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14 襲われていた虫人

 地下の石碑を壊した翌日。

 フィリゲニスの回復具合を確かめるため、魔法を使って拠点修理を行うことになる。ある程度修理できたら、海へと向かうという予定だ。

 さっそくフィリゲニスが集めた土に魔法をかける。


「集まれ、別れて、個となせ。アースブロック」


 できあがったものは三つだ。

 形はレンガで、大きさは三倍ほどの真ん中に穴の開いたブロック。厚さ五センチの座布団くらいの板。先を尖らせた長い棒。それらがいくつもできていく。

 本職ではないため本格的な修理は無理だ。ということでブロックを積んで、壊れた壁の向こうにもう一枚の壁を作るという修復になる。床の修復は割れた床板を除去して、新しく土で作った板をはめる。

 棒はどう使うかというと、重ねたブロックの穴に通して地面に刺し、ブロックの固定に使う。モルタルがないため、そういった固定法になった。

 

「できあがったものの質をあげてちょうだいな」

「りょーかいっと」


 ブロックと土の板と棒がそれぞれひとまとめにされていて、それらに進が長持ちするように魔法をかける。

 できあがったそれらをフィリゲニスが作った三体のゴーレムに作業場所まで運ばせる。

 ブロックなどが運ばれる間に、三人でブロックを置く地面に落ちている小石などをどけて、ならしていく。

 平になった地面にブロックを置いて行き、一段目が並ぶと、二段目を重ねていく。数十段ブロックを重ねて、最上段のブロックの穴から棒を入れる。ぴょこんと出た棒を大きな石をハンマー代わりにして地面に突き刺す。

 壁を一面作るだけで昼になった。


「ふー、あっついあっつい」


 まだまだ鍛錬の足りていない進にとっては重労働で流れる汗を腕でぬぐう。ビボーンは流れる汗がないし、フィリゲニスは余裕の表情だ。


「ほかのところも自分たちでやるのは大変だし、ゴーレムがやれるように行動パターンを組んでおくわね」


 もう少し早く終わるかなと思っていた作業だが、時間がかかったのでゴーレムも使って時間短縮することにした。


「お昼の前に汗をふきに池に行きたいんだけどいい?」

「いいわよ。芋の準備は私がしておくから、フィズと一緒に行ってらっしゃいな」

「ありがとー」


 綺麗にしたぼろ布を持って、二人は池に向かう。


「そろそろ塩の貯蓄がなくなるんだっけ?」

「そうだな。持ってきたものは小瓶サイズだし、毎食使っているから減りが早い。ここらに岩塩があったか覚えてないか」

「覚えてないわね。塩は海から得ていたはず。塩を作るための魔法は知らないから、海に行ってもどうしようもないんだけど」

「そこは心配しなくていいかな。ゴリ押しでどうにかなりそうだ」


 塩を煮詰めて、大雑把ににがりを分離して見かけだけでも塩にすれば、それの品質を上げて食べられるものにできると思うのだ。

 品質を上げた際に、抜け切れていないにがりが抜けてくれればラッキーだと進は思う。


「フィズには魔法で高火力の炎を出して、鍋に入れた海水を煮詰めてもらいたい」

「まかせて。塩は必要なものだし、やることは簡単だしね。でも塩だけじゃなくてほかの香辛料とかもほしいわよね」

「難しいと思うぞ。胡椒とか加工されたものは見たことがあるけど、自然のままのものは見たことがないものが多い。だから探しても見過ごす可能性がある。フィズは実物を見たことある?」

