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134 夜の襲撃

 話を戻そうとホルドミットが言い、進たちの今後についてから、進たちが来ていたときの話題に戻る。


「模擬戦が終わり、ススム様はどれくらい強いのか、どういった戦いになるのかという話になり、複数との戦いも強者との戦いも魔法でどうにかするという返答でした」


 戦うのではなく、弱体化させて逃げを打つということをフィリゲニスたちが肯定したことで、それをやれるだけの実力があることは琥太郎たちも理解できた。


「どうしてそこまで強くなったのかは聞いたんですか?」

「いえ、聞いていませんね。フィリゲニス様たちの模擬戦のインパクトが大きく聞き忘れました」

「それほどの戦いだったんですねぇ」

「ええ、あれで本気ではないというのですからすごいとしか言いようがありません。その話のあとは捨て去りの荒野を開発できるかという話になり、無理だと言っていました。村はススム様の魔法だよりであり、ほかに人が住んでもいるが生活は苦しいのだと。その話の中で、ススム様が村を作るより前にあそこにいた者たちはどこからきたのだろうと疑問がでました」

「どこから来たんですか?」

「過去魔王によって操られた人間が行き場をなくして捨て去りの荒野に住居を移したという話でした。あそこならば責められることはないのだと」

「操られたから仕方ない、とはいかなかったのですね」


 桜乃が悲しそうに言う。


「ええ、操られた本人たちにとってはどうしようもなかったことですが、被害を受けた者たちはどうしても責めずにはいられなかったのでしょう。今回もそのようなことが起こりうる。ですので今から避難場所の確保に動いています」


 コテルガが捨て去りの荒野で保護されるという話は伏せられる。コテルガと遭遇したときに、そのことを思い出して手加減する可能性があるのだ。その手加減で琥太郎たち窮地に陥ってしまっては問題だった。

 この話はガゾートとバーンズには伝えられる。彼らならばどうしようもないときは殺すことを割り切れるからだ。


「操られた人にとっては朗報ですね」

「故郷を捨てることになるので、朗報と感じられない人もいるでしょうけど、平穏に暮らすため受け入れてほしいものです。ススム様たちとの話はここまでですね。このあとは捨て去りの荒野へと帰っていかれました」

「次はいつ来るといった話はしました?」

「遅くて来年の春くらいだと言っていましたね。こちらがいろいろと準備するため時間が欲しいと言ったので、それくらいの時期を指定したのだと思います。勇者様が魔王討伐に動いていると一般人に知らせるには短時間では無理ですし、各国と魔王討伐に動く歩調を合わせるのもすぐにできるものではありませんしね」

「私たちはなにかするべきことはありますか」

「お三方はこれまでどおり、鍛えてください。それ以外のことは私たちでやります。強い姿を皆に見せることがお三方の役割です」


 勇者が強い、それだけで一般人は安堵できるのだ。

 鍛えて、勝ってみせることが不安になっている人々の慰撫になると琥太郎たちも理解できて、今後も鍛錬に手を抜かないことを告げる。


「お願いします。今後は魔王軍の幹部との戦いも起きるでしょう。鍛えることはお三方の安全にも繋がることですので」


 話し合いはこれで終わり、そのまま三人でのんびりとすごしながら今後や先ほど聞いたことについて話していく。

 翌日は軽い運動を行ったあと、新しい武具のための話し合いをする。

 今使っている武具からどのように変えてほしい、ここは変えないでほしいということを細かく話し合った。

 魔王戦に使うことにもなると知らされた武具なので、少しのミスも許されないと鍛冶師たちは真剣に質疑応答を行っていった。

 本格的に魔王戦を意識した動きが始まり、神殿に所属する者たちに気合が入る。

 その夜、琥太郎は大きな魔力を感じて目を覚まし、ベッドから出る。

 部屋から出て、なにかあったのかと聞こうと思っていると、なにかが盛大に壊れる音が聞こえてきた。

 これはただごとではないと廊下に出る。淡音と桜乃もパジャマ姿で廊下に出てきた。


「戦闘準備した方がいいと思う?」

「した方がいいわね」

「着替えてくる」


 頷き合って、部屋に戻り戦闘用の衣服に着替えて廊下に出る。

 武具は整備のため預けてあり、そこまで行くことにした。その間も騒がしい物音は聞こえてきた。

 武具が保管されているところへと向かう途中で、一緒に遠征した兵が声をかけてくる。


「ここにいましたか! 呼びに行こうとしていたところです」

「なにがあったんですか?」

「詳細はわかりませんが、かなり強い魔物が一体、大神殿に攻めてきました!」

「どういった魔物なんですか?」

「人狼です。巨体で体中に黒の入れ墨を入れた、正気とは思えない雰囲気をまとった奴です。ブレストプレートを身に着け、鎖のついた鉄球を振り回して、神殿を破壊しています」

