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138 再びの大神殿

 時は流れ二度目の冬も終わり、春がくる。

 去年のような厳しい寒気が起こるかと進たちもローランドたちも警戒していたが、去年だけのものだったのか、それともいくつかの条件がそろわなければ起きないことなのか、例年通りの冬ですんだ。

 そんな冬までの間に、移住者は増えなかったが来客はあった。

 魔王からの刺客という招かれざる客ではない。リッチは一応刺客を送ろうとしたが、琥太郎たちやリベオの動きで有力な魔物が倒されていき、そちらに戦力を使うことで捨て去りの荒野に送り込む余裕がなくなっていったのだ。

 客とは大神殿の人間だ。大神殿からディスポーザルへと旅をしていた大神殿の人間が村にやってきたのだ。

 道中で、進が大神殿に来たという連絡は受け取ったが、一度捨て去りの荒野の現状とディスポーザルを自分たちの目で確認したいということで帰らず旅を進めたのだった。

 そうして水人の交易に同行し、シアクと一緒に浜に現れた彼らを進たちが出迎える形になった。

 大神殿の人間と一緒に捨て去りの荒野を調査したい学者も同行していた。彼は村のボウリング場を見て、このようなものが昔はあったのかと感心し、進にそれは自分たちが作ったものだと突っ込まれ、恥ずかしそうにしていた。ボウリング場はこの大陸ではここだけにあるので、勘違いも無理はないのかもしれない。

 調査を終えた大神殿の関係者と学者は、地下の機械やワークドールのリッカに気づかず帰っていくことになる。気温の調整は魔法でやっているのだろうと思い、リッカはワークドールと名乗ることがなかったので気づかれなかった。

 学者は残ってもっと調べたいと言っていたが、進の働かざるもの食うべからずという言葉を受けて帰ることになった。

 進も学問や研究が不要とは言わないが、学者は調査ばかりやって村のためになることをやらないだろうと思えて、滞在を却下したのだ。学者のような存在はもっと村に余裕ができたときに受け入れるものだろうという言葉に大神殿の人間も納得していた。

 

 雪が解けて暖かくなりローランドが大神殿に向かうため迎えにやってくる。

 今回は前回の三人に加えて、ガージーも同行する。

 ガージーの背に乗って、大神殿へと飛ぶ。

 琥太郎たちにお土産もある。醤油とみそ汁だ。みそ汁は日持ちしないが、醤油はある程度日持ちするから喜んでもらえるかなと進は思う。

 今回も町の人間の注目を受けつつ、大神殿の庭に下り立つ。

 町の人間と違い、大神殿の者たちはそろそろ進たちが来訪すると連絡を受けていたので、前回のような高い警戒は見せずにいた。醤油などの入った二つの壺は不思議そうに見ていたが。

 応接室に通すように対応を決められていて、兵たちはそれに従って進たちを応接室へと案内する。

 そこでお茶と菓子を出されて待つこと十五分ほどで、数人の気配が部屋に近づいてくるのを進たちは感じ取った。

 ノックされて、進が返事した方がいいのかとフィリゲニスたちに聞き、頷きが返ってきたことで返事をすると扉が開く。


「こんにちは」


 前回も会ったファガレットが中に入ってすぐに挨拶する。その彼女の後ろに琥太郎たちとバーンズがいる。ホルドミットの姿がないのは神殿を留守にしているからなのだろう。


「こんにちは、ファガレットさん」


 見知った相手に進が挨拶をして、後ろの若者たちが勇者たちなのかと尋ねる。

 琥太郎たちも部屋に入ってから四人目の進に注目していた。

 感想としては普通というものだ。一緒にいるフィリゲニスとローランドたちの存在感に進の印象が薄れるのだ。捨て去りの荒野でよく生きていけているなと思いながら進を見る。


「はい。彼らが大神殿に現れた勇者です」


 挨拶しますかとファガレットが琥太郎たちに聞き、頷いた彼らが一歩前に出る。


「初めまして、でいいんでしょうか。小掛琥太郎です」

「見通寺淡音です」

「葵桜乃です」

「鷹時進だ。初めましてでいいんじゃないか。召喚前は少し声をかけただけで挨拶なんてしてなかったしな。あのときはちらっとだけしか見なかったが、ずいぶんと鍛えられたように見えるな」

