表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
118/147

118 追ってくるもの

 壁の向こうには人工物と一目でわかる通路が魔法の明かりに照らされた。

 肉眼ならば透視のようにモザイクがかかるようなことはなかった。


「魔力に干渉するエリアなのかしら」


 検証とついでに換気をすることにして、フィリゲニスは魔法で空気を動かす。

 結果、魔法の効きが悪いと感じられた。


「魔力に干渉する研究でもしていて、それが誤作動したのでありますかな」

「私も今のうちにどんな感じか試してみましょう」


 ビボーンが通路の向こうへと光の玉を飛ばす。明るさが弱まるだろうと思っていた光の玉はなにも変わらず浮かんでまっすぐに進んでいった


「あら?」

「なんの変化もないな?」

「通路の外からやったからかしら。通路に入ってもう一度やってみるわね」


 ビボーンが通路に足を踏み入れる。

 ビボーンの体は人間よりも魔力そのもので構成されている部分が多い。だから身動きが鈍る可能性があると思っていたが、なにも変化はなかった。

 もう一度光の玉を生み出しても同じ結果だ。


「私はなにも変化がないわ。魔物には効果がないのかも」

「だったら俺がやってみよう。ただ細かな魔力の動きは俺には感知不可能だから、皆で見ていてほしい」


 頷きが返ってきたのを見て、進も通路に足を踏み入れて、壁を劣化させようと魔法をかけた。

 劣化させた部分を、持ってきていた剣の柄頭で叩くと壁はぼろぼろと崩れていった。


「どうだった? 俺的には問題なく魔法は効果を出したと思えるんだけど」

「私から見てもなんの問題もないように見えたわね」


 ビボーンの同意を得て、フィリゲニスはどうかと視線を向ける。


「私から見てもおかしな魔力の動きは見えなかった。つまり私限定で邪魔をしてくるってこと?」


 ちょっと理不尽じゃないかと頬を膨らませた。


「もしかすると高位魔法使い限定で阻害機能があるのかもしれません」

「フィズほどじゃなくても高位の魔法使いって言われていたんだけど、大昔は私くらいの実力は当たり前だったの?」


 自分は条件に該当しないのかとビボーンが首を傾げた。


「私の時代だったらビボーンも一流を名乗れる実力だったわよ」

「そうですね。強い部類であります」

「ということはやっぱりフィズを狙い撃ちした阻害になるってことに。でも研究所設立はフィズが生きていた時代とは少しずれるとか言ってなかったか?」

「そうじゃないかという予想なので、フィズ殿が生きていた頃からうまく隠れていた可能性はあります」

「残っているかもしれない書類とかを見ないことには正解はわかりそうにないわね」


 自分の生きていた時代のものという可能性が出てきて、フィリゲニスは不機嫌な雰囲気を漂わせ始める。

 そのフィリゲニスを宥めるため、苦笑しながら進はフィリゲニスの隣に行き、腕を組む。それでフィリゲニスの雰囲気が和らいでいく。

 そのまま通路を進む。ところどころ崩落しており、それをビボーンが処理していく。床には魔物の足跡といったうろついている形跡はあるが、姿はない。

 道案内はフィリゲニスだ。まだ透視で見えていたときのことを思い出しながら、資料のありそうなところを目指す。

 そろそろ資料の見えていたところに到着するかといったとき、咆哮が聞こえてきた。ギアアアアッと虫が出すものに近いが、この声量は無理というものがどこからか聞こえる。そのすぐあとに振動が起こる。どこかからは天井か壁が壊れ落ちた音も聞こえる。


「ススムッ。この施設の強化をお願い。脱出する前に崩落する可能性の方が高いわ」


 すぐにフィリゲニスが崩落の危険性に思い至り、進はそれに従い魔法を研究所全体を意識して魔法を使う。

 振動は治まらず、ぱらぱらと壁や天井から破片は落ちる。だがその量が格段に減る。


「振動を起こしているのは咆哮を上げた主だよな。フィズは強い魔物の気配がないって言ってなかった?」

「なかった。でも現れた。これまで上手く息を潜めていたのでしょうね」

「私も遠くに気配を感じられている。隠れていたというフィズの意見に賛成よ」

「どうして今動き出したのでしょう?」


 そのリッカの疑問には、研究所に侵入したからではないかとフィリゲニスとビボーンは言う。


「警備用ゴーレムかなにかでしょうか? それなら起動まで気配が小さくとも納得できます」

「たぶんとしか言えないわね。長いこと放置されていた場所でしょう? 村の地下にあった中枢機械もぼろくなっていたのに、ここの警備が問題なく動くのか疑問。いやあなたたち特型のようにしっかり保管されていれば動くことはできるのかもね」


 特型壱号やリッカの動きをすぐに思い出して、フィリゲニスは自身の考えを否定した。


「私たちのように保管されていたものだとしたら。しばらく動けば故障が発生すると思われます。これからどうしましょうか。こっちからあれに向かいますか? それとも故障するまで避けるように移動しますか?」

「無駄に戦うこともないし、避けつつ移動でいいと思うわ」


 ビボーンの意見に皆が賛成し、振動の主に近づかないように移動していく。

 しかし気配の主の方が進たちの気配を掴んでいるのか、少しずつだが音と振動が大きくなっていく。

 

