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12 一つ目の石碑

 到着したのは、それなりの広さがあったらしい建物跡だ。今はもう床や壁の残骸や天井だったらしい瓦礫しかなく、建物の形をなしていない。


「ここはたしか水関連の施設だったかしら。工事で地下に水を貯める空間が作られていたはず。ほかには町の各所へと水を送ってもいたはずね」


 昔の街並みを思い出しつつフィリゲニスが言う。


「見たところなにもないのだけど、あなたと繋がっているものは地下かしら?」

「そうね。地下への階段が埋まっているから、それらしきものを探しましょ。見つけたら私が魔法で土をよそに移すわ」


 三人は散らばって地下への階段を探す。

 隠しているのではなく土に埋もれているだけなので簡単に見つかった。

 少しだけ掘り起こした地下への階段にフィリゲニスが手を置く。


「命なきもの、仮初の命、我が意思に従え。ゴーレムクリエイト」


 フィリゲニスの詠唱のすぐあとに、土でできた大蛇の頭が現れる。すぐに胴も大蛇の頭部にくっついて現れてぞろりと床を這っていく。ついには建物跡から出て行く。

 土でできた大蛇が移動を続けるのと比例して、階段を埋めていた土がなくなっていく。


「嫉妬も起きないわね」


 ビボーンがぽつりと漏らす。

 進が大蛇の移動を見つつ、なんでだと聞く。


「あっさりとやった魔法だけど、かなり難しいのよ。ゴーレムというのは通常人型なんだけど、それは魔法を使う本人が一番イメージしやすいからなのね。自分の体と同じものをゴーレムとして作って動かすのが一番簡単。人型の次に四つ足の獣、それ以外といった感じで難易度が上がっていく」

「なんとなく理解できる。人間も四つん這いで移動できるから、四つ足はまだまし。でも蛇の移動って体をくねらせて動いていると聞くけど、じゃあ詳しく説明しろと言われても難しい」

「そういったよくわからない部分は世界任せになるから、消費は大きくなるし、制御難度も上がる。でもフィリゲニスは容易くやってみせた。これだけでも私との差がよくわかるわ」

「練習あるのみよ。私だって最初は力任せだったけど、本物を見たり何度も使っているうちにコツを掴んだわ」


 コツですむ話なのかとビボーンは腕を組み考え込む。

 進にとってはあまり関係のない話だ。変質の魔法しか使えないのだから、ゴーレム作成のコツは役に立たない。

 思考しているビボーンから離れて、階段を覗き込む。


「まだまだ蛇が出てくるな」

「たぶん地下が盛大に壊れて埋まっちゃっているんでしょうね」

「この蛇って魔法が終わったら土に戻る?」

「ええ。邪魔になるでしょうし、どこか一ヶ所にまとめておきましょ。どこがいいかしらね……そうだ。寝泊まりは芋を食べたところでしているの?」

「そうだよ。あそこだと雨風が避けられるし」

「だったら拠点の修理材料として使おう。いつまでも地下暮らしするのもどうかと思うし、ある程度穴とかと塞げば多少はまともな生活環境になるはずよ」

「現状地下でも地上でもそうたいして変わらない気がするけどな」

「頑張っていきましょ」

「俺よりいろいろできそうだし、よろしく頼む」

「まかせなさい」


 フィリゲニスも力を取り戻すまではここに滞在が決定していて、生活環境を整えることに前向きだ。贅沢したいと我儘を言う気はないが、それでもまともな環境で過ごしたいのだ。それは進もなので、フィリゲニスという協力者は大歓迎だった。