「ここに来たばかりの頃よりは強くなった自覚はあります」


 ただの高校生だったときと比べたら、いろいろと経験し鍛えた今の方が強く見えて当然だろう。


「そちらは俺たちと違って、ただ鍛えればいいだけではなかったようで。大変だったのではないですか」

「俺一人だったら野垂れ死にしていただろうけど、出会いに恵まれてどうにかなったよ。今では食料事情もまともになりつつあるし」

「隣に座っている方が奥さんなのでしょうか?」


 淡音が聞き、フィリゲニスが頷く。


「フィリゲニス。ススムと結婚している一人よ」

「Ωの職号持ちとも聞いています」

「ええ」


 当たり前のように頷いたフィリゲニスを見て、嘘などついていないと琥太郎たちは確信を持つ。


「それでそちらの黒髪の方が大烏公なのでしょうか」

「おう、大烏公と呼ばれているな。こっちは俺の右腕のガージーだ」


 ガージーは小さく一礼のみを返す。

 思わず琥太郎たちは探るように二人を見る。実力を見抜こうとしたのだが、強そうだということ以外わからなかった。

 それを無礼と言わず、ローランドたちはなんでもないように受け流す。


「こっちからもいいか? そちらの男性は?」


 進がバーンズを見て言う。精霊人族なのだろうかと内心思っている。


「彼は私たちを鍛えてくれている方で、士頂衆の弟子でもあるバーンズさんです」

「バーンズだ。精霊人族なので魔王戦には同行できないため、そう接することはないと思うがよろしく頼む」

「よろしくお願いします」


 最後にコロドムが挨拶して、全員椅子に座り、話が始まる。


「私が主導で話を進めさせていただきます」


 よろしいでしょうかとコロドムが言い、皆が頷いたことでそのまま続ける。


「まずは各自の成果の報告をしたいと思います。琥太郎様たちからお願いします」

「俺たちに課せられたのは鍛錬。前線とかで強い魔物と戦ったりして、自己鍛錬も行い、地力を高めた。魔王軍の幹部という奴らとも戦って勝つことができた。これによって勇者がいるということを示すことができたそうだ」


 琥太郎たちの活躍はしっかりと前線から各国へと伝わって、勇者は立派に活動していると周知されるようになっている。

 前線で助けられた兵たちの感謝もヴィットラのもとに集まっている。それだけでは帰ることはできないが、予定外のことが起きたら気軽に連絡を入れられるくらいの力はヴィットラのもとに溜まっている。


「俺が魔王への戦いを止められたのは、そちらの準備が整っていなかったからだ。今の報告は準備が整ったとみなしていいのか?」


 ローランドの質問を受けてコロドムは頷いた。


「はい。各国への通達も済んでいますので、それぞれ進軍の準備を整えています。今すぐというのは難しいですが、あと二ヶ月後には各国の軍が前線を超えて魔王のいる城へと陣を構えているでしょう」

「そうか」

「二ヶ月というのは待たせすぎでしょうか」


 返事の淡白さが気になってコロドムが聞く。


「いや、長生きしていればそれくらいは長く待つといううちに入らん。ただそれくらいかと思って気のない返事になっただけだ」

「そうでしたか。こちらからの報告はひとまずこれくらいです。次はそちらのお二人の成果を聞かせていただければと」


 コロドムに視線を向けられた進とフィリゲニスは顔を見合わせ、どちらが先に話すか決める。


「じゃあ俺から。魔王の守りを変質できるであろう魔法はできあがっている。魔法の鍛錬も以前来たときからやり続けた。だから魔法を使って魔王にまったく効果がないということはないはずだ」


