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102 乗っ取り

 村に駆け込んできたナリシュビーによって、見慣れない魔物が南にいると知らされた進とフィリゲニスは、戦闘の様子が見えるところまでナリシュビーに運んでもらう。


「グリフォンの変異種みたいね」


 空を見上げながらフィリゲニスが言う。見た目はグリフォンだが、色と模様が違うのですぐに判別がついた。

 そのフィリゲニスに進があれは強いのかと聞く。


「通常種よりは強いでしょうけど、それでも倒せる相手よ。ただ今のままだと上空にいるナリシュビーたちを巻き込むのよね」

「さすがに巻き込むのはまずい」

「ええ、だからおびき寄せましょうか」


 フィリゲニスが魔法を使う気配を見せて、進は援護がいるか尋ねる。それにフィリゲニスは首を横に振って、魔力の矢を空へと飛ばした。

 魔力の矢が避けられる前に、フィリゲニスはもう一度魔力の矢を飛ばす。

 それに反応したリベオが降下してくるのを見て、フィリゲニスは「釣れた」と言ったあと別の魔法を準備する。


「いくつもの手、伸ばせ、捕らえろ、逃がすことなかれ。キャプチャーハンド」


 このままではぶつかるという勢いのリベオが、ピタッと固定されたように空中で停止して悲鳴を上げた。


「うわ、痛そう」


 そんな感想を言っている進の目の前に、リベオがゆっくりと下ろされる。

 上空にいたナリシュビーたちも降りてくる。


「フィリゲニスさん、ありがとうございます」

「この程度なら気にしないでいいわ。それにしても、これ呪われているわね」


 近くで見たら体中にはしる黒い線が模様ではなく、呪いによって刻まれたものだとわかる。


「呪いですか。どのような呪いなのでしょう。これと話はしましたけど、そういった話は出てなかったんです」

「会話可能な魔物だったのね。知性があるということは、呪いを発する道具にうっかり触れたということもないでしょうし、誰かによって呪われたか。あとぱっと見だとどういった呪いかはわからないわ」


 最初はこのまま殺してしまおうと思っていたフィリゲニスだが、死を起因として呪いが広がるものだと面倒なので調べることにする。


「私たちは調査のためしばらくこっちにいるから、先に帰っていいわよ」

「リッカに調査で残るって知らせておいて」


 ナリシュビーたちは頷き、村へと飛び去っていった。

 リベオは拘束を解かれて、ぐったりとしている間に下半身を土に埋められて再度拘束される。


「さて調べましょうか」

「手伝いがいらないなら、周囲の警戒でもしておくけど」

「うん、それでお願い」


 フィリゲニスはリベオに触れて、進はその場から周囲を見渡す。

 二十分経過し、フィリゲニスはリベオから手を放す。


「ん、終わった?」

「ええ。かなり強い呪いね。従属するようにという命令で縛られていて、従わなければ苦痛を感じさせる。苦痛を無視し続けるとどんどん衰弱していくわ」


 殺してもそれが原因で呪いが広まるものでもない、ということもわかった。


「誰に従うとかはわかる?」

「そこまではわからないけど、複数人らしい」

「魔王とリッチだ」


 痛みが治まり、意識がはっきりとしたリベオが口を開く。


「うお!? 起きていたのか」

「少し前にな」


 逃げようとしなかったのは、起きたことがフィリゲニスにばれていたからだ。自分では敵わないとすぐに理解できて、無駄に攻撃されないようにと大人しくしていた。


「あなた、魔王軍だったの」

「呪いで従わされているだけだがな」


 この二人も当たり前のように会話してくると内心驚きつつリベオは続ける。


「もしかしたら少し前にここらで大きな力を発したというのはあんたか大烏公なのか」

「なんでそんなことを?」

「魔王とリッチがここらで大きな力が発せられたことを感知したようで、リッチに調べてこいと命じられた」

「力を感知しただけ? 詳細まではわからなかったのかしら」

「俺が聞いたのは力が発せられたということだけだ。大烏公がなにかやったのだろうとリッチは言っていた。消耗具合となにがあったかの調査が俺の仕事だ」

「ローランド様、そこまで消耗してないよな」

「してなかったわね」


 天候の操作を魔王たちはローランドが一人でやったと考えているのだ。

 二人の人間の協力者がいるとは少しも思っていない。


「少し前に一緒に大きな魔法を使って天候に干渉したから、それを感知したのでしょうね。詳細まではわかっていないらしい。それで誰がなにをしたかわかったわけだけど、あなたはどうするのかしら」

「可能ならば情報を持ち帰る」

「今の状態でできるとでも?」

「無理だろうな」


 命運が尽きたと大きく溜息を吐いて、殺せと短く告げる。

 体から力を抜いて、暴れないという意思を示す。


「あら、あっさりと諦めるのね」

「あんたには敵わない。それくらい理解している。人族がそこまでの力を持つとはな」

「無理矢理従わされたと言っていたけど、復讐とかしたくないのかしら」

「やりたいに決まっているだろうっ。だがあんたから逃げ出すことなど無理だ」

「私としては情報を漏らさなければ殺さなくてもいいんだけど。ススム、それでいい?」


 誰かに強制された状況に少しばかり憐憫を感じ、殺すのは止めておいてあげようと考えたのだ。


「今回の件で俺に決定権なんてないと思うんだが。それでも意見を聞いてくれるのなら、同じように情報が漏れなければそれでいい。魔王なんてものに興味もたれたくないし」

「殺さず解放したところで、呪いの内容を隠し事をするなといったものに変えられれば隠し通せるものじゃないぞ」


 でしょうねとフィリゲニスは頷く。これだけの強い呪いをかけられるリッチならば、かけた呪いの操作もお手のものだろうとわかる。


「だったらその呪いをリッチから乗っ取って、ここのことを話せないようにするわ」


 こともなげに言われたそれを聞き、リベオは目を見開く。


「そんなことできるのか? かなり強い奴がかけた呪いだが」

「呪いに関しては私が一番得意とするところだからできるわ」

「そうだっけ?」

 