「ないわ」

「唐辛子とかわかりやすいものなら見つけられるかもしれないけど、そもそもここらには植物が少なすぎてなぁ。昔は植物はそこらに生えていたのか?」


 フィリゲニスが頷く。しっかりと思い出す必要もなく、そこらに草木が生えていたことを覚えている。


「生えていたわね。どういった種類の植物なのか気にしたことはなかったけど、たくさん生えていたわ。草花だけじゃなく、木もたくさんあった」

「それがすっかり荒れ果ててるんだもんな。昔の人のやらかしがここまで尾を引くとは」

「彼らの失敗と私の怒りが合わさった結果よね。こんなことになるならもう少し怒りを抑えておけば、とは思わないわね」


 フィリゲニスの怒りは正当なものだろうと進は頷く。

 話しながら歩いていると、フィリゲニスが池の方から異変を感じ、表情を引き締める。


「なにか騒がしいわ。いつでも退けるように構えていて」

「水場の争いで魔物が戦っていたりするんだろうかね」

「かもね」


 二人は足音を忍ばせて、池へと向かう。

 そこでは三体の魔物が人間を襲っていた。卵色のショートボブで二十歳にはなっていなさそうなその人間は二人に背を向けた状態で、池の浅瀬で魔物へと槍を向けていた。その槍は穂先が石で、魔物と戦うには頼りなく見える。何度も攻撃を受けたようで服には切り傷が入っていて、血も付着している。

 魔物は山猫のように見える。大きさは中型犬くらいか。獲物を逃がさないような位置取りでいつでも襲いかかれる体勢だ。こちらはダメージを負っていないようで、体のどこにも傷は見えない。

 進は襲われている方を人族の女と判断したのだが、フィリゲニスは虫人族の女だと言う。


「人族そのものに見えるけど」

「魔力の感じとあの子から離れたところに羽が浮かんでいるわ」


 フィリゲニスが指差したところに進は視線を向ける。そこには水面を漂う二枚の大きな羽があった。


「あ、ほんとだ。助けた方がいいよな?」


 進は自分では無理だとわかっているので、フィリゲニスに尋ねる形になる。


「あの魔物に苦戦するようなら、助けたあとに襲いかかられても問題ないわ。食べられるものとかの情報を聞き出せるかもしれないし、助けるってことでいいわ」


 ちゃちゃっとやってしまうと言って、人差し指を空へと向ける。


「魔力は矢となり、獲物へ、乱れ撃つ。エナジーアロー」


 二十センチほどの魔力の矢が十本出現し、それをフィリゲニスは魔物たちへと向けた。

 かなりの速さで矢が飛び、魔物たちへと突き刺さる。

 魔物たちは悲鳴を上げて倒れて、すぐに動かなくなった。

 虫人は驚いたように、矢が飛んできた方向を見て、姿を見せた二人を見つけると助かったと考え安堵したらしく、池の中に倒れ込んだ。振り向いた彼女の前頭部から触覚が二本出ていた。

 放置すれば溺れると、二人は急いで虫人に駆け寄る。

 抱き起こすと少し池の水を飲んでいたようで、咳き込んだ。起きない女を地面に寝かせて、大怪我していないかの診察を行い、傷口を水で洗い流し、持ってきていたぼろ布を包帯替わりにする。

