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110 高校生三人 遭遇1

 冬が過ぎて、春になり琥太郎たちもその季節の移り変わりをその目で見ることができていた。

 春に芽吹く草や花の香りを運ぶ風は温かく、肌を刺すような水の冷たさは緩んでいた。

 神殿の高所から周辺を見てみると新緑がすぐに目に入ってくる。神殿の敷地内も小さな花が隅っこに咲いていたりと春を感じ取れた。

 琥太郎たちはサーザー国での鍛錬を終えて、冬のうちに神殿に戻ってきていた。

 まだまだ魔王を倒せる実力はないが、最初に比べると格段の実力を得ており、神殿を中心とした鍛錬は終わりを迎えようとしていた。前線に行くのはまだだが、主と呼ばれる強い魔物がいる場所へ出向いて、そこで戦い経験を積むことをガゾートは考え出している。


「せいっ」


 琥太郎が木剣と盾と鎧を身に着けたガゾートに拳を振るう。その拳には魔力が込められ、木の幹になら拳の跡を残しそうな威力が伴っている。

 喧嘩や裏切りとかではなく、ただの訓練だ。

 琥太郎たちの今の本気がどれくらいか詳細を確認するための模擬戦を行っていた。

 ガゾートは自身に迫る拳を丸盾でいなし、剣を振り下ろす。


「これはどうだ」


 それを琥太郎はしゃがんでかわし、そのままガゾートの両足を払うように地面すれすれの蹴りを放つ。

 ガゾートは軽く跳ねて蹴りをかわし、そのままもう一度剣を振り下ろす。

 琥太郎は転がって避けて、ガゾートから距離をとり、もう一度殴りかかる。今度の攻撃は盾で真正面から受け止められ、衝撃が拳に伝わる。


「だったら力押しだ!」


 すぐに拳を引いて、左右の拳を連続して盾に叩きつける。どちらの拳にも魔力が込められていて派手な衝突音を立てる。

 拳に込められた魔力量をガゾートは見切っていて、盾に込めた魔力で相殺していく。

 ガゾートが防御を固めて耐えている間に、連打が止まる。それをきっかけに攻守が交代する。

 ガゾートが木剣を振るい、琥太郎がガントレットで受けたり回避していく。

 木剣がガントレットに当たるたびに琥太郎は手に伝わる衝撃に顔を顰める。ガゾートと違って見極めが甘く、相殺しきれていないのだ。

 このまま防御に徹すると手が痺れて、攻撃に精彩を欠くと考えて琥太郎は無理矢理攻撃に転じる。


「これでどうだ!」

「甘い!」


 左手で木剣を払い、右のストレートを叩き込もうとしたが、なにかすると表情に表れてしまっていてガゾートに対処された。

 盾にストレートをいなされて、木剣の切っ先を首に当てられ琥太郎は降参する。


「参りました。もう少し善戦できると思ったんですが」

「最初に比べたら良くなっている。攻撃の重さも増しているし、攻撃をすること自体の動きの固さも減っている。もう三ヶ月もすれば偶然ではなく実力で一本取られているだろう」


 熟練の戦士に一年で実力勝ちできるようになるのだから、十分な成長だ。

 それを琥太郎自身も理解しているため、少し残念そうにするだけで納得した様子だ。

 

「今の模擬戦で駄目だったところはありますか?」

「攻めようという意識が強かったな。それで仕掛けどころを悟られた。具体的には連打のあとだ。あとは攻撃に込められた魔力の見極めの甘さもだが、それは上達していっているし、急いで鍛え上げろとはいわない。このままのペースで上達していけば十分だろう」


 ふんふんと琥太郎は指摘に頷く。


「その攻めようという意識をフェイントに使うと良かったと思う」


 空手経験者の琥太郎は試合でフェイントを使うこともあった。そのときは左の拳で胴を狙うとみせかけて、ガードが下がったところに、顔面へ右の拳を放つといった動作のともなったフェイントを使っていた。

 意識のみでフェイントをかけるというのは実践したことはなく、なるほどと感心している。


「でだ、成長具合なんだがこちらの想定より上という感じだな。士頂衆の方々に指導を受けたのが良い影響になっている。これなら魔物の主たちとの戦闘もやっていけるだろう」

「ありがとうございます」

「じゃあ次は淡音の模擬戦だ」


 琥太郎とガゾートがその場から移動し、淡音とバーンズが練習用の弓と矢を持って距離を取って向かい合う。防具はいつも使っているものだ。

 開始の合図とともに、両者は素早く弓を構えて矢を放ち、その場を移動する。

 早打ちはバーンズの方が上で、淡音は避けきれず腹に受ける。

 魔力の込められていない木の矢で、防具の上からでもそこそこの衝撃があった。だが何度も受けたことがあり動じず慣れた様子で、次の矢を番える。

 互いに矢を放っていき、ときには淡音の矢もバーンズに当たる。最初は上手くできなかった移動しながらの射撃も上達していて、順当な成長が見える。

 矢が尽きるまで模擬戦は続き、最後は互いの矢が互いの体に当たって終わる。

 しかしバーンズの矢が心臓に当たったのに対し、淡音の矢は太腿という結果で、勝敗はどちらなのか明確に出た。

 二人は反省会をしつつ場を離れて、桜乃に譲る。

 桜乃は模擬戦ではなく、魔法の撃ち合いをやることになる。指導役がどんな魔法を使うかを見抜いて、それを打ち消せるように魔法を使っていく。たまに判断を間違えて、相殺しきれずに余波を受けてしまうが、痛みで中断することなく撃ち合いは続いていった。