「今はどこに?」

「一般兵の鍛錬場近くです。皆でそこに押しとどめていますが、いつまで持つか」

「俺たちはその手伝いをすればいいんだな?」

「はい。お願いします」


 わかったと答えて三人は武具を置いてある鍛冶師の仕事場に再び走って向かう。

 三人以外にもそこに武具を取りに来た者はいるようで、明かりがついていた。

 三人は自分たちの武具が置かれているはずのところに行き、見つけたそれらを身に着けていく。もう慣れたもので手早く身に着けて、鍛錬場へと向かう。

 近づくほどに音は大きくなり、兵たちの怒鳴り声も聞こえてくる。


「怪我人を下げるぞ! 戦える奴はあいつをおさえこめ!」

「武器は捨てていいっ当たってもダメージにならんっ」

「おさえる奴は行くぞ!」

「薙ぎ払いくるぞ! 避けろ!」


 そう言った声や悲鳴を聞きながら現場に到着すると、かなりの勢いをもって鉄球が振られたあとだった。

 そこにいたのは、二メートル超えで筋骨隆々の巨体。狼の顔を持ち、体全体が灰色の体毛に覆われていて、蔦のような黒い線が体中にはしっている。金色の眼は力強い力が籠ると同時に、狂気も含んで輝いていた。誰でも一目見れば話し合いなど無理だとわかるだろう。

 人狼によって百キロを超えていそうな鉄球が軽々と振り回されて、それの直撃を受けたらしい兵が倒れ伏して動かないでいた。

 人狼は威嚇なのか雄叫びを頻繁に上げて、頭上で鉄球を回している。その人狼には呪いがかけられているという証が体に刻まれているが、リベオについて進たちが話していなかったので、神殿の者たちは呪われているとわからない。


「腕を狙うわ」


 鉄球での攻撃を阻害することを目的に淡音が言う。


「その後俺が前に出る。サクラ、速さを上げてくれ」

「わかった」


 どう動くかすぐに決めて、それぞれが準備を整えていく。救助はほかに任せて、自分たちは足止めや討伐に動いた方がよいと判断したのだ。

 淡音が矢に魔力を込めて、鉄球を回している腕を狙って矢を放つ。

 矢が飛んだ次の瞬間に淡音から魔法を受けて、琥太郎が飛び出す。

 矢は腕に命中したが、人狼は鉄球を手放すことなく、痛みなど気にならないかのように回し続け、反撃だと鉄球を淡音へと飛ばす。

 動揺のない人狼に淡音は少し驚いたが、まっすぐに迫る鉄球の軌道上からずれて避けた。

 人狼は勢いよく腕を引いて、鉄球を自分のもとへ戻す。

 その間に接近した琥太郎が魔力を込めた掌打を人狼の腹部に放つ。

 鎧とナックルのぶつかる金属音が周囲に響く。


「これも効果なしかっ」


 衝撃に少しばかり揺らいだ人狼は琥太郎に噛みつこうと口を開いて頭を下げる。それを琥太郎は下がって避ける。さらに人狼は鉄球を掴んだまま振り回して琥太郎に迫る。それを避けられても、琥太郎に攻撃を続ける。身近にいる強者に固執した様子だ。

 淡音と桜乃は琥太郎に当たらないようにしつつ、気をそらせるように人狼の頭部に攻撃をしかけていく。

 今のうちだと兵たちは倒れた仲間を回収していく。

 

「遅れた! 現状どうなっている?」


 ガゾートが淡音たちに近づき聞く。


「今は琥太郎が注意を引いている状態です。生半可な攻撃は効果がないのか、無視しているのか、当たってもダメージを受けた様子がありません。あとは見てわかるように正気ではないですね」

「ダメージがないことはないと思う。神殿の退去結界が発動した。少なくともそれのダメージはあるはずなんだ」

「少し前に発動した魔力が結界ですか?」

「うむ。強い悪意殺意敵意を持つ者が神殿に足を踏み入れると痛みを与えるものだ。大神殿を守るものだけあって、かなり強い魔物にも効果を出すと聞いている。その影響が出ていないように見えるなら、痛みを緩和する薬でも飲んでいるか、痛みを無視できるほど強い意志があるか」

