表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
116/147

116 南での採掘

 春のとある日、ゲラーシーが進たちの家を訪ねてくる。

 前置きとしてノームたちやスカラーたちの様子を話して本題に入る。


「俺たちが金属や良い土を以前から探しているのは知っているよな」


 ゲラーシーがそう言い、進は頷く。


「ああ、話に聞いている。それらが見つかったという話は聞いてないな」

「情報収集を主として、本格的に掘っていなかったからだな。んで、いよいよ本格的にやってみようと思っている」

「ということはいくつかあたりがついたのか」

「三ヶ所だ。南に二ヶ所、北に一ヶ所。西には見つからず、東は隠れ里とかぶらないように探さなかった」


 今の隠れ里の者たちが鉱脈を探しに出る余裕はないので、採掘範囲がかぶる心配はないのだが、今後は外に出てくる余裕があるかもと思って避けたのだ。


「まずは一番近い南に行ってみようと思う」


 そこは半日ほど歩いたところにある小さな山だ。方角的にはリッカのいた研究所跡地だが、そこまで行かずやや東にずれている。崩落しているが穴を掘った跡があり、坑道跡地だとゲラーシーたちは判断したのだ。

 ほかの場所も半日程度歩いたところにある。鉱脈探しの際には自分たちだけでは行かず警備や見回りから人を回してもらったが、彼らに負担をかけないためにも遠くに行きすぎることを避けたのだ。


「そこはどういったものが採れると予想しているんだ?」

「おそらく銅だな。少し掘ってみたが銅鉱石の欠片が多く散らばっていた。運搬したときそれらが零れ落ちたのだと思う」

「たしか銅は調理器具にいいんだっけ。武具にするには錫を混ぜて青銅にしないと駄目とか聞いたことが」

「逆に言うなら武具にしないなら刃物とかにも使えるということだ。さらに言うなら村長に質を上げてもらえば十分使い物になるだろう」


 魔法をかけることには承諾し、結局出発を告げにきたのかと聞く。


「フィリゲニスさんに同行してもらいたいんだ」

「護衛としてかしら。それなら最近鍛えている人たちで十分じゃない?」

「万が一なにかがあったときの護衛としては考えているが、そうではなく銅鉱石が見つかったときそれをゴーレム化していっきに掘り出して、馬車で運びたい。何度もそこに足を運ぶよりは一度に運んでしまった方が安全だと思うんだ」

「ふむ……まあいいか」


 その気になればすぐに家に帰られる位置なので行くことを了承した。

 いつから行くのかと聞かれてゲラ-シーは明日からと答える。

 急な話だが急ぎの仕事もないので、フィリゲニスは出かける準備を整える。

 翌日、フィリゲニスとゲラーシーを含めた三人のノームと見回りナリシュビーの三人が朝食後に村を出発する。

 ゴーレムを使った馬車での移動なので、半日もかけずに到着する。時間はおよそ午後四時前といったところか。周辺の景色と同じくほぼ草木の生えていない山だ。


「今日は入口辺りの確認をして明日の朝から土などの撤去を始めたいと思う。フィリゲニスさんもそれでいいか」

「いいわよ」

「じゃあそっちの二人は夕食の準備を頼む」


 すでに場所を知っているノーム二人に調理を頼んで、ゲラーシーが先頭に立って坑道入口まで移動する。

 坑道入口は少しだけ斜面を登ったところにある。五十メートルも歩かずにフィリゲニスも入口らしきものをみつけた。少しだけ掘り起こされているのはゲラーシーたちがやったのだろう。

 もとはここまで道があったのだろうが、今では痕跡もない。


「ここが入口になる。どれくらいの規模の坑道なのか、まだ採れるかわからないけどな」

「少しでも採れるならありがたいということか」

「ちょっと地下を魔法で見てみるわよ」


 そう言ってフィリゲニスが透視の魔法で周辺を見ていく。

 入口からしばらく先は崩落状態で、ほかのところは無事なところや崩落で塞がっているところがある。


「ん?」


 視線を下方に向けたフィリゲニスがなにかに気づいたという声を出す。


「どうしたんだ?」

「坑道の先に居住空間みたいなものがあるわね」

「奥の方に休憩所を作っていたということか?」

「休憩所というには大きい。なにかの研究でもしていたような痕跡があるわ」


 薬品棚らしきもの、ビーカーらしきもの、書類らしきものがボロボロの状態で転がっている。

 少し視線をずらすと、頑丈なベッドが中央に置かれた部屋があったり、牢屋の跡があったり、体育館ほどの広さの空間があったり、なにかの骨も転がっている。骨は人骨の一部や獣の骨の一部のように見える。牢屋にはくす玉くらいの大きさの岩が転がっていた。