「土の移動が終わるまでもう少しかかるでしょうし、お話しましょ。どこ出身? どんな食べ物が好き? 趣味は? 結婚相手はどんな人がいい? 子供の数は?」

「俺を結婚相手として見てないか?」

「この場にいる人間はあなただけだし、私の魔法を見て特に忌避とかそういった反応を見せないのもポイントが高い」

「もっとこう時間をかけて相手の良し悪しを見てから決めた方がいいだろ」

「そんな悠長なことをしていたら、ほかにかっさらわれるかもしれないし」

「三人だけの状況で誰にかっさらわれるというのか」

「ビボーンに」

「それはねえよ」


 進は親切にしてくれているビボーンに好感を得ているが、同性に惚れる気はないし骨に惚れることもないと断言できる。


「だったら私に惚れるしかないわね」

「今のところ誰かと恋愛する気はないぞ。現状をどうにかしないことにはそんな余裕はない」

「なにをどうしたら余裕が出てくるのかしら」

「神殿に行くのは最終目標だし、もっとまともな生活環境にできたら、か?」

「まともな生活ね。それは私自身も望むことだし、頑張るしかないわね!」


 フィリゲニスはやったるぞと拳を突きあげる。

 やる気がありすぎて進としては引く。


「そこまで急ぐことか? 見た目若いけど、もしかして思っている以上に年を食ってるとか」


 若く見えるだけで適齢期が終わりかけているのだろうかと聞く。


「二十歳になったばかりよ」

「若いな。あ、でも封印されて時間たっているし、それを加えるとかなりのご年配ということに?」

「さすがに封印されていた時間はなしにしてちょうだい」

「まあ、そうだな。しかし二十歳で最高の魔法使いと認められたのか、すごいな」

「怖がられることがほとんどだったけどね。こっちは別に悪意を抱いているわけでもないのに。過去のことはどうでもいいわ。それよりさっき神殿に行くとか言ってたけど、なにか用事でもあるの?」


 異世界から来ていて、帰るためにどうすればいのか女神ヴィットラに聞きたいのだと説明する。

 夢の中で、日本の風景を見ているからこの世界とは違ったところが出身だとばれていると考えて隠さず正直に話したのだ。


「こことは異なる世界なんてあったのね。言われてみれば、夢に入ったときの光景は違った感じがあった。私が封印されて発展した世界はあんな感じだって思ったんだけど、あれが異世界の景色だったの」


 証拠のない説明を受けて、フィリゲニスは感心したように頷く。

 いろいろと見慣れないものがあった夢で、異なる世界と説明されても納得できるのだ。魔法を使っているような場面がなかったことも納得できる一因だった。


「異世界というものをフィリゲニスが知らなかったってことは、世界を行き来するような魔法に関して知らないんだよな?」

「知らないわね。それこそ神くらいしか知らないでしょ。目的は帰ることだったのね。恋人とか妻がいたり?」

「いないよ。家族もいない。両親は七年くらい前に死んだし、帰っても待っている人はいない」


 両親が死んだあとは、祖父母の世話になっていたし、仲が悪いわけでもなかった。しかし体調を崩した祖父母の遺産問題で親戚がもめて彼らとの暮らしが不穏になり、祖父母から叔父たちの穏やかとは言えない話し合いに巻き込まれないよう、両親と暮らしていた家に戻るように言われた。そして大学一年の冬から一人暮らしとなり疎遠になったのだ。今では年一回、正月お盆を避けて会いに行く程度になっていた。

 行方不明になったことで面倒をかけるのは、申し訳ないと思う。だけど祖父母に会いたいから絶対に神殿に行くぞというほどでもない。祖父母に会いに行くと、親戚の争いを目にすることになるので、避けたいという思いの方が強かった。

 血の繋がりのある人々のそういった姿は、失った家族への思いを汚される気がしたのだ。


「私もいないわ。おそろいね。このまま私たちで新しい家族となりましょう!」

「それはおそろいとは言わないだろ」


 正直、新しい家族を作るという部分には惹かれるものもあった。まだ子供といえる時期に失った家族をまた得られるということには無関心というわけではなかった。

 それでもフィリゲニスは急すぎるので、受け入れがたくあるのだが。

 

「さっきも言ったけど急ぎすぎじゃないか? 今の時代にはフィリゲニスを知っている人はいないんだから自重して過ごせば、結婚もそう難しくはないだろ。気が合う人もみつかると思う」

「そうかもしれないけど」


 どうしてなのか、魔法を制御しながらフィリゲニスは考える。

 本人も気づいていないが寂しかったのだ。時間が流れて自分を知らない人であふれているから自由を感じていた。しかしフィリゲニスの本質の一つは寂しがりであり、自由すぎることが寂しかった。

