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114 プレゼント2

 翌日、午前中の畑仕事を終えて、組紐ディスクをビボーンから受け取った進は一人でナリシュビーの家に向かう。紐をもらうためだ。

 ハーベリーに糸をもらうことを伝えておこうと、まずはそちらに会いに行く。


「紐ですか、それはかまいませんけど、なにか作るならこちらで用意しますよ?」

「いや俺が作らないと意味ないから。フィズたちへのプレゼント用なんだ」

「そうでしたか。どのようなものを作るのですか」

「組紐っていう故郷の伝統工芸品。おしゃれにも使える紐だ」

「ススムおじ様、私にも作ることできる?」


 一緒にいたロンテが興味ありますというふうにキラキラと目を輝かせて聞く。

 我儘言うものじゃないとハーベリーが注意する前に、進が聞き返す。


「できるだろうけど、このディスクとか専用の台が必要になるからすぐにはできないぞ。興味あるならビボーンに頼んで作ってもらうけどどうする?」

「作ってみたいから、お願いしてもいいかな」

「いいぞ」

「いいのですか?」


 ハーベリーが本当にいいのだろうかと聞く。


「教えるにしても、そこまで苦労するようなものでもないし。ただフィズたちには秘密にしておきたい。作っているところを三人に見られるのは困るから、俺が組紐を渡すまでは三人のいないところで組紐作りをしてほしい。プレゼントを作っているということをばらされるのも困る」


 秘密にするとロンテは真面目な顔で頷いた。


「じゃあ一緒に糸をもらいに行こうか。今日は作っているところを見るだけになるけど我慢してくれ」

「はい」


 進とロンテはハーベリーの部屋から出て、糸などを保管してあるところに向かう。

 部屋にいたナリシュビーに紐をもらうと、そこにいたナリシュビーたちも興味を示したので、そのままそこで組紐作りを行うことにした。

 まずは進自身どういったものか思い出すため、試しに二色四本で作ることにする。

 

「四本の紐を一つに結んで、中心に通す。ディスクに十字に紐をひっかける。んで一つ目の紐を外して、ここの二つ目の隣へ」


 動作と一緒に口頭で説明していき、組紐を作っていく。


「これが基本ってわけじゃないが、俺が知るかぎりで簡単なものだ」


 そう言ってある程度の長さの紐を作り上げた。

 できあがったもの見て、ロンテに腕を出してもらってブレスレットとしてきゅっと結ぶ。


「こんなふうにブレスレットとして使ってもいいし、髪を縛るのに使ってもいい。一度外すぞ?」


 ロンテの腕から組紐を外して、几帳結びをしてロンテの手に載せる。


「こうして飾り結びっていう結び方をしてアクセサリーとしても使える。それはロンテにあげよう」

「ありがとう!」


 嬉しそうに手の中の組紐を見る。


「組紐のやり方も飾り結びもいくつも種類がある。それだけ奥深いってことだな」

「その全てを村長は知っているのですか?」

「さすがに知らないよ。本格的に習ったわけじゃないからな。俺がやったのは簡単なもの。組紐は昔からあるものだから、それだけ多くの人が模様を考えている。俺の知るかぎりだと十六本の紐を組み合わせて作る人もいたよ」


 それ以上の紐を組み合わせることもあると聞いたことはあったが、実物でも動画などでも見たことはなかった。


「本格的にやるならこういったディスクじゃなくて、専用の台を用意した方がいいらしい。丸椅子に似たものや織機に似たものがあるね。最初にやるならこのディスクや誰かに紐の端を持ってもらってやるといいんじゃないかな。今俺が作ったのは丸打ちってやつで、平打ちと角打ちというのもある」


 使う紐の本数や、使う紐の色、使う紐の色の割合などでいろいろと模様が変わってくるというとナリシュビーたちは実際に見てみたいと言うので、進は二本目を白四本と茶二本の組み合わせで作ってみることにした。

 

「たしかこんな感じだったか」


 おぼろげな記憶をたぐり寄せて、どうにか六本の組紐を作り上げていく。

 ナリシュビーたちはできあがっていく紐の模様を、ロンテにあげたものと見比べて、その模様の違いにふんふんと頷く。

 とても興味をひかれた様子だ。新たな技術を見て興味が刺激されただけではなく、これまで服を作るにしても実用性を重視してきて、飾り気は少なかった。こうして紐を作ることで模様を出すことが、服作りにも応用できるかもと思うと楽しくなっている。


「もっとなにか特徴的な模様ってありますか?」

「ほかねぇ……ああ平打ちで一つ思い出した」


 黒と白の紐を二本ずつもらい、ロンテに四本の端をまとめて持ってもらう。白が両端、黒が中にくるように調整し、手を動かす。


「おー、交互に模様が」

「俺の故郷ではこれを矢羽根模様って言ったはずだ」

「こっちのやり方ならすぐにでもできますね」

 

 試しにやってみようとそれぞれ紐を持ってくる。


「ロンテは俺と交代してやってみるか?」

「うん」

「じゃあ俺が端を持つ」


 ロンテから端をもらい、四本の紐をロンテに渡す。

 紐を持ったロンテは手を動かす前に、期待したように進を見て言う。


「これできたら母様にあげてもいい?」

「いいぞ」


 進が許可を出すと、やる気に満ちた表情でロンテは進からやり方を再度聞いて手を動かしていく。

 ほかのナリシュビーたちは布作りの経験もあって、こういった技術は手慣れたもので一度で覚えていた。

 ロンテの組紐が完成し、ハーベリーのところに小走りで向かっていく。

 その場に残った進はフィリゲニスたちに渡す分の糸をもらい、家に帰る。組紐の色をフィリゲニスたちの髪や目に合せたかったが、そこまで豊富な紐の色はなく、それなら三人の髪色で揃えることにした。色は黒っぽい灰とクリームと緑だ。

