(99)伯爵令嬢としてのプライド
「まあ………何て美しいお方でしょう………美しいお髪と素晴らしいお召し物が本当に似合っていらっしゃいますわ。
サイファー王太子殿下と同じ、金色のお髪に美しい碧色の目でいらっしゃいますのね……。ブラーム国の皆さまは大変な美男美女でいらっしゃるので、本当に驚いてしまいますわ……」
先程感じた怖さは無くなり、笑顔でアルフォンス様を見上げるリリアンヌ王女様は本当に美しく可憐だった。
その笑顔を微笑みで受け止めるアルフォンス様を間近で見て、胸がズキンと痛んだ。
思わず手で自分の胸を押さえた。
「リリアンヌ王女様。娘をお誉め頂き光栄に存じます。
また、我がラファイエリ家の茶と干し柿をお気に召して頂けたとのこと、重ねて御礼申し上げます」
お父様がしっかりとした口調でリリアンヌ王女様に御礼を申し上げた。
私も一緒に再度深く頭を下げる。
「どちらも本当に美味しかったですわ。お茶は甘くなくすっきりとした味わいで、柿はびっくりする程甘くて感動いたしましたの」
話し終える度に微笑みながらアルフォンス様を見上げるリリアンヌ様。
そして、その微笑みを微笑みで返すアルフォンス様。
二人の間には優しい空気感があった。
そして、二人はその空気感に慣れていた。
もう何度も二人は会い、同じ時を過ごしているのがわかった。
切ないなあ………。
私は何度、こんな気持ちにならないといけないんだろう。
神様はなかなか意地悪なことをされるわ。
立ちすくんでいた私に、サイファー王太子殿下が話し掛けてきた。
「そういえば、クリスティーナはマキシム語が話せるんだよね?」
「えっ?は、はい、少しですが……」
『えっ?マキシム語をお話なさるの?』
『はい、少しでございますが……』
『とてもお上手ですわ!ブラーム国でマキシム語を話せる御方とお会い出来るなんてとても嬉しいですわ。ラファイエリ伯爵令嬢、クリスティーナ様とお呼びしてもよろしいかしら?』
『えっ?は、はい、恐れ入ります。リリアンヌ王女様に名前をお呼び頂けるとは、大変光栄でございます。ありがとうございます』
マキシム語でリリアンヌ王女様と話す私を、アルフォンス様はじっと見ていた。
アルフォンス様から眼を逸らしていた私は、視線を感じて思わず見てしまった。
また目が合った。
けれど、リリアンヌ王女様に向けたような優しい目では無く、鋭い三白眼で見据えられた。
敵を見るような厳しい目だった。
あんなに優しくしてくださったのに。
王宮図書館で、フレデリーグ公爵家で、
いつもクリスと優しく呼んでくださったのに。
そばにいてと言われたのに。
あれは全て夢だったとしか思えない。
信じて騙された私は今、睨まれている。
ただ、虚しかった。