 疎まれ怖がられても隠遁せず人々に協力した。このことからも誰かと接していたかったとわかる。フィリゲニスの実力ならば隠れようと思えば、誰からも見つからずにすごせるのだ。それをせずに畏怖されても誰かと一緒にいたかったのだ。

 自身の本質に気づかずフィリゲニスは首を傾げた。


「なんでだろうね。でもどうも急く思いがあるの」

「とりあえず友達からということで」

「おー友達。そうね、友達から。じゃあ私のことはフィズって呼んで、家族とか友達はそう呼んでいたから」

「わかった。俺はススムで」

「よろしくね、ススム」


 嬉しげに微笑むフィリゲニスに、進も頷きを返す。

 ひとまずフィリゲニスが納得した様子を見せたタイミングで、長々と続いていた土の大蛇の胴が途切れた。粗方地下空間の土を出したということなのだろう。


「入りましょ」

「ビボーン、中に入るよー」


 肩を揺すって声をかけると、ビボーンはゴーレム作成に関する思考から戻ってくる。


「ああ、終わったの? すっかり考えこんじゃっていたわね」


 三人で階段を下りて行き、すぐに短い通路に出る。ビボーンが明かりの魔法を使い、照らされた通路の両側には物置のような部屋があり、通路の奥にはさらに下へと続く階段があった。

 二つの部屋は壁などが崩れていて、その衝撃で壊れたらしい棚の残骸があった。役に立ちそうなものはなく、部屋の探索を終えた三人は階段を下る。

 少しばかり長めの階段を降りて、出口が見えたとき、進とフィリゲニスは異臭を感じた。


「腐ったなにかがあるのか?」

「私もそんな匂いがするわね」

「雨水とかが流れ込んで、腐ったのかしらね。それに加えてフィリゲニスの力の影響を受けたと。私が行ってみるから、二人は少し上がって待っててちょうだいな」


 気をつけてと声をかけた進にビボーンはわかったと片手を振って階段を下っていく。

 階段を降りたビボーンは、地下貯水槽の上部に出る。底の方を覗くと土と水が見えた。そして魔力の篭った石碑のようなものも見つけることができた。

 底へと行く梯子などがあるか探したあとは、なにか危険な生物が入り込んでないか床に落ちている石を投げこんでみる。

 水に落ちたいくつかの石に反応するものはなく、生き物はいないとビボーンは判断した。


「ただいま」

「おかえり。どうだった?」

「封印関連の石碑みたいなものはあったわ。下に降りるための手段がないから、魔法で土台を作る必要があると思う」

「それは私がやれるわ」

「お願いするわね。あとは水の中に生き物がいないか石を投げこんでみたけど特に反応はなかった。問題は匂いくらいじゃないかしら」

「じゃあ、今日は換気をして、明日石碑に向かうことにしましょうか。換気をやったら魔力打ち止めだし、そんな状態で石碑に近づきたくはないわ」


 それでよいということで三人は外に出る。そこからフィリゲニスが魔法で地下の換気を行う。少しの間周囲に異臭が漂うが、風に流されていき、もとに戻る。

 明日また異臭が発生しているだろうが、それでも今日よりはましになっているだろう。

 拠点に戻った三人は、それぞれやりたいことをやる。ビボーンがフィリゲニスに魔法についての講義を受けて、進はその近くで話を聞きながら軽めの筋トレを行った。

 魔法の講義がひと段落ついて、フィリゲニスが進の魔法について関心を向ける。


「能力者って聞いたけど、どういった魔法なの?」

「変質。質の上げ下げや変化を起こす魔法だよ。フィズの力の影響を受けた水とか土を、その魔法で綺麗にしたり、俺の知っている土に変えたりした。ほかには魔物の筋肉を生まれたばかりの頃のものに変えて戦闘力を落としたりもした」