 断言したフィリゲニスに進が不思議そうに聞く。魔法が得意とは聞いていたが、その中で呪いが一番だとは聞いたことがなかったのだ。

 

「得意にもなるわよ。私の人生よりも長い間呪っていたのよ。知識的なものはそこまでないけど、技術と感覚なら嫌ってほど磨かれているわ」

「あー、たしかにそうか」


 リベオには意味がわからない。

 何千年も前の人間だとか封印されていたとか知らなければ、なにを言っているのかという感想しか出てこないだろう。


「よくわからないが、次はあんたに従属させられるってことか」

「ここのことを話さなければ自由にしていいわよ。なにかをやれとは言わないわ。好きなところに行くといい。ただし話せば死ぬ」

「本当に自由にやっていいのか?」

「別にあなたの力を必要としていないし」


 フィリゲニスにとってリベオは重要ではない。彼がいなければできないことなどないのだ。


「話さないだけでいいなら簡単だ。やってくれ」

「気持ち悪いでしょうけど暴れないでよ」


 フィリゲニスはリベオの拘束を解いて、立たせて腹に触れる。そこが呪いの中心なのだ。

 改めて呪いを解析していく。


「絡めとる鎖、その身を縛れ、自由を禁じ、命に従え。ルールカース」


 魔法を発動させて、新たな呪いでリベオを縛る。リッチの呪いに力技と技術で干渉し呪いを乗っ取る。

 リベオの体中にはしる黒い線が抵抗する蠢く。リベオは内臓を直接撫でられるような気持ち悪さを感じていたが、自由のためと耐える。

 その気持ち悪さは十秒もたたずに終わる。


「はい、終わり。その呪いは私のもの。これまで禁止していたものじゃ呪いは発動しなくなっているわよ」


 まだ少し疑う気持ちのあるリベオは、魔王やリッチに殺意を抱くといったわかりやすい呪いの発動条件を満たす。


(呪いが発動しない)


 殺意を抱いても、少しも痛みが発せられずリベオの心はいっきに軽くなる。同時にここ最近にはないほどやる気が満ちる。これまでいいように使ってくれたリッチへ復讐したいという思いを原動力にいくらでも無茶ができそうだった。

 呪い自体はまだ自身の体を縛るが、禁じる内容はリベオにとってなんら問題とならない。

 人間へと変化したリベオはフィリゲニスに深々と頭を下げた。


「感謝を」

「気紛れみたいなものだし感謝はいらないわ。今後あなたはどうするの」

「鍛錬だ。リッチを殺せるくらいに強くなる」

「あっそ。自由にやるといいわ」


 自分たちに不利なことをしなければなにをしてもいいと興味をなくす。

 再度一礼したリベオは体をグリフォンへと戻して、飛び去っていく。

 鍛錬の前に自由を実感するため思うがままに飛び回るつもりだ。なにも考えずに風を感じるまま飛ぶ。どこまでも延々と行けそうなくらい体が軽く、空が広く感じられた。


 リベオが自由になったのと同時刻。リッチはいくつもある呪いの中で一つが消えたことを感じ取った。

 それがリベオを縛っていたものだとわかり、調査中にローランドたちに殺されたのだろうと判断した。

 フィリゲニスが呪いに干渉している現場に近いところにいれば、呪いを乗っ取られたと判断できただろう。しかし遠方の呪いがどうなったか詳細を知るのは無理で、繋がりが切れたということしかわからなかった。

 リッチは自身がかなりの実力者という自負があるので、乗っ取りの可能性など考えもせず、繋がりが切れたのならリベオが死んだのだろうと判断したのだった。

 次は誰を捨て去りの荒野に送り込むか考え出したリッチの記憶から、リベオのことなど消え去っていく。


 春がやってきてどんどん捨て去りの荒野も温かくなっていく。

 まれに寒の戻りがあったが、問題となることもなかった。

 ナリシュビーたちは山から仕入れた初夏頃に咲く花を植えていて、無事芽が出たことを喜んでいる。どんな色の花が咲くのか、今から楽しみにしている。

 芽が出たのは花だけではなく、芋以外の作物も順調に育っている。スカラーたちやラジウスたちはそれらの世話をノームたちの指導を受けながら学んだことを実践している。芋と違ってお手軽に収穫できるものはないため、作業は慎重だ。

 ローランドたちも相変わらず遊びに来ている。長続きした冷え込みの後処理が終わったようで安堵した様子だった。

 そのローランドに魔王が様子を探っていた件について伝えておくことも忘れなかった。

 リベオが魔王のもとへ帰還していないため、また別の調査員が来る可能性も考えられ、ローランドはしばらく警戒することにした。

感想と誤字指摘ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] リッチは全く気にもかけてませんが拠点を知ってるリベオが復讐を見事に遂げてくれれば結構魔王陣営の弱体化になりそうだなあ 是非、がんばってほしいですね
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