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125 魔物たちの動き

 魔王城にて玉座に座した魔王が瞼を開き、口を開いた。


「誰ぞ」


 大きな声ではなかったが、リッチが連絡役としてつけていたアンデッドの騎士は聞き逃すことがなかった。わずかに動いたことでザリと金属鎧が音を立て、そのまま部屋の隅から玉座の前に移動し跪く。


「はっオ呼びにナりましたでしょうカ」

「シェンを呼べ」


 短く告げられた用件に、承知しましたと返して騎士は玉座の間を出ていく。

 向かった先はリッチの執務室となっている部屋だ。


「オ仕事中に申シ訳あリません。魔王様ガお呼びになられていマす」

「わかったすぐに行く」


 読んでいた書類を置いて、シェンという名のリッチは立ち上がる。軽く身だしなみを整えて部屋を出る。

 騎士を従える形でシェンは玉座の間に入る。

 シェンはそのまま進み、騎士は部屋の隅に戻る。


「いかなる御用でしょうか」

「女神が動いた。捨て去りの荒野、そこを見たようだ。おそらくはそこに四人目がいる」


 あそこかとシェンはやや驚きを見せるがすぐに真顔に戻る。

 リッチをしても捨て去りの荒野で生きているというのは驚くことだったのだ。


「捨て去りの荒野のどこを見ていたか把握できていますか?」

「西だな」


 以前大きな力を感じられたところに近いのだろうとシェンはあたりをつけた。

 調査へと送り出した二匹の魔物は山の烏たちに殺されたと思っていたが、もしかすると四人目に殺されたのかもしれないと考える。


「空を行けるものを複数動かしてよろしいでしょうか」

「構わぬ」

「ではすぐに四人目を仕留めるため動きます」


 そう言うとシェンは玉座の間から出ていく。

 その背を魔王は静かに見送った。

 シェンはそれなりの実力者であるリベオが倒されたと仮定し、きっちりと四人目を仕留めるため空を飛べる強い魔物を十体動かすことにする。

 今は人間の軍隊を襲うことに使っているが、ここは確実に四人目を倒す方がいいと判断したのだ。こっちに来て一年ほどの勇者ならば、強い魔物を複数相手するのは無理だと予測する。

 入ってきている情報では、神殿にいる勇者は歴戦の者ではなく一般人から鍛えているとわかっている。同じところから呼ばれた四人目も一般人だろうと推測し、いくら成長速度が早くとも、まだまだ自分や魔王には届かないと思えたのだ。

 進一人を狙うならそれで問題ないが、仲間がいる可能性を見落としている。

 これはシェンのミスだが、ほかに考えることもあったり、捨て去りの荒野で強い仲間を得ているということが想像できなかったがゆえのミスだ。

 シェンも一度だけ捨て去りの荒野に行ったことがある。過去仕えていた魔王が殺されて、当時の魔王戦で表に出過ぎていたことで人間に狙われたのだ。人間の追及を振り切るため捨て去りの荒野に入ったが、なにもない場所という認識を得ただけだった。

 飲み食いに困る体ではなかったので、食料を探すことをしなかったせいでもあるのだが、少しくらいは歩き回ってもいた。その結果、飢えた魔物以外に発見したものはなかったのだ。

 進に関して複数の魔物を動かすことでよしと判断したシェンは、各地に向かわせている空を飛べる魔物を呼び出す指示を出す。

 それらが集まるまでは魔王軍と人間軍の前線やあちこちに潜ませている魔物からの報告を確認し、指示を出すことにする。

 魔王が女神の動きを察知して、十五日ほど経過し、魔王城の庭に十体の魔物が集まる。

 人間よりも大きな鷹といった鳥や獣の魔物が三体、悪魔のような黒い魔物、人型の虫の魔物が二体、ぼろ布で体を包んだ人サイズのアンデッド、ハーピーが二体、飛膜を持つリザードマン。

