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136 避難訓練

 進たちが大神殿での用事を終えて、村に帰るまでの話題の一つは魂を捕らえる魔法に関してだった。


「あいつらにはできると言っていたが、なにかしらヒントになるような魔法でもあるのか?」


 日が傾き出した空を高速で飛びながらローランドは聞く。魔法を使った会話で、耳元で風に影響しないクリアな声が聞こえてくる。

 それにフィリゲニスは首を横に振った。


「魔法はないわ。でも魂を捕らえるという代物には心当たりがある」

「呪銅の核?」


 もしかしてと進が心当たりを口に出すと、フィリゲニスは肯定する。


「あれを解析して、媒介にした魔法を作れば上手くいくでしょ」


 おおよその形はすでに頭の中にあるのだろう、あっさりと言う。


「大昔の人間が遺したものだったか。魔王討伐に使われるとは思っていなかったろうな」

「でしょうねぇ。あれは一応生き抜くための研究でしたし、封じるという行為は想定外でしょう」


 なにが役立つのかわからないと進は感心し頷く。


「魔法はどうにかなりそうだけど、そちらは本当に魔物たちを魔王討伐に動かせるのかしら?」

「動くさ。魔王軍に迷惑をかけられている魔物がいるのは本当だからな。潰せるなら潰したいと考えている奴らはいる」


 リッチは魔王軍の戦力を整えるため魔物の群れをたびたび捕まえている。人狼のように捕まる魔物もいれば、抵抗に成功する魔物もいる。しかしリッチは一度抵抗されても二度三度と向かう。そんなふうに何度跳ねのけてもやってくるリッチを魔物たちは鬱陶しく思っているのだ。魔王軍を潰すことで、そのちょっかいがなくなるなら、話に乗ってくる者はいる。


「ちょうど結婚で集まっているからな、今回のことを伝えるとするさ」

「こっちの準備はまだできていなんだから、早まって魔王軍に突っ込んでいかないでよ」

「わかってるさ」


 日が沈んで少しして進たちはディスポーザルに到着する。

 ローランドはそのまま山に帰らずに、フェマルに会うため一緒に家へと歩く。

 フェマルも同席し、大神殿での話と今後の予定を話して、ローランドは帰っていった。

 その話の中で、フェマルたちは明日山に帰ることになる。村は復興で慌ただしいので落ち着けないだろうという理由からだ。


 大神殿での用事を終えた進はまとめ役たちに大神殿での話をしたあと日常に戻る。

 午前中はいつもの畑仕事、午後からは各所の修復具合を確かめるため村を歩き回っていた。

 一番修理が早かったのは、建築や大工の技術を持つノームたちだ。そのノームたちに技術を教わったナリシュビーたちも自分たちの住処の修復を手早くすませる。

 その彼らがほかのところに手伝いに向かい、復興は順調に進む。

 怪我人も隣人の看護とフィリゲニスの魔法のおかげで、失われた部位以外は全て治っている。

 そうして日々を過ごし、魔王軍と思われる魔物が襲いかかってくるようなこともなく、また日常が戻ってくる。

 日常は戻って来たが、以前のままではない。

 見回りに出るナリシュビーたちは警戒心を高めているし、漁に出るナリシュビーには護衛が同行するようになっている。

 狩りに出る魔物たちも人数を増やしている。

 村の中でも変化が起きている。ノームによって櫓が四方に建てられて、見回り以外でも見張りを行うようになっている。暇ができたらでいいので、ブロック壁の続きを作ってほしいという声も聞こえていた。それはフィリゲニスが捕獲の魔法に集中しているので無理だったのだが。

 ならば自衛手段を求めようという動きが住民たちに出てきている。

 今日も畑仕事を終えて昼食を食べた進はイコンと一緒に村の見回りをしていく。

 そんなとき花畑の近くを通ると声をかけられる。


「村長、こんにちは」

「こんにちは。だいぶ動きが良くなったな」


 挨拶をしてきたのは足を失ったナリシュビーだ。石でできた簡素な義足をつけていて、歩く姿は少しだけ不自然といった感じだ。


「ええ、ようやくといったところです。私は羽があるからまだいいんですが、飛べない人は大変そうです」

「少しずつ慣れてもらうしかないなぁ」

「まあ、そうですよね。命があっただけましとも言えますから」


 洞窟暮らしのときは、足を失うような大怪我をするとそのまま死ぬことも珍しくなかったのだ。あのときと比べると今は栄養状態も治療環境もましになっていて、生き延びる確率が上がっている。


