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127 耐久戦

「なんだお前ら」


 村では見かけない魔物たちばかりで、廃墟に潜んでいたものでもない。進は返事を期待せずに誰何する。

 それらはガースから指示を出されて、一当てのつもりでやってきた魔王軍の魔物たちだ。

 そんな彼らの体中にある模様を見て、進はリベオと同じく呪いを受けた魔物たちだろうかとあたりをつける。

 魔物たちが村の西側に来たのはここと東が入りやすかったからだ。北は廃墟に阻まれ、南はグルーズといった魔物たちばかりで標的ではない。東もノームが多めで、人族の勇者がいるなら西の人間の集まりだろうと推測したのだ。

 推測は外れたが、タイミングが合って標的である進と遭遇する。だが魔物たちは進が勇者だと知らないので、殺せば目標達成だと気づいていない。

 暴れることが命令であり、命令に逆らえば苦しくなるだけなので、さっさと殺そうと進たちへ殺気を向ける。

 それを受けて進たちは緊張した顔つきになる。


「逃げる、って無理か。ルアを動かせない。ラジウス、助けを呼んできてくれっ。俺は時間稼ぎする」


 やれるかどうかわからないが、やるしかないと考えてラジウスに声をかえる。

 しかしラジウスはその場から動かず首を振る。


「ルアを置いてはいけませぬ! 行くなら一緒に!」

「頭を怪我しているやつ素人が動かしたら悪化する可能性もある。だから動かせない。俺もラムニーもこいつらを倒せるような戦闘力はないぞ。このままだと全員が殺されて終わりだ」


 ラムニーが助けを呼びに行ってラジウスが残る場合は、耐え切れないことを覚悟して庇い共倒れになりそうで、ラジウスを動かすことを選んだのだ。ラムニーなら少しは鍛えているので、魔法で防御もできるだろうという考えだ。

 ラジウスが迷いを見せている間に、魔物たちは動く。

 リザードマンが突っ込んできて、その背後に虫の魔物二体も追従している。

 まず進は迫ってきているリザードマンへと魔法を使う。


「鍛えた体、意味はなく、衰え鈍る、取り戻せることはなし。フィジカルダウン」


 筋力、速さ、体のキレ。それらを劣化させるデバフを受けたリザードマンはがくんと速度を落とし、そのことに驚く。

 戸惑うリザードマンの腕をとった進は、そのまま振り回して、虫の魔物たちへと投げ飛ばす。

 味方が吹っ飛んできたことで、虫の魔物たちは足を止めさせられた。

 魔物たちの動きが止まった隙に、進はラジウスに体を若い時代のものへと変える魔法を使う。


「かつての栄光、強さ、速さ、今ここに再び。ユースタイム。それで速く動けるようになった。さっさと助けを呼んできてくれ」


 しぶるラジウスに早くと進が怒鳴ったことで、余裕のなさを感じ取ったラジウスは慌ててその場から駆けていく。

 やっといったと進は小さく溜息を吐く。


「あとは時間稼ぎだな。魔物全員に劣化の魔法をかけられたら時間稼ぎできるはずだ」


 進は相手が近づいてくるのを待つ方針で、その場で魔法をいつでも使えるようにしておく。

 戦って勝とうとは思わない。これまでやってきた鍛錬は基本的に体を上手く動かしたり避けるということなので、戦闘自体は得意ではないのだ。

 リザードマンは一時的なデバフだろうと考えて一度退いて、かわりに虫の魔物と鳥の魔物が前に出る。

 それを見た進は複数にバフやデバフの魔法をかけられる練習をしておけばよかったと思う。やれる気はしているが、なんとなくなのだ。ラムニーたちも守るべきこの状況で、不安定なことはやりたくなかった。

 最初に動き出した虫の魔物の片方に魔法をかけて、急いでもう片方にも魔法をかける。そしてそのすぐ後ろにいる鳥の魔物にも魔法をかけようとしたところで、虫の魔物たちが動きを鈍らせたまま突っ込んできた。

 

