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クリスマスのお話

サンタはきっとどこかにいると思うんだ

作者: TGS

/今年、仕事を失ってしまった人、その家族は、今日をどう過ごしているだろうか。テレビや商店街がしらじらしく浮かれ騒いでいるときにこそ、ほんとうの現実に目を向けてみよう。せめて人の悪口は止め、心静かに祈って、一年の終わりを過ごそう。/

 妻が帰ると、夫はイスに座って黙り込んでいた。「ただいま、どうしたの?」「今日、あの人に呼ばれたんだ」「……」「仕事を探さないとな」「だ、だけど、なにもこんな日に」「年を越したくなかったんだろ。前からウワサはあったんだ」「でも、あの人、この前、新しい車に買い換えたって」「あの人はあの人だよ。人減らしは会社の方の問題だ。あの人だって、ほかにどうできるわけじゃない」「それにしたって、あの人」「そりゃ、オレだって思うところはあるさ。だけど、いま、人のことを悪く言うのは止めようよ。今日はクリスマスイヴだろ」「そうね……」


「それはそうと、わたし、朝から早番だったから、今晩の準備はまだなにも……」「ああ、ほんとうにお疲れさま。それじゃ、買い物に出ようか。オレの仕事が無くなったって言っても、まだ一家で一文無しになったわけでもないんだからな。次の仕事が見つかるまで、あまり贅沢はできないが、今日は特別だ。鶏とケーキくらい、いいだろ?」「ええ。それと、あの子の……」「ああ、そうだったな、ここのところ、それどころじゃなかったからな」


 部屋の奥で黙って絵本を眺めていた子供が、目をそらしたまま言った「いいよ、パパ。ボクだってパパが大変なことくらいわかるんだ。サンタなんかいないことくらい、もう知っているよ。無理しないでよ」「……悪いな、おまえにまで心配をかけて。だけど、なにか」「それなら、ミニカーが欲しいんだ。ほら、ミニカーがあれば、この部屋中を旅行できるんだ」「おもしろそうね、いつかみんなでほんとうの旅行にも行きましょうね」「ああ、暖かくなるころには、きっとなんとかするさ」


 店で買い物を済ました帰り道で、三人は近所の人に出会った。「おや、御一家でお買い物ですか?」「あ、こんばんわ、おひさしぶりです」「いやいや、よかった」「え、なにがです?」「いや、先日も御主人を見かけて声をお掛けしたんだが、なにかとても思い詰めていたようで」「おや、それは失礼しました」「なにかあったんですか?」「はあ……」「あの、じつは主人、今日、会社をクビになってしまいまして」「えっ?」「おい……」「いいじゃない、あなたのせいじゃないんだから」「しかし、クリスマスに……」「しかたないですよ、こんな時代ですから、なにか新しい仕事を探しますよ」「……あの、あまり御期待に添えるかどうかわかりませんが、よかったら、ちょっと知り合いに聞いてみましょうか?」「え、ほんとうですか! ぜひ、よろしくお願いします」「ええ、わかりました。では、よいお年を」「よいお年を!」


 街には明かりがきらめいている。「ねえ、ママ、やっぱりサンタはきっとどこかにいると思うんだ」「ええ、そうね」「ああ、どうやら今年はうちには来なさそうだけどな」「なに言ってるの、いつか来るわよ」「ああ、そうだ」「きっとそうだよ」


おわり


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