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128 参戦

 ゲラーシーたちの様子を見て、次はグルーズのところだと進が移動していると、フェマルたちと会う。

 表情を歪めたフェマルは護衛に支えられ、世話役が暴れるラダスを必死に宥めている。


「フェマル様にいったいなにが?」


 声をかけた進のぼろぼろな様子を見て、フェマルたちは驚く。

 一瞬忘れていた痛みを思い出しながらフェマルは口を開く。


「ああ、村長。そちらも大変だったようですね」

「俺は見た目だけですよ。フェマル様はだいぶ辛そうですが」

「あの子に向かって落ちてくる石を背中で受けて痛みはありますが、自分で歩けるので大袈裟なのです」


 魔法に気づいた護衛がいくつか弾いたのだが全ては弾けず、一つだけフェマルたちに迫ったのだ。避けるには時間がなく、咄嗟に我が子を庇い背中に受けたのだ。

 さすがローランドの子なのか、持ち前のスペックの高さからくる頑丈さで打撲だけですんでいた。


「いや、痛そうにしてて大袈裟というのはちょっと説得力がないかと。家に戻ってゆっくり体を労わってください」

「そうさせていただきます。あなたも休まれたらいかが?」

「俺はもう少し村を見て回ってですね。被害を確認しておきたいので」


 無理をしないようにと言ってフェマルは護衛たちに連れられて家へと歩いていく。

 進はグルーズたちのところに行き、あまり被害が出ていないことを確認する。こちらにも石は落ちたようだが、十個くらいが地面に落ちて驚いた程度だったようだ。

 所属不明の魔物が来ていたことを知らせて家に戻る途中で、空を飛んで戻ってきていたフィリゲニスが合流する。


「ぼろぼろじゃない!? 大丈夫なの!?」


 心底心配そうに体のあちこちを触るフィリゲニスに大丈夫だと笑う。


「腕以外は服が破れただけだ。腕もひどい切り傷ってわけじゃないし」

「それでもそのままは駄目よ。回復魔法を使って今夜のうちにさっさと治してしまいましょ」


 早く帰ろうと手を引いて歩き出す。


「ありがと。ほかの人たちにも使ってくれないか。いろいろと怪我人が出ているんだ」

「わかったわ」


 家へと歩きながら、撃墜した魔物はどうなったのかと進が聞く。


「アンデッドとデーモンみたいなものとハーピーがいて逃げようとしたから殺しておいた。あと呪いを受けた鷹の魔物が隠れていたからあいつらの仲間だろうと殺しておいたわ」

 

 呪われていなければ隠れていたことに気づかなかった可能性があったが、リベオの状態を観察したフィリゲニスは同じ呪いを察知して隠れていたことに気付けたのだ。


「こっちは筋肉質な鳥の魔物、蝙蝠の魔物、虫の魔物が二体、リザードマンといった感じだった。情報を知りたいから虫の魔物は捕まえてある。リベオと同じ呪いということは魔王軍だったんだな」

「そうでしょうね。あれらから情報を抜くのは私がやりましょうか。その魔物たちも呪われているんでしょ? 呪いを制御して締め付ければなんとかなるでしょ」


 進を痛めつけてくれた礼はしないとねと暗い笑みを浮かべた。

 呪いを解くという餌で釣ることもできるだろうと言い、進はフィリゲニスに任せることにする。

 

