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133 大神殿から見たディスポーザル組

 顔色を蒼くした桜乃を見て、琥太郎たちは一度話を止めて、どうしたのかと話しかけていく。

 

「それはもう気にしても仕方ないことだと思うわ」


 理由を聞いた淡音が言い切る。


「でも私たちが殺したことで不幸になった魔物がいたんじゃないかって思うと」

「私たちが戦ってきた魔物はあのグリフォンを除いて知性のないものばかり。それは動物と似たような生態をしていたと思うの。そして私たちは食事として動物を食べている。その動物にも家族はいたのよ? 動物の家族を不幸にしてきたと気にしたことある? ないでしょ。私たちが戦ってきた魔物は動物と一緒と思いなさい」


 それは自身に言い聞かせるような説得でもあった。少しは淡音も思うところがあったのだ。

 この一年で魔物と戦うことは慣れた。だがその魔物たちの事情にまでは考えは及んでいなかった。けれども今さらなのだ。すでに戦ったあとで、どうしようもない。


「お姉ちゃん」

「この世界の人には不敬に思われるかもしれないけど、女神ヴィットラに責任を押し付けるのもありだと思うぞ。俺たちをこっちに呼んだのは女神ヴィットラだ。鍛え上げなければならない状況に追いやったのもな」


 琥太郎の言葉にコロドムたちは困ったような表情になったが、否定はしなかった。戦いを強要しているのはたしかにこの世界の者たちなのだ。

 

「あまり気に病むことはないかと。人間側の勝手な主張かもしれませんが、強くなるため必要なことですので。そして魔王によって被害を受けているのは魔物もまた同じ。魔王討伐を成し遂げて助かるのは人間と魔物の両方です。そのための犠牲は必要なことなのだと思います」


 それぞれの言葉での励ましに桜乃は少しだけ気持ちが晴れる。

 今後もこのことは気になるだろうが、まずは帰ることを優先しようと思うことにする。

 話を中断させたことを詫びて、桜乃は続きを促す。

 ホルドミットはどこまで話したか、思い返す。


「ええと、大烏公が魔王討伐に動こうとしたというところまで話しましたな」


 そこらへんだと皆が頷いた。


「それを私たちは止めました。大烏公自身からも言われましたが、強い魔物たちが動くのは人間にとって助かる話です。ですが頷けませんでした」

「魔物が戦う分だけ人間の被害が減るということですからね。助かるという部分には納得できます」


 そこらへんは自分もわかると琥太郎が言う。


「そうですね。これまでどおり魔王を倒すというのなら賛成した話なのですが、今回は魔王が再度復活することを防ぐ目的もあります。大烏公とススム様たちが協力すれば倒せるでしょう。しかしまたいずれ魔王が復活することになる。だから勝手に倒されると困るということで止めました」

「それに大烏公は納得したんですか?」

「条件付きではありますが、こちらに歩調を合わせることに納得しました」


 条件とはなんだろうかと琥太郎たちの疑問が一致する。


「条件とは、魔王討伐を彼に譲るということです」

「うん? ということは私たちが魔王と戦う必要がない。でもそうなると勇者への感謝が女神ヴィットラに届かないのでは?」


 困るという淡音の言葉に、ホルドミットは当然の疑問ですと言って続ける。


「そうなる可能性は私たちも思いつきまして、聞いてみたら戦っている様子を魔法で見えなくするということに」


 フィリゲニスが提案したことを話すと、琥太郎たちはできるのだろうかという疑問顔になる。


「彼女がああ言うのならできるのだと思います」

「その人物ならばできるという、なにか確証でもあるのですか?」

「魔法を使うと言ったのはΩの職号持ちです。ススム様の奥方ですね」

「女神ヴィットラが頼った人物ですか。それなら納得できますね」

「ええ、その力の一端を大烏公と同じように見る機会がありまして、彼女ならできるのだろうと思えました」


 この話もまたあとでと言って、話を続ける。


「そういうわけで魔王との戦いは大烏公たちに譲ることになりました。お三方の役割は前線で強い魔物と戦ったりして、勇者が魔王討伐に動いていると広めることになりますね」

「その流れでいくと魔王討伐は勇者が倒したということになりますよね? 手柄とかは大烏公は欲しがらなかったんですか?」

「手柄の話は一切でませんでした。報復が第一の目的なのでしょうね。もしかするとほかにもなにか目的はあるかもしれませんが、今のところ予想できていませんね」


 なるほどと琥太郎たちは頷く。


「その話が終わり、Ωの職号を持つフィリゲニス様に魂を捕らえる魔法開発とお三方の指導をお願いしました。前者は頷けてもらえましたが、後者は断られました」

「どうして? 人嫌いがどうとかと聞いていたし、それ関連ですかね」

「いえ、ススム様と離れる気がないからだそうで」


 村から離れる気がないという事情を話すと、琥太郎たちはなんとも言えず苦笑を浮かべた。思ったよりも重くはない理由に気が抜ける。


「そのあとはお三方の武具を作るための素材に変質の魔法をかけてもらうため、私はその場を離れました。その間にファガレット様が捨て去りの荒野での暮らしを聞いていたようですな。私はすでにその話を聞いたので簡単にお話ししましょう。詳しいことはファガレット様から聞いてください」