 その魔物たちの前にリッチが立っている。


「ようやく集まったわね」

「遅れました」


 真っ暗なフードの中から見える赤い目に敬意を宿らせてアンデッドは詫びる。

 敬意を持っているのはそのアンデッドくらいなもので、ほかの魔物は反抗的な視線をシェンに向けている。彼らの体にはリベオと同じような呪いの印が刻まれていた。


「またくだらないことをさせるつもりか」


 そう言うのは悪魔のような魔物だ。


「くだらないことかどうかは私たちが決める。あんたたちは従えばいいだけ。捨て去りの荒野にいる四人目の勇者を殺しなさい」

「あそこに人間がいるわけないだろう。耄碌したか」


 馬鹿にした悪魔のような魔物をシェンは睨む。


「口を慎みなさい。魔王様が感知し、命じたことよ。そこにいるわ、絶対ね」

「捨て去りの荒野と言っても範囲が広うございます。もう少し具体的な場所を聞けますでしょうか」


 いくら敬意を持つとはいっても、一国に匹敵する場所にノーヒントで行けと命じられ、行きますとは答えられなかった。

 アンデッドにシェンは頷きを返し、詳細を話す。

 それを聞きアンデッドは方針を決めた。


「西周りで海岸沿いに進み、捨て去りの荒野に入ろうと思いますがそれで問題ありませんか」

「ないわ。ガース、あなたがあれらのまとめ役よ。上手く使いなさい。勇者を殺せるなら使い潰してもかまわないわ」

「はっ」


 シェンは魔物たちに刻んでいる呪いを通して、ガースと呼ばれたアンデッドに指揮権を移譲する。


「必ず良き知らせを報告いたします」

「待っているわ」


 シェンは城の中に入っていき、ガースは魔物たちに出発を命じる。

 与えられた指揮権はきちんと効果を発揮して、魔物たちは気乗りしない様子で動き出した。

 魔王城を出発して、予定は変えずに海岸沿いに移動していく。徒歩や馬車よりも速いが、休息を必要とするため出発した当日に到着とはいかず、五日ほどで捨て去りの荒野に入る。

 魔物たちに休息を命じてガースはこれからどう動こうかと考える。ある程度の範囲は指定されているが、それでも広いのだ。

 まずは情報収集だろうと考え、三グループにわけて西部を飛び回ることにした。

 魔物たちになにか見つけても報告を優先し、突っ込むことはしないよう命じて、どのようなグループで行動するか振り分けていく。

 休息している現在地を集合場所にして、ひとまず五日後に集まることにして出発する。

 ガースは大型の蝙蝠の魔物とリザードマン。悪魔のような魔物はハーピー二体。そして残りという分け方で動くことになる。

 ガース組は機動力の低い者を集めて集合場所からそう遠くないところを探す。悪魔組は、ハーピーたちを日頃フォローしている悪魔のような魔物に任せた形だ。獣と虫の魔物組は機動力が高いので、集合場所から遠くを探させる。

 

「さっさと目的を果たせればいいが」


 ガースは蝙蝠の魔物とリザードマンを引きつれて上空から地上を見下ろす。荒れ果てた大地が広がり、ほんのわずかな緑と濁った水が目に入る。

 思わずこんなところに人間がいるのだろうかと思ったが、すぐに首を小さく振った。シェンと魔王が言うのだから疑ってはならないと、地上を凝視する。

 熱心に探すガースと違って二体の魔物はさほど熱心とはいえない様子で地上を見ていた。

 そうしているうちに以前ナリシュビーが住居としていた洞窟を見つける。


「住むことはできそうだな」


 探ってみるかと出入口の死角に降りて、周辺の地面の足跡を見たり、内部からの音を聞く。

 足跡は魔物のものが残っていた。ナリシュビーが出ていって、魔物が探索に入ったり、寝床にしていたのだ。ナリシュビーの足跡も残ってはいたのだが、魔物の足跡の方が多く、探索に慣れていないガースたちでは見つけることはできなかった。