 その日から暇ができるとコツコツ組紐を作っていく。

 集中すればそう時間をかけずにすんだが、仕事を放り出してそればかりやっていると、なにしているのか怪しまれると考えたので少しずつやることになったのだ。

 リッカから説明を受けていたフィリゲニスたちは、組紐作りに集中してもスルーしてくれたのだが、そこらへんの事情は知らないので時間をかけることになった。

 ナリシュビーたちは渡すまで秘密にするということを守ってくれていて、三人の見えるところでは組紐を出さずにいる。


「やっとできたな」


 進は最後の一本を仕上げて、小箱の中に入れているできあがっていた三本を取り出す。最初は三本だけ作るつもりだったのだが、結婚の証として渡すのなら自分の分も作る必要があるだろうと一本増やしたのだ。

 それらに品質を上げる魔法をかけて完成とする。

 

「どうやって渡すかな」


 一人一人に渡す方がいいのか、そろっているところに渡すのがいいのか。

 いい考えが浮かばなかったので、常に持っていて機会がくれば渡すことにした。

 今日の夜はイコンが一緒なので、イコンはそのときに渡すことにした。

 朝食をとって、ポケットに組紐を入れたまま今日の予定を全員で話し合う。


「私はリッカから中枢機械とかの知識を教わるつもりよ」

「私は家事手伝いです」

「わしはスカラーたちの様子を見ているつもりだ、そのあとはロンテたちのところに行こうか」


 ビボーン、ラムニー、イコンと答えていく。

 

「私は進と一緒に畑ね」

「俺も畑だな」


 そう答えて、畑仕事のあとにフィリゲニスに渡そうと決める。ラムニーには昼食のあとに声をかけるといった予定を立てた。

 フィリゲニスたちと一緒に家を出る。イコンはすぐに空を飛んでスカラーたちの畑へと向かっていった。

 いつものように芋の収穫と土への魔法を使い、ほかの畑も回る。

 ついでに池に魔法を使おうと、そちらに足を向けた。

 二人きりになり、進はポケットに手を入れる。指先にかすった四本の組紐を取り出し、その中から一本をフィリゲニスに差し出す。


「フィズ、これをあげる」

「これは?」


 進の手のひらに載せられた組紐を見て、フィリゲニスは首を傾げた。


「ここ数日で俺が作った紐。俺の故郷だと結婚したらそろいの指輪を持つという風習があるんだ。その指輪のかわりだ。高価なものじゃなくて悪いね」

「結婚の証……ああ、少し前に悩んでいたのはこれが関係しているのね? 値段なんて気にしないわ。あなたが私を思って作ってくれたという事実だけで、なによりも価値があるもの」


 フィリゲニスは嬉しそうに組紐を受け取る。

 結婚して時間がそこそこ経過している。それでもまたこうして結婚の事実が形として示されると、隠しきれない嬉しさが湧き、顔が笑みをかたどるのを止められない。

 嬉しさを態度で示すようにぎゅっと進に抱き着いた。


「悩んでいた日に見た夢が、故郷にいた頃のものでな。その内容の一部が結婚に関するものだったんだ。それで結婚の証をプレゼントしたくなったというわけだ。リボンのかわりにしてもいいし、腕に結んでブレスレットにしてもいい」


 ほかにはと言いつつフィリゲニスから離れて、自分の組紐を取り出して飾り結びをして見せる。


「こうして形を整えてアクセサリーにしてもいい」

「へー上手いものねぇ」


 少しだけ考えて、フィリゲニスはポニーテールにして髪を縛るのに組紐を使った。


「たまにはこうして髪型を変えるのもいいわね」

「そうだな。新鮮だ」


 上機嫌に鼻歌を歌うフィリゲニスと並び、進は歩く。

 フィリゲニスはたまに組紐に触れて、そのたびに笑顔が浮かぶ。

 その様子は喜んでくれているとわかりやすく、進はほっとしている。

 

「ああ、そうだ。ラムニーとイコンにも渡すんだ。その前に二人にばれたくないから、すまないけど家に帰る前に隠してくれる?」

「いいわよ。こういった嬉しいサプライズなら協力してあげる。ただイコンにも? とは思うけど」


 イコンにあげることに不満を抱いているわけではない。結婚しているといえるのは自身とラムニーだ。イコンとはそういったところまでいっていないはず。それなのに結婚の証を渡すのはどうなのだろうと思ったのだ。


「うん、まあ俺も少し「ん?」と思わないでもない。でも好意を向けられて、それを悪く思っていないのは事実だし、渡そうと思ったんだ」

「そうなんだ。反対するつもりはないわ。イコンも喜ぶでしょ」

「そうだといいね」


 池の水を綺麗にして、ゴーレムに水を運ばせる。

 フィリゲニスがもう少し二人でいたいというので、遠回りして家に帰る。

 家が遠くに見えるとフィリゲニスは名残惜しそうに組紐を解いた。その組紐を丁寧に扱いポケットに入れる。

 ただいまと言いながらリビングに入る。


「フィズ殿、上機嫌でありますな」


 すぐにフィリゲニスの機嫌の良さを全員が察する。


「ふふ、今はまだ秘密」


 ビボーンとリッカはプレゼントを渡されたのだろうとピンときたが、ラムニーとイコンは不思議そうだ。少し前にリッカから聞いたことが関係しているのだろうかとなんとなく推測を立てた。

 そうして昼食後、耳かきをしてもらおうという名目でラムニーを部屋に呼ぶ。

感想と誤字指摘ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] 結婚の証としてのプレゼント、フィリゲニスが喜ばないはずがないですよねえ ラムニーの反応はどんなもんだろなあ
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