「怪我は治っても、当たり前にあったものを失って精神が不安になっているだろうし、気にかけてやってくれ。もちろんお前さんも不安を感じたら誰にでも相談するんだぞ」

「わかりました。ハーベリー様も皆に言ってくれていますから、不安になったら友人に頼ることにします」


 それがいいと言って進は別のところへと向かう。怪我人に会っていき調子を聞いて、最後に向かったのはルアのところだ。


「こんにちは」

「あ、村長。いらっしゃいませ。お爺ちゃんに用事ですか? スカラーさんのところに行って留守ですけど」


 助けを求めたとき受けてくれた礼として仕事の手伝いに行っているのだ。

 あのときの騒動で少しは人間と魔物の距離が縮まっていた。


「いや今日もルアの様子を見に来たんだ」

 

 怪我は治ったとはいえ頭部の怪我だ。後遺症が出ていないか足を運んで確認していた。


「何度もありがとうございます」

「脅すつもりはないけど突然異常が出てくるかもしれないからね。まあ、数日経過してもなにも異常がでていないと聞いているし大丈夫とは思う」

「このままなにもないといいです。ほかの怪我をした人たちはどんな感じなのですか?」

「嬉しいことに、今のところ異常を訴える人はいないね。周囲のフォローもあって精神的に大きく荒れている人もいない」


 よかったと頷くルアはふと思い出したといった感じで進に聞く。


「そういえば私が気絶したときお爺ちゃんが人を呼びにいったそうで、その動きがすごかったと」

「魔法をかけたからね。一時的に体を若くしたんだ」

「そんなこともできるんですね」


 進の魔法は効果が永続するのが基本だが、この魔法は一時的なものになっている。

 フィリゲニスによると、常に肉体は変化していて、それを留めて若いままでいるのはかなり難しいのだろうということだった。

 それだと素材にかけた魔法も武具や薬として加工したとき解けそうなものだが、常に変化している肉体とは違い、変化頻度は少ないということで大丈夫なのだろうと説明された。


「強化する方向でもよかったけど、あれ体力までは強化しないからな」


 すぐにばてると思い若い肉体へと変化させたのだ。


「三日くらい体が楽だったとお爺ちゃん言ってました」

「年をとってあちこち少しずつ悪くなっていたんだろうな。その悪いところがなくなっていたんだから楽に感じるのは当然か」

「若返らせることができるってことは、一時的でも怪我をなかったことにできるんでしょうか?」


 進の魔法を時間を巻き戻していると認識したルアはそう言う。

 しかしイコンが否定した。


「あれはそういった類のものではないのう。怪我をした状態で若返りの魔法をかけると、怪我はそのままで若返る可能性が高い。若い頃に変身したり戻す魔法ではなく、若い頃と同じ状態に体を変化させるというものじゃろ」

