人形少女
世界にはね、神さまがいるんだって。
神さまはね、悪い子にバツをあたえるんだって。
バツってなんなの?
え?そんなの...
「いい子の私が知るわけないじゃん!」
◆
その一言は正しかった。
罪に罰を与えるだけなら人が人を裁くだろう。
神様が手を出す【ツミ】は人にとって罪ではないのだから。
だって人が裁けない罪に対応するのが神様だもの。
まあそんな事を知るには、バツを受けなくてはならないのだけれど。
そう、知った段階ではもう遅いのだ。
◆
今日、私は首輪を引きちぎってしまいました。
それが悪いことだなんて知らなくて。
でもその首輪はもうどうにもならなくて。
だけど確かに、私にバツは与えられていたんだわ。
悪い子の私は神さまに大事なものをひとつとられました。
神さまは深い深い川の向こうにいて大事なものを見せびらかすように川岸に置いていくの。
でも、もう私にそれを人に言う事はできないんだわ。
だってそれが【バツ】なんだもの。
鳥にだってできる事、もう私にはできないんだわ。
◆
今日は素敵なブレスレットを作ったの。
でも神さまはそれが気に入らなかったみたい。
また川の向こう岸に並べたの。
こっちからは届かないけど見えるのよ。
見せびらかすなんて意地が悪いのね。
そんな事を思うのは罰当たりかしら?
でもひどいのよ。
もう私にはできないんですもの。
◆
今日はダメって言われてた物を食べちゃった!
だってキラキラしてて綺麗だったもの。
でもそれはダメな事だからって神さまはまたひとつ私から奪っていくんだね。
ひどいわ、ひどいわ。
向こう側にまた並べるの!
まるでとりかえせると錯覚してしまう。
◆
川の向こう岸には届かないの。
でも神さまは私から奪ったもの、並べてる。
少しくらい深くても大丈夫と思って川に入ったの。
でもやっぱりそれも悪いことだったんだわ。
またひとつ、奪われて終わり。
なら、期待なんてさせないで。
手を伸ばせば届くなんて夢を見させないでよ。
◆
今日も私はベッドの中。
ふわふわであったかい。
大丈夫よ、もう何も奪われないから。
だって、私には
もうなにものこっていないんだから。
きっと私はお人形さんになったんだわ。
毎日ここで、眠るだけ。
瞳の色は何色かしら?
なんて、もう誰も知らないのだけれど。
◆
悪い子からは神さまが、
ひとつ、ひとつと何かを奪っていくんだよ。
それを川の向こう岸に並べるんだ。
見えてるのに届かない。
手が届くなんて夢を見る。
きっとそれがバツなんだって。