 応急処置を終えた二人は用事をすませることにした

 進は羽を回収したあと、濡らしたシャツで汗をふいて、水を絞ってシャツを着る。

 フィリゲニスはここに来たついでだと、ドラム缶半分ほどの土の器を作り、次にゴーレムを作って器を持たせて水を汲む。


「さっぱりした。この人は連れて帰るしかないかな」

「ええ、私は周囲を警戒するから、ススムが運んでくれるかしら」


 頷いた進は女を抱っこしようとして、視界に入ってきた魔物の死体をどうするか尋ねる。


「持って帰りましょ。毛皮は貴重だし」

「使うにはなめし作業が必要だと思うんだけど、フィズはどうやればいいのか知ってる?」


 進は皮にくっついた肉をきちんとこそげ落とすことと、なめし液につける必要があるということくらいしか知らない。

 フィリゲニスは知らないと返し、続ける。


「ビボーンかこの子が知ってるかもしれないし、邪魔になったら捨てればいいよ。お肉が取れるだろうし、持って帰って損はないと思うわ」


 言いながらフィリゲニスは二体目のゴーレムを生み出して、三体の魔物を持たせた。

 拠点に帰ると、まだビボーンは戻っていなかったので、寝床に女を寝かせる。

 そこから出て、狩ってきた魔物の解体を始める。まだまだ下手だが一応毛皮と肉に分けることができた。

 この肉が食べられるかどうかわからないので、変質で牛肉に変えられるか少量の肉で実験してみる。肉片は食肉コーナーで見ていた牛肉の見た目と似たものに変化する。


「多分変化成功だ。薄く切って少しだけ食べてみよう」

「そうしましょ」


 進がフライパンを取ってくるとビボーンが焼けた芋を持って帰ってきていた。

 お肉お肉と嬉しそうにしながらフィリゲニスが魔法で火をつけて、フライパンをその上に持っていく。

 肉を二枚フライパンに入れて、ジジジッと焼ける音を聞く。しっかりと火を通し、軽く塩をふって先を尖らせた棒で肉を刺す。

 口元に持っていくまでに、熱で溶けた脂が地面に落ちていく。

 もったいないと二人は急いで口に肉を入れて、熱さにほふほふと口の中に空気を入れて冷ます。同時に脂の甘さが舌を通して感じられ、肉を噛むと塩と旨味が感じられた。


「ん-っ美味し! もっと焼きましょうよ」

「賛成といきたいんだけど、毒とかなかったかきちんと確かめたい。この変化が上手くいったのなら、今後もやっていくんだしな。特に舌が痛かったり痺れるようなことはなかったんだけど、フィズはどう?」


 今後の食生活に関わるということで、フィリゲニスは真剣な表情で口の中を確かめて、笑顔で異常なしと告げた。

 

「一応今日は少しだけですませよう。時間が経過して悪影響がでるかもしれないし」

「あー、そうね、うー……うん」


 残念そうにフィリゲニスは頷いた。


「傷んでしまわないよう、肉全部を凍らせてくれるか? 明日までなにもなければ明日腹いっぱい食べればいいんだし」

「わかったわ」


 力強く頷いて、変化させた肉と山猫の肉を凍らせていく。


「今日食べられないって知ってすごく残念そうだったわね」


 笑いを含んだ声でビボーンが言う。


「俺も食べたいけど、やっぱり完全に変わっているのか心配だしね。腹を壊す程度で済めばラッキーだけど、もっと苦しむようなことになったら治しようがない」

「そうね。今のところは大丈夫なのかしら」

「大丈夫だ。痛みも吐き気もない。このまま何事もなければ、酒でも出して楽しもうと思っているよ」

「三匹分もあるんだし、うまくいったらたっぷり食べられるわね。その魔物は水を飲みに来ていたのを仕留めたの?」

「いや、実は虫人が襲われていたんだ。それを助けた際に得た肉」

「虫人がいたの?」


 心底驚いた雰囲気で聞き返すビボーン。こんな土地に自分たち以外の誰かがいるとは思っていなかったのだ。


「いたんだ。あのままにはしておけないから連れ帰って奥で寝かせている。でも怪我の治療はしっかりできていないから、もしかするとそのまま衰弱していくかもしれない」


 私も見てくると言ってビボーンは、芋を渡して寝泊まりしている部屋へと向かう。

 肉を凍らせたフィリゲニスに芋を渡して昼食を済ませた頃に、ビボーンが戻ってくる。


「ちょっと危ないかもしれないわ」

「あー、治療の魔法とかないの?」


 進が聞くとビボーンたちは首を横に振る。あったらフィリゲニスが使っていたはずで、進はすぐに納得する。


「生物が持つ治癒能力を促進させる魔法はあるんだけど、体力を持っていくから血や栄養が足りない現状は使うとむしろ危険なのよ」

「あの子が目を覚まして、種族的な好物とか聞けて、それを準備できれば使えるんだけどね」

「目を覚まさないでそのまま衰弱していったら、もうどうしようもないってことか」


 助かってほしいと言う進に、二人は頷いた。

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