終 そして続く人生
漁をしていたナリシュビーが西方に船を見つけて、漁を引き上げ急ぎで戻ってくる。その彼らによると見慣れない船だったらしい。
「見慣れない船とはどういったものだ」
「いつも見ている船は海人族が使っている、魔物がひくものです。あとはごくまれに遠くかなたに帆船も見かけることがありますね。ですが今回の船はどちらでもなかったです。帆はなく、魔物がひいているわけでもない。さらに大きさもこれまで見た中で一番でした」
進が想像したのはエンジンで動いている船だ。
「コテルガとかに話を聞いてみようか、こっちの大陸でそういった船が主流なのかどうか」
遠くから浜を監視してくれないかとナリシュビーに進は頼む。頼まれたナリシュビーは頷いて家から出ていった。偵察に出るのはコテルガから技術を仕込まれた者たちで、無茶な行動をしないだろう。
進も話を聞いてくることにして家を出る。コテルガや島組に話を聞いたところ、この大陸の船は帆船がメインで帆なしの船は水人族以外に持っていないだろうということだった。もちろんオールで進むものもあるだろうがそちらは小型で、浜に来ている船とは大きさが違うため、やはり隣の大陸のものだろうという結論になった。
隣の大陸から人間たちがやってくることは、風の壁が消えるとヴィットラが話していたときに聞いていた。
進はその情報をヴィットラから聞いたとまとめ役たちに話したが、ビボーンたちが言ったように信じてもらえなかった。だが実際に風の壁が消えて、本当だったのかと驚かれた。
ちなみにローランドにも話したが、勇者ということでそう言うこともあるだろうと少しは信じてもらえていた。
夜になってまとめ役たちを集めて、会議を開く。
「例の船からは人間が降りてきて、浜を中心に周辺を探っているということだった。そう遠からずここを見つけるだろう。そのときどういった対応をするべきだと思う?」
「対応ですか」
「難しいな」
ハーベリーとゲラーシーが悩む素振りを見せ、残るまとめ役も似たようなものだ。
監視していた者たちは、向こうが武装しているかどうか見たのか、敵対的な様子だったのか把握できたのか。そういった質問がまとめ役たちから出る。
それに対し報告を聞いていた進は、武装らしきものはしていたと返す。
「周囲を警戒し、手になにか見慣れないものを持っていたという報告が入っている。それが彼らの武器なんじゃないかな。魔導銃というやつかもしれないね」
「うかつに近づくと攻撃されかねないですな」
ラジウスが言い、皆も頷く。
「俺たちの村を見つけたら、向こうもそう思うかもしれないし、警戒はしても先に攻撃はしないでおこうか。まあ、わかりやすいほどに敵意を見せていればその限りではないけど」
それがいいなとグルーズは頷き、続ける。
「西の方を常に見張っておくのもいいだろう。攻撃意志をもってここに近づくなら発見は早い方がいい」
「ハーベリー、そんな感じで頼める?」
「承知いたしました」
ナリシュビーに頼みはしたものの向こうの技術次第では、ドローンに似たものがあってすでに村を発見して様子を探られているかもなと進は思う。
そのことを伝えて、いつでも動けるつもりでいるように、加えて地下避難所へ移動できるように指示を出し、解散になった。
そうして翌日の畑仕事中の進たちに、見張りをしていたナリシュビーが接近を知らせにやってきた。
進たちは畑仕事を中断し、村の西へと向かう。
報告をしたナリシュビーには、いつでも地下避難所へと移動できるように皆に知らせてもらう。
西にある畑の少し先に、進とビボーンとフィリゲニスとイコンが待機し、急ぎでそこの土を移動して壁と堀を作る。防衛の意味もあるが、これで警戒していると向こうも気付くだろうという考えだった。
作業を終わらせる頃には、ごつめなライダースーツのようなものを着た十人の集団がこちらを観察していた。彼らの手には猟銃のようなものがある。移動はバギーで、貨車を引いている。
「あの装備って魔法に対抗したものとかそういったことわかる?」
進は三人に聞く。
私はちょっと判断つかないと、ビボーンが答える。
フィリゲニスとイコンは魔法にも対応してそうだと答えた。
敵対したとき装備の質を上手く下げられるだろうかと思いつつ、進は彼らがどう動くと思うか聞く。
「見た感じ力押しはなさそうだけど、だからと言って安心はできないわね」