 そう言うとファガレットから聞いたことを簡単に話していく。

 こちらに来てすぐに魔物に襲われ、魔物に親切にされて、生活環境を整えていくところから始めたという流れを聞いて、琥太郎たちは自分たちは楽な方だったのだなと思う。

 食べ物に困らない、水に困らない、安全も確保されていて、物資も豊富で、事情を教えてくれる人もいた。なにより同郷がいた。

 地球での暮らしと比べると不便だったこともあるが、それでも捨て去りの荒野での暮らしに比べれば格段に恵まれていた。

 そんな自分たちと違って捨て去りの荒野でしっかりと根を下ろして生きていき、皆と協力して一から作り上げた村を優先するのは当然だろうなと納得する。


「話の途中で私が素材を持って戻り、ススム様に魔法をかけてもらいました。道具使いの戦闘志向を持つ兵に鑑定してもらい、品質が上昇しているのは確認済みです。その話の流れで、ススム様の武具も作るかということを聞きましたがフィリゲニス様が守るので必要ないという返事でした」

「本当に必要ないんでしょうか? 魔法だったら広範囲に効果が及ぶものもありますし、被害を受ける可能性は捨てきれません。作った方がいいと思うんですけど」


 桜乃が聞き、ホルドミットはそこらへんの心配は我々もしたのだと言う。


「だったら本当に守ることができるのか試してみたらどうだと大烏公が言い、複数の兵対フィリゲニス様、大烏公対フィリゲニス様という模擬戦が行われることになりました」

「ああ、あとで話すというのはこの部分だったんですね」


 納得したという淡音に、ホルドミットは頷いた。


「そうです。最初は兵三十人以上に囲まれた状態で始まり、その人数と同数のゴーレムをフィリゲニス様が一瞬で作り出しました。ゴーレムが前進する間に、さらに同数のゴーレムが作り出され、さらにまた同数のゴーレムが作り出されて、ここで私たちは兵側の負けを宣言しました」

「三十体以上のゴーレムを一度に作り出したんですか? それも三度も?」


 驚いたように桜乃が聞く。同じ魔法使いだからわかる、今の自分ではまず無理であると。同じことをやろうとしたら、それだけを練習して確実に数年はかかるだろう。


「はい。ゴーレムは兵よりも大きなものばかりでした」

「それだけで魔法使いとしてとても優れているのがわかりますね。女神ヴィットラが現在過去未来に並ぶ者なしと言うわけです」

「ちなみにその魔法だけでばてたりは?」


 淡音の質問に、その様子はなかったとホルドミットは返す。


「彼女にとってあれは疲れるようなものではなかったのでしょう。その後に行われた大烏公との模擬戦も問題なく魔法を使えていました」

「そちらはどういった戦いだったのでしょうか」


 最初の魔法の撃ちあい、接近戦、最後の攻防と話していく。


「大烏公は本気を出さず、フィリゲニス様も同じようでした。接近戦では大烏公の方が上、魔法に関しては両者引けを取らず。あの戦闘を見た我らは魔王戦への頼もしさを感じる前に警戒心を抱きましたね。常人どころか士頂衆すら届かぬ高みではないかと。彼らが敵対した場合、どれだけ被害が生じるのか」


 事実、魔法使いに関してはフィリゲニス復活によって士頂衆が脱落しているため、ホルドミットの発言は的外れではないのだろう。


「大烏公はわからないけど、フィリゲニスさんは敵対しないのでは?」


 現状人間同士で争う必要がないだろうと琥太郎は思う。淡音と桜乃も頷いている。


「魔王討伐がなされたあとは、各国はΩの職号に興味関心を示すかと。彼女一人いれば国の戦力はかなり上がります。手に入れたいと望む者は少なくないでしょう。夫であるススム様も手に入りますからね」

「大烏公や大妖樹と近いところにいる人物をどうこうというのは難しそうですよ」

「そこら辺の事情を知らない人もいるでしょうし、大烏公たちを甘く見て接触しようと思う人もいるでしょう。自分ならどうにかできると意味のない自信を持つ者はどこにでもいますから」

「捨て去りの荒野関連でなにか起こるとしても、お三方が帰ったあとでしょうから気にすることはないかと」


 あまり心配していない様子でコロドムが言う。


「そうは言いますけど、やはり同郷の人に関わることですし」

「あの方たちに関わるとしてもわりと大変ですよ? 陸路は山と森に遮断されて、無理にそこを通っても補給のできない道を行くことになります。海路ならばまだ行き来しやすいですが、補給が難しい航路になりますし。捨て去りの荒野の海岸に到着しても、向こうの機嫌を損ねると補給ができません。捨て去りの荒野に魅力があれば、安定した航路を作る国はあると思います。しかしススム様の話では荒れたところばかりという話。開発に乗り出し、かけた費用以上の儲けを見いだせる国はどれほどでしょうか。正直向こうから接触してこないと、王侯貴族たちは話ができないかと」

「彼らのように空を行き来できる手段はないのですか?」

「短距離なら空を飛べる魔物を調教している人がいますが、それでは無理でしょうね」


 大昔に空を飛べる魔法の道具があったと文献に残っているが、現存しないのでいまいち信じられていない。


「ファガレット様から聞いた話だと、ススム様たちは村の安定を願っているようですし、今交流しているところ以外に交流相手を増やすことはそうそうないかと。それならばススム様たちに起こる厄介事は多くないと思います」

「多くはないのなら、なんとかなるかもしれないですね」


 少しは安心したと琥太郎は頷く。

感想と誤字指摘ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] 勇者の送り迎えまでして攻撃されたのに怪我をさせることもなくあしらったから大烏公は人間には甘いとか考えるやつとか出そうだなあ
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