「そんな感じなんですね」


 なるほどと頷くルアを見て、進はまた別のところに行こうと席を立とうとする。それを見てルアはもう一ついいですかと尋ねる。


「なんだい?」

「怪我を負ったから安静にするように言われていたじゃないですか。それでいつもより少なめな家事と農作業だけやっていましたけど、もう普段通りに戻していいのかなって」

「いいと思う。ただし少しでも不調を感じたら中断して医者に相談すること」

「わかりました。夜に行われている魔法の講座にも出ていいんですよね」

「いいんじゃないかな。ルアも魔法を習うのか」


 ルアだけではなくほかにも魔法を習う人は増えていて、ビボーンの魔法講座は人が増えていた。

 自衛の手段を求めた影響だ。

 ほかには怪我の応急処置ができるようにと、エトワールたち薬師のところにも人が集まっている。


「はい。戦うことは無理だと思いますけど、少しでも身を守れる手段はほしいと思ったので」

「魔法の盾を生み出すことを目的にそれだけをやるなら、ゼロから始めてもそう時間はかからぬ。焦ることなく地道にやっていくようにな」


 イコンからの助言にこくんと頷くルアにいとまを告げて、進とイコンは家を出る。

 怪我人の確認は終わり、最後に向かうのは村の外れの空き地だ。

 そこには人間と魔物が入り混じって土を固めてできた棒を振っていた。棒の長さは大雑把に二種類。剣と槍を想定した長さだ。

 リュンが以前からやっていた訓練だが、ここにも人は増えている。


「村長」


 訓練する者たちに声をかけていたリュンが進たちに気づいて近づいてくる。


「やあ、調子はどうだ」

「盛況すぎて困っている状態ですね。指導役が俺一人しかいないのは困りものです」


 剣と槍を想定した棒なのも、リュンがその二つの技術しか習得していないからだ。弓も使えないことはないが、そちらは村の住人の方が上手かった。


「住人に剣とか使える人はいただろう? その人に指導役に回ってもらうのは?」

「すでにお願いしてあるんですが、ほぼ我流ということで教わるなら正統な技術の方がいいだろうと断られたんですよ。模擬戦の相手ならするとは言ってもらえましたが」

「そっか。まあ、最近習いに来た人は護身術を求めてだろうから、本格的な指導はしなくていいんじゃないかな」


 逃げるための時間稼ぎや防御の術を覚えたら満足するだろうと言うと、リュンも頷く。


「ここにきたのも。突然の事態をどうにかやりすごせる手段を求めてでしょうからね。先日のような事態でどう動けばいいのか指針があれば、住民も少しは安心できるのかもしれませんね」

「なるほどな……避難訓練してみるか」

「避難のための訓練ですか?」


 こちらの世界では避難訓練はないのだろう、リュンは不思議そうだ。


「ああ、俺の故郷だと災害時にどう行動したらいいのか教えるんだ。実際に災害が起きたらその通りに動けるわけじゃないだろうけど、それでも知識があるとないとじゃ違ってくるだろう」

「いいのではないかと思うぞ」


 イコンも賛成だと言う。


「それじゃまとめ役を集めてそれを知らせるか。今日はこれから事前に決められることを家で話そうかね」

「うむ」

「どんなことをやろうと思っているんです?」

「この前のような襲撃のときの動き方は当然として。地震対策、は必要ないか。滅多に起きないって話だしな。火事のときの行動とかだな。故郷だと煙を吸い込まないようにして移動するといった感じだったけど、こっちではどんな感じで火事のときは動くんだ?」

「似たようなものですね。煙を吸い込まないようにして、水の魔法を使える人で火を消す。魔法使いがいない場合は燃え広がらないように、周りの建物を壊すとかですね」


 破壊消火かと、歴史の授業で聞いたことを進は思い出した。


「浴場関連で水の魔法を習得している人もそれなりにいるし、この村では壊して消火はしないかな」

「家の素材も燃えにくい物ですから、そこまでする必要はないかもしれませんね」

 

 鍛錬をしていた者にリュンが呼ばれたことで、話を終わらせて進はイコンと家に帰る。

 家にいるのは地下で呪銅の核の分析をしながら魔法を作っているフィリゲニスと家事をしているリッカだ。ラムニーはナリシュビーの手伝いに行って、ビボーンも修復の手伝いであちこちに行っている。

 家事をしているリッカも交えて、避難訓練について話しているうちに出ていた二人が帰ってきて、フィリゲニスも地下から出てくる。

 皆がそろうとリッカは夕食の仕上げを始める。


「フィズにも話しておこうか」

「なにかしら」


 避難訓練をしようと思っていること、いざというときのシェルターを作ろうと思っていること、同じく盾にできる頑丈な建物を作ろうと思っていることなど、リッカやイコンと話し合ったことを伝える。