フィリゲニスにそうだなと返したその直後に、「あー、あー」と大きな声が周囲に響く。拡声器のような音質の声だ。一人の口元にタバコ箱くらいのものがある。あれで声を大きくしているのだろう。
『言葉が通じているだろうか。通じているのなら手を振って反応してほしい』
この大陸ではなまりで意味が通じないことはあるが、人間同士ならば基本的に同じ言語だ。
盗賊や暗殺者といった者たちは会話内容がばれないように独自言語を話すことはある。
そういった独自言語が生まれて使われていることを考えて、別大陸からの訪問者は尋ねたのだった。
「聞こえてはいるけど、どう反応したものかな」
「一応会話を望んでいると思えるし、手を振っていいんじゃなかろうかの。このまま見合うよりは進展があるじゃろ」
そうしようかと進は手を振った。
すぐに反応がなかったことで言葉が通じていないのかと訪問者たちは考えたが、反応があったことでほっとする。
『こちらはアズィリアス大陸ララダ帝国調査隊。風の壁がなくなったことを知り、長きにわたって遮断されていたこの大陸の調査に来た者だ。こちらは話し合いを望んでいる。受けてもらえるなら、近づくがいかがだろうか。了承してもらえるなら手を振ってほしい』
用件を伝えてきて、さてどう答えようかと四人は思案する。
「フィズ、こっちの声を届けるか大きくする魔法はある?」
「大きくする方ならあるわよ」
「だったら離れたまま会話は可能だな。とりあえず武器を構えたままの相手を近づけさせるのは遠慮したいと伝えようと思うけど」
いいんじゃないかと賛同を得て、進はフィリゲニスに魔法を使ってもらう。
「所属はわかった。だけど武器を構えた相手が近づいてくるのは遠慮願う。このままの距離で話を進めたい」
そう伝えると調査隊たちは顔を見合わせて相談し、わかったと返事をしてくる。
手にしたものを武器と判断できるくらいの知識はあるのだろうと、進たちの文明を推測している。
「そちらはなにを聞きたいんだ」
『いろいろと聞きたいことはある。まずここ以外に人のいる場所はあるのか。町規模のものがあれば嬉しいのだが』
「ここらの地方には町と呼べるものはない。村がもう一つある。町というか国を目指すなら船に戻り、海岸沿いに北か南を目指せば、緑豊かな地域がある。そこから上陸し、町なり王都なりを目指すといいだろう」
『ここらには町がないのか?』
思った以上に村や町の少ない土地に、素で聞き返す。
「ここら一帯の土地は捨て去りの荒野と呼ばれて、人や魔物にとって住みやすい環境ではないんだ。土地はかなり痩せていて、水もほとんど濁ったものばかりだ。補給を目的としているのなら、さっさと引き上げて移動した方がいい」
『ここら一帯とはおおよそどれくらいの範囲なのだろうか』
「そうだな……ここから徒歩で一ヶ月東に歩いても枯れた土地が続く。そんな感じだったはずだ」
この世界に来たばかりの頃に、ビボーンから説明してもらったことを思い出し答える。
一応隣のビボーンに確認すると合っているという返事をもらうことができた。
『土地の調査をしたいのだが、ここは大陸の中でも珍しい状況なのだろうか?』
「珍しいと思う。ここの状況を大陸で当たり前のものとして結果を出すと、のちのち困ることになるはずだ。緑豊かな土地の方が多い」
『どうしてこのようなことになったのか判明はしているのか?』
「人間のやらかしだな。やらかしが重なって数千年という長期間に渡ってここらの土地は荒れ果てている」
『数千年と言い切れる根拠はあるのだろうか。断言しているようにも思えるのだが』
「女神ヴィットラがそう言っていたからな」
進がそう答えると調査隊に動揺が見られた。
『女神ヴィットラと話すことができる者がこちらの大陸にはいるのか』
「俺は話せないが、大神殿というところには祈り巫女と呼ばれる人が女神ヴィットラとの会話を可能としている。そちらにはいないようだな」
『こちらは百五十年ほど前に祈禱神官と呼ばれる会話可能な人物がいたとされている。今はもういないが』
その時期の少し前から技術の発展が徐々に加速していき、生み出された物に頼り気味となり身体能力と魔力保有量がじょじょに下降していっている。
会話するために身体能力と多くの魔力を必要としているわけではない。必要とするのは魔力の質だ。
身体能力などが昔と比べて劣化したことで、質も下がってしまい祈祷神官になりえる人が減っていた。探すのも苦労することになり、見つけ出せなくなっているのだ。
