町を目指した方がいいんだろうけど、そうするとススムが町で常識を学ぶかもしれない。そうなると私のことを怖がるようになるかもしれない。

 だったら多少不便でも町を目指す理由はない。

 ススムは神殿に用事があるみたいだけど、どうにかここに滞在してくれないだろうか。

 夫婦になってくれた人から怖がられるようになったら、私は向けられるその感情に耐えきれるだろうか?

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