 

「物音はなしか。はずれと見ていいな。次に行くぞ」


 少しだけ入って調べ、はずれとみなしたガースは声をかけて飛びあがる。

 こうしてガースたちは空振りで終わり、集合場所へと戻っていく。

 この五日でローランドたちの移動があり、確実に負けるとわかっているガースたちは身を潜める。このときばかりは同行している魔物たちもガースと同じく必死になって身を潜めた。

 ほかの場所に行った者たちは収穫があった。悪魔組は廃墟に人が集まっているのを見つけ、獣と虫の魔物たちはノームの集まりを見つけていた。


「二ヶ所に人間がいたのか」


 こんな場所でよく生きているものだと思わず感心しながらどちらから探るか考える。

 二ヶ所の様子を聞いて、探る方をノームの方からにする。そちらはノームだけの集まりだと考えて、少し見てすぐに切り上げようと思ったのだ。

 魔物たちを集合場所に置いて、ガースだけがノームの隠れ里を遠目に観察し、ノームしかいないことを三日で確認して、ガースは廃墟に向かう。

 見回りがいると聞いていたので、彼らに遭遇しないように明け方の手前に廃墟のはるか上空に位置取る。雲に届く位置から観察を続けて、四人目の勇者がいるならこっちだろうと判断した。

 雨風をしのげる建物と食べ物と水がそろっていて、ノームたちの集まりよりこちらの方が人族にとって過ごしやすい環境だと考えたのだ。

 

「問題は二つ。誰が四人目かわからないこと。強い奴がいることだな」


 住民の多くはたいしたことがないが、一人だけ空にいるガースに視線を向けてきた。

 魔力が多く、存在感があり、じっと観察するように見ていたら、それに気づいたのか視線を向けられたのだ。

 偶然雲がガースの姿を隠し、雲の流れにそって移動しなければ逃げられなかった可能性があった。

 確実に自分よりも強い。そう思えてヒヤリとさせられた。

 

「全滅させるのが確実。しかしあの強者に真正面から襲いかかって勝てるかどうか。だったら……奇襲&奇襲で行くか。それでも駄目ならば一度退く。シェン様の命令を達成できないのは悲しいことだが、情報だけでも持ち帰って、あの強者を殺せるだけの者を手配してもらえばいい」


 その場合は失敗の責めを負うことになるだろうが、命令をこなせなかったので仕方ない。確実に勇者を殺すなら、こちらの全滅は避けて情報だけでも持ち帰るべきだと考える。

 決行は人間が多く出ている日中であり雲の多い日。奇襲というなら夜の方がいいとはわかっているが、建物の中に閉じこもって守りに入られたり、あるかもしれない隠し通路から逃げられるのも困る。威力偵察の意味合いもあるので交戦できないのも困るのだ。

 魔法が得意なものを雲に隠して、地上の岩陰などに機動力の高い魔物を配置。攻撃魔法で村を襲ったあとに、地上班が村に突撃。その様子を離れたところから観察する者を置くという方針で行くことにした。

 ガースは上空から魔法を使う。観察するのは体色が荒野と似ていて潜みやすい鷹の魔物に任せることにした。


「第一の目標はあそこにいる人間を全滅させること。難しいだろうがな。第二の目標はあそこの戦力を把握し、シェン様に伝えること」


 空から魔法を使う者と地上で襲う者には全力で行けと命じ、観察する鷹の魔物には見つからないように観察し続けろと命じて、アンデッドは時を待つ。

 そうして動くに値する条件に合う天候がやってくる。

感想と誤字指摘ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] ありゃ、女神が動いたことまで感じ取れるのか魔王 その動きからススムの居場所まで大体の目星付けられてしまうとは 勇者側、意図していないとはいえ早速やらかしてくれよる
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