「質を維持する魔法とか、強化の魔法は聞いたことあるけど、変質というのは昔は聞かなかったわね。やっぱり時がたつと知らないものが増えるわ」


 封印されている間に、新たに開発された魔法なんだろうと、どんなふうに使っているのか興味深そうに尋ねる。

 進の説明を聞いて、フィリゲニスは少しだけ残っている魔力で着ている服に変質の魔法を使う。


「あら?」

「どうしたの」

「魔法が発動しなかったのよ。聞いた通りにやってみたんだけど、これは素質が必要な魔法なのかしらね」

「そんなものがあるんだ」


 あの声の主に素質を与えられたんだろうかと思いつつ進は聞く。


「どんな魔法でも求められる資質があるわ。大抵の魔法は多くのものを求めないのだけど、たまに限られた資質を持つ人だけが使える魔法というものはある。飛行魔法が有名ね。あれは元から空を飛べる種族じゃないと基本的に習得できない。そういった人に手伝ってもらったら落下速度を落とすくらいはできるようになるけどね」

「フィズも飛行魔法は得意ではないってことか」

「私は飛行魔法単体では無理だとわかって、風の魔法を組み合わせて飛べるようになったわ」

「ススム、魔法に別の魔法を組み込むとかそう簡単にできないから勘違いしないようにね」


 ただでさえ難しい魔法の制御がさらに難しくなるとビボーンが言う。

 そう難しいことではなかったと首を傾げるフィリゲニスはたしかに天才なのだろう。


「素質が必要な飛行魔法を創意工夫でやれたってことは、いつか変質の魔法も使えるようになるかもしれないな」

「どうでしょうね。飛行魔法は拙いながらも最初から少しはできたのよ。でも変質魔法はまったく反応しなかった。これはそうとうに限られた資質が必要とされることなんだと思う。使えるように努力して、どうにか使えても初歩の初歩がやっとじゃないかしらね。もしかしたらこの世界の人間にはない資質が必要なのかも」

「この世界の人間には使えない魔法か。俺がこっちに呼ばれたのはこれを必要とする人がいるからとかなのか?」


 かもしれないとフィリゲニスとビボーンは頷く。だが誰が必要としたのかはヒントが少なすぎて、三人にはわからなかった。

 話は魔法からこれからの生活についてに移っていく。

 いつまでも芋とたまに肉のみは嫌だなと話す。


「海方面に私との繋がりがあるから、それの確認がてら海に行って、魚や貝でも取りましょうよ」

「とれるなら俺も食べたいな」

「私もいいわよ。ここを離れるのは久々ね」

「今から楽しみだわ。お酒があればもっとよかったんだけど」


 酒が好きなのかと進が問えば、フィリゲニスはすぐに肯定する。


「ええ、以前は料理とお酒が一番の楽しみだったわ。あ、そうだ。ススムはお酒飲める?」


 それなりにと進が頷く。こっちに来る前の買い物で酒を買ったように、酒はよく飲んでいた。

 変質で水を酒に変えられないかとフィリゲニスが聞く。


「あー、できるかも」


 土を日本のものに変えることができたのだから、水も変化可能ではと進も思えた。そもそもすでにミネラルウォーターに変えているのだから、不可能という方がおかしいのかもしれない。

 試しにペットボトルに入れてある水をこれまで飲んで美味しいと思った日本酒に変えようと魔法を使う。祖父のとっておきのお酒で、成人式のお祝いに父親代わりに一緒に飲んだものだ。