「坑道の奥に隠れるように作っているから、あまり褒められるようなことを研究していなかったのではないかしら」

「おそらくかなり昔のことだろう? 新しい足跡なんて見つからなかったし」

「ここが捨て去りの荒野と呼ばれる前の名残でしょう」

「今もなにか危険はあるのだろうか」

「地中の魔物が住処にしているくらいかしら。こうして見るかぎりだとそれ以外に危険はないように見えるわね。でも直接見たらまたなにか新たな発見があるかもしれないから油断はしない方がいいわ」

「方向を教えてもらえるか? 念のため研究所跡地には近づかないようにしたい」


 頷いたフィリゲニスが口頭と指で方向を示す。

 ゲラーシーはそれをよく覚えておくことにして、野営地に戻ろうと声をかける。

 翌日から一行は坑道跡を掘り返していく。主にフィリゲニスが魔法で土砂を外に出して、ゲラーシーたちが崩落を防ぐために魔法と技術で補修していく。できるだけ早く作業を終わらせて帰って進に会いたいフィリゲニスがどんどん作業を進めていくので、坑道の土砂は二日で粗方運び出されることになった。その早さにゲラーシーたちの補修が追いつかず、坑道内には崩落の危険がある場所がいくつもあった。しかも盛大に使われた魔法は研究所にも影響を及ぼして、魔物を刺激することになる。

 そして三日目、今日から銅鉱脈を探すことになり、全員で坑道に入る。

 人が三人並んで歩ける幅であり、小石などが転がっていてやや歩きにくい。

 ここを使うなら整備しないとなとゲラーシーは歩きながら思う。

 同時にフィリゲニスは魔力を感じ取っていた。強いものではないし、生物が発するものでもない。魔力を帯びた金属が採れることがあると聞いたことがあり、ここがそうなのかもと今のところは心の中だけに留めて歩を進める。

