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(82)◇ 誰にも渡さない(アルフォンス視点)(33)
「アルフォンス様」
「はい」
「先程は、ありがとうございました」
「?………」
「私、とても嬉しかったです。お姉様にはっきりと私が婚約者だと言ってくださって」
「………本当の事ですので」
「………私、必ず、アルフォンス様にとって良い妻になります」
「!………」
「アルフォンス様の妻としてお役に立てるようにもっと努力をして、精一杯努めて参ります。ですから、いつか正式に私をアルフォンス様の」
「リリアンヌ王女」
「は、はい」
「………貴女はそのままで良いのです」
「えっ?………」
「お部屋までお送りします。参りましょう」
「………はい。アルフォンス様」
少し心が痛んだ。
リリアンヌ王女はこの婚約を仮だとは知らない。
純粋な想いを寄せられても必ずこの先、この仮婚約は解消する。
王女に真っ直ぐな澄んだ目で見つめられ、良い妻になると宣言され、罪悪感が押し寄せた。
だがこんな時でも、自分の心はクリスを想う気持ちが大きく支配していた。
この数ヶ月後に両親が不慮の事故にあった。
この時の自分には、狂いだした歯車を止める術は無かった。