「研究所を出ても追いかけてくると思う?」


 進の疑問に、三人は可能性は高いと返した。

 どうせ追いつかれるなら動きやすい広いところで迎え撃とうとフィリゲニスが言い、そこに案内すると歩き出した。目指すのは透視で見た広い空間だ。

 向こうの移動速度は進たちに追いつけるほどではないようで、無事目的の空間に到着する。

 そこは土の地面にコンクリートのような飾り気のない壁と天井の広場だ。壁には鉄格子がはまっているところが二ヵ所あり、その向こうには今はなにもない。

 壁や天井にはヒビは入っているが、崩落した様子はない。ほかのところよりも頑丈に作られたのだろう。

 

「この広さを頑丈にしてるってことは、なにか暴れさせたり、大規模な魔法の実験をやっていたところなんだろうか」

「そんな感じでしょうね。それなりに大きなものが動ける空間だし、なにをしていたのやら」


 進とビボーンが話している間にも振動と音は少しずつ大きくなり、やがてゴンッと一際大きな音が壁の一部から聞こえてきた。

 そのぶつかるような音は一度聞こえたあと連続して聞こえるようになり、聞こえてくる音の辺りにヒビが広がっていく。

 それを見ながらフィリゲニスは攻撃魔法を、ビボーンは防壁の魔法を、それぞれ準備する。

 そして壁を破って咆哮の主が姿を現した。

 見た途端、全員の顔が顰められた。

 

「なんか想像と違うんだ。普段フィズが作っているような人型ゴーレムの大きいバージョンを想像していたよ」

「私もそうであります」


 皆の視線の先には肉と甲殻でできた巨大な芋虫がいた。全体的に赤黒く、頭部から腹部の先まで七メートルほど、胴の直径は一メートル半。

 体は魔物たちの死体を集めて凝縮して体の形に整えていて、肉だけではなく内臓などが表面に見えている。足や口は砕けた甲殻が集められて形をなしていた。開かれた口には牙のようなものが並ぶが、噛み砕いたものを飲み込む食道が見えない。あの口はただ噛むだけに存在するようだ。

 誰が見てもこの芋虫は悪趣味な造形だろう。


「昔の警備ってああいった悪趣味なものだったのか?」

「それはないであります」


 進の発言をリッカが即座に否定した。


「もっとまともな造形だったって私も証言するわ。あれは死骸で作ったゴーレムね。ここの研究の成果なのかしら。来るわよ!」


 芋虫の魔力の動きと口をさらに開いた動作を見て、フィリゲニスが皆に警戒を促す。


「魔力よ、我らの前にありて、遮る壁となせ。ラウンドシールド」


 進たちの前に出現した大きく丸い魔力の壁に、芋虫は勢いよく液体を吐き出した。

 魔力の壁は液体をしっかり遮っていたが、黄色っぽい透明な壁が少しずつ灰色に変色していく。魔力の壁に当たって飛び散った液体の飛沫が地面に落ちて、土も黒く変色させる。


「すぐに破られるわ!」


 ビボーンが警告を発し、進とフィリゲニス、ビボーンとリッカというふうに左右に分かれる。そして防いだ感触を皆に告げる。

 

「あの液体は破壊力が高いわけじゃないわ。魔力に干渉するみたいよ」

「飛沫でも触れるとろくなことにならなさそうだし、さっさと倒すにかぎるわね」


 フィリゲニスは準備していた魔法を放つ。


「バンドルライトニング」


 束ねられた稲妻が芋虫に命中する。表面は黒く焦げ、焼けたことで煙もあちこちから上がる。

 いまだ魔力に干渉されてはいるが、ダメージが与えられたとわかる結果だ。どうなると観察していると喜びを帯びた咆哮が響いた。

 完全に芋虫の顔の向きがフィリゲニスに固定されて迫っていく。


「なんで喜んだのかフィズはわかる?」

「さっぱりね。ただ力強さが増した気がする。ダメージはたしかに与えた。感じ取れる魔力も減少した。でも気配が濃くなった」

「窮地にこそパフォーマンスを発揮することを目的に作られたゴーレムなんだろうか」

「そうなのかしら」


 もう一度フィリゲニスは魔法を放つ。ついでに足止めも目的として、地面から岩の刺を生やす。

 芋虫は棘が刺さっても無理矢理前進し、下部をずたずたにしながらフィリゲニスを追う。


「ダメージ自体は与えられるしさっさと倒してしまいましょう。考えるのはそのあとでいいわ。強化お願いね」

「りょーかい」


 フィリゲニスは三枚の風の刃を放ち、似たタイミングでビボーンからも稲妻の魔法が放たれた。

 切り裂かれた部分を稲妻が焼いて、芋虫はさすがに動きを止める。

 終わったなと思って進たちが集まろうとすると、ギュギュッと音がする。

 発生源は芋虫だ。どんどん縮んでおり、すぐに二メートルを超える赤黒い人型になった。その胸には純銅の色をしたリンゴほどの玉が埋め込まれていた。

 変わらず視線はフィリゲニスに向いている。そして動く。同時にフィリゲニスが進を押しのけ、自身に身体能力強化の魔法を使った。

 うわっと進が驚きの声を上げたときには、両者はその場から離れて、追いかけっこ状態だった。


「助けてくれたのか」


 反応できなかった進が動き続けるフィリゲニスに感謝の視線を向ける。

 以前よりも身体能力は上がって、鍛錬もやっているが、赤黒い人型の動きに反応できなかった。今は目で追えるので戦闘経験が足りず咄嗟の判断ができなかったのだろう。 

感想と誤字指摘ありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] フィリゲニスだけを狙い撃ちした阻害ですか Ωの職号持ちのフィリゲニスに対抗するための研究とかだったんですかねえ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