「被害はどれだけでたかわかる?」

「畑と建物にいくらか、怪我人は出たけど死者がでたとは今のところ聞いていない。あとはフェマル様が背中に石を受けた。それを聞いたローランド様が激怒しそうだ」


 進は怒りを想像し背筋が冷える。


「魔王軍を殴りに行こうとしそうよね。私も行きたいくらいよ」

「人間にとっては朗報なんだろうねぇ」


 フェマルを家に届けて、護衛の一人がすぐに山へと報告に飛んだので、怪我に関して知るのはすぐだろう。

 話しながら家に帰り、リッカから傷の治療を受けて、服も着替える。

 そうしているとラムニーとビボーンも帰ってきた。

 おかえり、ただいまと挨拶をかわして、まずはルアについて聞く。


「ナリシュビーの手当できる人が来て、診断してくれました。頭部をかすって派手に血が出ただけだろうという診断でした」

「よかった。でも頭の怪我はなにがあるかわからないから少し注意しておかないとな。じゃあ虫の魔物たちはどうなった」


 これに関してはビボーンが答える。


「土で体全体を拘束して、ゴーレムに運ばせたわ。今はホールに置いているわ。あとで地下に運び込むつもり」

「私も一緒に行って、情報を聞き出しましょう」

「俺は昼から村を回って、まとめ役たちに集まってもらうよう声をかける。被害状況を報告してもらいたいからな」


 昼食ができるまでに、進はフィリゲニスとフェマルのところに行き、回復魔法を使う。

 大怪我ではないので、体力を消費するタイプでの回復魔法は問題なく、午後は静かに過ごすということなので明日には良くなっているだろう。

 昼食を食べて進とラムニーとイコンはまとめ役たちに声をかけていき、フィリゲニスとビボーンは捕らえた虫の魔物たちを地下へと運び込む。

 進たちが帰ってくるとフィリゲニスたちは地下から出てきていた。フィリゲニスは怒りが再燃したのか、表情が強張っている。


「少し締め上げたら簡単に吐いてくれたわ。あのグリフォンと同じように無理に従わされていたから秘密にする気もなかったようね」


 根性なしがと呟く。あっさりとねをあげたことで、報復という部分で不満が残っていた。


「なにが目的でここを襲ったんだ」

「四人目の勇者を探して殺すために」


 少し進が動きを止めた。勇者とはどのような存在かと確認するように聞く。


「魔王を討伐する者。魔物が上司から聞かされた話だと、異世界から来た者たち」

「やっぱり俺で確定かー」

「そうみたいね」


 フィリゲニスも同じように思っていたようで同意する。


「俺がここにいるとまた魔王軍がやってくる?」

「そうかもね。でも私たちが守るわよ。今回は魔王軍がこっちに来ると知らなかったから奇襲を受けたけど、来るとわかっていればすぐ対応できるようになる。だから安心していいわ」

「最悪ここを出て行く必要があるかもと考えたんだけど、そうならなくてよさそうで安心したよ」

「今あなたにここを出て行かれると皆が困るから、追い出すことなんてないわよ」


 だから安心なさいなとビボーンが柔らかな口調で言った。

 フィリゲニスたちも進と別れる気はないので追従する。それに進は礼を言って、首を傾げる。


「しっかしわざわざ探して殺そうとするほど俺に価値があんのかね? 今やっている村作りに役立つ能力が魔王討伐に役立つのか? 強化と弱体化は使い物になるだろうけど、できる人はほかにもいるだろうに」


 ビボーンもよくわからないようで腕を組んで悩む仕草を見せた。


「うーん、少しでも勇者側の戦力を減らしたかったか、私たちが知らない使い道がススムの魔法にはあるのかもね。変質が魔王側にとってなにか決定打となりうる代物であれば、わざわざ探して殺そうとするのかも。それに一度弱体化すれば長期間続く魔法は厄介よ。そういった魔法は一時的なものだし。魔王軍の強者が弱体化させられるとそれだけでも止めたいってことになるわね」

「そうだとすると魔王軍は俺がこういう魔法を使えるって知っていることになるのか」

「そうなるわね。たしかこっちに来るときに変質を与えるって声を聞いたのよね。魔王軍が狙って殺そうとしたとなると、変質って私たちが思っている以上に重要なものなのかもしれないわね」


 理由として勇者側の戦力の弱体化と変質の重要性どちらもあてはまるのだろうと話し合う。


「情報を聞き出したあと虫の魔物たちはどうした」

「グリフォンと同じようにしてもよかったんだけど、村に被害が出たし、ローランドにも八つ当たりの対象は必要だろうと思って眠らせてあるわ。ローランドがいらないって言ったらそのまま永眠ね」


