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(85)◇ 誰にも渡さない(アルフォンス視点)(36)
その日の夜。
クリスはサイと二人きりで王宮内で夕食を共にした。
薄いグリーンのシンプルなドレスに着替え、サイと楽しそうに食事をするクリス。
自分は他の女性と仮とはいえ婚約をしている事を棚に上げ、
自分以外の男と笑顔で話すクリスを見て、裏切られたと思った。
自分のそばにいると約束したクリスは、
何故、他の男にその可愛い笑顔を向けているのか。
クリスを笑顔にするサイが憎かった。
あの場所はずっと自分だけのものだった。
醜い怒りが込み上げる。
サイは美しい男で優しい。
クリスはサイを気に入ってしまったのだろうか。
同じ金髪で碧い目の美しい二人は、悔しい程に似合っていた。
日付けが変わる頃。
気が付くと自分はクリスが眠る暗い客室のバルコニーに立っていた。
既に正気を保っていなかった。