「一度くらいは耐えてみせてやるよ!」


 先ほどのリザードマンの衰えた感じから、さほど大きなダメージは受けないだろうと考えて、防御を固めて耐え、鳥の魔物に魔法を使うつもりだ。

 ビーカブーのように腕を体の前に持ってきて、背を丸める。

 そこに虫の魔物たちが爪を振り下ろす。

 打撃と考えていた進は、斬撃に近いそれに驚くもののどうしようもないと、そのまま耐えることにした。

 腕の布が破れる音がして、腕に痛みがはしる。しかし魔法のおかげか、浅い切り傷ですむ。

 思ったよりも痛くなくてよかったと安堵したり、自分の防御を上げる魔法を使っておけばよかったと反省しつつ鳥の魔物にも魔法をかけた。

 自分に魔法をかけなかったのは焦りが原因だろう。いつもフィリゲニスやビボーンがそばにいて、自分が誰かを守りながら戦うという経験がほぼない。経験不足が露呈した形となった。

 それでもなんとなったのは地力の高さと魔法のおかげか。

 

「その程度か! かかってこいや!」


 ラムニーたちを狙わせないため大声で魔物たちの注目を集める。ついでに自身の頑丈さを上げる魔法も使っておく。

 魔法が鬱陶しいと考えた魔物たちは、下がっていたリザードマンも前に出て四体で進を囲む。

 それに対して進は虫の魔物を掴んで振り回して対応していく。

 進と四体の魔物が互いに集中している間に、蝙蝠の魔物も動く。進へと襲いかかるのは邪魔にしかならないと考え、今のうちにラムニーたちを殺してしまおうと一度空高く飛びあがって、二人めがけて急降下してくる。


「ど、どうしよう」


 戦いから目を放さなかったラムニーもその動きには気づいていて、急いで対処を考える。

 進にこのことを知らせるのは悪手だ。四体の相手をしている進の気をそらすなど魔物にチャンスを与えるようなものだ。

 自力でどうにかと考えて、ルアを庇えるように体勢を変えて、傷口を押さえていない方の手を空へとかざす。

 タイミングを計り、ここだというタイミングで進に知らせて魔法を放つ。


「魔法を使う! 光り、輝け。フラッシュ」


 瞬間的に周囲を白く染める光が放たれた。

 攻撃魔法だと思って避けられるようにしっかりとラムニーを見ていた蝙蝠の魔物はまともに光を見てしまい、ラムニーたちにぶつかるコースからずれて畑に落下してしまった。


「ひとまずどうにかなったけど、私の攻撃魔法でどうにかなるかな」


 迷っている間に魔物が動き出す。せっかく当てられるチャンスなのだからやってみようと、詠唱を繰り返して魔力を空にする勢いで魔力の矢を次々と飛ばす。

 ラムニーの使える攻撃魔法はさほど威力は高くはない。それでも繰り返し当てればダメージは重なる。

 蝙蝠の魔物はまた空に飛びあがったが、ふらついた様子で余裕はない、しかしラムニーも魔力に余裕はなく、追撃はできない。

 魔法を使ってないラムニーを警戒するように見ていた蝙蝠の魔物は、しかけてみるかともう一度高く舞い上がり、急降下を試みる。

 同じ手は食わないと目をいつでも閉じられるように地上に向かっていた蝙蝠の魔物は予想外の一撃を受ける。虫の魔物が自身をかするように飛んできたのだ。

 それをやったのは進だ。フラッシュでラムニーたちが狙われているのは気付けた。四体から攻撃を受けながら、ラムニーの様子を見て、困っている表情から攻撃手段がないのだろうと考えた。