 自由にしてしまうと村人も気を悪くするだろうということで、進たちも仕方ないかと頷いた。暴れたその魔物たちを助ける理由もない。

 夕食までは家に空いた穴の応急修理をして、夕食後に食堂に行くまで落ち着いて過ごせると思っていたところ、玄関の方から異様な気配が感じられた。

 噴火寸前の火山とはこんな感じなのだろうかと思える不気味な威圧感だ。

 

「な、なんだこれ?」

「ローランドの到着みたいね」


 誰かわかったフィリゲニスが落ち着いた様子で立ち上がって玄関へと向かう。

 ほかに動けるのはイコンとビボーンで、進とラムニーとリッカは動けない。村の住民たちも進と似たようなものだった。

 動けない進たちがいるリビングに、ローランドの気配に気づいたフェマルがやってきた。


「父が来たみたいですが」


 そこで言葉を止めたのは、緊張し体が強張っている進たちに気づいたからだ。

 申し訳なさそうに謝って小走りで玄関に向かう。

 一分もせずにローランドの気配が小さくなる。それで進たちの緊張が解けた。

 そして玄関に行ったフィリゲニスたちと一緒にリビングに入ってきた。


「ほら、皆様に謝ってください」


 怒ってますといった表情でフェマルが言い、ローランドが進たちに頭を下げた。


「無駄に緊張させてしまって申し訳ない。娘と孫が魔王軍に襲われたと聞いておさえきれない怒りがな」

「だからといって襲撃されて不安になっている村をさらに怖がらせていいわけないでしょう。ラダスだって怖がって泣いていたんですよ!」

「本当にすまない」


 先ほどの気配の主と同じ存在なのかと疑ってしまうほどローランドは真摯に謝る。


「まあまあ、親族が傷つけられて怒るのは当然でしょう。それくらいにしてあげなさいな」


 ビボーンがフェマルを宥めてローランドに椅子を勧める。

 それにローランドが礼を言って座った。深呼吸して進を見る。


「フィリゲニスから聞いたが、お前を探しに来たんだって?」

「そうみたいですね」


 誤魔化さずに進は頷いた。その進を責めることなくローランドは続ける。


「勇者だったとはな。気づかなかった」

「俺もですよ。魔王討伐に勇者一人くらい欠けてもいいんじゃないですかね。特に俺は戦闘能力はありませんし」

「これまで魔王討伐に参戦していないがゆえに俺も詳しいことは知らないが、勇者は全員必要らしい。これを聞いてお前はどう動く?」

「動くと言われても、動きようがないですね。村は過ごしやすくなったとはいえ、捨て去りの荒野はまだまだ厳しい環境です。魔王討伐の旅に出るとしても、荒野を移動して行き倒れるんじゃないですか? そもそも旅に出る気もないですが。そんなことすれば村の存続に関わるし。そちらはなにか行動を起こすのですか?」

「魔王軍に攻撃をしかけるつもりだ。娘たちを攻撃されたからには一度くらいは報復する」


 じりっとわずかに怒りの気配が漏れる。

 フェマルがローランドの背中を軽く叩いたことですぐに治まった。


「魔王と戦っている人間が喜びそうな情報ですね」

「村を襲われた仕返しに、お前も来ないか? 一緒に連れて行くから長期間村を離れることはないぞ」

「俺が行ったところでなにができるわけでもないし」

「勇者だからなにかできると思うんだがな。魔法を強化してくれるだけでも助かるし」


 そういう曖昧な感じで連れて行くのはやめてほしいとビボーンが止める。

感想と誤字指摘ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] あーあー、4人目の勇者をどうにかしようとして大烏公の一族に喧嘩を売っちゃいましたねえ 魔王軍としては送り込んだ魔物が全滅したとなるとまた攻めてくるんかなあ
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