こちらの大陸ならば祈り巫女の候補は一年に一人は必ず生まれる。その中で一番才が高い者が巫女となる。しかしアズィリアス大陸だと五十年に一人生まれるかどうかだ。
『すまないが大神殿はどこにあるか聞いてもいいだろうか』
もしかするとそこで女神ヴィットラと会話することができて、アズィリアス大陸の祈禱神官となりうる者がどこにいるのか聞けるかもしれない。その可能性を思うと、大神殿の場所は最優先で入手したいのだ。
「地図とかないんで大雑把になる。大陸をひし形と考えて、今いるのは左の角、大神殿は右と下の角の間になる」
おおよその位置を把握したのだろう、調査隊の面々は頷く。
『感謝する。詳細は現地で聞くことにする。ほかは国の特徴など聞ければ助かるが』
「ここは周囲から隔離されていて、交流はない。教えられるのは名前くらいだ」
島組やコテルガを連れてくればわかるが、めんどうだと思ったのでこのまま名前だけですませる。
『こちらから聞きたいことは最後になる。どうして風の壁がなくなったのか、この大陸では把握できているのだろうか』
「魔王が死んだからだ。魔王をこの大陸に閉じ込めるためあれはあった」
『魔王を? 実在したのか』
真偽を疑うように調査隊が言う。
魔王は大昔アズィリアス大陸にも出現した。そこでもこちらと同じように王にとりついて連なる種族を支配し、知識と技術の破棄を行っていた。
しかし千年以上前に風の壁ができたことで、アズィリアス大陸に魔王が出現することはなくなり、伝説やおとぎ話の中の存在になったのだ。
「いたが、最近死んだ。それでようやく風の壁は役割を終えた」
『それは女神ヴィットラからの情報なのだろうか?」
「そうだ」
『そうか』
聞いたこと全てを信じるわけにはいかない。受け入れ信じそうになる自身の心にそう叱咤し、深呼吸をする。
多く情報を、そして一面的ではなく多角的な見方を調査隊は求められている。得た情報が正しくとも、ここだけの情報で満足してはいけないのだ。偽りの情報でもそういった考え方をしているという参考資料になるのだから。
『……現時点で聞きたいことは聞けた。礼を言う。そちらから聞きたいことはあるかね』
少し待ってくれと言ってから、進たちは話し合う。
「あんたらがララダ帝国調査隊と名乗ったのを覚えている。アズィリアス大陸を代表して来たのではなく、一国の代表として来たと判断してよろしいか」
『ああ、その認識でかまわない。我らは風の壁がなくなったのを観測し、他国と話し合うことなく調査隊を出した』
「他国も観測していると考えても?」
『まあ、ないとは言わない』
「となればララダ帝国のように動き出すところもあるだろう。こちらを領土にしようといきなり殴りかかってきそうなところはあるだろうか」
『さすがに蛮族国家と呼べるようなところはない。だから最初は穏便に接触してくるはずだ。だが野心を抱いた国が皆無とも言えん。土地なしの貴族などは領地を求めるかもしれない。アズィリアス大陸にはない、もしくは希少なものがこちらでは手に入る可能性もある。宝の山と見る者は必ずいて、力尽くで手に入れようと思う者もいるかもしれない』
今後やってくるかもしれない調査隊にも警戒は続行だなと進たちは結論を出す。
聞きたいことは聞いたと調査隊に告げる。
『最後に聞きたいことというか頼みなのだが、いくらか水と食料の補給を頼みたい。もちろん対価は渡す』
大陸のお金はこちらでは使えないだろうということで、宝石や金のインゴットを持ってきたと言う。
それに対し進たちはどうしようかと話し合う。宝石などをもらってもいまいち使い道がないのだ。水人族とは完全に物々交換で、ローランドたちなら少しは宝石などでも物資の購入をさせてくれるだろう。
そういった話し合う様子を見て、調査隊は乗り気ではないと判断する。
『もしかすると食べ物や水がそう多くはないのだろうか』
「こんな環境だからそう多くないのは事実。でも宝石などの使い道がかぎられていてもらってもあまり嬉しくないというのもある」
『そうなのか。しかしこれ以外に対価に出せるものなどなくてな』
船には予備の武器や機材を置いているが、それを差し出すというのは技術流出で自分たちが罰せられそうなのでやりたくない。
『この村以外で誰でも補給できそうなところがあったりしないか?』