 頑丈さを上げたおかげで余裕が生まれていた進は、虫の魔物を掴むと蝙蝠の魔物を邪魔しようと投げつけたのだ。

 虫と蝙蝠の魔物は、互いに少し触れ合う程度の接触だったが、バランスを崩し、それぞれ別の地面に落ちていった。

 再度の落下で蝙蝠の魔物はリタイアして、虫の魔物はダメージとデバフの影響でなんとかといった状態で立ち上がる。

 普通ならば逃走する状態の虫の魔物も、退けという命令は受けていないため逃げずにラムニーへと歩を進める。


「これ以上の魔法は私も気を失ってお荷物になるかもしれないし」


 それでもやってみようかとラムニーが思っているそこに石が飛んでくる。

 ラジウスが助けを求めたスカラーたちだ。彼らも戦いはあまり得意ではないが、狩りの経験はあって石を投げつけ当てる程度の腕はある。

 魔王軍の虫の魔物が投石をいくつも受けて昏倒し、進がこっちにも頼むとスカラーたちに声をかける。

 本当にいいのだろうかと戸惑ったが、再度声をかけられて次々と石を投げる。

 進は鳥の魔物を掴んで盾にして、投石を防ぐ。その様子を見てスカラーたちは大丈夫なのだと判断し、さらに投げつけていく。最初に空からふってきた石は、スカラーたちにも被害を出していたので、魔物たちへの攻撃には怒りや恨みが込められていた。

 そのうちに魔王軍の魔物たちは全員が気絶して、なんとか戦いが終わる。

 心底ほっとした様子で進はスカラーたちに礼を言う。


「攻撃手段がなくて耐えるしかなかったんだ。助かったよ」

「あちこち破れていますが、大丈夫ですか?」

「怪我しているのは腕だけだ」


 あとは軽く打撲だけで、そっちは明日にでも治るだろう。


「気絶している彼らはどうします? 今のうちに殺しておいた方がいいと思いますが」

「あれらがなにをしに来たか気になるから、二体くらいは生かしておきたい」

「じゃあ三体を殺してしまいますね」

「いいけど、殺すのに拘るな?」

「生かしておくと気絶から覚めたとき暴れるかもしれませんから」


 穏やかに暮らせているところで暴れたことが、森での騒動を思い出してしまい少しいらついてもいた。

 スカラーたちは気絶から覚めても楽に取り押さえられそうな虫の魔物二体を残して、残りの首を掻き切っていく。スカラーたちとその魔物たちに強さの差はあったが、さすがに無防備な状態で急所を攻撃されては死ぬ。

 痛みで魔王軍の魔物たちは起きてその場で身もだえたが、出血ですぐに静かになった。

 

「こいつら筋力とかと弱めているから、複数で押さえておけば暴れられないだろう。フィズかビボーンといった魔法で拘束できる人を呼んでくるんで、押さえておいてくれ」

「わかりました」


 進はフィズたちの名前を呼びながら歩く。

 そこに確認をひと段落させたイコンがやってくる。


「その怪我どうしたの!?」


 魔王軍の魔物がいたこと、ルアがいて移動できなかったことを話す。

 その話を聞きながらイコンは進の体をくるくる回って、怪我の状態を確認していく。


「特に大怪我はしてないのじゃな?」

「そこは大丈夫」


 良かったとイコンは胸を撫でおろした。


「二体生かしてあるんだ。魔法で拘束したいからフィズとビボーンのいるところを知っていたら教えてほしい」

「居場所はわかっておるから案内しよう」


 こっちだと先導するイコンについていくと、いろいろと指示を出しているビボーンがいた。

 進が声をかけるとビボーンも驚いた声を出す。


「なにがあったの!? 石が当たったにしてもそうはならないでしょ」


 イコンにした説明をビボーンにもして、二体の魔物を拘束したいから行ってくれないかと頼む。


「わかったわ。ここは一応落ち着いているから動ける」

「じゃあ頼む。そういや一緒に戻った方がいいか? その必要がないならほかのところが無事か見て回ろうと思っているけど」

「すでに弱体化させてあるのよね。だったら大丈夫」

「それじゃほかのところを見て回るよ。ちなみにフィズはどこにいるんだ?」

「空にいた何者かを墜として、その落ちたところに向かったわ」


 とどめをさしに行ったんだろうと言ってからビボーンは、ラジウスたちの畑へと向かう。

 フィリゲニスが行ったのならまた石が降ってくることはないだろうと安心して進もイコンと村の様子を見て回る。

感想と誤字指摘ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] 前に出て戦うタイプじゃないのに複数の魔物相手によくぞ凌いだ! 変質の魔法もうまく使えてましたなあ
[一言] これ、フィズの進への依存心の強さを忘れて下手な伝え方すると…情報引き出す前に一瞬でミンチにしちゃわないかな? 実際、魔力自体が存在しないか、感知する手段を持つ現行生物が存在しない世界から来…
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