「シェルターは穴を掘ればいいとして、頑丈な建物はどうするつもり? 金属製の建物でも立てれば頑丈だと思うけど」

「そんなたくさんの金属はないから、金属の線か棒を壁の中に仕込もうかと。今の建築材料は土や石だけだろう? それよりは頑丈になると思うんだ」


 コンクリートの作り方を覚えていればそれも使用したが、進は覚えていなかったし、リッカも知らなかった。


「それなら金属を大量に使う必要はなさそうだけど、その金属の線か棒をノームたちが作れるかどうか聞いてから動かないとね」

「それは明日にでも聞いてみようと思っているよ」

「作れなかったらどうする?」

「そのときは分厚い壁を作るしかないかな」


 建物ではなくただ壁として村のあちこちに立つことになるだろう。


「私もそれでいいと思う。シェルターを掘ったり、壁を作ったりは協力した方がいいわよね」

「魔法作成で忙しいんじゃないのか?」

「あれだけやるのも気が滅入るわ。気分転換したいのよ」


 呪いのかかった銅など健康に良いものではない。魔法で防いでいるので肉体的に影響は受けないが、精神的にはいい気分はしない。そんなもののそばに長時間いたくはないのだ。

 それなら頼むと進が言い、フィリゲニスは頷く。

 翌日の午後に、各まとめ役に話し合いがあると伝え、夜に食堂に集まる。


「さて皆集まったから話し合いを始めよう。まずは昨日も聞いて回ったけど、あの襲撃による影響は治まってきているか?」


 念のためと進が再確認し、まとめ役たちは問題ないと頷いた。

 また残っているといえるものは、子供があのときのことを夢に見て泣くくらいだろう。それは時間経過と親や家族の励ましで頑張って癒してもらうしかない。


「それはよかった。じゃあ本題に入ろう。今日の主題は二つ。襲撃対策として避難訓練をする。避難場所などを作る」


 避難訓練とはなんだろうかと皆から疑問の声があがり、それに答える。

 事前に練習しておくことで、いざというときに少しでもスムーズに逃げられるようにという説明でまとめ役たちは納得した様子を見せた。


「作ろうと思っているのは地下シェルターを東西二ヶ所。村のあちこちに盾にできるような頑丈な建物をいくつかだ。頑丈な建物は壁や屋根の中に金属を仕込んで強度を上げる。しこむ金属を製作可能かはノームに聞いて、可能と返事をもらっている」


 ゲラーシーが注目をあびて、間違いないと頷いた。


「盾にするなら壁でいいのでは?」


 そう聞くのはラジウスだ。ほかの者たちも頷いている。


「今回のように空から魔法を使われると壁だけだと不安があると思ったからな。普通の家屋でもある程度は防いでくれるだろうが、住むことだけを考え作った建物だから突き抜けて被害が出るだろう。少しでも被害が減るならと屋根も頑丈な建物を作ろうと思ったんだ」

「そういうことでしたか」


 皆が納得したところで、東西の避難所のどちらにどの種族が入るか決めていく。決めたところだけに入ることしかできないということはなく、どちらもグルーズたちの体格に合わせたものを作る予定だ。

 シェルター関連が終わると、頑丈な建物をどこに作るか、どういった外見にするか、普段から倉庫などに使うかということを話す。

 避難訓練をいつやるかと話したあと、ついでに宴会もやろうと決めて解散になった。

 

 話し合いから五日で避難訓練の日がやってくる。この日のために各自仕事を調整し午後から自由にできる時間を作っている。

 地下シェルターは東を作りかけな状態だ。今日は実際に入るわけではないので、それで問題ない。シェルター予定地にはビボーンが簡素な土の塔を作っているので場所がわからないということはない。

 昼食を食べ終わり、皆が進たちの家の前に集まる。

 

「集まりはどうだ?」


 近くにいるまとめ役たちに聞く。


「体調の優れない者とそれを看病する者以外は集まりました」


 ハーベリーが答えて、ゲラーシーたちも似たようなことを言っていく。

 動ける者は全員集まっただろうということで、進は始めることにした。

 フィリゲニスに作ってもらった台座に上がり、皆の注目を集める。自身を見てくるどの顔も当たり前だが見覚えのあるものばかりだ。


「皆、良く集まってくれた。まとめ役たちから聞いていると思うが、避難訓練というものをやる。どうしてこれをやるのかということだが、皆もこの前の襲撃はまだ記憶に新しいだろう。あのときスムーズに対処できた者は少なかったと聞いている。今後あのようなことが起きた場合に、スムーズに逃げるため一度訓練しておこうと考えた」


