(96)殿下からの碧色ドレス
「クリスティーナ!!」
高位貴族でもない中程度の伯爵親子をご丁寧に玄関までお迎えに来てくださった我が国の王太子殿下は、本日もキラキラオーラを撒き散らしながら颯爽と歩いて来られた。
周りにいる侍従さんや侍女さん達は凄い。
慣れていらっしゃるのか、動じず普通に頭を下げている。
さすが王宮のスタッフはレベルが違う。
それに比べて、少し後退り気味な私達親子は慌てて頭を下げ、私は我が国の正式な挨拶のシルトで挨拶を述べた。
「ごきげんよう、サイファー王太子殿下……っ!?」
無理やり手を掴まれた。
結構力が入っていてちょっと痛い。
そして、顔の位置がものすごく近い。
「!?」
「会いたかったよ、クリスティーナ。その碧色のドレス、着てくれたんだね………素敵だ。とても似合っているよ。ラファイエリ伯爵も忙しい中来てくれてありがとう」
「と、とんでもないことです、サイファー王太子殿下。本日は娘共々お招きくださいまして、あ、ありがとうございます」
「うん。さあ行こうか!陛下と王妃がお待ちかねだよ」
「「っ!!……はい……」」
今私が着ている素晴らしい碧色のドレスは、サイファー王太子殿下からの贈り物だ。
本当は自分が持っている一張羅の昼用のドレスを着ていこうと準備していたけれど、今朝早く、王宮御用達で有名な仕立て屋の方が屋敷に来られて、『サイファー王太子殿下からの贈り物でございます。本日は必ずこちらを御召しくださいませ』と、必ずを強調して、この碧色のドレスを置いて行った。
仕立て屋の二人の女性は目の下の隈がクッキリで、見た目もかなりお疲れに見えた。
心から申し訳無く思い、心の中で合掌した。
ドレスと一緒に、見覚えのある力強い筆跡で書かれたカードが入っていた。
『親愛なるクリスティーナ
今日の茶会は必ずこのドレスを着てね。 サイファー』
カード一枚で相手に有無を言わせない、王族の圧。
一伯爵令嬢に断れる訳が無かった。
ドレスの碧色がものすごく気になったけれど、気にしないことにした。
見た目同様、このドレスの着心地は最高だった。
でも私は既にこの着心地を知っていた。
先週王宮に滞在していた時に何着も着させて頂いたからだ。
ただ、ここまで自分の身体にぴったりなサイズである事にはとても驚いた。
もう、余り深く考えないようにした。
支度を終えた私の姿を見た両親を始め周りの者達は、皆一様に目を見開いて驚き、感嘆の声が上がった。
お母様、そんなに喜んで体調不良はどこにいった??
殿下から送られたこのドレスはとても素晴らしかった。