 思い出したら飲みたくなり、そんな思いも込められて魔法が発動する。

 ペットボトルの飲み口からふわりと嗅いだことのある香りが立つ。


「成功みたいだ」


 一口飲んでみて、味も以前飲んだものと同じだと判明した。


「私にも飲ませてちょうだい」

「ほいよ」


 ペットボトルを受け取ったフィリゲニスは、どのような味か確かめるため少しだけ口に含む。口の中に広がり、鼻から抜ける酒気に、溜息を吐く。


「飲んだことのない味だけどいけるわね」

「爺さんのとっておきをイメージした酒だからな」

「私にもくれる?」

「ビボーンも飲めるのか?」

「飲めないわ。でも頭部に触れると味を感じることはできるのよ」

「そうなんだな」


 フィリゲニスから受け取ったペットボトルをビボーンは頭上に持っていき、トプトプと酒を頭蓋骨にふりかける。


「こういった味のお酒は私も初めてだわ。どんな材料を使っているのかしら」

「米だけど、こっちにもあるのかは知らん」

「米って、こっちだと家畜用の飼料として使われているものよ。お酒の材料になったのね」

「俺の国だと主食だな」


 どうやって食べるのか聞かれて、進は脱穀など知っていることを話す。

 残った酒を三人で少しずつ飲みながら、料理に関しての話などをして夜を過ごすことになった。

 夜が明けて、今日も芋で朝食を済ませて地下貯水槽へと向かう。匂いはまだ残っているが、昨日よりもましだった。


「うん、あの石碑に繋がりがあるわね」


 底を覗き込みつつフィリゲニスが言う。


「あれを壊せばいいんだな」

「そうね。でもまだあれにかけられた保護の魔法が生きているから、そう簡単には壊れないと思う」

「そこはススムの魔法で石碑そのものか、もしくは石碑にかけられた魔法を劣化させればなんとでもなるでしょ。駄目ならゴリ押ししかないと思うけど、まずはススムにやってもらいましょ」


 頷いたフィリゲニスは地下貯水槽の壁に魔法をかけて階段を作り出す。

 まずは一番軽いビボーンがそれに乗って、飛び跳ねたりして壊れることがないか確かめた。安全だとわかり、三人は貯水槽の底へと向かう。

 底に近づくたびに異臭が強くなっていく。


「さっさと終わらせないと匂いが染みつきそうね」

「それは勘弁だな」


 などと話しているうちに底に到着する。

 そこからフィリゲニスがもう一度魔法を使い、石碑へと道を作る。

 三人は石碑に近づいて、五メートルを超すそれを見上げる。


「かかっている魔法を劣化させるってどんなイメ―ジをすればいいかわからないから、石碑自体を劣化させるぞ」

「いいわよ。外にいるときに練習すればよかったわね。ここを出たら練習しましょうね。炎付与の魔法だったら、見た目もわかりやすいでしょ」


 ビボーンが言い、フィリゲニスも頷く。

 物体に炎を付与する魔法で、それの質を落とすということは炎の勢いが減るということだ。見た目にも変質の効果が出たかわかりやすいはずだ。

 進が魔法を使う。見た目にはなにも変わっていない。


「それじゃ私がやってみるわね」


 ビボーンが片手を上げて詠唱すると、離れたところにある瓦礫の一つが浮かんで、石碑にぶつかった。

 瓦礫が粉々に砕けて、破片が周囲に飛び散る。ほとんどが水に落ちて水が跳ねて、少しだけ三人にも破片がぶつかった。

 石碑の方はというとヒビが入った程度だが、きちんと変質の魔法が効いていると判明した。

 この調子で壊すと言ったビボーンが瓦礫をいくつもぶつけていき、とうとう石碑の上部が壊れて、水面に破片が落ちていく。


「これでいいと思うけど、どんな感じかしら?」

「うん、こことの繋がりは切れて、奪われる力の量が減った。これでここに無駄に力が振りまかれることはない。ここらの土とか水の状態も少しずつ落ち着いていくでしょうね」


 まだまだフィリゲニスの力が残留しているのでいきなりまともに戻ることはない。だが魔力が追加されることはなくなったので、放置していても十年後にはまばらに雑草くらいは生えていることだろう。それにともない草食動物が増えて、肉食動物も増えて、魔物も増えるはずだ。

 毎日進が浄化する池も、これから汚染速度が落ちていく。といってもしばらくは実感を得ないだろうが。


「やることはやったし地上に帰りましょう。いつまでもここにいたくないわ」

「だなぁ」


 鼻が麻痺して少しは匂いに慣れたが、それでも長居したくはない。

 ここの水が地下水を汚染しないように、池の水と同じように変えてから地上へと戻る。

 体にまとわりつく匂いに進とフィリゲニスは顔を顰めた。フィリゲニスが三人分の消臭魔法を使って、さっさと臭気から解放される。

 拠点に戻った三人は一階部分で使えそうな部屋を探して、修理について話を進めていく。

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