 研究所に近づかないことにしているため、離れたところにある突き当りを目指す。


「魔物のおでまし」


 いち早く魔物の接近に気づいたフィリゲニスが警戒を促す。

 フィリゲニスが指で示した先にゲラーシーたちが目を凝らし耳を澄ますとなにかが移動する音がかすかに聞こえてきた。


「そっちがやりたいなら私は控えておくけどどうする?」

「どんな魔物がいるかわからないので、まずはフィリゲニスさんにお願いしたいです。倒せそうなら次からは俺たちで」


 ナリシュビーの返答に、わかったと言ってからフィリゲニスは前に出る。

 一行の先頭に出ながらフィリゲニスは魔力の矢を何本も生み出していく。

 そうしているうちに魔法の明かりが照らす範囲に魔物たちが姿を見せる。

 ムカデやけらといった虫の魔物の成体と成体になりかけが十体以上姿を見せる。

 ゲラーシーたちはその数に警戒した表情を浮かべて、フィリゲニスは魔物たちに魔力の矢を飛ばす。

 高速で飛来する矢を魔物たちは避けることはできず、まともに受けていく。

 最初の違和感はここからすでにあった。被害が出たというのに、魔物たちは退く様子を見せないのだ。


「やけに闘争心が高いわね。抜けてくる魔物がいるかもしれないからそっちでも警戒はしておきなさい」

「わかった」


 ゲラーシーたちにも逃げない魔物のおかしさは理解できる。どこから襲われてもいいように、各々魔法の準備をしたり、武器を構えておく。

 幸い今回の襲撃でフィリゲニスの魔法を抜けてくる魔物はおらず、被害はなしで戦闘が終わる。


「結局一体も逃げずに終わったな」


 地面に転がる魔物の死体を見てゲラーシーが呟くように言う。


「空腹が限界で餌を前に逃げるという選択を取れなかった、とかでしょうか」

「餌はすぐそばにあったじゃないか。共食いなんて珍しいことじゃない。俺たちを襲う前に、仲間を襲ってもおかしくはない」

「そう、ですね」


 ゲラーシーたちの会話を聞きながら、フィリゲニスは魔物の死体に近寄り観察していく。


「フィリゲニスさん、なにかわかるかい」

「……闘争心の高さに関してはなにも。ただ魔法への耐性が高いのは気になるわ。環境によるものか、研究所に関連しているのか」

「魔法への耐性? 一撃で倒れていったのにか」

「たしかに一撃だったけれども、死体の残り方が綺麗なのよ」


 ばらばらになっていてもおかしくない死体はどれも魔法に貫かれた形で残っている。フィリゲニスは特に死体を残そうとはしていなかったのだ。


「となると戦うとしたら武器を振るう方がいいのか」

「そうなるわ。強さ自体は外の魔物とそうかわらない、魔法に強いことと退かないことに注意すればいい」


 頷いたゲラーシーたちとフィリゲニスはさらに奥を目指す。

 途中で一度三体の魔物と遭遇し、試しにゲラーシーたちが戦ってみる。

 その魔物たちも逃げる様子なく、最後まで襲いかかってきた。致命傷を受けている状態でも攻撃をやめず、海人族から購入した防具がなければ小さくない怪我をしていたところだった。

 怪我の有無や武具の点検をしているナリシュビーが首を傾げる。


「どうした、毒でも受けたのか?」

「いえ、そうじゃないんですけど。気のせいかもしれないし」

「一応なにを感じたのか聞かせてくれる?」


 フィリゲニスにも促されてナリシュビーは頷いて、感じたことを言葉にする。


「魔物を倒せば大なり小なり力を吸収するじゃないですか。それによって疲労が少し回復することもある。それが今回なかった」

「いつも疲労が回復するわけじゃないでしょう? 力量差があると力の吸収自体起きないことがあると聞いたわ」

「そうですけど、さっきの魔物は俺と大きく差があるわけでもなかった。だから力の吸収は起きるはずなんです」

「勘違いの可能性はないのか? 吸収していたけど小さいから起きていないと思ったとか」


 ゲラーシーに言われて、その可能性はあると返す。

 ただやはりそのナリシュビーの感覚としては力の吸収が起きていないと思うのだ。


「もう一戦くらいすればはっきりするかもしれないわね。次の戦闘ではそこらへんを覚えておきましょうか。その結果によっては、ここは放棄して別のところに行った方がいいかもしれない」

「なにか嫌な感じがあるんだろうか?」

「今のところそういった感じはない。少し違和感を感じる程度。でもなにもないとは断言できない」


 はっきりとしない情報だが、強者の言葉なのでゲラーシーたちも異変を探るように移動する。

 そのまま突き当りまで来て、ゲラーシーたちは壁などを探っていく。


「銅はあるな」


 ゲラーシーたちが頷き合い、ナリシュビーはどれくらいあるのかと聞く。

 

「少量ということはなさそうだ。詳細はわからないが、ある程度の期待はできると思う。

「その銅って魔力を帯びたものかしら。ここに入ってから坑道からうっすらと魔力を感じるのよ」

「魔銅? そういったものがあると話には聞いたことがあるが……わからん。本格的な鍛冶師というわけじゃないからな見分けがつかない。製錬してみればなにかわかるかもしれんが」


 銅鉱石そのものは隠れ里にもあったので、それとの違いを見出せばなにかわかるかもしれなかった。

 ひとまず採掘することにして、フィリゲニスにここらへんの壁を頼むと壁に印をつけていく。

 頷いたフィリゲニスは壁を素材にしてゴーレムの馬を作っていく。

 五体作ったところで、ゲラーシーたちが穴を補修していき、できた穴に明かりを照らして銅の有無を確かめる。

 穴の奥にも銅はあり、さらにゴーレムの馬が作られて、三十体作られたところで一度外にゴーレムたちを出そうということになる。

感想と誤字指摘ありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] いつの時代にここに隠れて何の研究をしていたのやら 同行者がフィリゲニスじゃなかったらちと危なかったかもしれませんね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