「一応ここからさらに奥地にノームの村はある。でもそこも裕福ではないんだ。だからあっちでも食料の補給は難しいだろう」
『すまないが、宝石などで頼めないか』
「こちらが出せる分でいいなら。そこまで多くはないぞ。あと食料は芋だけだ。今余裕があるのは芋だけなんでな」
『それでも補給ができるなら助かる』
少し待ってろと言って進はフィリゲニスと倉庫に向かい、ミカン箱くらいの大きさの土箱四つに芋を入れて、それをゴーレムに運ばせる。水も特大の土箱を作ってゴーレムに運ばせた。
ゴーレムをそのまま調査隊まで移動させて土箱を渡して、かわりに宝石などを受け取る。
調査隊は芋を貨車に運び込み、水をタンクに入れて去っていった。
「彼らはここらの調査をすぐに引き上げて、南に向かうことをトップに伝えるそうよ」
芋などを持ってくるまでに調査隊と話したビボーンが言う。
「補給が難しいと判明したからのう。そんな状況で調査は辛いものがある」
「そっか。なにはともあれ今回の接触は無事に終わってよかった」
今後来る調査隊も同じように終わればいいなと進が言って、フィリゲニスたちは頷き合う。
船に戻った調査隊は、まとめ役に進たちから聞いた話をすぐに伝える。
ほかの調査員からも補給できるようなところがほとんどないと聞いていたまとめ役は、引き上げようという意見を受け入れ、大神殿に向かうため南下することにした。
その道中で芋の食事可能かの調査が終わり、口にして質の高さに驚くといったことがあった。荒れた土地で得られた芋がこれほどなのだから、こちらの大陸の農作物はどれも質が高いのだろうかと期待があったが、他国で補給したものが自国と同じ質だったことで期待が外れた。
アズィリアス大陸からの第一接触後、進たちは何度かララダ帝国以外の国からの訪問を受ける。なかには未開拓の地と見下し武力をもって交渉を行おうとする者もいたが、フィリゲニスが即座に囲ませた大量のゴーレムの対処に時間を取られ、それで稼いだ時間を使ってビボーンが大規模攻撃魔法の準備を整えたのを察して、武器を放棄して降参することになった。
その後、ほかの調査員がやってきて進たちに詫びることなった。交渉失敗した者の独断ということだったが、一人に罰を押し付けたのだろうとビボーンがのちに説明する。
捕まえていた調査員は返し、放棄された武器は進たちが回収する。その後ビボーンが中心になって、リッカの力も借りて武器の解析を行う。
現状、進たちの技術では回収した武器の作成は無理とわかったが、向こうの武力の推測はできた。
回収した武器が最大威力ではなく、これを単純に巨大化したものもあると仮定したり、進が地球の武器をもとにしてこちらに当てはめたものを考える。その威力をリッカが地下の中枢機械を使って試算する。予測では、大きく威力を見積もってもフィリゲニスが魔法で守り、それを進が強化することで被害はでないと結論がでた。
それをふまえて、必要なのは奇襲されないように攻撃の兆候を発見することと皆が考え、フィリゲニスが察知関連の魔法を作り出し、見張りたちが習得するという流れになった。
それはローランドたちや海人族にも影響を及ぼしていき、そこから大陸の各国にも影響を与えていく。
結果、アズィリアス大陸に攻撃面で対抗するのは難しいから、まずは防ぐことを優先していこうという方向で対応が進むことになった。
またいくらか時間が流れてアズィリアス大陸という隣人が珍しいものではなくなる。
新しい文化や技術が大陸のあちこちで見られるようになり、隣人との小さな衝突も見られたが、ディスポーザルは以前とさほど変わらない風景が見られていた。
アズィリアス大陸としては小さな村でしかないと思っているそこと交流する理由が少なく、訪れる人がほとんどいないことでアズィリアス大陸からの影響が小さいのだ。
地下にある中枢機械や自我を持つワークドールのリッカのことを知れば、研究者などが押し寄せただろうが、進たちはアズィリアス大陸の現状の技術がまだ過去のものに追いついていないらしいと考えて秘密にしたのだ。
そのおかげでリッカと中枢機械をよこせと言ってくるような者もおらず、平和なものだった。
そんな平和な村で皆がそわそわとして、村中が落ち着かない雰囲気で満たされている。
誰もが進たちの家へとたまに視線を向ける。
家のリビングでは進が落ち着かない様子で、立ったり座ったりと繰り返している。
