(91)お似合いの二人
身体が震える。
流れる涙がぼたぼたと頬から落ちた。
黒い騎士服を着たアルフォンス様が、黒髪の美しい女性と並んで歩いている。
その女性はアルフォンス様の腕に手を添え、二人はしっかりと腕を組んでいた。
アルフォンス様は顔を女性の方に向け、少し微笑みながらその女性を優しく気遣っていた。
その微笑みはいつも私に向けてくれていた、懐かしいあの頃の笑顔だった。
「リリアンヌ王女。そろそろお疲れではありませんか?」
「大丈夫ですわ!アルフォンス様とやっとお会い出来て、ご一緒に美しいお庭を散策して……本当に嬉しいのです。寧ろ、もっと遠くまで歩きたいですわ………」
「わかりました。では、彼方の四阿まで参りましょう」
「はい!アルフォンス様」
マキシム語で話すアルフォンス様の声は、とても優しかった。
リリアンヌ王女と呼ばれた黒髪の楚々とした大変美しい女性は、14歳の私より幾つか年上に見えた。
黒髪の二人は美男美女で、見た目も年齢的にもとても……とてもお似合いだった。
リリアンヌ王女様の嬉しそうな笑顔。
アルフォンス様を見つめるあの目は、深く好意を持っている目だ。
アルフォンス様もリリアンヌ王女様を優しく見つめている。
窓から見える少し離れた四阿に着き、それぞれの椅子に座った二人は楽しそうにお茶を飲みながら話しているようだった。
窓から人々の声が聞こえた。
『何てお似合いのお二人でしょう……』
『ご覧になって、リリアンヌ王女様のあのお幸せそうな笑顔!本当に麗しい王女様ですわ』
『フレデリーグ公爵が珍しく笑顔でいらっしゃるぞ』
『絵に描いたように美しいお二人ですわ……同じ黒髪が本当に素敵……』
『これで、我がブラーム国とマキシム国の友好は安泰だな!』
嫌でも耳に入ってくる称賛の声を聞きながら茫然と二人を見ていた私は、逃げるように王宮図書館を後にした。