 推測になるのはどうしてだとガージーが聞く。


「実際に魔王に使わないかぎり断定なんてできないからですよ」

「ああ、なるほどな」

「次は私ね。私の方もできあがっているわよ。魔王が死んだあとに魂を捕らえる魔法とその魂を封じる魔法の二つ。封じる代物の加工も終わっていて、いつでも使えるわね」

「本当にできあがったんですね。私も魔法を専門にしていますが、どんなふうに魔法を作り上げればいいかわかりません」


 目を丸くして桜乃が言う。


「魔法を作るのはそう難しいことじゃないわ。作りたいものを思い浮かべて魔力をあれこれと形作ればそれなりになるものでしょ」

「そう言い切れるからΩの職号を与えられたのでしょうね」


 ファガレットはフィリゲニスが言うほど簡単に魔法は作り出せないとわかっている。

 進も対魔王用の魔法を作っているが、もともとそのために与えられた力であり、変質に特化しているからできるのだ。


「少なくとも魔法の才は長く生きている俺たちよりも上だろうな」

「ええ、そうでしょうね」


 ローランドたちもフィリゲニスの才を認める発言をして、フィリゲニスに賞賛の視線が集まる。

 その視線を受けた当人はやれて当然のことを褒められてもねと表情を変えずにいた。


「皆、成果はでたということで喜ばしいことです。次は魔王討伐に関しての話しです。魔王と直接対峙するのは大烏公ということで各国に通達し、本当に大烏公が動くのかといった疑惑の返事がありましたが、まあ当然のことですね。何度か各国とやりとりして嘘ではないということで話を進めています」

「その決定に人間が疑惑を抱いても、俺は勝手にやるぞ」


 ローランドが人間の意見を重視する必要はないのだ。

 それは大神殿の人間たちはわかっていたので、各国にもそう伝えてあった。


「はい、承知しています。私たちにあなたがたを止めることはできないでしょう。勝手に動かれて、準備ができていないタイミングで大きな戦いが起こるのは困るだろうと各国には言って動きを合わせるようにしています。しかし各国からは魔物と一緒に戦えるのかという疑問の声も出ています」

「それはこっちも不安に思うところだな。人間は魔王軍とこちらの見分けは難しいだろう。だから我らは北から攻めるつもりでいる」

「北からですか?」

「一緒に行動して危険があるのならば、もう最初から別々に動いた方がいいだろう。こっちは飛べるものに運ばせて海側に陣を構え、空と陸から城を攻める。そちらは南から陸路を行けばいい」


 コロドムたちはそれに頷く。

 人間たちは陸路で行くしかないのだ。各国との話し合いも南から城へと攻め上がるという方針だった。


「その方がいいでしょうね。同士討ちの心配もありませんし、魔王の目が南北に向いて、勇者様たちも動きやすくなります」


 魔物と一緒に戦えるのかと今でも不安を感じている者は、その方針の方が安堵できるだろう。


「各国にはそのように伝えます。きっと賛成の返事が得られるでしょう」


 コロドムは少しだけ迷った様子で続ける。


「承諾した国の中にはあなたが留守のうちに山に攻めるところもあるかもしれません」

「あるかもな。だが全部の戦力を連れて行くわけでもないし、ガージーという俺の次に強い奴は置いていく。留守中に攻めてきても痛い目を見るだけだと言っておこう。魔王軍に対しては共闘状態だが、だからといって攻めてきた人間に遠慮をする気はない」


 これまでの人間の動きからして留守中に攻めてくるのはありえることなので、警戒は当然のものだった。

 人間たちへの対応もガージーたちと話し合っていたのだ。

 

「想定していましたか」

「ああ、長く生きてお前たちという存在を見てきているからな。気持ちよく付き合える者もいれば、外道としか思えない者もいる」

「鷹時さんたち以外の人間とも付き合いあるんですか?」


 桜乃が好奇心から聞く。


「あるぞ。俺はまれに人間の町へ遊びに行く。情報収集もかねてな。そんなとき親切な人間と会うこともある。そういった人間には何度も会いに行く」


 そうだったんですねと言ったあとにファガレットは大妖樹もそういったことをしているのか聞く。


「婆さんは基本的にあの森から動くことはない。本体が大地に根付くものだからな」

「親類というわけではないのですよね? それなのに祖母と呼んでいるのですか?」

「あれとは付き合いが長い。自然とそういった呼び方になっただけだ」


 なるほどとファガレットは頷いた。

感想と誤字指摘ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] 遂にすべての勇者が出会いましたかー 紆余曲折はありましたが無事に出会えたのが何よりですわ ディスポーザル側はしっかりと魔王への備えは出来てるようですが高校生達はどれくらい鍛えられたんだろう…
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