「あなたが慌てたところでなにもできないでしょ」
何度目か数えるのも馬鹿らしいが、ビボーンが進を宥める。
「そうだけどさ」
そう答えて椅子に座る。
「大変って聞くし、なにもしないで待つのもな」
「リッカや経験者が手伝ってくれているんだから、そうめったなことは起きないわよ。予め魔法で対処もしたでしょ。あとは待つだけなんだって、あなたも最初は落ち着いていたのに」
「そうなんだけどなぁ。ほかの人が慌てたとか落ち着きがなかったって聞いて、俺は大丈夫って思っていたけど駄目だった」
「まあ、そんなもんでしょうね」
笑みを含んだ声音でビボーンが言い、進は溜息を吐く。
そんなときイコンが壁を通り抜けて姿を見せる。
「生まれた! 生まれたぞ!」
それを聞いたとたん進は立ち上がり、駆けていく。
ビボーンとイコンは仕方ないなと苦笑を浮かべて、同じ方向へと向かう。
「生まれたって!?」
そう言いながら進は出産用に整えた部屋へと飛び込む。
ベッドに疲れた様子のフィリゲニスが横になっていて、ラムニーが赤子を抱いている。リッカと手伝いたちは使ったものを片付けていた。
騒がしい進のせいでラムニーに抱かれている赤子が泣き始めた。
「ああ、すまん!」
「私があやしていますから、ススムはフィズに声をかけてあげてください」
「頼んだ」
進は我が子を覗き込んで、力強く泣いている様子に笑みを浮かべた。ラムニーも元気な子供に嬉しそうだ。
「フィズ、お疲れ様」
「うん、無事に産めて安心だわ。元気な子でよかった」
「本当にな。あとは健やかに育っていってくれと願うのみだ」
「そうね、本当に大きな病気や怪我をせずに育ってほしいものね」
二人はラムニーにあやされている我が子へと笑みを向けた。
「ねえ、ススム」
呼びかけながらフィリゲニスは進の手を握る。それを進は握り返す。
「なんだ、フィズ」
「いろいろとありがとう。そして今後もよろしくね」
「こちらこそ。あの子以外にも子供はまだ増える。そういった新しい家族も加えて、賑やかに楽しくやっていこう」
自分たちだけではなく村の住民たちも楽しく過ごせるようにと進が言うと、フィリゲニスは頷いた。
「ええ、楽しみ。昔では想像できないくらい、未来が楽しみ。あなたに目覚めさせてもらって、あなたたちに出会えて本当によかった」
「俺もこっちに来てよかったと思っているさ。新しい友人、新しい家族、心暖かな暮らし。そういったものを得られた俺は世界一の幸せ者なんじゃないかって思う」
互いに幸せ者だと心の底から思う。
今後もこの幸せを続けていこうと願って、二人は部屋にやってきたビボーンとイコンが我が子を見ている様子を手を握ったまま眺めていた。
ディスポーザルは大きな異変に巻き込まれることなく、捨て去りの荒野がゆっくりと再生していく速度に合わせるように発展していく。
魔王関連の処理や大陸交流が落ち着いた各国が、勇者やΩの職号持ちを求めて接触してきたりもするが、進たちはそれに応えることなく、ディスポーザルを故郷として住民と一緒に過ごしていく。
平穏と小さな騒動。そういった当たり前の日常を人間も魔物も関係なく誰もが楽しみ享受した。
荒野にあった廃墟の姿はもうどこにもなく、人と魔物が共に暮らす穏やかな村として長く長く存続していくことになる。
感想と誤字指摘ありがとうございます
これで終わりになります
ここまで読んでいただきありがとうございました
アズィリアス大陸が出てきて世界は広がりましたが、進たちにとってはディスポーザルが大事な場所であり、あちらに行ってみたいといった興味を抱くことはありません
新しいところに行かずとも、村で起こる小さな騒ぎで十分楽しいと思えます
アズィリアス大陸に行くのは交流目的で仕事でいく人や珍しいもの好きな人種や冒険大好きな人種になるでしょう
アズィリアス大陸との交流も積極的には行わず、進は村の発展の方に集中します
そして進たちが村の基礎を作り上げて、のちに町となって、進たちの死後、ディスポーザルは国へと育っていくことになります
次に書くものは異世界転生・転移なし、チートなしの現地主人公。
十年以上冒険者っぽいものをやっていて、そろそろ引退を考えていたところ、若い子の指導をしないかという話が舞い込んでくるというものです
一ヶ月くらい書き溜めて、たぶんカクヨムで書いていくことになると思います
よければそちらもどうぞよろしくお願いします