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(71)◇ 誰にも渡さない(アルフォンス視点)(22)
馬車でクリスを屋敷に送り届ける間も、言葉が出なかった。
クリスも黙ったまま、ずっと窓の外を見つめていた。
拒絶されるのが怖くて、話し掛けられない。
こんなに傍にいるのに、情けないことに言葉一つ掛けられない。
女にだらしない男だと、自分の事を呆れてしまったのだろうか。
もう、嫌われてしまったのだろうか。
縋る想いで握った手を振りほどかれていない事で、何とか正気を保った。
もし、あからさまに嫌がられ拒否されていたら、自分は力尽くでクリスを拐っていただろう。
中途半端な言い訳はクリスには通用しない。
聡明なクリスには分かってしまう。
クリスには嘘も誤魔化しせずに話したい。
納得してもらうには、真実、己れの身辺を綺麗にするだけだった。
何故、こんなことになってしまったのか。
あの時、何故もっと冷静に考え行動出来なかったのか。
過去の自分の判断の過誤を悔いた。
全ての意識をクリスに向けながら、自分もずっと窓の外を見ていた。