 どうしてこのようなことをやろうとしたのか理解してもらえたかと進が言うと、頷く者が多かった。


「ではまずは東を見てほしい。土でできた塔が見えるだろう。そして西にも同じものがある」


 皆が進の指差す東と西の塔を見てから、再び口を開く。


「聞いているかもしれないが、あの二ヶ所に地下シェルターを作る。それだけじゃなく村のあちこちに頑丈な建物を作って、盾にできるようにする」


 どちらにどう移動するかと説明を付け加えて、まずは思い思いに小走りでシェルター予定地に移動するように指示を出す。

 スタートという進の掛け声で、住民たちは自分たちの入る予定のシェルターに向かっていった。


「おー、やっぱり走りづらそうだ」


 走る様子を見て進が言う。

 その発言のとおり、住民たちは互いにぶつかったり、道を譲ったりとごちゃごちゃした状態で移動していく。

 住民の姿が見えなくなり、イコンに空から移動状況を見てもらう。

 二十分ほどで全員がシェルターに移動したということで、戻ってくるように空に魔法を打ち上げて合図を出す。

 そして二十分弱で皆が戻ってくる。


「一度目の移動お疲れ様。移動してみてわかったと思うけど、歩きづらかっただろう?」


 こくこくと頷きが返ってくる。


「それぞれが自分の歩きたいように歩くとああなる。じゃあ次はもう少しましになるようにしよう。最初は整列してもらう。まずはナリシュビーから四列になってもらおうか」


 それぞれのまとまりで集まってもらい、列を作ってもらう。

 進の指示通りに動いて、住民たちは列を作っていく。

 

「オッケー! また移動してもらうことになるけど、最初は両端の二列が小走りで行くこと。前の人のペースに合せてついていくように。んで三列目四列目は、最初の二列の最後についていくこと。はい、スタート!」


 その合図で、両端の二列がシェルターへと移動を始める。

 移動を始めた住民たちは少し列を乱してはいるが、誰かとぶつかるようなことはなく、小走りで進む。

 イコンに空から確認してもらうと、今後は十五分弱で移動が完了した。また合図を出して戻ってきてもらう。


「お疲れ様。二度目の移動の方がスムーズにいったことは理解できただろう。緊急時にああいったふうに整列しろとは言わんが、少しでも落ち着いた移動が大事ということは理解できたんじゃないだろうか。この避難訓練はそういったことを理解してもらうためにやったんだ。ほかには避難場所とそのルートをあらかじめ知ってもらうことも大事だった。それがぱっと頭に浮かべば緊急時に動きやすくなるからな」


 ひとまず逃げる場所があると思い浮かべば、襲撃されたときに不安をなくす材料の一つになるだろう。


「年に一回くらい、この避難訓練をやるかもしれない。まだ予定なんでわからないけどな。じゃあ、これで避難訓練は終わりだ。夕方くらいからの宴会に向けてそれぞれ準備を開始してくれ。解散!」


 解散と聞いた住民たちはそれぞれ準備にとりかかる。

 進もフィリゲニスたちに手伝ってもらい、酒とジュースを作っていく。

 宴会も楽しみだが、準備も楽しんでいるという感じで住民たちは各々動いている。

 なかには魔物と楽しそうに話して作業している者もいた。魔物に助けられ、距離感が縮まったことで見られるようになった光景だ。

 穏やかに準備が終わり、もう恒例になった相撲が始まる。それを観戦し、優勝者に盛大な拍手が送られ、進の挨拶ののち、食事が始まる。食事がある程度進むと演奏などの出し物が始まった。

 今回の宴会は、襲撃で生まれた不安などを吹き飛ばすつもりかのように、いつもより盛り上がる様子を見せた。

感想ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] 襲撃で被害も出ましたが結果的に住人達の意識はまとまりましたかね 一時的な距離感じゃなくずっと続くようになってほしいですなあ
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