 それが終わると、琥太郎とガゾートに軽く模擬戦をしてもらって、補助魔法をかけていくことになる。桜乃は琥太郎に、指導役はガゾートに魔法をかけていき、そのタイミングや必要な魔法をかける判断力などを見ていく。

 

「今日の模擬戦で三人とも主討伐に向かえるだろうと判断した。早速明日から出発するのでそのつもりでいてほしい。最初に向かう場所はナソードとサーザーの国境の東だ。そこに黄角猿という魔物が森に巣を作ったという情報を得ている」

「黄角猿自体の強さはいかほどなのでしょうか」


 淡音の質問にガゾートは、これまで戦った魔物で例をあげる。

 これまで戦ってきたなかで上位にくる魔物とわかるが、無茶な戦いをガゾートがさせるわけはないだろうという信頼もあるため、琥太郎たちに不安はない。

 基礎鍛錬を行ったのち、明日の出発の準備にとりかかる。


 馬車で目的地である国境まで移動し、近くにある村に到着する。

 畜産もしている大きな農村であり、そこの牛などを黄角猿は襲うということだった。

 宿をとったあと、まずは到着を知らせるため、ガゾートと琥太郎たちが村長の家に向かう。バーンズは一足先に、斥候の兵と黄角猿たちの様子を見るため森へと向かう。

 陳情を出した村長は神殿から対策の者がやってくることを驚きつつも歓迎する。


「ようこそいらっしゃいました。私は村長をしているコランダーと申します。黄角猿討伐に来てくださりありがとうございます」

「陳情は以前からあったというのに、待たせてすまなかったな。被害は大きくならなかっただろうか」

「傭兵を雇いなんとか追い返しています。おかげで被害は大きくはならずにすんでいます」


 質問いいでしょうかと桜乃が小さく手を挙げる。


「なにをお聞きになりたいのでしょう」

「兵を雇ったと聞きました。その兵で森の黄角猿を討伐できなかったのですか?」

「一対一ならばなんとかなると傭兵は言っていましたが、私たちが雇った兵数では向こうの数に対抗できないと」


 森での行動は黄角猿の方が優れているので、それも傭兵に不利な点だった。

 兵数が少なく、地の利は向こうにあり、森からおびき出されず地の利を生かす賢さもある。これだけ自分たちに不利な条件がそろっていると傭兵たちは欲を出さず、依頼達成のみを目的に動く。

 納得したように桜乃は礼を言う。


「お嬢さんに言ったように数が多くてですね、森の恵みも期待できずに困っている状態でして」

「すぐに対処に動きます。そのためにもおおよその数、ボスの居場所、森の地形。こういった知っていることを教えてほしい」

「はい。まず数ですが、詳細はわかりませんが、百には届かないというのが傭兵たちの話です」

「百に近い数は確実にいるということか」


 それが一斉に襲いかかってきたらまずいが、それはない。まずは森の侵入者へと斥候を送り込むのが向こうの定石だ。

 そこでこっちがボスにまで突っ込むつもりだと悟らせなければ、ボスとボスの取り巻きを相手するだけですむだろう。

 その流れにするには斥候を残さず倒すことが大事だ。


「ボスの居場所について傭兵たちはなにか言っていたか?」

「いえ、それに関してはなにも。森の浅い部分にしか入っていませんから」

「そうか。では森の地形を聞かせてほしい。それで居場所もわかるかもしれない」

「地形に関しては私よりも狩人などに聞いた方が確実だと思います。呼んでくるので少しお待ちください」


 コランダーは家族に頼み、狩人といった森に入る者を呼んできてもらう。

 

「一つ聞きたいのですが、よろしいでしょうか」


 人が集まるまでの雑談なのかコランダーがガゾートに聞き、それにガゾートは頷く。


「そちらの三人はどういった者なのでしょう? 神殿関係者というにはそうだと示す紋章などを持っていません。神殿が雇った傭兵ならここに連れてくるのは少々おかしいと思いますし」

「この三人は勇者です。ここの黄角猿たちが戦うのにちょうどよいので一緒に来たんだ」

「勇者様ですか? え、本当に?」


 勇者という存在がいることは知っていたが、自身が会うことになるとは思ってもいなかったコランダーは心底驚いたと目を見開いて琥太郎たちを見る。


「勇者様というには……その」


 あまり強そうには見えないと言おうとして、失礼なことを言いかけたと気づき口をつぐむ。

 自分たちを見る目でなにを言いかけたのか気づいた琥太郎たちは苦笑を浮かべる。


「気にしないでいいですよ。俺たちはまだまだ修行中なので、強く見えないのも当然です」

「修行中? 勇者という存在も鍛錬するのですね」

「勇者といえども最初から強いわけではないのだよ。素質はかなりあるが、きちんと鍛錬しないといけない。最初から強いのなら、すでに魔王は倒されている。勇者として鍛錬を始めて半年以上経過しているのだから。それくらいの活動時間があれば魔王の住む城まで移動は可能だろう」

「むしろ鍛錬を始めてまだ半年程度なのですか。魔王が倒されるのはまだまだ先のことなのですね」

「ええ、かなりの速度で強くなっている自覚はありますが、まだまだ強い人はいます。そういった人たちも超えていかなければ魔王には勝てないのでしょう。これまでの成長速度から考えるとまだ時間はかかります」


 淡音の肯定にコランダーは平和はまだ遠いのだなと心の中で溜息を吐いた。

感想と誤字指摘ありがとうございます

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[一言] 魔王を倒す勇者が弱いわけがないと思ってる人が大半なんだろうなあ
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