「今回の場合は後者の方に思えます」


 桜乃の言葉にガゾートは頷く。


「俺も前に出て、コタロウ殿を手伝おう。君たちはあの人狼を殺せるくらい大きなダメージを与える方法を考えてくれ」

「わかりました。ちなみに先生はどこに?」


 淡音がちらりと周囲に視線をはしらせて聞く。


「バーンズはあれが囮の可能性を疑って、周辺の調査に出ている」


 それだけ言うとガゾートは人狼へと向かう。

 琥太郎と協力して攻撃をしかけているが、露出した手足への攻撃もダメージは出ていないように見える。


「私たちはダメージを与える方法を考えましょう」

「使うのは私たちが使える最大の魔法や技でいいと思う。それくらいじゃないと明確なダメージは与えられないと思うし。それをどう当てるか。私の方はお兄ちゃんたちを巻き込みかねないし」

「大きな攻撃を当てる基本は体勢を崩すか、足を潰すか、足場を潰すかの三つ。足を潰すのは効果なさそうよね。琥太郎たちに体勢を崩してもらって、そこに私が強烈なものを叩き込んで、転がったところを淡音の魔法でとどめ。この流れでやってみない?」

「……わかった」


 魔物にも魔物の事情があるということを思い出しかけたが、桜乃はその考えを飲み込んで頷く。

 一瞬の戸惑いだったが、淡音は気付いて励ますように軽く桜乃の背を叩く。

 

「正気を失いあれだけ暴れているんだから、倒してしまわないと被害が広がるばかりよ。戸惑いや申し訳なさを感じる必要はない」


 頷いた桜乃を見てから淡音は琥太郎たちにやってもらいたいことを伝える。

 それに琥太郎たちはわかったと返した。


「さあ準備を整えましょう」


 淡音は金属の矢を持ち、深呼吸しながら体と矢に魔力を込めていく。

 桜乃もそれに続く。


「猛る炎、その強き力を示せ、燃え上がれ、噴き上がれ、焼き尽くせ」


 詠唱をしながら魔力を制御していく。まだまだ完全とはいえない魔法であり、魔力を余分に消費するため、少しでも使用量を減らそうと集中する。

 桜乃の準備が整っているのを見て、淡音が琥太郎たちに声をかける。


「こっちはいつでもいいわ!」

「了解!」


 答えながら琥太郎はガゾートを見る。ガゾートも頷きを返す。

 ガゾートが剣の腹で人狼の目を狙い、それはさすがに嫌だったのか人狼はのけぞって避ける。そのタイミングで琥太郎が肩からぶつかっていき、さらにのけぞらせてすぐに離れる。


「重衝砲」


 さらに押すために衝撃を重視した技を淡音が放った。

 ドゴンッと音を立てて矢がぶつかり砕ける。

 その衝撃で人狼は後ろへ数歩よろめく。


「皆下がって! フレイムイラプション!」


 幅五メートルを超す炎の柱が人狼を中心に生じる。広範囲を明るく照らし、高さ二十メートルほどにまで上がった炎は神殿の外からも見えた。

 人狼の影も炎の中に消えて、熱風が周囲に吹いていく。

 五秒ほどで炎は消えて、皆は倒れている人狼を想像していたが、そこには少しだけ体毛を焦がし鎧を脱いだ人狼がいた。

 誰かが遺産の鎧だと呟いた。

 それはなんだと聞く前に、魔法を使った桜乃へと人狼が飛びかかる。

 ダメージの少なさに皆呆けて、咄嗟に動くことができたのはガゾートだけだ。頭上を飛ぶ人狼の足を握って、地面に一緒に倒れ込む。

 先に身を起こしたのは人狼で、ガゾートの手を振り払って、腹を蹴り飛ばす。

感想と誤字指摘ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] >この話はゲラーシーとバーンズには伝えられる。 前置き無くゲラーシー(ディスポーザルに居る筈のノーム)が出てきた? 誰か別のキャラとの書き間違いでしょうか?
[一言] このおっそろしい力の人狼がディスポーザルに来なかったのは良かったのか悪かったのか ディスポーザルに来ていればまた呪いを解いてリベオみたいに魔王軍への復讐者になってくれる可能性もありそうですが…
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